著者: 重松 清
タイトル: 送り火

勝手に採点 ☆☆☆☆☆

とある私鉄沿線住人たちの悲喜交々を様々な視点から迫る
ハートウォーミングストーリー。

久しぶりの重松作品。子供や老人が主人公のものが結構あって
敬遠していたのだが、ようやく年代が合うものを発見。

30~40歳台のサラリーマンの悲哀を書かせたら、共感のあまり
思わず「ホロリ」とさせられる。

特に前に読んだ『熱球』や『流星ワゴン』は良かった。
このジワッと広がる「ホロリ」加減が真骨頂。

ただ、最初の方は珍しくホラータッチでビックリ。
でも怖さよりほのぼのさが前面に来るあたりはさすがというところ。

おすすめは「かげぜん」と「送り火」
どちらも爽やかな感動が涙を誘う。

前者は息子を失った同世代の両親が主人公。

子を持つ親として、同じ状況に追い込まれたとき、立ち直れる
かかなり不安な気持ちに。夫婦が協力して悲しみを克服する様
が胸を打つ。

後者は一児の母親とその両親のお話。

これも子供を持って夫婦生活を営んでいると急逝した父親や女手
ひとつで娘を育てた母親の気持ちが痛いほど理解できる。

自分より年下の両親と訪れる遊園地のファンタジックな雰囲気に
包まれた世界が悲しくも美しい。

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著者: 森 博嗣
タイトル: 工学部・水柿助教授の日常

勝手に採点 ☆☆☆☆

N大学工学部水柿助教授とその奥さん、研究室仲間が主な
登場人物。筆者の自叙伝、私小説の雰囲気が強い。

日常に転がる何気ないちょっとしたミステリーを紹介し、
それにまつわる蘊蓄、解説を少々脱線気味に展開する。

前から読みたかった期待度の高い作品。
結論から言うとこれで森博嗣ファンの仲間入り。

著者曰く、ライトな1ミリグラムのテイストと評するほど
の肩の凝らない軽妙さが特徴。

数々のエピソードが紹介されるが、特に興味を引くのが試験に
まつわるお話。

さすが現役の先生だけあって、作問や試験官としての経験は
「え、本当?」「なるほどな~」とつぶやきたくなるリアルさ。

そういう意味では本格ミステリーの醍醐味を堪能するというより
は、肩の力を抜いて「森博嗣」の嗜好(思考)を楽しむ内容。

一見おふざけ半分に書いているようだが、ミステリーに関する
手法や知識はやはり他を圧倒するものを感じる。

本書の言葉を借りればまさに「巨編ではなく虚編」。
ぜひ本格作品を手に取ってみたい。

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著者: 伊坂 幸太郎
タイトル: オーデュボンの祈り

勝手に採点 ☆☆☆☆

コンビニ強盗を働き、警察に捕まった主人公。
護送途中に逃げ出し、「荻島」という隔絶された孤島に逃れる。

何かが足りない、どこか普通と違う島。

そこには、未来を予見し喋るカカシが主人公を待ち受ける。
しかし、すぐにそのカカシがバラバラにされているのが発見され・・・。

全く不思議で独創的な設定。優れた作家には独特の世界観があるが、
この若さですでにそれを作り上げてしまっている凄さ。

仙台という地方都市を舞台とし、個性的な家族に囲まれた主人公と
死やレイプが密接にまとわりついてくるストーリー展開は、「重力
ピエロ」に共通した部分も多い。

サイドストーリーとして展開する元彼女を襲う悪徳警察官の魔の手。

圧倒的な残虐さを秘めたこの幼なじみが醸し出す不気味な雰囲気が
全体を陰鬱にそして緊張感を高める役割を果たす。

ここまでファンタジックミステリー的要素が強いと何故彼が逮捕される
ことなく悪行を続けられるのかといった疑問を差し挟む余裕もない。

終盤に向かって急激に高まっていく緊張感が心地良い。
極悪人の終末に相応しい最期は、あっけなくも胸がすく思い。

そしてカカシの想いがつまったラストは清々しい。
ぜひサックスの音色を聞かせてあげたいものである。

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著者: 貴志 祐介
タイトル: 硝子のハンマー

勝手に採点 ☆☆☆

六本木のとあるオフィスビルで起こった密室殺人事件。
被害者は介護サービス会社の社長。

状況から長年仕えた専務が容疑者に浮上。

専務の弁護を務める女性弁護士と防犯コンサルタントが挑む
密室のトリック。

真犯人は一体誰か?殺人の目的は?

