(前回の続き)

 こうした会社の厚顔無恥な姿勢を前に、現場で働く社員が立ち上がった。2007年7月17日、石油会社のJOMO(ジャパンエナジー)グループ「アジア商事」(本社・東京都新宿区)の労働者が集まり、全国一般東京東部労働組合アジア商事支部を結成したのだ。

 会社側には労働組合結成を通知したうえ、団体交渉申し入れ、10項目からなる要求書(橋さんの労災への謝罪や責任を取ることと従業員の労働条件の改善を求めたもの)を提出した。

 以下に、新結成支部委員長の鈴木さんと書記長の森さんの決意文を挙げる。

http://blog.goo.ne.jp/19681226_001/e/21a67b3f1bd0a7de4505616ccfec3bec

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鈴木 斎

アジア商事社員の皆さんへ
 本社SSサポートの鈴木です。
 私は7月17日、東部労組アジア商事支部を結成しました。
 昨年11月、橋チーフが倒れ、その問題に対する会社の対応を本社で目のあたりにし、会社(経営幹部)に対する不信と不安に耐えかねたことによる行動です。皆さんは情報を一方通行で受け取ることしかできません。
 また会社(経営幹部)に対して、同等の立場でものを言える社員もいません。

 私は会社(経営幹部)の行動や発言を見てきましたが、どうしても自分自身が納得のいくものではありませんでした。
 これから、自分自身が納得できる労働環境と、2度と橋チーフの悲劇を繰りかえさない、安心して働ける職場づくりを目指し、できる限りのことをやりたいと思います。
 現在のアジア商事に違和感をおぼえている社員の皆さん、言いたくても言えない悩みを抱えている

 皆さん、会社を辞める前に是非ご一報ください。必ず力になります。


森 一也

アジア商事のみなさんへ
 私は、この10年間会社を信じ、皆さんと一緒に働いてきました。これからも、続けてゆくつもりです。
 昨年、私たちの良き先輩であるチーフが、くも幕下出血で倒れ、私たちにも大きなショックでした。チーフやSV、店長さんの労働環境は皆さんご承知だと思いますが、「休むに休めなかった」のが現状でした。
 チーフが倒れた後に会社は、
「本人にも問題があった」「休め!と言った」、
 あげくの果てには
「○○や○○せいだ!」
と他人事です。
 ここ最近、
「休みはしっかり取ってください。」
と言ってますが、これだけ人がいなくなって、できる訳がありません。
 みなさん、自分がチーフの立場や、ご家族の立場になって、よく考えてみてください。
・ 異常な労働をしなくてはならない。
・ 早く帰れない。
・ 休めない。
 これらは、皆が会社の為、仲間の為にやっている事ですよね。私は、

「言いたい事が言える環境」

「悪かった事は素直に認める・謝る」

という、誰にでも認めてもらえる会社で働きたいだけです。誰にも圧力を加えられることなく・・・
 組合は、自分も家族も仲間も守ります。一緒に立ち上がりましょう!
そして、自分・家族にも安心して働ける職場をつくりましょう!

2006年11月、同社(東京都新宿区の本社兼スタンド)で働く橋直彦さん(38歳)がくも膜下出血で倒れた。今なお重い障害を抱えたまま、入院生活を送っている。


 「チーフスーパーバイザー」という肩書きを持つ橋さんは、連日早朝から深夜まで本社での資料作り、会議、複数のスタンド回りなどの仕事に追われていた。そのことは、妻の美智代さんが日々の出社、帰宅の時間を記した「育児手帳」(橋さんが倒れる7ヶ月前に長男誕生)などから証明されている。

 それによると、倒れるまでの11ヶ月間のうち、橋さんたった1日しか休んでいない。


 長時間労働、加重労働による労災と確信した美智代さんは、2007年1月、NPO法人労働相談センター内にある「過労死をなくそう!龍基金」に相談し、夫婦で全国一般東京東部労組に加入した。

 その後、組合と会社側との団体交渉は数回開かれたが、会社側の態度は倣岸そのものだ。

「本人には休めと言ったのに休まなかった」

などという言葉で、あたかも橋さんの自己責任であるかのように述べている。

 また、長時間労働を認めるべきだ、という訴えに対し、

「(橋さんが)どれぐらい働いていたかわからない」

と臆面もなく答える始末だ。言うまでもなく、これは「労働時間を管理する義務」を、会社側が果たしていないことを曝すものだが、これを恥とも思わずに開き直っている。

 なるほどこんな会社であればこそ、企業に義務づけられている健康診断すら、適正な形で行われていなかった。


 さらに呆れたことに、残業代支払いの要求についても会社側は、

「管理監督者だから払わなくていい」

と豪語している。

 確かに労働基準法41条には、「監督若しくは管理の地位にある者」には、残業代を払わなくてもよい、ということが書かれている。しかし、この「監督若しくは管理の地位にある者」の定義が問題なのだ。

