2023/2/23-28の期間、RAYで台湾遠征ツアーを開催した。台中開催の大規模音楽フェス「浮現祭Emerge Fest」2デイズと台北ライブハウス開催の1公演にオフ会2回を加えた行程だった。備忘録的なメモを残します。

 

2/23 台湾入り

2/24 夜オフ会

2/25 浮現祭 DAY1

2/26 浮現祭 DAY2

2/27 朝オフ会、夜ライブ

2/28 帰国

 

■台湾入り前

RAYは4年前に、高円寺HIGHで開催されるシューゲイザー特化イベントTotal Feedbackの台湾編で、台湾遠征を経験している。RAYのお披露目が2019/5→初台湾遠征が2019/10、新体制お披露目が2022/9→今回の台湾遠征が2023/2と、スタート/リスタートから5ヶ月というあたりで不思議と台湾に縁がある。4年前は交通手段、宿も全て我々手配だったが、今回はエージェント側が全て手配してくれ、また音楽とアイドルに精通した通訳が常時アテンドしてくれた。後者の方が当然楽ではあるものの、良し悪しではなく、イベントの規模感や遠征の意味づけの問題と考えるのが良いと思っている。4年前の現地アテンダントバンドも精一杯フォローしてくれたので、現地のフォローは何か困った際にとても重要になる。4年前は英語中心、今回はエージェントが日本語に精通していることもあり英語と日本語の組み合わせで調整を進めた。

 

■2/23 台湾入り

海外遠征では通信手段確保が必須になる。前回はフリーSIM+グローバルWi-Fiだったが、フリーSIMはフリーSIMロック解除などの確認が必要になり面倒に感じたので、今回は運営分3台+メンバー分3台の合計6台のグローバルWi-Fiをレンタルした。空港受取/返却が可能で、受取は窓口の有人受取、返却はロッカーへの無人返却で申し込んだ。受取時、カウンターに想像以上の列ができていて時間がかかったので、次回以降はロッカー受取の方がいいと感じた。

 

現地ホテル着後、ホテル周辺をRAYチームで散策。台湾は夕食どころ、盛場として夜市を認識していたので近所の夜市を散歩したのち夕食、やメンバーはタピオカを摂取していた。遠征通じて頼りにしたのはGoogleマップで、近隣を「コンビニエンスストア」「飲食店」などで検索し、日本語口コミや写真などを見て店の広さ(RAYチームは計8名だったので狭い店舗だと全員が入れない事情もあった)、料理の雰囲気、料理名などを事前に確認して入店した。おっさんはどんな変なものが出てきてもある程度食べるが、メンバーは必ずしもそうではないので事前に料理の雰囲気を把握できることは大事だった。台湾には至る所にファミリーマート、セブンイレブンなどの日本コンビニがあり、日本でこれらコンビニに求めるものはおおよそ同様のものが手に入ると思って問題ない。

 

 

■2/24 夜オフ会

台北から台中にバスで移動。夕方から夜市でオフ会のため、早めに出発して現地を下見。海外でのオフ会は、ネットでの十分な事前調査、アテンダントへの事前相談に加え、下見が必須と感じた。台中は車の運転が荒く、バイクの交通量が多く、また歩道がほぼ存在しないため、集合場所から移動する際のルートや安全性などを検討することもできた。夜市は混雑すると想像し、事前にネットで調べ夜市近所の公園集合とした。GoogleマップのURLを告知ツイートに掲載したので、広い公園でも集合場所の認識誤りなどもなかった。結果として会費徴収や注意点説明などゆったりすることができ正しい選択だった。数百メートル程の夜市を2往復してイベントは終了。

 

 

