キャメルの5作目のアルバム「雨のシルエット」です。ジャケ買いという言葉がありますが、本作品はその逆、中身は傑作だとの評判に同意しないことはないのですが、前作の見事に幽玄なジャケットに比べると本作品のジャケットには触手を伸ばしかねます。

 前作ではバンドは最高の状態にあったといいますが、ここでキャメルにはメンバー交代が起こりました。目指す音楽の方向が違うということで、ベースのダグ・ファーガソンが脱退してしまいました。バンドの最良の状態というものはなかなか長く続きません。

 ファーガソンは叙情派サウンドを極めようとしており、自身の提案で前作発表後のツアーにおいてはキング・クリムゾンでおなじみのサックス奏者メル・コリンズをゲストに招きました。コリンズはもともとジャズ奏者ということもあり、叙情派ではありますがジャズを持ち込みます。

 もともとジャズ指向が強かったドラムのアンディ・ウォードはコリンズとのインタープレイを楽しみ、キャメルのサウンドをよりジャズ寄りにしていくことを目指します。ここがファーガソンの指向と衝突して、結局ファーガソンが脱退したのだと一般には語られています。

 そんな事情から本作品の制作が始まったころにはベーシストは不在でしたが、ほどなくファーガソンの後任には元キャラバン、元ハットフィールド&ザ・ノースのリチャード・シンクレアが加入しました。半ば引退状態だった大物です。加えてコリンズも正式メンバーとなります。

 この第二期キャメルによって制作されたのが本作品です。がらりと音が変わったのかと言われればそんなことはありません。プロデューサーは前作と同じくレット・デイヴィースですし、キャメルらしさはしっかり保たれており、ほどよく変化してきているサウンドだといえます。

 メンバー交代の経緯から予想されるほどではありませんが、ジャズ・フュージョン色は確かに強まっています。コリンズのにおい立つようなサックスはジャズ的ですし、粒だったウォードのドラムとカンタベリー系のシンクレアのベースによるリズム・セクションもそっち寄りです。

 シンクレアの参加はキャメルの弱点の一つでもあったボーカルに革新をもたらしています。本作品ではアンディ・ラティマーとリードを分け合っており、シンクレアのザ・ボーカリストともいえるクールなボーカルは格段にプロ仕様です。あまりボーカル曲がないのが残念です。

 ラティマーとピーター・バーデンスによる曲作りも堂に入っており、それぞれの持ち味をいかした美しいメロディーの連打に耳を奪われます。本作品ではゲストの参加も目立ち、「白鳥のファンタジー」などはラティマーとブライアン・イーノにハープ奏者だけで成り立っています。

 インストゥルメンタル曲が多いことも本作品の特徴です。そして、比較的軽いタッチに録音されたこれまでのサウンドでしたが、シンクレアとコリンズの参加が大きいのか、全体に重厚さを増してきました。そのほどよい加減が本作品を最高傑作とする人々に響くのでしょう。

 本作品は英国では8週連続でチャート入りしています。パンクからニュー・ウェイヴの時代でしたけれども、まるで場違いともいえるキャメルは堂々と売れていたのでした。派手ではありませんけれども、一家に一枚置いておきたくなる作品です。ジャケットがよければ...。

Rain Dance / Camel (1977 Decca)



Tracks:
01. First Light 光と影
02. Metrognome
03. Tell Me 君の心に
04. Highways Of The Sun 太陽のハイウェイ
05. Unevensong 心のさざ波
06. One Of These Days I'll Get An Early Night 夜のとばり
07. Elke 白鳥のファンタジー
08. Skylines スカイライン
09. Rain Dances 雨のシルエット
(bonus)
10. Highways of The Sun (single version)

Personnel:
Andrew Latimer : guitar, panpipes, flute, vocal, bass, piano, Minimoog, synthesizer, glockenspiel
Peter Bardens : organ, piano, Minimoog, synthesizer, clavinet
Andy Ward : drums, percussion, ocarina
Richard Sinclair : bass, vocal
Mel Collins : sax, clarinet, bass flute
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Martin Drover : trumpet, flugelhorn
Malcolm Griffiths : trombone
Brian Eno : Minimoog, piano
Fiona Hibbert : harp