あれも聴きたいこれも聴きたい -2ページ目

あれも聴きたいこれも聴きたい -2ページ目

ホームピグアメブロ

芸能人ブログ人気ブログ

11Sep
- ジャック・ディジョネット　～　メイド・イン・シカゴ
  　ジャック・ディジョネットのスペシャル・エディションならぬ、スペシャル・レジェンド・エディションによるライヴを収録したアルバム「メイド・イン・シカゴ」です。７０歳を越えていたディジョネットがシカゴの地にレジェンドたちを集めた一夜限りの快演が堪能できる作品です。　ライヴは２０１３年８月２９日に第３５回シカゴ・ジャズ・フェスティバルの一環として行われました。場所は毎年同フェスのメインステージとなっているプリツカー・パビリオンです。このパビリオンはダウンタウンに広がるミレニアムパークに併設された野外コンサートホールです。　シカゴ・ジャズ・フェスティバルはシカゴ市役所の文化イベント局がスポンサーとなり、シカゴ・ジャズ・インスティテュートがプログラムする世界最大のジャズ・フェスです。デューク・エリントンを顕彰するイベントとして１９７４年に始まっています。　事の発端は、ディジョネットが２０１２年に米国国立芸術基金によるＮＥＡジャズ・マスターズの称号を与えられたことを契機に、同フェスのプロデューサーがぜひディジョネットを祝福したいとして、同フェスへの出演を依頼したことに求められます。前年の夏でした。　その依頼はプログラムもメンバーもすべてディジョネットに任せるというもので、シカゴ出身のディジョネットはこれを昔の仲間とのリユニオンを果たす絶好の機会ととらえました。この時すでに７０歳を越えていたディジョネットです。過去を振り返ってもよい歳です。　集められたのは、まずディジョネットとは中学校の同級生だったというロスコー・ミッチェルとヘンリー・スレッドギルです。二人はともに木管奏者で、ミッチェルはアート・アンサンブル・オブ・シカゴなどで活躍、スレッドギルはピューリッツァ賞を受賞したという重鎮です。　そしてシカゴのジャズを下支えするＡＡＣＭ（創造的ミュージシャンの進歩のための協会）の設立者でもあるピアニスト、ムハル・リチャード・エイブラムス。１９６０年代初頭には彼らによるジャム・セッションが夜な夜な繰り広げられていたのだそうです。シカゴは熱かったのです。　最後はベースのラリー・グレイで、彼もシカゴ出身ですが、やや時代は下ってＡＡＣＭとは１９７０年代に入ってからの関りです。ディジョネットやミッチェル、エイブラムスとは何度も演奏していた仲ですが、スレッドギルとはここが初めての邂逅だそうです。　クインテットは前々日にリハーサルを行って勢いをつけて当日の演奏に臨みます。この演奏のためにグレイを除く４人はそれぞれ曲を書いてきており、ここではそれが披露されています。ミッチェルのみ２曲で合計５曲です。ここにディジョネットの語りと全員での即興で全７曲。　青春を共に過ごした大物たちのリユニオンとなると、緩い空気が流れそうにも思いますが、まったくそんなことはありません。まるで書道のパフォーマンスをみているかのような枯淡の境地を感じます。墨のニュアンスに富んだ色で描かれる得も言われぬ世界です。　最後のセッションのみは懐かしそうな気配が漂っていてほっとします。恐るべき老人たちです。まさにスペシャル・レジェンド・エディションです。当日は公式にジャック・ディジョネットの日とされ、１万人の観客は演奏に酔いしれたのだそうです。全くもって凄いイベントですね。Made in Chicago / Jack Dejohnette (2015 ECM)Tracks:01. Chant02. Jack 503. This04. Museum Of Time05. Leave Don't Go Away06. Announcement07. Ten MinutesPersonnel:Jack Dejohnette : drums, speakerMuhal Richard Abrams : pianoLarry Gray : double bass, celloRoscoe Mitchell : sopranino, soprano and alto sax, baroque flute, bass recorderHenry Threadgill : alto sax, bass flute
10Sep
- * メタボリスト　～　ハンステン・クローク
  　新陳代謝を意味するメタボリズムという言葉はメタボリック・シンドロームで一躍有名になった印象があります。しかし、日本にはそれ以前にも建築の分野で起こった同名の運動がありました。自らをメタボリストと呼んだのはかの有名な建築家黒川紀章でした。　その主張は「建築や都市は閉じた機械であってはならず、新陳代謝を通じて成長する有機体であらねばならない」というものでした。１９６０年代の空気を感じる運動です。ちなみにこの主張を音楽に当てはめてみますと、なんということはない、当たり前の話ですね。　このメタボリストはポスト・パンク、ニュー・ウェイヴ時代に活躍したバンドですけれども、ごく一部で話題になっただけでした。本国である英国よりも、ドイツやフランス、そして日本での方が有名です。このデビュー作品も日本では話題になり、私もリアルタイムで買いました。　無名がゆえに長らくＣＤも発売されていませんでしたが、ここ日本で世界初ＣＤ化がなされました。ヴィニール・ジャパンに拍手！少々前にオーストラリアのレーベルが発売したコンピレーションにメタボリストの曲が収録されていたりして機運が上がってきていた時期ではあります。　本作品「ハンステン・クローク」はメタボリストのデビュー・アルバムです。ここでは普通のロック・バンドの楽器編成で当時の雰囲気に沿ったアヴァンギャルドな演奏が繰り広げられています。ただし、アヴァンギャルド系の人から見ればポップに過ぎるのでしょう。　パンクとアヴァンギャルドのちょうど程よいブレンドと言われてもよさそうですが、中谷哲也氏のライナーノーツにある通り、双方から程よく敬遠されるというすき間に落ちてしまったバンドなのだろうと思います。ディス・ヒートやスロッビング・グリッスルにはなれませんでした。　アルバムの一曲目「カーリー・ウォール」はそれこそ大名曲です。私は若い頃、スピーカーの前に陣取り、大音量で流しては感動していたものです。呪術的なビートがたけだけしい肉体派楽曲で、曲の終りに一旦空白を置いて、強烈な演奏が戻ってくるところは鳥肌ものです。　最後のタイトル曲もよく聴きました。こちらは飄々としたクールな曲です。ドイツのノイエ・ドイッチェ・ヴェレ作品を思い浮かべます。メタボリストはアモン・デュールやグル・グル、ファウストといったクラウトロックからの影響が強いといわれますからおかしくはありません。　リーダーのマルコム・レーンはロック・マガジン誌のインタビューで、「私は肘かけ椅子に座って、１０年間本を読んで過ごし、年をとりだしたのだ」と語っています。また「ブラック・マジック・ウーマンとかのギターソロ」などの「ロック・ギターを教えて」生活の糧を得ていたそうです。　何となく前衛になりきれないバンドの雰囲気が分かる逸話です。ボートラ収録のデビュー・シングルなどはアヴァンギャルド風味が強いのですが、こちらは本人が「質もよくない」と認めている通り、椅子に座っているレーンには今一つしっくりこなかったのでしょう。　ただし、愛聴していた作品なのですが、長らく聴かないうちに頭の中では暗黒度が増していたので、久しぶりに聴いてみて拍子抜けしてしまいました。ＣＤの音がよくないという部分も大きいですが、アマチュアっぽい感じが強いです。これはこれで愛おしいですが。Hansten Klork / Metabolist (1980 Drömm)*2013年3月15日の記事を書き直しました。参照：「ロック・マガジンＶｏｌ４１」（ロック・マガジン）Tracks:01. Curly Walls02. Alien On Sunday03. King Quack04. Lights05. Hoi Hoi Hoi06. Merchandise07. Hansten Klork(bonus)08. Drömm09. Slaves10. Eulam's Beat11. Identify12. Tiz Hoz Nam13. Le Grand PriquePersonnel:Malcolm Lane : guitar, synthesizer, vocalAnton Loach : guitar, effectsShaiga Simon Millward : bass, vocal, synthesizerMark Rowlatt : drums
09Sep
- サザンオールスターズ　～　タイニイ・バブルス
  　サザンオールスターズの三枚目のアルバムは猫のジャケットでお馴染みの「タイニイ・バブルス」です。裏ジャケットにもメンバーの数だけ猫が写っています。サザンのアルバム・ジャケットのセンスはこの頃からなかなかに異彩を放っておりました。　「いとしのエリー」の特大ヒットを放ったサザンは、その勢いのままに１９７９年９月から秋の全国ツアーをスタートさせ、１０万５千人を動員しました。そして１２月、ツアーの打ち上げとなるコンサート会場にて、６か月間のレコーディング活動専念を宣言しました。　当時のアーティストには珍しくテレビに出まくっていたサザンでしたが、さすがにテレビに出続けることに疲れたのでしょう。この宣言はあくまでテレビに出ないということで、レコーディングは続ける、いやこれまで以上にしっかりと取り組むということなのでした。　その成果が本作品であり、さらには７月までに発表された５枚のシングルでした。実に精力的な活動ぶりです。前作が忙しい合間をぬって制作せざるをえなかったことに忸怩たる思いがあったようですから、真価を発揮するぞとばかり力が入っています。　しかし、この５枚のシングルはいずれもトップ１０入りを逃してしまっています。アルバム自体はサザン初の１位に輝いているのですが、売上枚数は前作に及びませんでした。意外な事実ですが、まだこの頃のサザン人気は実は盤石ではなかったということでした。　アルバムは充電期間の真ん中あたりで発表されています。したがって、連続発表されたシングル曲のうち、本作品に収録されているのは、「涙のアベニュー」と「恋するマンスリー・デイ」のみです。ただし、同期間の前に発表された「Ｃ調言葉に御用心」は収録されています。　この曲は歌詞には似合わないミディアム・テンポのしっとりした曲で、こちらはヒット・チャートで２位まで上がる大ヒットを記録しています。したがって、大ヒット曲も含めてシングル曲が３曲が含まれているわけですが、本作品ではそれらよりも「私はピアノ」が目立っています。　