労働に対する正当な報酬が支払われないのは、違法である。つまり犯罪である。

 以下は、独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が、正社員2,000人を対象に行ったアンケートの結果である。

 '05年6月の1か月間における不払い残業者    42%

 上記労働者による不払い残業時間の月平均  34.5時間

 上記労働者のうち、80時間以上の不払い残業者  5%

 労働基準法では、労働時間は「1日8時間、週40時間以内」と定められている。時間外労働が発生した場合、経営者は25%以上の割増賃金を支払わなければならない。(労使協定に基づく)支払い拒否などの違反があれば、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。

 この通り、法律では労働者の権利が守られているはずなのである。しかるに「サービス残業」などという言葉を使い、労働者側の自主的奉仕なのだから、それでいいのだとばかりにすましこんでいる企業があまりにも多い。

 むろん、管理職であっても不払い残業が合法になるはずはない。平社員であろうと管理職であろうと、労働の対価を得る権利は当然あるのだが、この辺を会社にうまく丸め込まれている社員が、ことのほか多い。つまり、

「管理職に就いたから、残業手当は出なくて当然」

というとんでもない伝説が、世にまかり通っているのだ。

 確かに労働基準法41条には、「監督若しくは管理の地位にある者」はこの規定に当たらないとしている。多くの企業がこの部分を楯に、管理職に不払い残業させているのが事実である。実際には地位も低くほとんど何の権限もない中間管理職にさえ、である。

 厚生労働省の1988年の通達では、管理監督者の定義として次のように定められている。

「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」「名称にとらわれず実態に即して判断すべきもの」(労働省基発第一五〇号)

 つまり、「管理職」などという名より、実際の職責や勤務実態に基づいて、労働基準法で言う「管理職」に値するかどうかを判断しなければならない。この点を注意してみると、巷で言われる「管理職」には、上記のような地位も権限もないことが明白である。「管理職」という名で押しつけられた責任のため、早朝出勤や残業を余儀なくされている単なる一社員は、「経営者と一体的」な「管理監督者」とは、お世辞にも言えまい。

「いいや、カンリショクは経営者と一体なんだ」

と言い張る経営者に限って、社員の無賃残業を尻目に自分はラクをしているものである。

 なお、22時から翌朝5時までの深夜労働に対しては、管理監督者であっても割増賃金を支払う義務が生じる。むろんこれは、すべての管理職に適用される。(厚生労働省の通達より)

 全国の労働基準監督署が、不払い残業横行企業の是正指導を行っているというが、もともとタダ働きを決め込むような会社が相手である。あらゆる手段を使って不払い残業の証拠を隠滅するに違いない。早朝出勤、残業の証拠が残らないよう、タイムカードを強制的に定時に捺させているぐらいは、簡単に推測できる。(自分の勤めていた会社は、まさにそうだった)さらに、タイムカードの捏造ぐらい平気でやる会社は、珍しくない。

 労働基準監督署というお役所が、それらの悪事工作をどうやって見破れるものか。彼らお役人が、労働者に直接聞くとしても、経営者や幹部、他の労働者のいる前でだ。なかなか本当のことを言える労働者はいないだろう。言ったところで、自分の待遇が悪くなる、あるいは解雇を覚悟しなくてはならない。お役所は、その辺の面倒まではみてくれない。

 その証拠に、05年に労働基準法違反容疑で検察庁に送検された不払い残業はわずか51件という少なさである。積極的に乗り出す監督署もあまりなく、訴える労働者もほとんどいないということだろう。

 不払い分の支払いが100万円以上になった企業は、05年度で1,524社、その対象労働者は168,000人、過去最多である。今まではもちろん現在もなお、お役所の手ぬるさが露見する数値である。

 平成元年7月15日、三井物産産業の機械二部課長石井淳氏(当時47歳)が、出張先のビジネスホテル(名古屋市)で死亡した。急性心不全だった。

 石井氏は、死亡する前年9月からの10ケ月間に計8回、103日のソ連出張を繰り返し、6月23日に帰国していた。残された夫人はこれらの激務が原因の過労死であるとして、同年11月に労災補償の認定を請求した。