■2/25 浮現祭 DAY1

朝6時台にバスで会場へ出発。慣れない海外のライブ環境、また野外ステージであることも踏まえリハーサルは必須。セトリ類は3現場共に1ヶ月前に事前提出した。当日はPCからIF経由のLR2ch出力で問題なくPAとも連携が取れた。台湾では最近イヤモニがデフォルトで用意されることが多くなってきたとのことでこの日も使用するか聞かれたが、初めての海外PAにイヤモニを任せることが少し不安だったのと、新メンバー3人はイヤモニ未経験だったため、フットモニターを選択した。複数アイドルが出演するイベントなこともありワイヤレスマイクは用意されていた(4年前のライブではライブハウスに常設がなかったので外部からレンタルしてもらった)。ステージの中音は通訳がメンバー要望を適宜伝える形で進行。出音がとても良かったため特に細かな要望を伝える必要もなくリハーサルは終了した。「please make sound loudly as possible as you can」とだけ最後に伝えたところ、「maybe this is the limit」と言われた。

 

浮現祭は数千人収容できるメインステージを中心に、ステージ規模が段階的に小さくなっていく形で複数ステージが存在する。この日は2番目に大きいステージで、アイドルファンに限らず、音楽ファンも多くいるステージだった。RAYのライブは数百人には見てもらえたと思う。本番中風がとても強くメンバーに少しやりづらそうなところはあったものの、リハーサルと変わらぬ環境でパフォーマンスでき無事終了。この日は音楽ファンもフロアに多いことを想像していたので、アイドルとしてのRAYと音楽としてのRAYどちらも見せられるようなセトリを組んだ。曲が終わるたびに大きな歓声が上がり、曲中も現地ファンがMIXを入れていたり、想像以上の反応・歓迎ムードだった。台湾では和式のアイドル文化が定着していて、MIX・コール・振りコピといった日本でもお馴染みのフロアの光景が広がっていた。あるいは日本より熱量があったかもしれない、「そこでアイドルが歌って踊っていることが最高」という空気感を感じ、それは他のバンドステージでも感じた「そこで音が鳴っていることが最高」という音楽を楽しむとてもポジティブな姿勢とつながっているように思えた。

 

 

ライブ後はチェキ会を開催した。大盛況というわけではなかったが、現地アイドルファンも訪れてくれ、中国語、日本語、英語、ジェスチャーを織り交ぜながら、好意的なメッセージをメンバーに伝えてくれていた。RAYの『Green』Tシャツ(期間限定diskunion特典Tシャツで、よほど熱心に追っていなければ手に入れられないやつ)を身につけて駆けつけてくれた現地ファンもいた。グッズはあまり売れなかった。

 

■2/26 浮現祭 DAY2

早めにバスで会場に出発。この日は通訳がいなかったので片言英語で音響を調整、「About foot monitor, mic No.1 please volume up」とか「About Outside monitor, please make sound more loudly. If it’s difficult you can down the volume of vocal」とかでなんとか形にした。前日のフロアはアイドルファンと音楽ファンが混在していたが、この日はアイドル特化のステージということもありフロアの客層はほぼアイドルファンだった、前日のフロアが数百人として、この日は150人程の入りと感じた。前日のセトリは音楽ファンもある程度意識していたが、この日は大幅にアイドルに寄せたセトリで、現地ではMIXなどのフロアカルチャーが育っていることも知っていたため、そうした楽しみ方もしてもらいたいというセトリを組んだ。日本から駆けつけたRAYファンのMIXを見た現地ファンは「この日本人はどんなオタ芸を打つんだ?」という顔で注視モードだったが、次第に呼応して現地ファンも巻き込んでのMIX、コールが起きた。オタ芸をしない多くの人も熱心に見てくれていたように思う。

 

 

チェキ会やグッズ売上についてはおおよそ前日と同様だった。

 

この日はフェス会場から直接バスで最終日の台北に向かうことなっていた。7時間の空き時間に昼食を取ったりフェスを見学した。現地の人曰く今回の台湾遠征期間は「例年稀に見る寒波が襲った」とのことで大変寒く、我々は例年の台湾の気候を想定しての軽装備だったこともあり、この待機時間でいくらか体力を消耗にしたように思う。ケータリングや程よい待機場所を用意してもらっていたが、自分のコンディションを十全に保つにはこちらが軽食、防寒具など何かしらを持ち込む必要があったと感じる。海外遠征では事前調査でフォローできない例外自体がいくらでも起きる。念の為、これはフェス・エージェント側の落ち度ではなく、遠征につきものの事前調査でフォローしきれないイレギュラー事態であり、起きてしかるべきもの、それを見越してどう挑むかというやつ。

