本作品は、ブライアン・イーノとホルガー・シューカイという私にとっては大スターな二人が、クラブ・ジャズのプロジェクトであるスロップ・ショップことJ・ペーター・シュヴァルムと共演した一期一会のライヴを収録した作品です。題名は「スシ、ロティ、ライベクーヘン」です。

 スロップ・ショップは1998年に名作「マクロデリア」でデビューしています。当時、アウトサイダー・ジャズを試みていたイーノは、この作品をいたく気に入り、すぐにコラボレーションを申し入れています。本作品は二人のコラボの皮切りとなるライヴを収録したものです。

 このライヴはドイツのボンで1998年8月27日に開催されました。場所は国立の美術展示館で、同館で開催されたイーノによるマルチメディア・インスタレーション「フューチャー・ライト・ラウンジ・プロポーザル」展のオープニング・パーティーでの演奏です。

 イーノはこれを「スロップ・ショップとブライアン・イーノによる付随音楽付きの、ハイスタンダードなフード・パフォーマンス」と位置づけており、あくまで主役は招待客に料理をふるまう3人のトップクラスのシェフだとしていました。料理名がアルバム・タイトルになっているわけです。

 イーノが人前でパフォーマンスを行うことはさほど多くありません。「ツアーに出るくらいなら、自分の陰嚢にくぎを打ち込む方がましだ」とまで言っています。このライヴは単発ですし、自分の展覧会の余興ですから、スロップ・ショップとの初コラボのいい機会と捉えたのでしょう。

 ライヴに参加しているのは、イーノ、シュヴァルムに加えて、以前から親交の厚いシューカイ、さらにはシュヴァルムがスロップ・ショップで共演したラウル・ウォルトンとイェルン・アタイの5人です。シュヴァルムは前日のリハで初めてシューカイと会ったとのことです。

 料理がふるまわれた会場にはステージが設けられ、そこに5人が挨拶もなく静かに登場して約3時間演奏が行われました。演奏は警察によって電源が切られるまで続いたという伝説が残されています。よほど興がのったということなのでしょう。

 イーノとシュヴァルムは「アタイとウォルトンの緊密なリズム・セクションをリードしながら、シンセ、シーケンサー、プロセッサーを駆使」しています。シューカイはここにこの頃の彼のトレードマークであるところの短波ラジオによるコラージュを加えています。

 この5人によるコラボは、ドラムとベースの活躍が大きいだけに、アンビエントとは一線を画す、艶めかしいエレクトロニクス・サウンドとなっています。本作品は3時間の演奏の中から選び抜かれた1時間を収録したものですが、全部聴いてみたいと切に思わせる内容です。

 このライヴは当時としてはまだ珍しいライヴ配信がなされたそうです。さすがは新しいテクノロジーが大好きなイーノだけあります。一方、音源は長らくお蔵入りになっていましたが、ここにようやく陽の目を見ました。何にせよありがたいことです。

 なお、けったいなタイトルは食べ物の名前です。全5曲の楽曲名から「寿司」、ナンと並ぶインドのパン「ロティ」、ドイツのスポンジケーキ「ライベクーヘン」の3曲をもってきました。残りの2曲は「水」と「ワイン」です。この凄い演奏に食事どころではなかったのではないでしょうか?

Sushi, Roti, Reibekuchen / Brian Eno, Holger Czukay & J. Peter Schwalm (2024 Groenland)



Tracks:
01. Sushi
02. Roti
03. Wasser
04. Reibekuchen
05. Wein

Personnel:
Brian Eno
Holger Czukay
J. Peter Schwalm
Raoul Walton
Jern Atai