 三井物産は遺族に退職金の他、弔慰金として3,000万円を支払った。また、労災申請に必要な遺族側の事実関係調査や資料請求にも、全面的に協力する姿勢を示した。一般に企業は、会社の不名誉になるので労災申請には難色を示すが、同企業は惜しみなくその誠意を表した。

 自らの非を認め、できる限りの誠意を尽くそうとする企業は、めったにない。三井物産産業は、たまたま名の通った大手だが、故人やその遺族に対する誠意を表すのに、企業の規模など関係ない。要は、相手を尊重する心があるかどうか、人としての力量の問題である。

 自分がもと勤務していた会社なぞは、実際、耳を疑うほどの破廉恥団体であった。その破廉恥道における数々の実績は枚挙に暇がないが、そのうちの一つを紹介する。

 やはり過労死者を出しているのだが、葬儀には花も添えず、弔慰金すら出していないらしい。あまつさえ、その遺族に対する非道な仕打ちは、同じ人間として、恥ずかしくなるようなものだった。

「この忙しいときに死ぬなんて、ちょっとは考えてよ」

「労災なんてありえない。今までワガ社では、過労で死んだ者なんていないんだからね」

「で? ウチらになにしてほしいの? カネがほしいわけ?」

 これらは、会社の幹部(社長の取り巻き)どもが、遺族に向かって実際に言ったセリフである。

「会社に迷惑をかけたくせに、退職金をもらえるだけ有難く思え」

なぞと、総務の人間が言っているのも、自分は聞いた。


 しかも不幸の後、社長及びその取り巻き連は、全社員に遺族の悪口を吹聴していた。

「悪いのは、不注意(あくまで過労とは言わない)で勝手に死んだほうだ。いいな。あの遺族はカネほしさに気ぃ狂ってやがんだ。相手にすんな。あんな家に焼香にも行くな。わかったか」

 これが、人の上に立つ人間のセリフである。むろん、それに追従し、便乗する無責任な社員も多かった。それから間もなく、自分はその会社を辞めた。


 あの条虫会社に比べるまでもなく、三井物産産業は潔かった。むろんいかに尽くそうとも、故人が帰ってくることはなく、遺族の悲しみがなくなるわけでもない。だからといって、開き直りや逆切れは、みっともないを通り越して下劣非道千万である。傷ついた人の心を少しでも和らげようという気持ちが、大事なのだ。トップにいる者こそ、そうした心構えが必要なのだが、世の中そうではない外道のほうが多いらしい。


 ついでだが、条虫ってのは、回虫よりもかなりタチの悪いやつである。どう悪いのかは、どうぞ目の前の箱で検索なりなんなりして調べておくんなさい。もっとも、あの外道会社と一緒にするのは、条虫に失礼だと気づいた。ゆえに、クソ虫企業とでも言うことにする。



リクルート過労死裁判を考える会(仮称)

http://www.jca.apc.org/recruit-karoshi/

 1996年8月29日、(株)リクルートの社員、石井偉(いさむ)氏は29歳の若さで亡くなった。くも膜下出血だった。
 偉(いさむ)氏は、同社のホームページ媒体求人情報「デジタルB-ing」を同年4月に独力で作成した。さらに、週1回の画面更新のため深夜、時には明け方までの長時間不規則勤務を強いられていた。
 偉(いさむ)氏の遺族は、発病の原因が、過重労働による疲労蓄積にあるとし、会社側の安全配慮義務違反を指摘し、リクルートを相手に、損害賠償請求裁判を起こした。1999年7月29日のことである。


 これに対しリクルート側は、くも膜下出血の発症は、常染色体優性多発性嚢胞腎に合併した脳動脈瘤が自然的経過により破裂したものであると反論した。むろん、会社による安全配慮義務違反も、過重労働も認めず、業務と死亡との因果関係はないと主張した。
 2004年1月22日、東京地裁にて和解が成立したときには、提訴からすでに4年半も経っていた。

 和解とは、簡単に言うと、原告被告の間からわだかまりをいっさい失くすということである。それはいいが、裁判所はなぜか、被告の法的責任の存在を前提とすることなく、和解を勧告したのである。以下に、和解条項の一部を挙げる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1. 被告は,石井偉が死亡したことに対し,衷心より哀悼の意を表する。