 

■2/27 朝オフ会、夜ライブ

この日のオフ会は4年前に開催したオフ会と同じ会場、早めに到着しこの日も下見をした。朝市に平行して存在する公園を集合場所にし、100m程度の短い朝市のため、途中寺院を皆で参拝し、朝市に平行して存在する公園も散歩した。4年前と異なり通訳がいたため参拝方法を説明してもらえた、4年前も参拝したが何もわからず参拝していたことを理解した。

 

夜の会場は日本でいう秋葉原のような電気街で、家電・ゲームなどのメーカーがショールーム的に出店する大型商業ビルの一角にあるライブスペース。 スタンディング700人ほど収容可能な大きな会場で、ステージも広かった。この日は現地台北バンドのP!SCO、バンドではないがアーティスト枠の春ねむりさん、日本からBroken By The ScreamさんとRAYのアイドル2組、台湾のアイドルRuka Bananaさんという構成だった。台湾ではアイドルとバンドの共演も増えており、主催のMUSiC GEARもこうしたブッキングを多く組んでいるとのことで、アイドルファンもバンドファンもそれぞれをしっかり見て楽しむ空気があると事前に聞いていたが、この日もそうした空気で、目当て以外の出演者も皆熱心に見ていたことが印象的だった。

 

RAYのライブは全3公演のなかで最も反応が良かった。40分の持ち時間で硬軟織り交ぜさまざまなRAYを見せられればと思いセトリを組んだ。フェスで見かけたMIXに加え、メンバーの名前を叫ぶコールもたくさんもらえた(コールは名前を覚えていないとできないので名前を認識してくれていたことになる)。通訳から「下手な英語より日本語のMCの方が台湾ファンは喜んでくれる」とアドバイスをもらい、フェス2日間は英語でのMCだったがこの日は日本語でMCした。その通りとても反応が良かった。物販もこの日は好調だった、多くの現地ファンがチェキを撮ってくれ、グッズもたくさん売れ、日本の1回のライブ以上を売り上げることができた。

 

 

共演した台湾ソロアイドルRuka Bananaさんとも会話できた。活動歴5年になる台湾で最も人気のあるソロアイドルと聞いた(本人から聞いたわけではないです!)。日本人クリエイターのkubotyさんが日本語詞のラウドな楽曲を提供していて、この日はkubotyさんも日本から駆けつけステージでギターを演奏していた。

 

■2/28 帰国

朝ホテルから空港へバスで移動。お土産を見繕い、搭乗手続きを済ませ、無事成田に到着。ポケットWi-Fiをロッカーに返却し、解散した。銀行両替の方がレートが良いとのことで空港では両替しなかった。

 

■最後に

ライブのお客さんの話で言うと親日国なこともあり、とても歓迎してくれたように思う。フロアの好反応のいくらかはそうした歓迎の意味もあったと思うが、それだけでなくアイドルとしてのRAY、音楽としてのRAYを肯定的に捉えてくれた手応えも間違いなく感じており、とても収穫と自信になった。台湾ではラウドアイドルの類はいくらか存在するものの、RAYのようにシューゲイズや激情ハードコアといった振り切った音楽要素を取り込んだアイドルはまだ存在していないとのことだった。今回の遠征では海外で定着しつつある「Alternative Idol」という名称で「Japanese Alternative Idol」と自己紹介を続けた。日本ではいわゆる「楽曲派」の細分化が進みシーンが巨視的に見えなくなりがちだが、海外から見ると大きく既存アイドル/新出アイドル(=Alternative Idol)と見えていることは大事だと思った。