典型的な推理小説物で題材もかなり手垢がついた題材なので
新鮮味には欠ける。

介護ザルやロボットといった奇抜な手法を早々に引っ込め、
防犯コンサルタントの推理も二転三転するなど、早く真相を
という気持ちが先を急がせる。

そして、中盤過ぎから突然始まる犯人の生い立ちと犯行理由。
これって誰だっけ?と思わせるほど印象の薄かった人物。

そういう意味ではちょっと反則なような気もするが、降って
涌いたような登場にあまり違和感は感じない。

新たな人生を踏み出すため綿密な計画を練り上げていく様に
感情移入もしやすくなかなか引き込まれる。

ただ、わざわざ殺すこともないんじゃない・・・。

殺害方法も文章を読む限り分かりにくい。

睡眠薬で眠らせた被害者をロボットで運び、スライドするはめ
込み硝子に頭部を近づけた上で、ボーリングの玉を・・・。

想像力の欠如からか、ビジュアル的にイメージすることが
できない・・・。

また、上場を間近に控えた企業のトップの不正を会計士などが
見抜けない理由やユダヤ人じゃあるまいし、今時ダイヤで蓄財
なんてといった疑問も残る。

とまあ細部にツメの甘さは残るものの、全体的には良くまとま
った推理小説に仕上がっている。続編に期待したい。

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著者: 京極 夏彦
タイトル: 文庫版 狂骨の夢

勝手に採点 ☆☆

人気シリーズ第3弾!

かつて死んだはずの夫が訪ねてくる・・・。
殺しても殺してもなおもやってくる夫。

そこに元精神科医と不良牧師がからみ事件が複雑に・・・。
釣堀屋伊佐間、文士関口、刑事木場、探偵榎木津が難問に挑む。

そして京極道は憑き物を落とせるのか!?

二人の朱美という謎があまりに平凡すぎて驚くに値しない。
自分の記憶を失ってしまう設定も都合が良すぎる感。

元精神科医と牧師も物語に不可欠な人物であるようには思えない。

そして何より決定的な違和感は、南朝の子孫云々という蘊蓄と面妖で
怪しげな宗教の存在。

いつもなら事件の数々が複雑でもそれぞれに意味があり、京極堂に
よって解き明かされる驚きがあるのだが、今回はその驚きに欠け、
蘊蓄もこじつけ気味。

ひとつひとつの謎解きが単独で終わってしまって繋がっていかない。

この内容でこの長さはちょっとツライ。

それでも救いは、レギュラー陣の掛け合い。毎度ながら関口には
親近感を覚え思わず応援したくなる。

それでも続編を読みたくなるのがこのシリーズの魅力。
ちょうど本編の主人公たちが骨に魅せられるように・・・。

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著者: 村上 春樹
タイトル: 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉

勝手に採点 ☆☆☆☆

「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」
という二つの物語がパラレルして進行し、徐々に融合していく。

「世界の終わり」はRPGを彷彿とさせるファンタジックアドベンチャー、
「ハードボイルド」はミステリーアドベンチャー的要素が強い。

計算士という特殊な職業に就く主人公が謎の老人から請け負う仕事。
おかげで自分の組織と記号士の組織から狙われる羽目に・・・。

一方、一角獣が住む高い塀に囲まれた街で、影を切り取られ、頭骨から
古い夢を読む「夢読み」の仕事に就いた主人公が、影から街を脱出する
計画を打ち明けられる・・・。

始めは状況が飲み込みにくかったが、半分を過ぎる頃には、
どちらの物語にもズッポリはまってしまった。

このオリジナリティー溢れる独特の世界観、価値観は読む物を魅了
し飽きさせることがない。

相変わらず深く考えさせる比喩が多用され、一読しただけでは、
氏の本意は伝わらないかもしれない。

心を失った住人たち。その代わりに得られる永遠の平穏。

東京の地底で「やみくろ」に追われる恐怖。

図書館員で胃拡張の女性との素敵な出会い。

相変わらずなのは、お酒と食事がとっても美味しそう。
日頃ウイスキーなんか飲まないが、ふと飲んでみたい気分になる。

影と別れた主人公。今でも森の中で彼女と暮らしているのか・・・。

カリーナの中で永遠に意識を失った主人公は太った女の子に回収して
もらっただろうか・・・。

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著者: 伊島 りすと
タイトル: ジュリエット

勝手に採点 ☆☆

第八回日本ホラー小説大賞受賞作。

開発が中断された南の島のゴルフ場。
そこへ管理人として赴任する父親と幼い姉弟。

生活するうちに死んだはず妻や子犬、娘の友達を見かけるよう
になり・・・。

その地には、死者たちが蘇る不可思議な力が宿っていた・・・。

話が冗長に流れすぎて、最後までたどり着くのがやっと。

主人公たちの境遇も現実離れしすぎて理解不能。
父親の境遇・背景にリアリティーが感じられない。

ホラーとしての目新しさ、斬新なアイデアに欠け、どうしてこれが
大賞を取ったのかと大きな疑問符が付く。

水字貝や謎の赤いナメクジなど気色悪い生物・虫が出てくるあたり
は貴志祐介に似た印象もあるが、結局尻窄みで終わる。

怪現象の原因も不明。木の根?何それっ?て感じで納得感ゼロ。

題名も意味不明。
ジュリエットって何に関連してるの?