 労働基準法で言うところの「監督若しくは管理の地位にある者」とは、

「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」

「名称にとらわれず実態に即して判断すべきもの」

(以上、厚生労働省の1988年の通達「労働省基発第一五〇号」より)

のことである。「労働条件の決定その他労務管理」に携る権限を持ち、「経営者と一体的な立場」になど、よほどの重役でなければ当たれないはずだ。


 つまり、一般に言われている課長だの部長だのは、実は管理職などではなかったのだ。この点について、国内の多くの企業が曲解し、さらには楯に取っているのが現実である。管理監督者には残業代を払う義務がない」という点を都合よく利用し、残業代を払わないことを正当化している企業があまりにも多いのだ。

 むろんアジア商事もその類で、橋さんの労働実態も、法的には管理職とは言えないものだった。にもかかわらず、

管理監督者だから払わなくていい

などというセリフを臆面もなく吐けるのだから、恥知らずもいいところである。


 2007年6月27日、新宿労働基準監督署は、橋さんの障害が長時間労働による「過労労災」であると認定した。

 しかし会社は、労災申請の折にも非協力的だった。労災認定に役立てるため、

「会社が保存している資料を組合に提出してほしい」

と、妻の美智代さんが要求してもそれを聞き入れなかった。

 そして現在も、会社は橋さんの「労災」を認めようとせず、家族に謝罪もしていない。責任逃れに終始し、橋さん本人、あるいは他の従業員のせいだとまで言っている。結果的には労災認定が降りたものの、会社側の不誠実な態度を看過できるものではない。



(続く)


(前回の続き)

 遺族は会社側に安全配慮義務違反があったとして、損害賠償請求訴訟を起こす意向を見せている。

 それに対し、グッドリビング総務課は、

「労働時間など事実関係を確認していないのでコメントできない。調査した上で遺族に誠意を持って対応したい」

と話したという。

 どうも胡散臭い言い様だ。社員が過労死し、労災認定さえが下りているこの段階になってなお、社員の労働時間すら確認できておらず、調査は「これから」だというのだ。これだけでも充分、杜撰、無責任、不誠実であろう。コメントをできるだけ控えたいための狡猾な言い訳としか思えない。

「遺族に誠意を持って対応したい」

というこの総務の言葉も、空々しい。とりあえずそう言っておけば、この場は逃げおおせるとの計算臭が紛々と漂う。総務(社長の飼い犬)の人間がよく使う手だ。こうしたごまかしにばかり見を入れるようなやつが、「遺族に誠意を持って対応」なぞするわけがない。この総務の言う「調査」も、いったいどんなインチキ調査なのか、わかったものではない。


 そもそも総務なぞという役柄の実質は、苦情処理係なのだ。こんなときにこそ、腕によりをかけて、二枚舌でも三百枚舌でも、なんなりと使う。自分の会社の総務を思い浮かべてみるがいい。

 まして遺族は、提訴する意思を見せているのだ。会社としては、穏やかでいられるはずがない。「調査」という名の隠蔽、捏造工作ぐらいやるに違いない。

 亡くなった男性の母親は、

「会社側は社員の命を預かっていると考えて雇用してほしい」

と訴えたそうだが、上記のような不誠実無責任丸出し態度からして、そんな哀訴に心動かすような総務、まして会社とは思えない。

 磐田市内の住宅販売会社グッドリビング(本社・浜松市)に勤務する男性(当時25)が、20057月に突然死した。

 これについて磐田労働基準監督署は、過重な労働が原因であるとし、2007427日に労災認定した。これについては、故人の母親(52)と、「県働くものの安全と健康を守るセンター」(過労死問題の遺族支援などを行うボランティア組織)が、同月16日の記者会見で明らかにした。


 男性は、20038月にグッドリビング(本社・浜松市)に入社した。磐田市内にある同社の住宅販売店「アットハウジング」で、接客や家の設計をしていた。入社以来連日の残業で、早くても午後11時、遅ければ翌日の午前4時に帰宅していたという。制度上は週休2日だったが、男性は研修や顧客回りのために出勤し、月1日程度しか休んでいなかった。さらに、男性のメールには、利益向上を要求するメールが上司からよく届いていたという。