高田みづえのバージョンが大ヒットしたことで知られる名曲で、ここでは原由子が初めてリード・ボーカルをとっています。ピアノとボーカルの尋常じゃない響きが何とも言えず素晴らしく、レコーディングに専念した成果がしっかり表れています。美しいです。　「女呼んでブギ」なんていう大学のサークルのりでホモソーシャルに堕してしまいそうな曲を書いていた桑田佳祐ですけれども、そうはならなかったのは原由子の存在が大きいと思います。彼女はアイドル型でも内助の功型でもない、自立した女性として画期的でした。　閑話休題。アルバムはこれまで同様にレゲエやブルースなどをからめたミクスチャーなサウンドで出来上がっていることに加え、隅々までさまざまな工夫が施されています。作品の前後を挟む「タイニイ・バブルス」では泡の音が使われますし、松田弘もボーカルをとります。　前作に比べるといかにも力を込めて納得してつくり上げた作品という感じがします。けだし力作です。ただ、たとえば「私はピアノ」に挿入される桑田のおちゃらけ部分などには若干置いていかれそうになります。前作と本作を足して二で割るとちょうどよかったかもしれません。Tiny Bubbles / Southern All Stars (1980 Invitation)Tracks:01. ふたりだけのパーティ～Tiny Bubbles (type-A)02. タバコ・ロードにセクシーばあちゃん03. Hey! Ryudo!04. 私はピアノ05. 涙のアベニュー06. To You07. 恋するマンスリー・デイ08. 松田の子守唄09. Ｃ調言葉に御用心10. Tiny Bubbles (type-B)11. 働けロック・バンド（Workin' for T.V.)Personnel:桑田佳祐 : vocal, guitar大森隆志 : guitar, chorus原由子 : keyboards, chorus関口和之 : bass, chorus松田弘 : drums, chorus野沢秀行 : percussion, chorus***谷口陽一 : steel guitarLinda : chorus京谷弘司 : bandneon新田一郎、兼崎順一、羽鳥幸次、武田和三、安孫子浩、岡野等、数原晋 : trumpet吉田俊之、中沢忠孝、福井寛隆、鍵和田道男、平内保夫 : trombone市原宏祐、三森一郎、包国充 : tenor sax清水万紀夫、鈴木正男 : clarinet鈴木重男 : alto sax砂原俊三 : baritone saxジェイク・コンセプション : sax, fluteJoe Strings、玉野グループ、多グループ : strings
08Sep
- ザ・フー　～　キッズ・アー・オールライト
  　ザ・フーのドキュメンタリー映画「キッズ・アー・オールライト」のサウンドトラック・アルバムです。日本ではザ・フーの人気は今一つでしたから、本作品は発売されたものの、映画の公開は見送られています。ただし、少し遅れてビデオ・テープは発売されました。　公開は１９７９年のことです。ザ・フーの解散は１９８２年のことですし、その後も何度も再結成を繰り返しますから、今にして思えばとても中途半端な時期に制作されたドキュメンタリーのようにも見えます。収録曲も、キャリアの初期偏重型です。　しかし、ザ・フーの顔であるキース・ムーンが１９７８年に亡くなってしまったことを思い出すと、このドキュメンタリーはここしかない時期に制作されたことが分かります。その後も長いキャリアは続きますが、キース・ムーンのいたザ・フーはここでおしまいです。　残念ながら映画を見ていないという大きな負い目を負っているのですが、このアルバムは映画を見ていなくても存分に楽しめる作品であると言い切ってしまいます。既発のスタジオ音源はわずかに１曲のみで、後はテレビ放送やライヴなど当時は未発表だった音源満載です。　冒頭にはザ・フーの代表曲「マイ・ジェネレイション」が置かれています。アメリカのテレビ番組に出演した際の演奏で、最初に各メンバーへの短いインタビューがあり、これがメンバー紹介となっています。ふざけた応答にはそれぞれの人となりがあふれ出ています。　そしてアルバムの最後は１９７８年５月２５日のライヴ演奏で「無法の世界」です。なんとこれはキース・ムーンの生前最後のパフォーマンスです。これまたこれ以上の終わりは考えられません。誰もがキースのことを思って制作された映画であり、アルバムなのです。　また、本作品には「四重人格」以降の楽曲は収録されていません。映画では続くアルバム「フー・アー・ユー」のタイトル曲は使用されていますが、アルバムは「フーズ・ネクスト」までの楽曲で構成されており、それも初期の楽曲を偏重しているようです。　とはいえ、ともに英国三大ロック・バンドと並び称されるビートルズやローリング・ストーンズと比べて、そのディスコグラフィがとても分かりにくいザ・フーですから、ここでなんとはなしに整理されると大そうありがたいです。ようやく目鼻がついた気がします。　とりわけ、コンピレーション盤で発表されていた、唯一のスタジオ録音である「不死身のハードロック」が、初めて本来の位置につきましたとばかりに６曲目に鎮座しているのは大変嬉しいことです。「クイック・ワン」から「トミー」の数曲への流れも完璧です。　最も気になったのはボ・ディドリーの名曲「ロードランナー」のカバーです。メドレーで「マイ・ジェネレイション」のブルース・バージョンに続くのですが、ザ・フーのルーツを垣間見る思いです。１９７５年末のライヴはとても楽しそうに味わい深い演奏となっています。　キース・ムーンのどんどこドラムとピート・タウンゼントの風車ギターがなっていれば何でもザ・フーではありますが、本作品のように整理されてようやくザ・フーらしい楽曲とはどういう曲かということに得心がいきました。これで「キッズ・アー・オールライト」が入っていれば．．．。The Kids Are Alright / The Who (1979 Polydor)Tracks:01. My Generation02. I Can't Explain03. Happy Jack04. I Can See For Miles 恋のマジック・アイ05. Magic Bus06. Long Live Rock 不死身のハードロック07. Anyway, Anyhow, Anywhere08. Young Man Blues09. My Wife10. Baba O'Riley11. A Quick One While He's Away12. Tommy, Can You Hear Me? トミー、聞こえるかい？13. Sparks14. Pinball Wizard ピンボールの魔術師15. See Me, Feel Me16. Join Together / Roadrunner / My Generation Blues17. Won't Get Fooled Again 無法の世界Personnel:Roger Daltrey : vocal, harmonicaPete Townshend : guitar, keyboards, vocalJohn Entwistle : bass, keyboards, vocalKeith Moon : drums, vocal
07Sep
- シークレット・ナイト・ギャング　～　ビロングス・オン・ア・プレイス・コールド・アース
  　シークレット・ナイト・ギャングはボーカルのケマニ・アンダーソンとサックスのキャラム・コネルの二人を中心とする「世界が注目するマンチェスターのソウル・ファンク・バンド」です。本作品は２０２３年６月発表の二作目「ビロングス・オン・ア・プレイス・コールド・アース」です。　アンダーソンととコネルの二人は幼稚園時代からのお友達だそうです。二人はサッカーを通じて友情を育みました。多くの友人たち同様に長ずるに及んで疎遠になった時期もありましたが、再びコンタクトをとるようになった二人をつないだものは「スチール・パン」でした。　若干分かりにくいですが、二人の間にはジャズがあったということです。「ジャズを通じてこそ自分を音楽的にも感情的にも真に表現できるのだ」と二人は述べています。もちろん他のジャンルの音楽でも自分を表現できるのでしょうが、ジャズは少々違う。　「即興演奏がどこに自分たちを連れて行ってくれるのか分からないという予言不可能な可能性が刺激的な要素」なのだという主張です。ただし、シークレット・ナイト・ギャングの繰り出すサウンドはフリー・インプロビゼーションというわけではありません。　彼らは英国クラブ・ミュージックの重鎮ジャイルス・ピーターソンに見いだされたことから分かる通り、ジャズといってもクラブ・ジャズ的です。ソウル・ファンク・バンドの名にふさわしいサウンドを得意としています。新世代のジャズの一群に素直に連なります。　メーカーの表現では、「ダイナミックなメロディー、唯一無二のブラスセクション、ジャズからの影響を昇華したソウル・ミュージックによって、高揚感と超越感、そしてジャンルを超えたストリートソウル・サウンドを更新し続けてきた」のです。　本作品はそんなシークレット・ナイト・ギャングによる「ソウル～ファンク～ＵＫジャズを繋ぐ新たなマスターピースと言える傑作」だと惹句は熱いです。米国に比べると層は圧倒的に薄いものの、確かに存在するＵＫソウル・シーンのきらめく星なのでしょう。　二人がインスピレーションをもらったバンドとして挙げている名前が面白いです。新世代のソウル・アーティスト、ビラルやジャズとヒップホップを結ぶサックス奏者テラス・マーティンと並ぶのは何とアース・ウィンド＆ファイヤーです。何だか嬉しいですね。　一方で、しばしば話題になるのがテキサスのエキゾチック・ファンク・トリオないしはサイケデリック・トリオと呼ばれる、クルアンビンのサポート・アクトを務めて人気を博したという逸話です。ストレートなジャズ、ソウル、ファンクだけではない懐の深さが強調されます。　そもそも二人をつないだのがスティール・パンだったことを思い出します。シークレット・ナイト・ギャングのサウンドにはそこはかとなくラテン・フレーバーが漂っており、そのセンスが素晴らしいと感じました。歌詞も含めて若干重めのサウンドがふっと軽くなります。　最先端の刺激的なサウンドが展開しているというわけではありませんけれども、ソウルフルなボーカルと巧みに練り上げられたサウンドが美しい作品です。ＵＫソウルは伝統的にこうしたゆったりと腰を落ち着けて耳を傾ける作品が生まれやすいと感じます。Belongs on a Place Called Earth / Secret Night Gang (2023 Brownswood)Tracks:01. Respect Me02. Don't Know What Tomorrow Brings03. One And Only04. Never Ever05. Find A Way06. When Will The Sun Rise Again07. Do For You08. Out Of My Head09. Every Nation10. Things Will Work OutPersonnel:Kemani Anderson : vocal, RhodesCallum Connell : sax, flute, vocoder, synthesizer, clavinet, organ***Elias Atkinson : trumpet, flugelhornAaron Wood : flugelhornRioghnach Connelly : fluteJack Duckham : guitarMyke Wilson : drumsImmanuel Simelane : bassJonathan Moko : bassNicola Guida : Rhodes, keyboards, pianoAlan Keary : stringsAlberto Pico Borrero Alvarez : percussion
