平成元年7月15日、三井物産産業の機械二部課長石井淳氏(当時47歳)が、出張先のビジネスホテル(名古屋市)で死亡した。急性心不全だった。
石井氏は、死亡する前年9月からの10ケ月間に計8回、103日のソ連出張を繰り返し、6月23日に帰国していた。残された夫人はこれらの激務が原因の過労死であるとして、同年11月に労災補償の認定を請求した。
三井物産は遺族に退職金の他、弔慰金として3,000万円を支払った。また、労災申請に必要な遺族側の事実関係調査や資料請求にも、全面的に協力する姿勢を示した。一般に企業は、会社の不名誉になるので労災申請には難色を示すが、同企業は惜しみなくその誠意を表した。
自らの非を認め、できる限りの誠意を尽くそうとする企業は、めったにない。三井物産産業は、たまたま名の通った大手だが、故人やその遺族に対する誠意を表すのに、企業の規模など関係ない。要は、相手を尊重する心があるかどうか、人としての力量の問題である。
自分がもと勤務していた会社なぞは、実際、耳を疑うほどの破廉恥団体であった。その破廉恥道における数々の実績は枚挙に暇がないが、そのうちの一つを紹介する。
やはり過労死者を出しているのだが、葬儀には花も添えず、弔慰金すら出していないらしい。あまつさえ、その遺族に対する非道な仕打ちは、同じ人間として、恥ずかしくなるようなものだった。
「この忙しいときに死ぬなんて、ちょっとは考えてよ」
「労災なんてありえない。今までワガ社では、過労で死んだ者なんていないんだからね」
「で? ウチらになにしてほしいの? カネがほしいわけ?」
これらは、会社の幹部(社長の取り巻き)どもが、遺族に向かって実際に言ったセリフである。
「会社に迷惑をかけたくせに、退職金をもらえるだけ有難く思え」
なぞと、総務の人間が言っているのも、自分は聞いた。
しかも不幸の後、社長及びその取り巻き連は、全社員に遺族の悪口を吹聴していた。
「悪いのは、不注意(あくまで過労とは言わない)で勝手に死んだほうだ。いいな。あの遺族はカネほしさに気ぃ狂ってやがんだ。相手にすんな。あんな家に焼香にも行くな。わかったか」
これが、人の上に立つ人間のセリフである。むろん、それに追従し、便乗する無責任な社員も多かった。それから間もなく、自分はその会社を辞めた。
あの条虫会社に比べるまでもなく、三井物産産業は潔かった。むろんいかに尽くそうとも、故人が帰ってくることはなく、遺族の悲しみがなくなるわけでもない。だからといって、開き直りや逆切れは、みっともないを通り越して下劣非道千万である。傷ついた人の心を少しでも和らげようという気持ちが、大事なのだ。トップにいる者こそ、そうした心構えが必要なのだが、世の中そうではない外道のほうが多いらしい。
ついでだが、条虫ってのは、回虫よりもかなりタチの悪いやつである。どう悪いのかは、どうぞ目の前の箱で検索なりなんなりして調べておくんなさい。もっとも、あの外道会社と一緒にするのは、条虫に失礼だと気づいた。ゆえに、クソ虫企業とでも言うことにする。