 

今回呼んでくれた台湾のアイドルイベント運営チームMUSiC GEARに「なぜRAYを呼んでくれたの?」と聞いたところ「実際に日本でライブを見に行っていいと感じたアイドルを誘った」と言っていた。自国のアイドルシーンに招待するために現地にライブ調査をしに行き5泊6日の公演を組みアテンドしてくれるというのは並大抵のことではない、現地運営の皆さんから感じた、受けた愛情は単なるビジネス的なものではなく、僕たちが日本のアイドルシーンに対して抱いている愛情やシーンの未来に対する想いと全く同じ種類のものだと感じた。海外からこうしたな眼差しを向けられていることがとても刺激になり、同時にライブアイドル先行国である日本としてできること何かと考えるきっかけにもなった。

 

今回の台湾遠征ではフェスの音楽ファンも見るステージ、フェスのアイドルステージ、ライブハウスのバンド混在ライブ、また2回のオフ会と、全てのイベントにおいて日本では得ることが難しい類の経験値を積むことができたし、自信になった、運営だけでなく当然メンバーもそうだろうと思う。海外遠征の本質は、単にライブをしに行くだけでなく、イベントに付随する不思議な経験値にこそ宿るのだと思った。

 

RAYはもっと海外に行きたい。日本のライブアイドルがもっと海外で公演を打ち、逆輸入的に国内シーンを活性化させたり、海外アイドルの来日公演をサポートしてグローバルなシーン展開をしたり、そんな未来がもしかしたら少し見えたかもしれない遠征だった。

 

RAY、海外呼んでください。

RAY/代代代/クロスノエシスの3組でスプリットシングル『ATMOSPHERE』をリリースした。3組ともいわゆる「楽曲派」で括られるグループだが、「楽曲と、それと地続きのライブパフォーマンスに独自のこだわりを持つグループ」あたりが分かりやすい表現に思える。実は今回のスプリットはそうした「独自のこだわり」とどう距離をとるかというテーマ設計がされていた。3組が独自=少数派なのだとすれば、その対義になる多数派が存在するわけで、では多数派的な空気感=ATMOSPHEREを3組がどう捉えているかを曲とライブパフォーマンスに落とし込もうという目論見だった。

 

小倉さん(代代代P)、sayshineさん(クロスノエシスP)と話したわけではないが、テーマ設定時点ではどの組も「いかに尖ったものを出すか」と頭を回らしたのではと想像している(僕もそうだった)。つまり多数派との距離感を明示する方向。だけど結果的に出てきたものはどの組も「ズラしつつも、各グループの独自性がきちんと担保された曲」だった。逆にいうと「らしさはあるが、これまでのディスコグラフィーにはなかった曲」、つまりATMOSPHERE(多数派との距離感)をバランスする方向だった。このズレきらないこと、ズレきれない(can not)というよりは、ズレきらない自制心(should not)みたいなものが、実は3組の共通項なのではと思った。

 

僕はRAYのクリエイティブが「独特」と言われることに実はあまりピンときていない。RAYのアウトプットは自分が面白いと感じる創作の結果であって、変わったものを作ろうと打算的に出てきたものではない。またアイドルプロデュースは単なる自己表現ではないので、受けれてもらえたり、喜んでもらえたりすることを、当然目指している。一方で、自分の創作感性がいわゆるマス的なものではないことも自覚しているので、できること、やりたいこと、やるべきことのバランスでプロデュースしている。成功の方程式を少なくとも僕は知らない、だから転げ回りながら、前を向いて走り続けている。おそらく小倉さん、sayshineさんも同じではないかと思っている。

 

代代代の『MAYBY PERFECT』という尖りまくった作品の推薦文で小倉さんを「荒魂/和魂」という言葉で表現したことがある。この印象は未だ変わらず、そしてこれは小倉さんと代代代だけでなく、クロスノエシスやRAYも表現するものだったのかもしれない。

 

