【マンガ感想】
『神戸在住 10巻 (木村紺)』
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神戸在住 10 (10) (アフタヌーンKC)
木村 紺 講談社 2008-01-23 by G-Tools |
【あらすじ】
歩いてゆく。ゆっくり。これまでも。これからも。
新たに5編の描き下ろしを収録し、『神戸在住』ここに完結。 一生、読み続けられる本。
分かり合えない。分かり合いたい。分かち合えない。分かち合いたい。生きているから抱く感情のざわめき。生きているから出会う日々の揺らめき。神戸で暮らす大学生・辰木桂の目を通して描かれる、移ろう四季と心模様。かけがえのない、当たり前の日常――。嬉しい時、悲しい時、いつもと変わらない時……。そっと読み返して欲しい、そんな物語。
総合大学の美術科に通う女の子が主人公の話です。
スクリーントーンを一切使わず、エッセイ風の暖かい絵柄で、大学生活を描いている作品です。
この作品の魅力は、キャラクターと、そのキャラクター同士のやり取りの上手さですね。
派手さは一切無いですが、初登場から10巻までそれぞれのキャラクターの性格が一貫しており、
時間が経つことにより会話のバリエーションが増えていくのも面白い要素なのです(^^ゞ。
また、時間がリアルに動いており、キャラクターの髪型などドンドン変わっていきます。
(主人公なども成長(?)と共にちょっとづつ髪型が変わっていきます)
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ついに、最終巻を迎えてしまいました。
ブログを開始して多くのマンガを読んできましたが、この作品が一番印象に残っています。
『良作』ではなく、素直に『傑作』と言える作品だと思います(^^ゞ。
【第87話・私たちとラブストーリーの夜。】
いつもの『伊達組デンジャラスビューティー』の5人での飲み会。
いつものように恋愛話に華を咲かせており、いつものように田口さんの扱いが酷いです(笑)。
いつもと違うのは帆津さん。 お酒が入ると饒舌になるようで、このギャップは良し(^^ゞ。
鈴木さんはいつも通りで、そして主人公・辰木桂の初恋話と続きました。
まあ、主人公の初恋エピソードは、特に注目する点はありませんでしたが、
その話から高校時代に弟・晴君の高校時代の友人・小栗則彦くんから告白を受ける話に
移していったのは上手い展開だったと思います。
もちろん、冒頭に小栗則彦くんに新しい彼女が出来たという話のフリがあったからこその、
主人公の初恋話のエピソードだと思いますが・・・。
ちなみに、小栗則彦くんは7巻の第60話に一コマだけ登場しています。
【第88話・そして幸せな日向の記憶を。】
主人公の尊敬する人物であった日和洋次。
彼の死から1年が過ぎ、彼の死に向き合うため、彼に関係している人々・場所を訪れる、という話。
早坂くん・廣田さん、そして喫茶店のマスター小西さんなど懐かしい人々と出会い、
それぞれに日和さんへの想いを聞き、主人公自身も『日和さんの死』に真正面から向き合う。
7巻で『日和さんの死』のショックから抜け出せた、という描写があったものの、
主人公が『日和さんの死』を真正面から向き合うような話が無かったので、
「この話は描かれずにこのまま終わってしまうのかな?」と思っていたが、
最終巻である今巻でちゃんとそのことに触れ、『日和さんの死』から吹っ切れる様子が描かれた。
この話は次の第89話の鈴木さんの話ともリンクしています。
この話があったからこそ、第89話も光ってくるのだと思う。
【第89話・鈴木さんと私とないしょ話の夜。】
主人公の就職活動が始まり、7社受けたが残念ながら良い結果が出ずに悩んでいたところに、
ヒロイン・鈴木さんからお泊りの提案があり・・・・、というストーリー。
誰とも気軽に仲良くなれる鈴木さんと、辰木家の面々のやり取りはかなり新鮮でして、
母親が、鈴木さんに『主人公の恋愛話』について尋ねるシーンなどは、
それまでニコニコしていた父親の表情が段々と硬くなっていくのも細かいな~、と思いました(^^ゞ。
そして、消灯後の鈴木さんとの会話シーン。
主人公にとって大事な人の死が描かれた7巻のエピソードに関する話で、
個人的に、鈴木さんの『心の傷』と『優しさ』に驚き、軽く泣きそうになってしまいました。
(いつも明るい彼女だけにそんなエピソードがあったとは思いもしませんでした)
最後の、苗字ではなく下の名前で呼び合う2人の姿を見て、また涙が溢れてきました。
この2人の関係は本当に羨ましいですね。
【第90話・私が将来を決めたその日に。】
なかなか就職活動が上手くいかない主人公に、同じゼミ生の神戸さんが就職先を斡旋してくれ、
その就職先の面接向かうという話。
伊川谷カンパニーという介護ホーム向けミニコミ誌を作っている会社で、社員は少人数(4人?)。
面接どころかそのまま営業に付いて行かされて、初仕事のイラストも描いて、と大忙し。
いつもの通り、相手のペースに巻き込まれるという典型的な展開でしたが、
その社員さん達は全員良い人で、主人公もその会社で働くことを決めたようです。
(次の最終話のエピソードでは、卒業前なのに、すでにこの会社にアルバイトとして働いております)
しかし、最終エピソードで描かれていましたが、
『卒業前の就業はやってはいけない』というのは本当でしょうか?