 入社2年目から、家族に体調不良や疲れを訴えるようになり、2004年秋ごろから「辞めたい」と、もらすようになっていた。会社は、社員の健康診断を一度もしたことがなかったという。

 2005724日、掛川市内の突然自宅で倒れ、心停止に至った。


 母親は066月、磐田労働基準監督署に労災を申請した。同労基署の調査で、

「死亡する前の6ヶ月間、月平均80時間超の時間外労働があった」

とされ、労災が認定された。

「県働くものの安全と健康を守るセンター」の橋本正紘事務局長(65)は、

「請求せずに泣き寝入りしているケースもあり労災認定は氷山の一角。声を上げることで働く環境の改善につなげてほしい」

と話している。


 しかし、声を上げる手段、救済の方法も知らないという人は、今なお多い。労働者の権利について、もっと多くのマスメディアで流してもらいたい。他人をバカにしきった三文タレントのくだらぬ番組や記事ばかりが溢れている昨今、枠には困らないだろう。それら愚なる番組や記事を、減らせばいいだけだ。上質な情報により、国民の意識が向上するほうが、よほど重要ではないか。

(続く)

 過労が原因の自殺(未遂含む)で2006年度に労災認定された人は、過去最多の66人と出た。2007516日、厚生労働省のまとめで分かった。鬱病など精神疾患が認定された人数も205人に上り、過去最多となった。

 労働環境や条件の見直しが叫ばれる中、一向に改善がなされていないという現状が、浮かび上がっている。実際、改善策推進の指示を出し、実行できる立場にいるのは、企業の上に立つ者だ。そうした者が親身でなければ、労働者の立場や権利が守られるわけがない。


 厚生労働省によると、過労自殺が認定された66人のうち、

50代 21

30代 19

40代 12

 鬱病など精神疾患の認定を受けた205人の内訳は、

30代 83

20代 38

40代 36

50代 33

となっている。むろん認定だけでなく、労災申請数の819人も過去最多である。


 さて、このデータでは50代の認定数が少ないが、実際にそうだとは言い切れない。50代には、精神疾患に関する知識や認識の薄い人が多い。おしなべてそういう人は、心身に負担がかかっても、

「ちょっとした疲れ」「気のせいだ」

などと自身で納得し、医師など専門家に相談することもしない。したがって、若者層よりも壊滅に突入しやすい。また、何かの都合で認定が下りていないというだけで、実際には明らかに労災であることは、大いにありえる。


 過労で脳出血や心筋梗塞などを発症した「脳、心疾患」の認定者355人(うち死亡147人)も過去最多で、内訳は次のとおりである。

50代 141

40代 104
30
代  64

 脳、心疾患は、普通に生活していても年齢とともに罹患率が高まるものだ。これに精神的、肉体的負荷が重なれば、ひとたまりもない。

「若年労働者から、鬱病など心の問題の相談が増えている。今回の結果には、それが反映されている。長時間労働やリストラなどで雇用不安のストレスが高まっている。長時間労働の削減や安定雇用対策に取り組まない限り、過労労災を減らすことはできない」

とは、労働相談などを実施している日本労働弁護団の事務局次長、棗(なつめ)一郎弁護士の談である。


 確かに、精神疾患で病院などの専門機関を訪れる若者は、昨今大幅に増加している。心療内科やメンタルクリニックといった病院には、2030代と思われる患者でいっぱいだ。だからといって、若者だけが患っているということにはならない。

 苦悩を表に出し、苦痛に際して堂々と悲鳴をあげられるのは、若者なればこそだ。若者にとって簡単なことが、中高年にはためらわれることがある。みだりに自分の弱さをさらけ出すことを、自尊心が邪魔するのだ。他人に弱みを見せるとどんなめにあわされるか、無意識にそれを算段するのは、これまでの人生で辛酸をなめてきた世代なればこそである。


 ただでさえ、戦後の精神論(忍耐、自己犠牲は美徳)という教育を受けた世代だ。加えて若い頃は、好景気時代を過ごした。頑張れば頑張るほど見返りが期待できた時代、勤勉に働いたという自負もある。この世代は、めったなことでは自分の衰弱を認めようとしない。

 躊躇なく悲鳴をあげ、危険信号を発して周囲の助けを求める若者より、このような世代のほうが、本来よほど危険であり注意しなければならないのだ。この年代に対する特別な配慮はむろん、労働条件、環境の改善を急ぐことは言うまでもない。