シークレット・ナイト・ギャングはボーカルのケマニ・アンダーソンとサックスのキャラム・コネルの二人を中心とする「世界が注目するマンチェスターのソウル・ファンク・バンド」です。本作品は2023年6月発表の二作目「ビロングス・オン・ア・プレイス・コールド・アース」です。

 アンダーソンととコネルの二人は幼稚園時代からのお友達だそうです。二人はサッカーを通じて友情を育みました。多くの友人たち同様に長ずるに及んで疎遠になった時期もありましたが、再びコンタクトをとるようになった二人をつないだものは「スチール・パン」でした。

 若干分かりにくいですが、二人の間にはジャズがあったということです。「ジャズを通じてこそ自分を音楽的にも感情的にも真に表現できるのだ」と二人は述べています。もちろん他のジャンルの音楽でも自分を表現できるのでしょうが、ジャズは少々違う。

 「即興演奏がどこに自分たちを連れて行ってくれるのか分からないという予言不可能な可能性が刺激的な要素」なのだという主張です。ただし、シークレット・ナイト・ギャングの繰り出すサウンドはフリー・インプロビゼーションというわけではありません。

 彼らは英国クラブ・ミュージックの重鎮ジャイルス・ピーターソンに見いだされたことから分かる通り、ジャズといってもクラブ・ジャズ的です。ソウル・ファンク・バンドの名にふさわしいサウンドを得意としています。新世代のジャズの一群に素直に連なります。

 メーカーの表現では、「ダイナミックなメロディー、唯一無二のブラスセクション、ジャズからの影響を昇華したソウル・ミュージックによって、高揚感と超越感、そしてジャンルを超えたストリートソウル・サウンドを更新し続けてきた」のです。

 本作品はそんなシークレット・ナイト・ギャングによる「ソウル~ファンク~UKジャズを繋ぐ新たなマスターピースと言える傑作」だと惹句は熱いです。米国に比べると層は圧倒的に薄いものの、確かに存在するUKソウル・シーンのきらめく星なのでしょう。

 二人がインスピレーションをもらったバンドとして挙げている名前が面白いです。新世代のソウル・アーティスト、ビラルやジャズとヒップホップを結ぶサックス奏者テラス・マーティンと並ぶのは何とアース・ウィンド&ファイヤーです。何だか嬉しいですね。

 一方で、しばしば話題になるのがテキサスのエキゾチック・ファンク・トリオないしはサイケデリック・トリオと呼ばれる、クルアンビンのサポート・アクトを務めて人気を博したという逸話です。ストレートなジャズ、ソウル、ファンクだけではない懐の深さが強調されます。

 そもそも二人をつないだのがスティール・パンだったことを思い出します。シークレット・ナイト・ギャングのサウンドにはそこはかとなくラテン・フレーバーが漂っており、そのセンスが素晴らしいと感じました。歌詞も含めて若干重めのサウンドがふっと軽くなります。

 最先端の刺激的なサウンドが展開しているというわけではありませんけれども、ソウルフルなボーカルと巧みに練り上げられたサウンドが美しい作品です。UKソウルは伝統的にこうしたゆったりと腰を落ち着けて耳を傾ける作品が生まれやすいと感じます。

Belongs on a Place Called Earth / Secret Night Gang (2023 Brownswood)



Tracks:
01. Respect Me
02. Don't Know What Tomorrow Brings
03. One And Only
04. Never Ever
05. Find A Way
06. When Will The Sun Rise Again
07. Do For You
08. Out Of My Head
09. Every Nation
10. Things Will Work Out

Personnel:
Kemani Anderson : vocal, Rhodes
Callum Connell : sax, flute, vocoder, synthesizer, clavinet, organ
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Elias Atkinson : trumpet, flugelhorn
Aaron Wood : flugelhorn
Rioghnach Connelly : flute
Jack Duckham : guitar
Myke Wilson : drums
Immanuel Simelane : bass
Jonathan Moko : bass
Nicola Guida : Rhodes, keyboards, piano
Alan Keary : strings
Alberto Pico Borrero Alvarez : percussion