娘の自傷行為や息子の首の傷などすべてが中途半端、企画倒れで
構成につながりも感じられない。

その上、恐怖感を覚えるまでもなくあっさり終わってしまうラスト
はさらに興ざめ。

正直いって貴重な時間を無駄に使ってしまった感が拭えない。

「第二の乙一」発掘プロジェクトの道は険しい・・・。

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著者: 宮部 みゆき
タイトル: 本所深川ふしぎ草紙

勝手に採点 ☆☆☆☆

回向院の旦那こと岡っ引きの茂七親分が本所深川七不思議に
まつわる難事件を解決する痛快時代小説。

作品の完成度としては申し分ない出世作。

「初ものがたり」の前作になるようだが、短編の上、一話完結なので
後から読んでも全く違和感を感じさせない。

七不思議から着想した物語は、ミステリータッチで展開しながら、
意外性・独創性に溢れ、終盤は人間性の本質を衝く情愛
で爽やかな感動を誘う。

江戸庶民の悲喜交々が散りばめられ、うまいなぁ~と唸らせる
筆致が冴えわたる。

印象に残ったのは「片葉の芦」と「落葉なしの椎」
どちらも父と娘の運命的な対立が生んだ悲劇。

「片方にしか葉が付かない芦」と「落ち葉が見あたらない椎の木」
という謎からここまで練り上げられたストーリーに発展させる
才能には感服。

さらに特筆すべきなのは、悲劇に見舞われながらも、前向きに
逞しく生き抜く下町庶民の力強さを瑞々しく浮き立たせる手腕。

また読みたくなってしまうのは、こうした希望が照らす作品自体
の聡明さ明るさに起因するのだろう。

義理人情に厚く正義感の強い茂七の人柄はやはり魅力満点。
ただ、それぞれの事件の主役を主体に描かれるため、内心が掴み
にくく、少々物足りなさが残るのが唯一の不満

やはり本シリーズの続編が強く待たれるところ。

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著者: 村上 春樹
タイトル: ダンス・ダンス・ダンス〈上〉

勝手に採点 ☆☆☆☆☆!

青春三部作の完結編ともいえる羊男シリーズ。

34歳になった「僕」が、以前宿泊した「いるかホテル」を再訪し、
建て替えられたドルフィンホテルに滞在する。
そこでフロント係りの女の子と知り合い・・・。

様々な出会いと別れを通して、失いかけていた価値観を取り戻し、
大切な人にめぐり合うまでの過程を危険で退廃的なムードで
描いた秀作。

まず一番強く感じたのは、登場人物がより多彩になり構成が
複雑化したこと。

三部作の行き着く先に相応しい深みと独創性に満ちあふれ、
五反田君やユキ、ディック・ノースなど心に残る脇役たちが
「僕」を通り過ぎていく。

五反田君の破滅的な終末は、彼の明朗な性格からは想像が
つかないほどもの悲しい。犯した行為が本当に責められる
べき性質のものか分からなくなってしまう。

もしキキが自ら望んでいたことなら・・・。

近代的なドルフィンホテルに突如現れる羊男。
題名ともなる「ダンスを踊り続けること」を「僕」に教示する。
その意味するところは一体何か。

ユキとその父母その性格、関係も風変わり。おかけでユキと親しくなる
のだが、彼女の持つ不思議な力が「僕」にもたらしたものとは。

映画「片思い」の反復される使い方も虚構と現実が混沌としてきて
効果的。もういないはずのキキを思い起こさせる・・・。

彼女を失わないか、ハラハラさせられる終末。
「僕」に必要不可欠な存在である彼女を・・・。

この4部作をゆっくり読み返してみたい。

雪の降りしきる札幌の高層ホテルで・・・。

ゆっくりとビールでも飲みながら・・・。

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著者: 横山 秀夫
タイトル: 陰の季節

勝手に採点 ☆☆☆

第5回松本清張賞受賞の表題作を含む4編で構成。
警察小説の白眉といわれる横山作品の原点がここに。

「刑事vs犯人」といった短絡的な構図から脱却した異色人間
ドラマ。

氏の警察ものを読んでいない方はこれから入った方が、より
その後の作品が楽しめると思う。

完成度はちょっとばらつきが目立つ印象。

「陰の季節」では、容疑者の男と退職した刑事部長の接点が
あまりに偶然すぎて、その非現実性から物語を組み立てている
危うさが受け入れられない。

毎日々車を走らせてるよりは、もっと効果的でドラマティック
な追いつめ方があるような気が・・・。

「FACE」の女性警察官の事件も収められている。男組織で生き
抜くひたむきなベテラン女性警察官の奮闘ぶりには、胸のすく
思いがする。

ただし、それくらいのことで勝手に逃げ出したりしちゃイカン!
上司たちの気持ちも同じ男としては理解できる部分も多い。

圧巻は「鞄」

出る杭は打たれるの諺通り、野心に燃える若手警察官僚の悲哀を
描く。毎度であるが、議会と警察の癒着、警察内部の熾烈な権力
闘争など、ここまでやるのか?と思わせるリアリティー感は秀逸。

オチが「友達をつくれ」というのはいただけないが、組織に立ち
向かう男達にとって、そのモチベーションの源、心強いバック
アップとなる家庭・家族にスポットが当てられた暗示的なメッセ
ージが胸に深く沁みる。

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