2006年11月、同社(東京都新宿区の本社兼スタンド)で働く橋直彦さん(38歳)がくも膜下出血で倒れた。今なお重い障害を抱えたまま、入院生活を送っている。


 「チーフスーパーバイザー」という肩書きを持つ橋さんは、連日早朝から深夜まで本社での資料作り、会議、複数のスタンド回りなどの仕事に追われていた。そのことは、妻の美智代さんが日々の出社、帰宅の時間を記した「育児手帳」(橋さんが倒れる7ヶ月前に長男誕生)などから証明されている。

 それによると、倒れるまでの11ヶ月間のうち、橋さんたった1日しか休んでいない。


 長時間労働、加重労働による労災と確信した美智代さんは、2007年1月、NPO法人労働相談センター内にある「過労死をなくそう!龍基金」に相談し、夫婦で全国一般東京東部労組に加入した。

 その後、組合と会社側との団体交渉は数回開かれたが、会社側の態度は倣岸そのものだ。

「本人には休めと言ったのに休まなかった」

などという言葉で、あたかも橋さんの自己責任であるかのように述べている。

 また、長時間労働を認めるべきだ、という訴えに対し、

「(橋さんが)どれぐらい働いていたかわからない」

と臆面もなく答える始末だ。言うまでもなく、これは「労働時間を管理する義務」を、会社側が果たしていないことを曝すものだが、これを恥とも思わずに開き直っている。

 なるほどこんな会社であればこそ、企業に義務づけられている健康診断すら、適正な形で行われていなかった。


 さらに呆れたことに、残業代支払いの要求についても会社側は、

「管理監督者だから払わなくていい」

と豪語している。

 確かに労働基準法41条には、「監督若しくは管理の地位にある者」には、残業代を払わなくてもよい、ということが書かれている。しかし、この「監督若しくは管理の地位にある者」の定義が問題なのだ。

 労働基準法で言うところの「監督若しくは管理の地位にある者」とは、

「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」

「名称にとらわれず実態に即して判断すべきもの」

(以上、厚生労働省の1988年の通達「労働省基発第一五〇号」より)

のことである。「労働条件の決定その他労務管理」に携る権限を持ち、「経営者と一体的な立場」になど、よほどの重役でなければ当たれないはずだ。


 つまり、一般に言われている課長だの部長だのは、実は管理職などではなかったのだ。この点について、国内の多くの企業が曲解し、さらには楯に取っているのが現実である。管理監督者には残業代を払う義務がない」という点を都合よく利用し、残業代を払わないことを正当化している企業があまりにも多いのだ。

 むろんアジア商事もその類で、橋さんの労働実態も、法的には管理職とは言えないものだった。にもかかわらず、

管理監督者だから払わなくていい

などというセリフを臆面もなく吐けるのだから、恥知らずもいいところである。


 2007年6月27日、新宿労働基準監督署は、橋さんの障害が長時間労働による「過労労災」であると認定した。

 しかし会社は、労災申請の折にも非協力的だった。労災認定に役立てるため、

「会社が保存している資料を組合に提出してほしい」

と、妻の美智代さんが要求してもそれを聞き入れなかった。

 そして現在も、会社は橋さんの「労災」を認めようとせず、家族に謝罪もしていない。責任逃れに終始し、橋さん本人、あるいは他の従業員のせいだとまで言っている。結果的には労災認定が降りたものの、会社側の不誠実な態度を看過できるものではない。



(続く)