06Sep
- キャメル　～　リモート・ロマンス
  　キャメルの通算７枚目のスタジオ・アルバム、「リモート・ロマンス」はいわゆる第三期キャメルの初めてのアルバムになりました。発表は１９７９年１０月、前作からほぼ１年が経過しています。わずか１年とはいえ、メンバーが大きく変わってしまって第三期です。　最大の変化はピーター・バーデンスの不在です。キャメルがデビューできたのはバーデンスのおかげですし、そもそもキャメルの曲作りはほとんどがアンドリュー・ラティマーとバーデンスの二人が担っていましたから、この脱退は大きな出来事でした。　さらに第二期キャメルを特徴づけていたキャラバン組も去ってしまいましたし、メル・コリンズもバンドを離れました。かろうじて、元キャラバンのヤン・シェルハースは残り、ここにベースとボーカルのコリン・ベース、キーボードのキット・ワトキンスが加わりました。　ベースはパブ・ロック・シーンで活躍していたミュージシャンで、カンタベリー系のスティーヴ・ヒレッジと縁が深く、キャメルにもヒレッジのマネージャーが紹介したそうです。ワトキンスは米国のプログレ・バンド、ハッピー・ザ・マンのメンバーだったキーボード奏者です。　こうしてラティマーとアンディ・ウォードのオリジナル組を足して５人組の第三期キャメルが誕生しました。そして本作品のプロデューサーにはポップ職人ルパート・ハインが迎えられました。メンバーチェンジよりもむしろこちらの方が大きいのではないかと思ってしまいます。　ハインがポップ職人となるのはもう少し先で、この頃にはプログレ系のアーティストと関りが深かったのですが、それでも本作品はかなりポップ寄りに攻めています。とりわけ、冒頭の二曲「ウェイト」と「奇妙な愛」は１９８０年代を予感させるポップ路線です。　しかし、３曲目の「アイ・オブ・ザ・ストーム」では抒情的なキーボードが美しいキャメルらしい曲となっていてほっとさせられます。驚くべきことにこの曲は新加入のワトキンスの曲です。往々にして新人の方がバンドの伝統を忠実に継承しているものです。　こうしてポップと叙情派プログレ路線とがうまい具合に絡み合っています。最後はラティマー作の１０分を超える名曲「アイス」が置かれていて、やはりキャメルはプログレだと宣言しているかのようです。ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を使ったインスト曲です。　「アイス」のおかげで本作品の人気は不動のものになっています。ラティマーの泣きのギターがゆったりと堪能できる名曲です。終わったかと思ってからが長いところもいいです。ライヴでは涙を流しながらギターを弾くというラティマーの姿が彷彿とされます。　なお、原題とジャケットは、キャメルのファンサイトの研究によれば、この当時流行っていたジョークからとられているそうです。キリストに呼ばれたペテロが悪戦苦闘してキリストのもとにたどり着くと、キリストは「ここから君の家が見えるよ」と言いたかっただけというもの。　１９８０年代を目前にして、プログレへの風当たりはますます強くなっており、本作品は英国では４５位とふるいませんでしたけれども、メンバー交代を乗り越えて、キャメルはキャメルだと示した傑作であると思います。「アイス」とともに記憶されるアルバムです。I Can See Your House From Here / Camel (1979 Decca)Tracks:01. Wait02. Your Love Is Stranger Than Mine 奇妙な愛03. Eye Of The Storm04. Who We Are05. Survival06. Hymn To Her07. Neon Magic08. Remote Romance09. Ice(bonus)10. Remote Romance (single version)Personnel:Andrew Latimer : guitar, flute, vocal, autoharpColin Bass : bass, vocalKit Watkins : keyboards, syntheseizer, piano, organJan Schelhaas : piano, synthesizerAndy Ward : drums, percussion***Mel Collins : alto saxPhil Collins : percussionRupert Hine : chorusSimon Jeffes : orchestral arrangements
05Sep
- タンジェリン・ドリーム　～　ザ・クラッカー／真夜中のアウトロー
  　タンジェリン・ドリームのサウンドトラック・アルバム「ザ・クラッカー／真夜中のアウトロー」です。スタジオ・アルバムでいえば、「タングラム」の後、「エグジット」の前の時期にあたり、サウンドトラック作品としては「恐怖の報酬」に次ぐ二作目となります。　「恐怖の報酬」は映画を制作する人々に大いに評価された様子で、タンジェリン・ドリームにはあちらこちらからサウンドトラックの依頼が届けられるようになりました。以降、彼らは多数のサントラを手がけることになりますが、この作品はその中でも一番売れた作品です。　映画の邦題は「ザ・クラッカー／真夜中のアウトロー」ですが、原題はシンプルに「シーフ」、すなわち泥棒です。監督は「刑事スタスキー＆ハッチ」で名を上げていたマイケル・マンで、本作品で劇場映画監督デビューを果たしました。後の活躍はご存じの通りです。　映画はゴッドファーザーなどで有名なジェームズ・カーンが主演する、マン監督らしい、クライム・サスペンスで、フィルム・ノワールの復興を目指したいわゆるネオ・ノワールに分類される作品です。ジャケットから想像されるようなＳＦ映画ではありません。　タンジェリン・ドリームのシンセ作品は普通に考えれば宇宙ものなどのＳＦ向きな気がしますが、実はこうしたサスペンスにもぴったりだということが発見されました。サントラといえばストリングスという時代にまだ目新しかったシンセ・サウンドが登場して目から鱗を落としました。　今ではサントラといえば本作品のようなサウンドがむしろ主流ではないかと思われますけれども、タンジェリン・ドリームやゴブリンがその市場を開拓したという事実は忘れてはいけません。当たり前になった事象にこそ、その先駆者は高く評価されるべきです。　さて、この時期のタンジェリン・ドリームはエドガー・フローゼ、クリス・フランケ、ヨハネス・シュメーリンクのキーボード・トリオです。しばらく安定しなかったメンバー編成もようやく落ち着き、作品の制作にまい進していた時期にあたります。　タンジェリン・ドリームの三人はサントラを作るに際し、現在制作進行中の楽曲や過去の音源などを参照している模様で、新作を作るぞという感じではなさそうです。サイドプロジェクト的な位置づけなのかもしれません。それだけリラックスして作っているのでしょう。　しかし、だからといって作品の質が劣るわけではありません。本作品などは、映画を見ていなければ、普通にタンジェリン・ドリームの新しいオリジナル・アルバムだと思う人が多いのではないでしょうか。サントラ要素は曲の短さに垣間見られるくらいです。　シーケンサーのリズムはより明確になり、時にクラフトワークを思わせるところもあります。フローゼのギターやフランケの電子打楽器も大活躍しています。メロディーもくっきりと鮮やかで、ますますニュー・エイジ的な美麗サウンドに磨きがかかってきました。　本作品は英国で４３位、米国では１１５位とチャート入りしています。米国の１１５位は彼らとしては最高位にあたります。楽しい作品ですが、このあたりからロック・ファンは彼らの存在をほぼ無視するようになり、彼らは違うフィールドで人気を博していきます。Thief / Tangerine Dream (1981 Virgin)Tracks:01. Beach Theme02. Dr. Destructo03. Diamond Diary04. Burning Bar05. Beach Scene06. Scrap Yard07. Trap Feeling08. IgneousPersonnel:Edgar Froese : keyboards, electronic equipment, guitarChris Franke : synthesizers, electronic equipment, electronic percussionJohannes Schmoelling : keyboards, electronic equipment
04Sep
- フリクション　～　ディーパーズ