2. 被告は,前項の趣旨にかんがみ,原告らに対し,本件和解金として,1200万円を支払うものとし,本日,本和解の席上において,この支払のために,UFJ銀行新橋支店振出に係る額面1200万円の自己宛小切手1通を交付し,原告らはこれを受領した。

3. 被告は,今後も従業員の健康状態の把握に努め,労務内容等に応じ,従業員の安全管理・健康管理に十分配慮して,安全配慮義務を尽くすよう努力する。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 上記条項のうち、1と3は至極妥当なものだが、2には疑問が残る。

 リクルートほどの大手企業にとって、1,200万円ぐらい微々たる額であるにしろ、一方的に支払うということは、何らかの贖いを表しているはずだ。にもかかわらず、被告の法的責任を明確に提示しなかったのは、なぜだろうか。

 いや、明確に提示しないというより、それを取り沙汰することを禁じてさえいる。「本和解の内容及び本件訴訟の結果について当事者以外の第三者に知らせる際」の注意点として、東京地裁は、次のように通達しているのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2)本和解の成立を理由として,相手方当事者が次の点について認めた又は認めなかった旨の主張ないし告知を行ってはならない。


ア) 石井偉の被告における過重労働の存在又は不存在
イ) 石井偉が被告在職中に死亡したことについての被告の法的責任の有無


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 争点そのものを扱い禁止とするのは、「和解だから」には違いない。被告側における罪が明らかにされた上で、被告側が謝罪し補償金を払った上でというならば、納得できる。しかし、実際に被告側に課せられたのは「衷心より哀悼の意を表する」ことと「和解金として1,200万円を支払う」ことだけである。「謝罪」や「補償金」の義務は、課せられなかった。
 東京地裁が、リクルートにお咎めなしと判決を下したならば、和解金を一方的に支払わせるのも、おかしなことだ。やはり、被告側に対してなんらかの責任追及表した結果ではあろう。


 今回の裁判では、被告側が原告の言い分を頑として認めず、原告にとって有利な物的証拠も揃っていなかった。当然、裁判は難航する。あるいは単に、遺族側が要求した補償金は、裁判所が妥当と見なす額を超えていたのかもしれない。

 いずれにしろ、これ以上無駄に長引くより、和解という形で少しでも受け取ったほうがよいと、原告側は勧告されたのかもしれない。むろん、推量にすぎないが。

http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20070502k0000m070151000c.html

「残業代ゼロ法案」秋の臨時国会提出も否定 柳沢厚労相

2007年02月21日18時57分

 一定条件を満たす労働者を労働時間規制の対象外とする「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)」について、柳沢厚生労働相は21日の衆院厚生労働委員会で「棚に上げておいたものを、ほこりを払ってすぐに出すという思いは全くない」と述べ、秋の臨時国会にも提出しない考えを示した。細川律夫氏(民主)の質問に答えた。


 WEは、今国会に提出される予定の労働基準法改正案からは削除されたが、労働界などには、夏の参院選後に再び導入を目指すのではないかとの見方もあった。しかし、柳沢氏はこの日の委員会で「参院選(への影響)を避けるために提案を見送ったわけではない」と述べた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 信用ならない。特に、柳沢厚生労働相の言葉、

「棚に上げておいたものを、ほこりを払ってすぐに出すという思いは全くない」

の「すぐ」というのが、気になる。「すぐ」出す気はないが、そのうち「すぐ」でなくなったら(ほとぼりが冷めてから)出す気だという意味に取れなくもない。なにしろ、政治家だの官僚だのは、そうした誤魔化しが得意である。


 そもそも「棚に上げておいた」というからには、いつか使うつもりで収納しておいたのだろう。永劫に却下するならば、「捨ててしまった」と言うはずだ。

「秋の臨時国会にも提出しない」ことについて、「参院選(への影響)を避けるために提案を見送ったわけではない」というのも、胡散臭い。


 参院選の後、どう出るかがまず見ものである。柳沢が持ち出さなくても、その仲間あるいは傘下にいる者が動き出すかもしれぬ。(そうした場合はむろん、柳沢の意図によるだろうが)

