4.2本目の牛乳瓶

その夜、トモカさんはマグロストリートのお店で歌を歌っている間も、踊っている間も、ずっと牛乳瓶のことを考えていました。
もし、牛乳が誰かからのプレゼントだったら?
それをくれた人は何を望んでいるの?
そんなことを考えていたので、いつもそらで覚えている歌詞を、2度も間違えました。踊りの振り付けは5度も間違えました。(といっても、トモカさんはそれをとてもうまい具合にごまかしたので、他に気づいた人はいませんでしたが。)
帰る時間になって、「ひいきの」お客さんが声をかけてきても、笑顔で応対したトモカさんでしたが、いざ一人でアパートメントの一つ前の角まで帰ってくると、その顔は険しくなりました。
もし牛乳があったらどうしよう?
それをまた飲んでしまっていいものかしら?
どきどきしてうまく足が前にすすみませんが、このまま外で立ちすくんでいても、もうじきお日様がのぼってきます。そうすると誰かにトモカさんの姿をみられてしまうかもしれません。前に言ったように、トモカさんは朝帰ってくる姿を誰にもみられたくありませんでしたので、ゆっくりゆっくり、がくがくする足を前にすすめました。
なんとか中庭を横切り、トモカさんの部屋の前までくると……ありました。
ドアの前の昨日と同じ位置に真っ白な牛乳瓶がありました。
どうしよう、とトモカさんが唇をかんだそのとき、アパートメントの門の方で、なにかがさっという音がきこえました。トモカさんはとっさに牛乳瓶を両手でかかえこむと、廊下の隅にしゃがみこみました。そうすると門のほうからは見えなくなるのです。
ほどなくして、中庭を黒い猫がゆっくりと横切っていきました。どうやら先ほどの音は猫がたてたもののようです。でもこのまましゃがんでいると、またいつ誰かがやってくるかわかりません。
トモカさんは一旦牛乳瓶を下におろし、ドアをあけると、再び牛乳瓶を両手で抱えて部屋の中に急いで入りました。