  　フリクションは１９９５年に４枚目のスタジオ・アルバム「ゾーン・トリッパー」を発表し、さらに翌年にはそのリミックス・アルバムを発表しましたが、その年の暮れにライヴを行った後に活動を休止してしまいました。日本のロック史に残るバンドだけに残念なことでした。　しかし、それから１０年を経て、２００６年に大復活を遂げます。しかも、オリジナル・メンバーを揃えた同窓会的な復活とはまるで違います。ここで復活したフリクションはベースとボーカルのレックの他にはドラムの中村達也が加わっているのみという、何とデュオです。　久しくロックの最小ユニットはドラムとベースとギターの３人というのが通り相場でしたが、ここではベースとドラムの二人きりです。リズム・セクションとボーカルのみとはまた斬新です。フリクションの復活はこうした驚きが伴って事件性が増しました。　中村は高校時代からザ・スターリンや原爆オナニーズ、スター・クラブなどで活躍したドラマーで、一般にはブランキー・ジェット・シティーの結成メンバーであることで知られています。そうしたバンド活動のかたわら、さまざまなミュージシャンとフリーセッションも行っています。　フリクションとして活動する前にはジョン・ゾーンやビル・ラズウェルとのセッション・アルバムを発表するなどしており、レックと組むことに十分納得できるキャリアを積んできています。レックにとっても中村との出会いは運命を感じたものだったようです。　本作品はその新生フリクションの初めての作品となるミニアルバムです。収録されているのは２曲の新曲と３曲のカバー曲です。カバーはイギー・ポップの「ロー・パワー」、ローリング・ストーンズの「ユー・ガット・ミー・ロッキング」、ジミ・ヘンドリクスの「ファイヤー」です。　ストーンズの曲は比較的新しいのですが、それを差し引いてもロックの王道を行く曲ばかりです。それをフリクションの二人は有無を言わせずがんがん演奏しています。まさに突っ走るという表現がぴったりです。久しぶりにロックらしいロックを聴いた思いです。　新曲は「ディーパーズ」と「メラメラ６９」で、どちらもレックらしい、短いフレーズを並べた楽曲です。曲の作りは初期の頃とさほど変わりませんけれども、さすがに年輪を重ねて、レックの歌声はずいぶんと落ち着いているため、これまたロックらしい曲になっています。　ギターが重ねられているようにも聴こえますが、これもベースなのだそうです。考えてみれば当たり前ではありますが、ベースはギターの一種であることを改めて実感しました。ここではずんずん低音を響かせるよりも、まるでギターのように切り裂くベースです。　フリー・フォームな演奏ではなく、いずれの曲もリフが中心に座っています。これが実に爽快です。強力なサウンドが連打されることで、後ろからせかされるように心も体も前のめりになっていきます。旧世代のロックをとことんまで追求するとこうなるという見事なサウンドです。　なお、レックによれば、ギタリストが必要ないというわけではなく、いつも探しているんだそうです。そんな姿勢もかっこいいですね。フリクションはいつだってかっこいい。１０年経っても全くぶれずに前を向いて進んでいるフリクションです。いや、本当にかっこいい。Deepers / Friction (2009 Trippin' Elephant)Tracks:01. Raw Power02. Deepers03. You Got Me Rocking04. めらめら6905. FirePersonnel:Reck : vocal, bass, guitar中村達也 : drums, chorus***Momo Kazuhiro : chorus
03Sep
- * ステレオＭＣｓ　～　コネクティッド
  　今でもふと耳にしてしまうともういけません。頭の中にぐるんぐるんと曲がまわってしまいます。そんな中毒性の高い曲がステレオＭＣｓの代表曲「コネクテッド」です。本作品はステレオＭＣｓの３枚目のアルバムで、タイトルはヒット曲と同じく「コネクテッド」です。　この作品が発表されてからしばらくの間、イギリスはステレオＭＣｓ一色でした。１９９４年のブリット・アウォードでは、最優秀バンド賞とともに最優秀アルバム賞をとりましたし、シングル・カットされた４曲が頻繁に流れていました。新聞や雑誌では彼らのライブを激賞していました。　ステレオＭＣｓは米国のチャートに入った初めての英国ヒップホップ・バンドとされている通り、ヒップホップでありダンス音楽を主戦場としています。しかし、彼らの特徴はその素晴らしいライヴにあります。常にスタンディング・オベーションだったといいますから凄いです。　彼らはハッピー・マンデーズや、さらにはＵ２ともツアーを共にしたといいますから、その定評ぶりが分かるというものです。かなりロック的なライヴともいえます。サウンドそのものも折衷主義的で、ヒップホップ、ファンク、ロック、ポップ、エレクトロニカなどが凝縮されています。　私は彼らの動く姿をテレビで観ました。ブリット・アウォードの授賞式でした。ホームレスのようなロブ・バーチが両手を翼のように広げ、背中を丸めてぴょんぴょん飛びまわる姿が恰好よかったです。ただ、残念ながら「人類に感謝」ってな感じのスピーチは完全に滑ってました。　ステレオＭＣｓのサウンドは、ヘヴィでクールでファンキーなグルーヴに、ちょっと突き放したような落ち着いたラップ調のボーカルがかぶさるスタイルです。とても落ち着いてクールなサウンドで、オールド・スクールな魅力ともいえる風情が素敵です。　ステレオＭＣｓの中核を担っているのはボーカルでソングライター、そしてプロデューサーを務めるバーチと、ＤＪも務めるアレンジャーのザ・ヘッドことニック・ハラムです。学生時代から知り合いだったという二人は自身のレーベルを立ち上げてデビューしています。　３枚目のアルバムとなる本作品の頃には、ドラマーのオーウェン・イフことオーウェン・ロッシターとシンガーのキャス・コフィを加えた４人組となっています。ライヴ・アクトとしての姿を追い求めた結果でもあり、ステレオＭＣｓのサウンドはここに確立しました。　本作品では楽曲も粒ぞろいで、どれもこれも中毒性の高いグルーヴが堪能できます。もういつまででも聴いていたい。特に英国でトップ２０入りした４曲、「コネクティッド」に「ステップ・イット・アップ」、「グラウンド・レヴェル」、「クリエイション」などは素晴らしい。　アルバム自体も英国では２位にまで上がり、プラチナ・ディスクを獲得しています。今でも色褪せないアンセムともなっており、英国の１９９０年代を代表するアーティストの一人といってもおかしくありません。私はもうこのアルバムが好きで好きで。　同時期にはプロディジーやシェイメンなどがいますが、ステレオＭＣｓはやや観客層が大人でした。音で勝負。派手ではありませんが、結局は幅広い支持を集めてブリット・アウォードですから、３０サムシングが牛耳っていた音楽業界にとってはほっと一息的な存在でした。Connected / Stereo MCs (1992 4th & Broadway)*2012年12月16日の記事を書き直しました。Tracks:01. Connected02. Ground Level03. Everything04. Sketch05. Fade Away06. All Night Long07. Step It Up08. Playing With Fire09. Pressure10. Chicken Shake11. Creation12. The EndPersonnel:Owen If (Ian Frederick Rossiter) : drums, percussionRob B (Robert Birch) : vocalThe Head (Nicholas Hallam) : DJCath Coffey : chorus***Kickhorns : brassChicu Modu : saxMatthew Seligman : bassPaul O'Kane : bass, guitarJames Hallawell : keyboards, organAndrea Groves, Jennifer Ismail, Verona Davis : vocalAnya Ulman, Ivan Hussey, Johnny T, Laura Cochrane : strings
02Sep
- イーノ、シューカイ＆シュヴァルム　～　スシ、ロティ、ライベクーヘン
  　本作品は、ブライアン・イーノとホルガー・シューカイという私にとっては大スターな二人が、クラブ・ジャズのプロジェクトであるスロップ・ショップことＪ・ペーター・シュヴァルムと共演した一期一会のライヴを収録した作品です。題名は「スシ、ロティ、ライベクーヘン」です。　スロップ・ショップは１９９８年に名作「マクロデリア」でデビューしています。当時、アウトサイダー・ジャズを試みていたイーノは、この作品をいたく気に入り、すぐにコラボレーションを申し入れています。本作品は二人のコラボの皮切りとなるライヴを収録したものです。　このライヴはドイツのボンで１９９８年８月２７日に開催されました。場所は国立の美術展示館で、同館で開催されたイーノによるマルチメディア・インスタレーション「フューチャー・ライト・ラウンジ・プロポーザル」展のオープニング・パーティーでの演奏です。　イーノはこれを「スロップ・ショップとブライアン・イーノによる付随音楽付きの、ハイスタンダードなフード・パフォーマンス」と位置づけており、あくまで主役は招待客に料理をふるまう３人のトップクラスのシェフだとしていました。料理名がアルバム・タイトルになっているわけです。　イーノが人前でパフォーマンスを行うことはさほど多くありません。「ツアーに出るくらいなら、自分の陰嚢にくぎを打ち込む方がましだ」とまで言っています。このライヴは単発ですし、自分の展覧会の余興ですから、スロップ・ショップとの初コラボのいい機会と捉えたのでしょう。　ライヴに参加しているのは、イーノ、シュヴァルムに加えて、以前から親交の厚いシューカイ、さらにはシュヴァルムがスロップ・ショップで共演したラウル・ウォルトンとイェルン・アタイの５人です。シュヴァルムは前日のリハで初めてシューカイと会ったとのことです。　料理がふるまわれた会場にはステージが設けられ、そこに５人が挨拶もなく静かに登場して約３時間演奏が行われました。演奏は警察によって電源が切られるまで続いたという伝説が残されています。よほど興がのったということなのでしょう。　イーノとシュヴァルムは「アタイとウォルトンの緊密なリズム・セクションをリードしながら、シンセ、シーケンサー、プロセッサーを駆使」しています。シューカイはここにこの頃の彼のトレードマークであるところの短波ラジオによるコラージュを加えています。　この５人によるコラボは、ドラムとベースの活躍が大きいだけに、アンビエントとは一線を画す、艶めかしいエレクトロニクス・サウンドとなっています。本作品は３時間の演奏の中から選び抜かれた１時間を収録したものですが、全部聴いてみたいと切に思わせる内容です。　このライヴは当時としてはまだ珍しいライヴ配信がなされたそうです。さすがは新しいテクノロジーが大好きなイーノだけあります。一方、音源は長らくお蔵入りになっていましたが、ここにようやく陽の目を見ました。何にせよありがたいことです。　なお、けったいなタイトルは食べ物の名前です。全５曲の楽曲名から「寿司」、ナンと並ぶインドのパン「ロティ」、ドイツのスポンジケーキ「ライベクーヘン」の３曲をもってきました。残りの２曲は「水」と「ワイン」です。この凄い演奏に食事どころではなかったのではないでしょうか？Sushi, Roti, Reibekuchen / Brian Eno, Holger Czukay & J. Peter Schwalm (2024 Groenland)Tracks:01. Sushi02. Roti03. Wasser04. Reibekuchen05. WeinPersonnel:Brian EnoHolger CzukayJ. Peter SchwalmRaoul WaltonJern Atai
