4.雨の日のすごし方

今日は朝から雨が降っていました。ちょうど絵の教室もお休みだったので、ロンさんは熱いコーヒーの入ったマグカップをもって、窓際のソファに座って窓から外を眺めていました。(ロンさんの部屋には家具というものがほとんどありません。つくりつけのキッチンや、バスタブといったものを除いては、ベッドがひとつと、今座っているソファだけでした。ロンさんはそれを、この部屋に越してきてから2週間目にごみ捨て場から見つけてきたのでした。ソファの赤いカバーは、ところどころ摺れて赤色でなくなっているところもありましたし、ところどころ破れてもいました。)
風がでてきたのか、窓に水滴がついては寂しそうに一筋づつ流れ落ちていきました。この窓は中庭に面してではなく、アパートメントの外に向けてつけられていたので、水の筋の向こうには、くすんだ橙色をした屋根が連なって見えました。その向こうには最近トッテナムの街にふえてきた灰色の「高層ビル」が見えました。あとは、屋根の上にうっすらと空がみえました。今日は、真っ黒ではありませんでしたが、高層ビルの灰色を少し暗くした色をしていました。ロンさんは、それらを眺めながら、何も考えていませんでした。「何も」というのは正しくないかもしれません。ただ何かを言葉で考えていたわけではありませんでした。なんとなく子供たちが好んで食べるピンクや黄緑色をしたドロップを思い浮かべたり、昔バーで飲んだことのあるワインの真っ赤な色、小さいときにお母さんから「体にいいから食べなさい」といわれたイワシの缶詰の、缶に塗られた水色のラインの色なんかを思い出していたのでした。
そういった色を思い浮かべずにはいられないほど、窓からの眺めは、くすんだ橙色と灰色しかなかったのでした。