メンバーもスプリット以前から、そもそも互いのクリエイティブやパフォーマンスを尊敬していたし、仲良くなりたいとも思っていた。とはいうもののこうした思いはきっかけがなければ思いを伝えることも、関係を親密にすることも難しく、スプリットはそうしたきっかけにもなった。スプリットをリリースし、配信や、ツアー、リリースイベントを完走する中で、団結できて然るべきだった3組は、自然と距離を縮めることができた。

 

総じてポジティブなことしかなかったが、当然課題も見つかり(これだけ曲もパフォーマンスも良いグループが、音楽とライブでどこまで勝負できるかということが、はっきりと数字にも出たように思う)、それも含めて意味のあるスプリットだった。

 

残念ながらクロスノエシスが5/20での無期限活動休止を発表したが、スプリットを貫いていた「いい音楽」「いいライブ」というマインドは死ぬことはないし、残された僕らが続けていくだけだ。スプリットを出すならこの3組しかない、と始まった企画、完走してみて、この3組でスプリットを出せて良かったと、改めて感じて終わることができた。アイドルはもっとスプリットを出せばいいと思う!

3/25でFor Tracy Hydeが解散する。僕はアイドルをプロデュースする人間、かつ「シューゲイザーアイドル」とも呼ばれる特殊なアイドルをプロデュースする人間で、主にこの点からFor Tracy Hydeやメンバーと様々な活動・制作をご一緒してきた。For Tracy Hydeの活動は、音楽的にも精神的にも、僕にそして当然僕の運営するアイドルグループにも影響を与えている。自分なりのFor Tracy Hyde史を書いてみたい、もしかすると、それはちょっとした「シューゲイザーアイドル史」かもしれない。

 

FTHとの出会い、というか管さん(夏botさん)との出会いは、僕が過去運営していたアイドルグループ・・・・・・・・・(通称ドッツトーキョー)に遡る。ドッツは活動当初からシューゲイザーに楽曲コンセプトの軸に置いていた。「ねぇ」のMVがシューゲイザーバンド界隈で話題になっていたらしく、ネットレーベルきいろれこーず主催イベント「千葉Shoegazer」に呼んでもらい、その日DJをしていたのが管さんだった。始動間もなく右も左もわからなかった僕は「とにかく爪痕を残さなきゃ」とアグレッシヴなパフォーマンスを仕込んだ。見れば分かるように、よくこのステージを見て楽曲提供をしようと思ったなと感じる。

 

きいろれこーずに仲介してもらい、管さんと楽曲提供について具体的に話し始めた。酒が得意ではないとのことで打ち合わせは喫茶店だった。一癖も二癖もある人だなと思ったが、同時にいいもの、おもしろそうなものに対する熱意や嗅覚がとても鋭い人なのだとも思った。「いわゆるアイドルポップスに寄せる必要は全くない」と伝えたことを覚えている。結果「スライド」が誕生した。曰く「New Order + Ride」。この曲はドッツの定番、代表曲として定着した。

 

きいろれこーずには「とても器用な方です」と管さんを紹介してもらった。次の提供楽曲「ソーダフロート気分」でこの意味がよくわかった。管さんのフェイバリットバンドThe 1975をトレースしつつドリーミーに仕上げた楽曲で、彼の器用さ、一方で軸となるドリーミーな感性が絶妙に融合していた。同様の感性はtipToe.楽曲をアレンジしたドッツバージョンの「クリームソーダのゆううつ」でも存分に発揮されていた。ドリーミーで、トラップビートなどの仕掛けもあり、管さんらしいブレなさと遊び心がある。ドッツ時代の彼のクリエイティブは「しづかの海」で有終の美を飾ったと思っている(ドッツにとっての最後の管さん提供楽曲)。

 

ドッツは管さんだけでなくベースのMavさん提供楽曲もある。Mavさんもまたとても器用な方でSoundCloudにアップされていた「meteorshower」を聞いてCOALTER OF THE DEEPERS影響圏の方だと直感し、事実その通りで意気投合し、生まれたのが「きみにおちるよる」だった。