01Sep
- サザンオールスターズ　～　１０ナンバーズ・からっと
  　デビュー・アルバムから８か月、サザンオールスターズの２枚目のアルバム「１０ナンバーズ・からっと」です。オリコン・チャートでは２位を記録し、１９７９年の日本レコード大賞ではベスト・アルバム賞を受賞しました。デビュー・アルバムの頃とは様変わりです。　「勝手にシンドバッド」で鮮烈なデビューを飾って以来、テレビでサザンを見ない日はないくらいでしたから、多忙を極めていたのでしょう。セカンド・シングルはレコード会社の大きなプレッシャーを受け、半ば軟禁状態で作られたそうです。「気分しだいで責めないで」とはまた。　この頃のサザンはコミック・バンド扱いでしたし、一発屋のように思われていました。正直に申し上げると、この曲を聴いた時にはやっぱりなと思ったものです。この曲もラテンテイストで「勝手にシンドバッド」路線をそのまま踏襲したような曲でしたし。　そこに三枚目のシングル曲として「いとしのエリー」が投下されました。レコード会社はこれに反対していたそうですが、アーティスト側の強い決意でシングル・カットされたといいます。結果は大正解、世間のサザンを見る目は一変し、真面目にその音楽に向き合い始めました。　この時のことはよく覚えています。オリコン・チャートでは２位どまりだったとは信じられませんが、ザ・ベストテンでは７週連続で１位を獲得しており、とにかく勢いがすごかった。「いとしのエリー」は後に「ふぞろいの林檎たち」の主題歌ともなり、永遠のスタンダードになりました。　本作品には続く「思い過ごしも恋のうち」を含め３曲のシングル曲を収録しています。それらの楽曲はデビュー作同様にサザンの奥深い音楽的な引き出しから生まれたバラエティ豊かなものですけれども、熱い胸騒ぎで一気に作り上げた前作とはやや雰囲気が違います。　多忙を極める中で作られたということもあり、本人たちにもじっくり腰を落ち着けて制作できなかったという反省がある模様です。確かにアルバムとしてのまとまりには欠けるきらいがあり、それぞれの曲がたまたま同居しているかのような後味が残ります。　とはいえ、それでともかくもこれだけの曲を揃えるのですから大したものです。軽いニューミュージック風に始まる最初の「お願いＤＪ」でも桑田佳祐によるウルフマン・ジャックのものまねが入ると途端にアメリカン・グラフィティ的な雰囲気が生まれてきます。　続くブルース調の「奥歯にを食いしばれ」は途中でレゲエ調に変わります。かと思うと「ラチェット通りのシスター」で淡い恋を描いてアメグラ調に戻ります。ラテン風味の４枚目のシングル「思い過ごしも恋のうち」をはさんで、ボードヴィル調の「アブダ・カ・ダブラ」となります。　「気分しだいで責めないで」もアルバム・バージョンはラテン全開のはちゃめちゃなものになっていますし、「レット・イット・ブギー」から「ブルースへようこそ」とサザンのロック愛がほとばしります。そして最後に「いとしのエリー」。ちょっとアルバムからは浮いています。　多くの人が本作品を歌謡曲調になってきたと評しています。それはおそらくサザンのごった煮感覚が、歌謡曲の本来もっているミクスチャー感覚に通じるからでしょう。特にシングルにみえるその本格的なラテン風味がそうでしょう。サザンは大衆音楽そのものです。10 Number's Carat / Southern All Stars (1979 Invitation)Tracks:01. お願いＤＪ02. 奥歯を食いしばれ03. ラチエン通りのシスター04. 思い過ごしも恋のうち05. アブダ・カ・ダブラ（TYPE1）06. アブダ・カ・ダブラ（TYPE2）07. 気分しだいで責めないで08. Let It Boogie09. ブルースへようこそ10. いとしのエリーPersonnel:桑田佳祐 : vocal, guitar大森隆志 : guitar, chorus原由子 : keyboards, chorus関口和之 : bass, chorus松田弘 : drums, chorus野沢秀行 : percussion, chorus***Horn Spectrum : horn 兼崎ドンペイ : trumpet, flugel horn 新田イチロー : trumpet, flugel horn, trombone 吉田トシユキ : trombone清水靖晃 : tenor saxJoe Strings : strings妹尾隆一郎 : harmonica薗田憲一＆ディキシー・キングス・ホーン
31Aug
- Ｊ・Ａ・シーザー　～　疫病流行記
  　寺山修司が主宰した演劇実験室天井桟敷が１９７５年に上演した「疫病流行記」の演劇音源集です。音楽を担当したのは、寺山演劇といえばこの人、Ｊ・Ａ・シーザーです。天井桟敷は１９６７年に旗揚げして８３年に解散しますから、ちょうど真ん中あたりの作品です。　このＣＤが発売されたのは２０２０年８月です。ちょうどこの時には天井桟敷の後継者ともいえる、シーザー主宰の演劇実験室万有引力が、第７０回本公演として、「疫病流行記」をベースとした「疱瘡譚または伝染する劇」を上演していました。　コロナ禍の最中ですから、まさしく疫病流行下での上演です。役者さんもコロナ対策で大変苦労されたようですけれども、「むしろそんな時だからこそ、あえて感染劇『疫病流行記』を上演することで」、「『演劇ワクチンの開発』にも挑むもよしとした」とのことです。　「疱瘡譚」には「疫病流行記」の曲が大々的に使われていますから、このＣＤはその音源なのかと思われますが、今一つ明確ではありません。確かなことは、２曲のみ「疫病流行記」の１９７５年アムステルダム公演のライヴ音源が使われていることです。　その２曲は、今も万有引力に歌い継がれている「わたしはあなたの病気です」と、後に奴婢訓でも使われた「南十字星を撃て」です。前者は新高恵子、後者はシーザー本人が歌っています。４５年も前のライヴ録音ですけれども、丁寧に録音してあり、違和感はありません。　その他は新録かと推測するのですが、５曲ある歌曲のうちの一曲「また童謡が」には歌手として蘭妖子の名前が記載されています。天井桟敷の歌姫として名高い蘭ですが、「疱瘡譚」には出演していません。はてなマークがいくつも浮かびますが、どなたか教えてください。　さて、この演劇は、「演劇とペスト」のアントナン・アルトーが立てた命題「演劇というのは伝達するんじゃなくて伝染させていくことは可能なのか？」を寺山が検証しようとした演劇であり、「言葉のない演劇として、台詞は金槌で釘を打つ音で表現された」といいます。　そのため、いつも以上に音楽の果たす役割が大きいとされています。そのことは全２５曲中、歌曲と言えるのは５曲にすぎないことからも分かります。歌曲の作詞はもちろん寺山です。疫病の名前を連呼する「疫病のテーマ～つむじ風」や「暗夜風癩」が光ります。　シーザーの作り出すサウンドは、しばしば初期ピンク・フロイド的だと言われます。ここに収録されたサウンドは確かにシド・バレットが脱退した直後のフロイドのようなサイケデリックかつ茫洋としたもので、今ならダーク・アンビエントと呼ばれてもおかしくありません。　ただし、もちろんハード・ロック的な展開もありますし、日本の濃厚な闇に触れる部分もあり、シーザーの音楽世界を堪能できる仕掛けとなっています。まさにプログレッシブ・ロックであろうと思います。強烈に舞台を観たいと思わせるサウンドトラックです。　なお、ブックレットにはシーザー本人による文章と歌詞が書かれているのですが、何よりも舞台写真の充実ぶりに目を見張ります。表紙と裏表紙を除く実に２６ページに満載されているのです。この写真を眺めながら、音楽を聴くのが正解です。実に恐ろしい。A Journal of the Plaque Year / JASeazer (2020 DIW)Tracks:01. 六十進法の魔術師02. 伝染過程03. 釘男04. 疫病のテーマ～つむじ風05. 疫病月の憂鬱06. 商船パゴパゴ07. 痒み08. 南へ09. 月下の病ひ鼠10. また童謡が11. 桃色衛生博覧会12. 呪文変13. 暗夜風癩14. 電球の中の水滴15. 黄河の姉妹16. 包帯の川17. 悪夢の夜18. わたしはあなたの病気です19. 水面を走る自転車20. 伝染病菌21. 死人の恋は永遠だ22. 米男の船出23. 南十字星を撃て24. そして劇は伝染してゆく25. 劇の記憶的黄昏Personnel:JA Seazer蘭妖子新高恵子
30Aug
- キャメル　～　ブレスレス～百億の夜と千億の夢