いや、私自身、普通にアルバイト扱いとして1月~2月くらいから働かされたのですが(^^;。
【最終話・「神戸より」】
エピローグ。
高校時代の同級生・『羽生かよ子』に向けて書いた手紙の内容にあわせて、
これまで登場したキャラクターを総出演させるというエンディングに相応しいエピソード。
卒業式開始前から始まり、洋子・和歌子・林くんの卒業後の進路、鈴木さんの漫画家への道、
英語文化研究会メンバーとのエピソード、家族の変化・晴君の独り立ち、
9巻でお世話になった劇団のその後、就職活動で入社することになった会社のエピソード、
その会社の隣にある生け花の教室に通うことになったエピソード、
日和洋次の追悼展のエピソード、そして最後に卒業式の様子が描かれる。
このエピローグ、なんと40ページもあります。
これまでに登場してきた主要キャラクター全員にスポットが当てられた作りとなっており、
彼らの卒業後の進路や、主人公に関わってきた人々のその後のストーリーが描かれています。
個人的には、洋子・和歌子・林くんの3人と、鈴木さん(+ゼミ)のエピソード部分がお気に入りです。
この4人は、主人公の友人として、第1巻から登場し、最後の最後まで活躍してきたメンバーで、
主人公にとっても、読者にとってもかけがえの無いメンバーだと思います。
【洋子・和歌子・林くんについて】
この3人は、序盤から主人公の学部違い友人として登場し、
前半から中盤に掛けて常に彼等が主人公の隣にいて作品に『華』をもたらしてくれる3人でした。
後半、洋子が海外へ修行に行ったことで、和歌子・林くんの影も薄くなってしまい、
その後、洋子の海外から帰国してきても、話の主流には返り咲きはできない状況は残念でした。
返り咲き出来なかった理由に、彼等のエピソードは全て描ききっていたというのと、
話がゼミ中心となっていて、卒業制作・就活などが描かれる状況になっていたからだと思います。
そんな中で、エピローグの最初のエピソードとして彼ら3人を描いてくれたのが嬉しかったです(^^ゞ。
【鈴木さん+ゼミメンバーについて】
上記の3人の代わりに、後半、話の主流になったのが鈴木さんを中心としたゼミメンバー達。
5巻で主人公が3年生(3回生)になったことでゼミが開始されました。
鈴木さん+『デンジャラスビューティー』の帆津・田口・持田の3人以外にも個性的なメンバーが多く、
エピソードに事欠かない状況でして、後半を大いに盛り上げてくれました(^^ゞ。
私自身、ゼミ開始前とゼミ開始後だと、周辺の友人関係が大きく変わった経験があり、
1年の一般教養で仲良くなった友人でも、ゼミが違うと一気に疎遠になるのだから不思議なものです。
そういった意味で、個人的にはゼミ生との話が物語の中心となったことは非常にリアルでして、
「あ~、そうなんだよな~」と共感を持って物語を楽しめました。
【挿話・日和洋次の視点】
書き下ろし。
主人公に最も影響を与えた芸術家・『日和洋次』という人物の半生を描いた作品。
常に主人公視点で描かれていた『日和洋次』という人物の内面を描く作品で、
彼がどのような経験をし、どのような考え方をし、どのような人生を生きてきたのかが描かれる。
(主人公も一脇役として登場し、彼が主人公をどう思っていたのかも判る)
主人公視点で描かれた本編では、彼は常に神格化されていた。
しかし、この作品を読むと、『彼も一人の人間なのだな』と理解した。
良い意味でも、悪い意味でも・・・。
【エピソード・まためぐる朝】
書き下ろし。
多分、4月以降の主人公の朝の出来事を描いたショートストーリー。
隣の『たけいくん』と『いつこちゃん』が大きくなっていたり、晴君がフレンドリーだったり、
主人公が社会人らしく成長していたり、何気に主人公がショートヘアーに戻っていたりと、
細かく見ると見所満載です。
最後の主人公の笑顔は、作品のラストに相応しい素晴らしい笑顔だと思います(^^ゞ。
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【総評】
私がこの作品に出会ったのはこのブログを始めて3ヶ月くらい経った時期でした。
当時、『癒し系作品』を読み倒していた時期で、この作品ともすぐに出会いました。
第一印象から「これは傑作だ」という気持ちにさせてくれる素晴らしい作品で、
このブログでも最新刊が発売されるごとに紹介して参りました。
点数的には
100点
です。
今回の感想を書くために、第1巻から読み直しました。
改めて、『一生手放したくない』と思えた素晴らしい作品でした。
この作品に出会う事ができて本当に良かった。
では、ここまで。
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