 しかし、厚生労働相よりももっと監視すべきは、日本経団連とその癒着先であろう。

http://www.geocities.jp/whitecollarexemption/


「年収400万円以上の労働者を、労働基準法の労働時間規制(8時間労働の原則、休憩、休日、深夜業)の対象から外す」

というのが、ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)の趣旨である。

 これを躍起になって推進する日本経団連は、制度導入理由として、

「仕事と生活の調和を図るため、多様な勤務形態の中から、効率的で自らが納得できる働き方を選択し、心身ともに充実した状態で能力を十分に発揮することを望んでいる者も少なくない」

という理屈をこねた上、

「このような効率的な働き方は、結果的には総労働時間の短縮に繋がる」

なぞと勝手に結論づけている。世に過労死が増えることにより、トクする輩がいるらしい。


 この制度が通れば、無給残業が合法となる。つまり、過労死者が出ても、会社はいっさい責任を負う必要がなくなる。被害者側の泣き寝入り推進法に等しい。また、制度対象者の健康管理について、会社側がとるべき具体的な規則は、何ら定められていない。
 しかも、「解雇の金銭的解決制度」(
金さえ払えば不当解雇も合法)のおかげで、残業拒否した社員は理由に拘らず、わずかな金銭を支払うだけで解雇処分できる。

 日本経団連など、この制度をゴリ押しする連中は、海外先進国での普及例、成功例を持ち出し、「だから我が国も」と真似こきサルになりたがる。このサルどもは、海外事情と日本の事情(経済事情や国民性なども含め)を充分に対比し熟慮しているのか、はたはだ疑わしい。

 以下のページにある「Q&A」では、日本と海外先進国との比較など、一般によくある質問に対する回答が、わかりやすくまとめられている。

「知っていますか? ホワイトカラーエグゼンプション」

http://www.geocities.jp/whitecollarexemption/


 上記サイトの一部を、以下に抜粋する。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


Q:海外ではうまく機能してるんでしょ?

A:フランスでは、同時に制度対象者の労働時間や日数を制限する法律があります。また、イギリスでも、制度適用者であっても、法定労働時間に対する規制は適用されます。経団連がモデルとするアメリカ方式でさえ、年収要件のほかに、部下が存在すること、高度な専門職であること、自由裁量権限が大きいことなどの要件が存在します。しかし、日本版では年収400万円以上であれば労使の合意により適用できます。また、年収700万円以上であれば無条件で適用対象にできます。

Q:労使の合意が必要なら、合意しなければ問題ないんじゃないの?自由裁量ってことは、好きな時間に働いたり休んだりできるんでしょ?

A:同時に「解雇の金銭的解決」も盛り込まれているため、導入に反対した社員や、残業を行わない社員に対して、金銭を支払って解雇することも可能になります。また、欠勤に対しては、減俸対象となる、という文言もあるため、制度対象者は有給休暇すら取り上げられる可能性もあります。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 

 上記抜粋記事で明らかなとおり、WEは実は、労働者のために制定されるのではない。日本経団連などがどんなに美辞麗句を並べても、そんなお為ごかしは通用しない。

 そもそもexemption(エグゼンプション)は、「(義務などの)免除」という意味を持つ。つまり、残業代の支払いを「免除」する、経営者側のための制度というわけである。カタカナを使ってごまかすところからして、いかにも外国語コンプレックスたる日本人らしい小細工である。騙されてはいけない。



 この不埒な制度が合法化されて喜ぶのは、労働者をタダ働きさせたい悪徳企業に他ならない。これが通れば、現行の労働基準法は無効となり、どれだけ働かせても合法となるのだ。

 たとえば、労働量に合わないほどの少人数でも、そのわずかな労働者を容赦なく酷使すれば、人件費を大幅に抑えられる。なるほど、利益至上信仰に基づき「労働者の立場を蹴飛ばそう精神」を遵守する腹黒い経営者には福音たる制度ではないか。

 一方、労働者は解雇や不遇を恐れて、無給残業を重ねるはめになること必定である。加えて、日本の会社員は勤勉だから、裁量労働制にしたところで怠けるわけがない。それどころかますます自立的に働くであろうことさえ、計算に入れている。



 かくして自身に鞭打つ労働者が過労に陥り、心身を害したところで、会社は少しも困らない。労働者を雑巾のように酷使し、使い物にならなくなったらアブク銭払って解雇処分にすればいいと思っている。雑巾の替えなど、いくらでもあるのだ。

 こんな非道が、合法になるというのが、ホワイトカラー・エグゼンプションなのである