  　キャメルの６作目のアルバム「ブレスレス」です。当時の邦題には「百億のよると千億の夢」なる副題が添えられていました。前作から１年、本作品もやや順位を落としたとは言え、しっかりと全英トップ３０に入るヒット作品であるとともに、またまた傑作の誉れ高い名盤です。　このアルバム自体は前作と同じメンバーで制作されているのですが、本作品の制作後、発表前にオリジナル・メンバーのピート・バーデンスがキャメルを脱退しているため、バーデンスが参加した最後のアルバムとして記憶されることになってしまいました。　おまけに、本作品のサポート・ツアー終了後にはリチャード・シンクレアまで辞めてしまいました。なお、ツアーに際してキャメルのメンバーとなっていたいとこのデイヴ・シンクレアも同様です。かろうじて、元キャラバンのヤン・シェルハースは踏みとどまりました。　実際に同じメンバーによる前作と地続きの作品であるにもかかわらず、直後の出入りの関係で、アルバム自体にただならぬオーラが付与されてしまっています。とりわけ、大きな役割を担ってきたバーデンスの脱退は大きい。最後の輝きが収録された傑作というわけです。　ちなみにバーデンスは、脱退してヴァン・モリソンのバンドに参加しています。もともとヴァン・ザ・マンとバーデンスはゼム時代の仲間ですから、何もおかしくないのですが、キャメルとモリソンを並べてみると、なんだか奇妙な取り合わせであるような気がしてきます。　アルバムはいつにましてポップな曲で始まります。時代は１９７８年、ニュー・ウェイヴが席巻していた時代です。シンセを使ったポップなサウンドは時代のサウンドでもあります。プログレは冗漫だとして、あいかわらず不遇をかこっていた時代でした。　キャメルの場合はプログレとは言っても、ストリングスを多用するシンフォニック・タイプでもなければ、即興バリバリのジャズ系でもありませんから、それほどポップなサウンドから距離が遠いわけではありません。ましてや本作などは壮大なコンセプトもありませんし。　その意味ではプログレ不遇の時代にあっても受け入れられる素地は十分でした。本作品にも「エコーズ」などの大曲はありますけれども、いずれもシンプルに美しいサウンドだとしてすんなり受け入れられたものと思います。確かなテクニックで奏でられる美メロがいいです。　キャメルの場合、本作でもたとえばキーボードが主旋律を弾くにしても、右手だけでシンプルに弾いているところが目立ちます。当初から塗り込めるサウンドではなく、隙間のある軽快なサウンドが特徴で、多少重厚にはなったもののそこがポップと親和性が高いのです。　本作品では前作同様にメル・コリンズのサックスとリチャードのボーカルがオリジナル・キャメルのしっかりした楽曲に豊かな色を添えていて素晴らしいです。前作に比べるとよりポップ寄りのサウンドですから、そこの好き嫌いで前作との優劣が決まります。私はこっち派。　問題のジャケットはこれまたどうかと思います。アイデアが煮詰まった時にはラクダを出すというのもいかがなものでしょうか。キャメルはラクダですけれども、キャメルのサウンドは別にラクダっぽくはありません。もう少しジャケットには気を配ってほしかった。Breathless / Camel (1978 Decca)Tracks:01. Breathless ブレスレス（神秘の女王）02. Echoes エコーズ（残響）03. Wing And A Prayer 翼に祈りを04. Down On The Farm 田園の日曜日05. Starlight Ride 星への旅路06. Summer Lightning 07. You Make Me Smile 微笑みを08. The Sleeper 夢想曲09. Rainbow's End 失意の果てにPersonnel:Andrew Latimer : guitar, synthesizer, vocalPeter Bardens : keyboards, organ, vocalRichard Sinclair : bass, vocalAndy Ward : drums, percussionMel Collins : flute, oboe, sax***Dave Sinclair : synthesizer, piano
29Aug
- 悪魔の沼withムード魔ン　～　沼探り
  　もはやレーベルの言葉を引用するしかありません。本作品は「悪魔の沼、自主レーベルALLIGATORから新作到着！！２０２２年”ＦＥＳＴＩＶＡＬｄｅＦＲＵＥ２０２２”グラスステージ、悪魔の沼３人＋ＭＯＯＤＭＡＮを交えた特別編成４沼人（ぬまんど）による沼探りの記録」です。　この悪魔の沼は２００８年に結成されたＤＪ三人によるユニットです。その三人は、もともとコンピュー魔、Ａ魔ＮＯ、Ｄｒ．ＮＩＳＨＩ魔ＲＡと自称していましたが、ここでは魔をとってコンピューマ、アワノ（？）、ドクター・ニシムラとなっています。　悪魔の沼で検索すると、「悪魔のいけにえ」で有名なトビー・フーパー監督の映画「悪魔の沼」が真っ先に引っ掛かりますが、このユニットはその映画の日本版ＶＨＳのジャケットに「勝手にインスパイアされて、ほわほわ～っとはじまった」イベントなのだそうです。　彼らは「沼」というコンセプトを相当気に入った様子で、演奏会場を沼と称し、自身を沼人と呼んで嬉しそうです。前作ではマスタリングを沼スタリング、アートワークを沼ートワークと称していましたから徹底しています。魔はそれほどでもないのですかね。　もともと下北沢のクラブＭＯＲＥを沼地としていたのですが、「２０１３年より新たな試みとして、３人によるバック・スリー・バックなＤＪスタイルで予測不能な更なるネクストな沼世界を探っている」とされています。三人一緒にやるということなんですかね。　本作品はゲストにムードマンを招いて、フェスティバル・デ・フルー２０２２のグラス・ステージにて行ったパフォーマンスを記録したＣＤ－Ｒ作品「沼探り」です。ダウンロード・コードが封入されていて、そちらから追加音源を加えた２時間の演奏がダウンロードできます。　フルーは２０１２年に始まった音楽祭で、コンセプトは「魂の震える音楽体験」、「ジャズ、ロック、ワールド、テクノ、電子音楽など、様々な音楽のジャンルの中から、強く、深い、そして濃い精神性を携えているミュージシャンを、世界各国から日本に招聘しています」。　ムードマンは１９８０年代末にＤＪ活動を始めたベテランＤＪです。レコード収集家としても知られていますから、その意味でも沼人の資格は十分にあろうかと思います。ここでは悪魔の沼の三人ともはや不可分一体となって２時間ノンストップで音楽を奏でています。　ここでは「電子音楽、ハウス、テクノ、ニューエイジ、ブレイクビーツ、インダストリアル、アシッド、エレクトロ、ディスコ、ワールド・ミュージック、、、こうした音楽たちが、全くもって不可分のドロっとサイケデリックでレフトフィールド、ずぶずぶな世界を拡張」していきます。　ポイントは「幾分ダンスフロアにはスローなＢＰＭを携えてゆっくりと進んでいく」ところにあります。途中でクラフトワークの「ヨーロッパ特急」がわりとそのまま出てくるところがありますけれどもそれが象徴的で、実に心地よいビートで懐かしめのサウンドが延々と続きます。　彼らは「締めっぽく泥の深い地の事を沼地と呼ぶ。沼には野生動物が生息し、しばしば多種多様な動物の繁殖地となる」と沼愛を語っています。まさに、いろいろなものがどろどろに溶け合って、静かな沼の表を形作っているようなサウンドは心を平静にしてくれます。Numa Saguri / Akuma no Numa with Moodman (2024 Alligator)Tracks:01. 沼探りPersonnel:COMPUMADr. NISHIMURAAWANOMOOD魔N
28Aug
- ジャック・ディジョネット　～　ニュー・ディレクションズ・イン・ヨーロッパ
  　ジャック・ディジョネットがリーダーをとるプロジェクト、ニュー・ディレクションズのヨーロッパでのライヴを収録した作品「イン・ヨーロッパ」です。ライヴが行われたのは１９７９年６月ですから、「ニュー・ディレクションズ」が録音されてからちょうど一年後のことです。　この間に、ディジョネットはかの名作「スペシャル・エディション」を録音しています。ディジョネットのジャズ史に残る傑作が続々と湧いて出てくるという恐るべき時間です。この頃、ディジョネットはまだ３０歳代です。もっとも脂の乗っていた時代ともいえます。　ライヴが行われたのはスイスのヴィリサウです。スイス政府観光局によれば、「標高：５５７ｍルツェルンの北にあり、中世からの街並みが残るかわいい街」だそうです。ヴィリサウの名を世界に知らしめているのは１９７５年以来開催されているジャズ・フェスティヴァルです。　本作品もそのジャズ・フェスでの演奏かと思いましたが、フェスは８月から９月にかけての開催なので、どうやら違うようです。この演奏はヴィリサウのホテル・モーレンにて６月９日の８時から行われています。メディア報道では大いに好評を博した様子がうかがえます。　ニュー・ディレクションズのメンバーは同名のアルバムの時から変わりません。ジャック・ディジョネットのドラムとピアノ、ジョン・アバークロンビーのギターとマンドリン、エディー・ゴメスのベース、そしてレスター・ボウイのトランペットからなるカルテットです。　演奏は、ディジョネットの比較的長めのドラム・ソロから始まります。どしどしバスドラを叩くのではなく、ぴしぴしと鋭くしなやかな音が中心で、ずいぶん聴きごたえがあります。そこにゴメスのベース、アバークロンビーのギター、ボウイのトランペットが順番に加わってきます。　「サルサ・フォー・エディーＧ」と題された約１６分の大曲です。タイトル通り、ゴメスに捧げられたラテン風味のする楽曲で、ボウイのトランペットにもラテンの味が加わっていて素敵です。観客の拍手も入っていて、いかにもライヴなのりが楽しいです。　続く２曲は「ニュー・ディレクションズ」にも収録されていた楽曲です。「ホウェア・オア・ウェイン」と「バイヨー・フィーヴァー」がそれです。後者はこのライヴでは前半にディジョネットのピアノをフィーチャーしてスタジオ盤の倍以上の長さになっています。　ここまでの３曲はディジョネットの曲で、最後の一番短い「マルト・スピリアジオ」のみ四人の名義となっています。スピーディーな展開の四人による即興演奏です。ライヴだけに全体に各自のソロが目立つ分、スタジオ・ライヴのクールさには欠けますが、その分熱い。素敵です。　この作品はなかなか廃盤にならなかった人気の高いアルバムです。多くのファンがいて、日本を代表するパーカッショニストの芳垣安洋もその一人、ディジョネットの本作品を「私が彼の音楽にのめり込んでいくきっかけになった作品」として賛辞を贈っています。　とりわけ「サルサ・フォー・エディーG」について、「何ともメロディアスでしかもドラムのコントロールの技法すべてが際立った演奏」だとして、「未だに私の好きなトップ３に入っています」と書いています。同業者の言葉は重いですね。本当に素晴らしい演奏です。New Directions in Europe / Jack Dejohnette (1980 ECM)参照：「ECM:私の一枚」芳垣安洋（JazzTokyo）　Tracks:01. Salsa For Eddie G.02. Where Or Wayne03. Bayou Fever04. Multo SpiliagioPersonnel:Jack DeJohnette : drums, pianoLester Bowie : trumpetJohn Abbercrombie : guitar, mandolinEddie Gomez : bass
