監督:藤井道人

主演:綾野剛、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、舘ひろし

 

「新聞記者」が日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた藤井道人監督が、時代の中で排除されていくヤクザたちの姿を3つの時代の価値観で描いていくオリジナル作品。これが初共演となる綾野剛と舘ひろしが、父子の契りを結んだヤクザ役を演じた。1999 年、父親を覚せい剤で失った山本賢治は、柴咲組組長・柴崎博の危機を救う。その日暮らしの生活を送り、自暴自棄になっていた山本に柴崎は手を差し伸べ、2人は父子の契りを結ぶ。2005 年、短気ながら一本気な性格の山本は、ヤクザの世界で男を上げ、さまざまな出会いと別れの中で、自分の「家族」「ファミリー」を守るためにある決断をする。2019年、14年の出所を終えた山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。(映画.com)

 

2021年製作/136分/PG12/日本
配給:スターサンズ、 KADOKAWA

 

「普通が一番幸せだった」

 

前半はヤクザになる過程を、

中盤はヤクザとして活動する日々を、

後半は元ヤクザとして社会から外される存在に。

 

鑑賞後はとても空しい気持ちになった。

 

ヤクザになったことで、

最後は人生で一番大切なものが奪われていく。

 

それは家族であり、子供の存在だ。

 

14年の刑期を終え出所した山本の前に暴対法の壁が立ちはだかる。

ヤクザが世間で生きずらい世の中になっていたのだ。

 

かつて愛した由香(尾野真千子)との間には娘が生まれていた。

14年間、ひとり親で由香は娘を育てていたのだ。

 

そして由香と娘の住む家に山本が転がり込んだことで、

反社との付き合いを疑われた由香は仕事を失い、

娘は学校を転校する事になってしまう。

 

また、山本に仕事を紹介した細野(市原隼人)は、

ヤクザを辞め自身も廃棄処理の仕事について家族を養っていた。

 

しかし、後輩の撮った写真から山本が元ヤクザであることがバレ、

社内での暴力沙汰に発展し、仕事を追われてしまう。

 

それだけではなく妻と子供も細野のもとを離れてしまう。

 

失意に落ちた細野は、

防波堤に一人でいた山本をナイフで刺し、

殺害してしまう。

 

細野は「あんたさえ戻ってこなければ、、、」と涙を流しながら悔しい思いをぶつけると、

山本は「細野、ごめんな、、、」とだけ言い残し、

海に落ちていった。

 

その後、事件のあった防波堤に娘が現れ、

かつて山本が可愛がっていた翼と偶然出会う。

 

娘は父親(山本)がどんな人物だったかを聞きたいと翼に話しかけ、

物語は幕を閉じる。

 

 

「普通の事が一番の幸せ」みたいなセリフが劇中にあるのだが、

ヤクザはその当たり前の幸せすら許されない。

それが、第2、第3の悲劇を生んでいく。

 

悲しみと、憎しみの連鎖が起こっているようにしか見えなかった。

 

山本が戻ってこなければ由香もその娘も、

細野も失うものはなかったはずだが、

果たしてそうなのだろうか。

 

1度失敗した人間が立ち上がることを許されない社会の方に問題があるような気がしてならなかった。

刑期を終えた山本が正しいとは決して思わない。

 

だが、人生にとって一番大切な「誰かのために生きる事」を奪われてしまったら、

それは生きる意味を失うだろうし自暴自棄にもなるだろう。

 

ささやかな幸せを感じた時に初めて、

守るべきものが出来、相手の痛みも分かるのだと思う。

 

そこで言うと、この悲しみの連鎖は、

「無敵の人」を作る一役を担ってしまうことになるのではないかと思った。

 

とても複雑な気持ちになった。