27Aug
- * ルベーン・ブラデス　～　ブスカンド・アメリカ
  　暑い日が続くと、レゲエやサルサなど中南米の音楽が無性に聴きたくなります。本作品はサルサのスーパースター、ルベーン・ブラデスの若い頃の作品「ブスカンド・アメリカ」です。ブラデスは後にパナマの観光大臣まで務めることになります。　１９８０年代にワールド・ミュージックのブームが訪れました。私もその中でサルサを知ったのですが、そんなブームと関係なく、サルサ自体は１９７０年代にニューヨークのプエルトリカンたちによって大いに栄え、ここ日本でも注目されていた音楽です。私が遅かっただけでした。　ブラデスは音楽一家に生まれて早くから音楽活動を始めました。パナマ大学を卒業すると、パナマ・ナショナル・バンクで弁護士として勤務した後、ニューヨークに渡って、ファニア・レコードの郵便室に職を得てチャンスを待ちました。弁護士なのに。　ブラデスはチャンスを得るやめきめき頭角を現し、１９７６年には大御所ウィリー・コローンとの曲がラテンＮＹ誌にてコンポーザー・オブ・ザ・イヤーに選ばれます。俳優業にも進出して順調な活動を続ける一方、ファニアによる印税不払いを追求する気骨も見せています。　本作品「ブスカンド・アメリカ」はファニアからエレクトラに移籍後初のアルバムです。ブラデスが率いているのはサイス・デル・ソラーなるバンドです。バンドの特徴はホーンがいないことで、代わりにシンセサイザーが用いられています。その分、ロック耳にも聴きやすいです。　ブラデスのサルサに対する最大の貢献は、歌詞の内容の質の高さだと言われます。ブラデス自身、自身の歌のことを「音楽によるジャーナリズム」ないし「都市の新聞」と呼んでいることから分かる通り、シリアスな内容をサルサのリズムに乗せて歌っています。　たとえば、本作品の一推し曲「デシジョネス」では、妊娠してしまったのではないかと悩む女子高生、近所の奥さんに不倫を持ちかけて、その夫にバットで殴られる男、ジェームズ・ボンドになった気分でトラックに衝突する酔っ払い運転男のストーリーが歌われています。　繰り返されるサビは、♪決断。毎日誰かが勝ち、誰かが負ける。アヴェ・マリア♪。まさに音楽ジャーナリズムであり、都市の新聞です。手元にある米国盤にはしっかりと歌詞カードが付されていて、しかも英語訳も並記されています。歌詞を聴かせる気満々です。　アルバム・タイトルは「アメリカを探して」という意味です。８分を超える長尺の同名曲がアルバムの掉尾を飾ります。探しているけれども見つかりそうにないアメリカ。独裁や拷問などという剣呑な言葉も歌詞を飾っています。ＵＳＡのみならず南北両大陸のアメリカです。　他の曲も含めて全体に歌詞の内容は重く、ラジオ・フレンドリーではありませんが、サウンドは躍動するサルサです。ロックやレゲエなどとのミクスチャーになってはいますが、私などの門外漢には十分にサルサです。生き生きとしたリズムに救われます。　本作品は高い評価を受け、グラミー賞のトロピカル・ラテン部門にノミネートされるなどしています。重い現実を歌い、どこか湿り気を帯びた調子ながらも、暑気払いにもぴったりのすかっとしたサウンドが病みつきになります。トロピカル＝脳天気ではないことを思い知らされます。Buscando América / Rubén Blades y Seis Del Solar (1984 Elektra)*2013年7月19日の記事を書き直しました。Tracks:01. Decisiones02. GDBD03. Desapariciónes04. Todos Vuelven05. Caminos Verdes06. El Padre Antonio Y El Monaguillo Andrés07. Buscando AméricaPersonnel:Ruben Blades : vocal, guitar, maracasMike Viñas : guitar, bass, chorusOscar Hernández : pianoEddie Montalvo : drums, percussionLoui Rivera : bonogs, percussion, chorusRalph Irizarry : timbales, percussionRicardo Marrero : vibraphone, synthesizer, chorusRay Adams : drums
26Aug
- サザンオールスターズ　～　熱い胸騒ぎ
  　日本の国民的バンド、サザンオールスターズのデビュー・アルバム「熱い胸騒ぎ」です。日本の歌謡界に衝撃を与えたシングル「勝手にシンドバッド」からわずか２か月後の発表で、今から振り返ると不思議な気がしますが、オリコンチャートでは１６位どまりでした。　サザンは１９７５年秋に桑田佳祐を中心に青山学院大学の学生によって結成されています。その後、メンバーが入れ替わるも、ヤマハのロック・コンテストであるイースト・ウェスト１９７７の決勝大会に参加した時にはほぼ本作品のラインナップに落ち着いています。　同コンテストでは見事に入賞し、桑田はベストボーカリスト賞を受賞しています。ちなみにここではシャネルズも入賞、カシオペアが優秀グループに選ばれています。グランプリはたぬきブラザーズというバンドで、今もなお、たぬきボンバーズなどとして活動されているそうです。　サザン史によれば、バンドはこの決勝大会の４か月後にはビクターでデモテープを作成し、レコーディングが決定しています。その６か月後に発表されたシングルが志村けんのネタをタイトルに冠した「勝手にシンドバッド」です。新人らしからぬ大胆な曲でした。　「勝手にシンドバッド」はオリコン３位にまで上がるヒットとなり、サザンは当時人気があった音楽番組から引っ張りだこの存在となりました。発表翌月の「夜のヒットスタジオ」では「前代未聞のジョギパン姿で出演」して熱唱しています。これは私も覚えています。　この当時はテレビに出ないことがシリアスなアーティストの証だった時代です。ジョギパンを始め、さまざまなコスプレもいとわず、テレビに出まくるサザンは異色の存在で、一般にコミック・バンドと観念され、一発屋だろうと思われていたのもやむを得ないところがありました。　そんなサザンですからデビュー・アルバムもシリアスには捉えられておらず、ヒットチャートでもそれほど目立ちませんでした。しかし、このアルバムはそんな扱いをしていい作品ではありません。この作品を語る言葉を当時の音楽業界は持ち合わせていなかっただけなのです。　この作品で聴かれるサウンドは、一言でいえばミクスチャーです。歌謡曲、ロック、ブルース、サンバ、レゲエなど幅広い音楽をミックスしたサウンドです。ロック主体のメディアでは、同時期にデビューしたツイストの方が格段に分かりやすく、シリアスに捉えられていました。　しかし、さすがは「大衆音楽の真実」の中村とうよう氏は違いました。確認できないのですが、確か彼は本作品に１０点満点をつけていたはずです。ミクスチャーこそが大衆音楽の真実だと考えている中村の琴線に響いたサウンドであったのです。　リトル・フィートのディープ・アメリカンなサウンドへのオマージュ「いとしのフィート」やら、「レゲエに首ったけ」、サンバ・フレイバーの「勝手にシンドバッド」など、とにかく引き出しが多い。それを見事に演奏するバンドの演奏力も高い。サザンの初心の魅力は大きいです。　デビュー作にはその後のバンドのサウンドのすべての種が埋まっているといいますが、この作品などまさにそうなのでしょう。サザンの魅力のすべてが詰め込まれている衝撃のデビュー作なのでした。今頃になってようやくその真価を思い知りました。Atsui Munasawagi / Southern All Stars (1978 Invitation)Tracks:01. 勝手にシンドバッド02. 別れ話は最後に03. 当たって砕けろ04. 恋はお熱く05. 茅ケ崎に背を向けて06. 瞳の中にレインボウ07. 女呼んでブギ08. レゲエに首ったけ09. いとしのフィート10. 今宵あなたにPersonnel:桑田佳祐 : vocal, guitar大森隆志 : guitar, chorus原由子 : keyboards, chorus関口和之 : bass, chorus松田弘 : drums, chorus野沢秀行 : percussion, chorus***Horn Spectrum : horn中村哲 : tenor sax, soprano sax兼崎順一 : trumpet, flugel horn新田一郎 : trumpet, flugel horn, tromboneビクター少年合唱団 : chorus
25Aug
- フリクション　～　ゾーン・トリッパー
  　日本のロック界の至宝フリクションによる１９９５年作品「ゾーン・トリッパー」です。寡作なフリクションですから、スタジオ・アルバムとしてはデビュー作から１５年目にしてようやく４作目です。前作から７年、思い出したように新作が発表される都度、私の中でブームが訪れます。　「レプリカント・ウォーク」後にライヴ・アルバム「ダム・ナム・ＣＤ」がありました。その時にすでにメンバー交代していましたが、その後もメンバーが交代しています。まず、盟友ヒゴ・ヒロシが脱退しました。さらにこれまた初期メンバーのラピスも脱退します。　さすがにギターなしではいけないとばかりに、ピカソの東純二とママトールドミーなるバンドなどをやっていたサイトウ・ゴウが加入します。サイトウは後にインディーズ・レーベル、ホルモンタンクレコードを立ち上げて運営していくことになる人のようです。　ところがサイトウは足かけ２年で脱退してしまい、イマイアキノブに交代します。イマイは１９８１年頃から、さまざまなバンドで活動してきたギタリストで、後にドラムの佐藤稔とともに知名度のあるメンバーと結成したＲＯＳＳＯに加入することになります。　というわけで、この作品を制作した時のフリクションは、レック、イマイ、佐藤のトリオです。プロデューサーはレックに加えて、オノセイゲンこと小野誠彦が迎えられました。そして、前作をプロデュースしたロリ・モシマンがニューヨークのスタジオで本作品をミックスしています。　アルバムはタイトル曲で始まります。いきなり驚かされるのはレックのボーカルが処理されていることです。短いフレーズを叩きつけるボーカル・スタイルは当初から一貫していますが、これまで目立つ形で音響処理されたことはなかったように記憶しています。　そして曲の構造はどの曲もとてもシンプルで、とにかく怒涛のリフがずんずん続いていきます。それもギターとベースのユニオンで表現されるのです。惹句に「フリクションの全作品中、最もストレートなカッコよさを有する」とある通りです。　紙ジャケ再発時に寄せられた鈴木泉氏のライナーノーツは、「リフの美学」と題され、この構造の持つ意味合いを解き明かそうとしています。初期のフリクションはベースとギターが対峙していましたけれども、ここではユニゾン中心で、とにかくストレートかつシンプルです。　イマイはノイジーなギター・ソロも聴かせるのですが、それもリフに飲み込まれていきます。ボーカルもドラムもそう。リフが中心に座っており、とてもロック的です。フリクションのこれまでの作品の中では明らかにロック度が濃厚です。その意味でとてもかっこいいです。　タイトルは殺人アンドロイドが暴れまわる１９９０年の近未来ＳＦ映画「ハードウェア」を観たことがきっかけになったそうです。ここは前作と地続きになっています。サイバーパンク路線は継続しているのです。そのちょっとレトロな近未来感が本作品にはよく似合います。　なお、本作品のリミックス・アルバムも制作されており、さらに本作品とそのリミックスから編集したアルバムがジョン・ゾーンのＴＺＡＤＩＫレーベルから発表されています。後者も「ゾーン・トリッパー」と題されているのでややこしいですが、こちらがオリジナルです。Zone Tripper / Friction (1995 Pass)Tracks:01. Zone Tripper02. Highlife03. Money Laugh04. Head Out Head Start05. Choke06. The Heavy Cut07. Missing Kissing08. Break Neck09. Red Light Dumb(bonus)10. Mind BindPersonnel:Reck : bass, vocal, guitarイマイアキノブ : guitar佐藤稔 : drums
24Aug
- キャメル　～　雨のシルエット
  　キャメルの５作目のアルバム「雨のシルエット」です。ジャケ買いという言葉がありますが、本作品はその逆、中身は傑作だとの評判に同意しないことはないのですが、前作の見事に幽玄なジャケットに比べると本作品のジャケットには触手を伸ばしかねます。　前作ではバンドは最高の状態にあったといいますが、ここでキャメルにはメンバー交代が起こりました。目指す音楽の方向が違うということで、ベースのダグ・ファーガソンが脱退してしまいました。バンドの最良の状態というものはなかなか長く続きません。　ファーガソンは叙情派サウンドを極めようとしており、自身の提案で前作発表後のツアーにおいてはキング・クリムゾンでおなじみのサックス奏者メル・コリンズをゲストに招きました。コリンズはもともとジャズ奏者ということもあり、叙情派ではありますがジャズを持ち込みます。　もともとジャズ指向が強かったドラムのアンディ・ウォードはコリンズとのインタープレイを楽しみ、キャメルのサウンドをよりジャズ寄りにしていくことを目指します。ここがファーガソンの指向と衝突して、結局ファーガソンが脱退したのだと一般には語られています。　そんな事情から本作品の制作が始まったころにはベーシストは不在でしたが、ほどなくファーガソンの後任には元キャラバン、元ハットフィールド＆ザ・ノースのリチャード・シンクレアが加入しました。半ば引退状態だった大物です。加えてコリンズも正式メンバーとなります。　この第二期キャメルによって制作されたのが本作品です。がらりと音が変わったのかと言われればそんなことはありません。プロデューサーは前作と同じくレット・デイヴィースですし、キャメルらしさはしっかり保たれており、ほどよく変化してきているサウンドだといえます。　メンバー交代の経緯から予想されるほどではありませんが、ジャズ・フュージョン色は確かに強まっています。コリンズのにおい立つようなサックスはジャズ的ですし、粒だったウォードのドラムとカンタベリー系のシンクレアのベースによるリズム・セクションもそっち寄りです。　シンクレアの参加はキャメルの弱点の一つでもあったボーカルに革新をもたらしています。本作品ではアンディ・ラティマーとリードを分け合っており、シンクレアのザ・ボーカリストともいえるクールなボーカルは格段にプロ仕様です。あまりボーカル曲がないのが残念です。　ラティマーとピーター・バーデンスによる曲作りも堂に入っており、それぞれの持ち味をいかした美しいメロディーの連打に耳を奪われます。本作品ではゲストの参加も目立ち、「白鳥のファンタジー」などはラティマーとブライアン・イーノにハープ奏者だけで成り立っています。　インストゥルメンタル曲が多いことも本作品の特徴です。そして、比較的軽いタッチに録音されたこれまでのサウンドでしたが、シンクレアとコリンズの参加が大きいのか、全体に重厚さを増してきました。そのほどよい加減が本作品を最高傑作とする人々に響くのでしょう。　本作品は英国では８週連続でチャート入りしています。パンクからニュー・ウェイヴの時代でしたけれども、まるで場違いともいえるキャメルは堂々と売れていたのでした。派手ではありませんけれども、一家に一枚置いておきたくなる作品です。ジャケットがよければ．．．。Rain Dance / Camel (1977 Decca)Tracks:01. First Light 光と影02. Metrognome03. Tell Me 君の心に04. Highways Of The Sun 太陽のハイウェイ05. Unevensong 心のさざ波06. One Of These Days I'll Get An Early Night 夜のとばり07. Elke 白鳥のファンタジー08. Skylines スカイライン09. Rain Dances 雨のシルエット(bonus)10. Highways of The Sun (single version)Personnel:Andrew Latimer : guitar, panpipes, flute, vocal, bass, piano, Minimoog, synthesizer, glockenspielPeter Bardens : organ, piano, Minimoog, synthesizer, clavinetAndy Ward : drums, percussion, ocarinaRichard Sinclair : bass, vocalMel Collins : sax, clarinet, bass flute***Martin Drover : trumpet, flugelhornMalcolm Griffiths : tromboneBrian Eno : Minimoog, pianoFiona Hibbert : harp
23Aug
- ジャック・ディジョネット　～　ニュー・ディレクションズ
  　ＥＣＭレーベルはジャケットの美しさに定評があると申し上げてきましたが、これはなかなかに意表をつかれました。あるサイトに刑事ものドラマ、スタスキー＆ハッチのエキストラの記念写真のようだと記されていて、思わず膝を打ちました。何にせよ楽し気で何よりです。　本作品はＥＣＭから発表されたジャック・ディジョネットのリーダー・アルバム「ニュー・ディレクションズ」です。深読みできるタイトルですが、ディジョネットの直前のグループがディレクションズでしたから、その新しいバージョンということのようです。　ディジョネットは、ニュー・ディレクションズを組成する際、ありそうにない組み合わせのミュージシャンを集めることを企図したのだそうです。それをさくっと実現してしまうところも含めて、ディジョネットは実にリーダーらしいリーダーだと思います。　集められたミュージシャンは、まずギターのジョン・アバークロンビーです。アバークロンビーは、ディレクションズにも在籍しており、ディジョネットと多数共演しています。直前はデイヴ・ホランドとのトリオ、ゲイトウェイや、ディジョネットとのデュオ作などがありました。　ベースには、ディジョネットがビル・エヴァンスと共演した際に、そこでベースを弾いていたエディー・ゴメスが起用されました。プエルトリコ出身のベーシストで、１０年以上も共演していたエヴァンスを始め、チック・コリアやポール・ブレイなどとの共演でも知られます。　そして、トランペットにはアート・アンサンブル・オブ・シカゴのレスター・ボウイです。あまり意識されないことですが、ディジョネットはＡＥＣを生んだＡＡＣＭの創設にかかわっています。また、ロスコー・ミッチェルとジョセフ・ジャーマンとは一緒にジュニア・カレッジに学んだ仲です。　ディジョネットは、このシカゴ時代にはボウイとすれ違ってしまいましたが、やがて二人が共演の機会を持つと、最初から意気投合したのだといいます。そんなシカゴ時代があれば、当然のことですね。以降、二人は親交を深め合ってきました。　ヨーロッパ系のミュージシャンはいませんけれども、確かに新しい組み合わせではあります。ディジョネットはこの邂逅から生まれた本作品に大そう満足しており、しばしば自分の作品の中でのフェヴァリットに本作品をあげています。気合の入ったアルバムなんです。　アルバムには冒頭から引き込まれます。軽めのタッチのディジョネットのドラムで始まり、ゴメスのどろどろしたベースが入り、アバークロンビーの浮遊するギター、そしていつにもましてメロディアスなボウイのトランペットで高揚していく。とても素敵です。　「ワン・ハンディッド・ウーマン」での全員でのチャントを始め、ボウイの持つ大道芸的なセンスもうまく絡められています。そして、最後の曲「シルバー・ホロウ」は待望のディジョネットのピアノを聴かせるとても美しい曲で、アルバムを見事に締めくくります。　とにかく熱いけれどもクールであるという素晴らしいアルバムです。びんびん跳ねると同時にふわふわと浮き上がるような感覚はとても新しかったのだと思います。翌年にはかの名作「スペシャル・エディション」が発表されるわけで、この頃のディジョネットの充実ぶりが凄いです。New Directions / Jack Dejohnette (1978 ECM)Tracks:01. Bayou Fever02. Where Or Wayne03. Dream Stalker04. One Handed Woman05. Silver HollowPersonnel:Jack DeJohnette : drums, pianoLester Bowie : trumpetJohn Abbercrombie : guitar, mandolinEddie Gomez : bass