 

2人とはインタビューの記録もある。読み返すと僕も、2人にもいくらか幼さを感じ懐かしい気持ちがする。僕も少しは思考や感性が成長しただろうか。

 

このような関係もありFTHとドッツは何度も共演した。彼らから得たのは提供楽曲だけでなく、精神的な部分もあった。管さん、Mavさん含めFTHのメンバーはいまだに何を考えているのかよくわからない部分がある。でも全員に共通していたのはやはり、いいもの、おもしろそうなものに対する熱意や嗅覚だったように思う。ドッツはシューゲイザーというモチーフに限らず極めて特異なアイドルだった。それを肯定してくれる感性がシーンに存在することが、自信と勇気になった。

 

僕はドッツの後、現在も活動するRAYの運営を始めた。RAYでもシューゲイザーが軸であることはブレなかった。FTHは始動して間もないRAYをCosmic Child & Thudのジャパンツアーゲストに呼んでくれた。まだ駆け出しのRAYはパフォーマンスに拙い部分もあり、中にはかなり厳しい反応もあった。その中で管さんが「シューゲイズという決して大きくないシーンの中で新しい風を起こそうという動きにどうしてそんなネガティブな反応ができるのか」と珍しく怒っていたことを覚えている(日々結構怒っているような気もするが)。

 

以降も管さんの楽曲提供は、僕との曲作「バタフライエフェクト」「Fading Lights」、前述スライドのニューアレンジと続いていく。4thワンマン「PRISM」では「Fading Lights」は英語詞、Mavさん&草稿さんによる再録でリニューアルした。5thワンマン「works」では管さんが部分的にライブ演出を担当し、ワンマンにまつわるインタビューでは、ドッツ時代に行ったインタビューに比べ双方アイドル*シューゲイザーへの理解が深まっていること、またそれ故に言葉にしきれない深い感性レベルで共振があることを再確認できた。

 

2ndアルバム『Green』では「ムーンパレス」「スカイライン」「ナイトバード」が管さん提供楽曲となっている。コロナ禍初期に「こんな状況だからオンライン上で(=映像ありきの)一つの物語を連作的にアウトプットしよう」と管さんと三部作を企画した。アナログシンセサウンドの効いたシンセウェーブ曲「ムーンパレス」、パワーバラードなインターリュード「スカイライン」を挟んで、デジタルなシンセを押し出したエレクトロシューゲイザー曲「ナイトバード」と、電子音×シューゲイズの組み合わせで緩やかに80年代、90年代、00年代を旅するようなイメージの編成。これまでの提供楽曲に比べ、明確にコンセプチュアルで、いわゆるシューゲイズに閉じず、おそらく双方にとって最も難易度の高い制作だった。アルバムを通してのテーマ設計や統一感の持たせ方、インターリュード的な間の取り方、こうした『Green』の設計にも少なからずFTHの影響がある。

 

昨年リリースしたFTHとのスプリット7インチシングル『フランボワーズ・パルフェのために』では、オリジナルのFTH ver.RAY歌唱ver.が収録。配信では管さんのリアレンジver.僕のアレンジver.も公開された。予定されていたリリースパーティはさまざまな事情が重なりようやく1/8に開催される。

 

つい先日、FTHとRAYのコラボ練習にスタジオに入った。空き時間に彼らはNumber Girlのコピーを何曲も楽しそうに僕らに披露してくれた。「いつも突然こういうのが始まるんです。私はいつも無視してます。」というエウレカさんは、とても楽しそうに演奏を眺めていた。そういうバンドだ、愛さずにはいられない。

 

こう見返すと、改めて、僕個人にとっても、運営するグループにとっても、切っては切り離せない存在だったのだと思う。彼らは自由だったし、誠実だったし、それでいて変人で、愛すべき存在だった(まだ過去にするは早いが)。僕が彼らと歩んできた中で培った何かは、今後も生き続けるし、多くのリスナーにとってもきっとそうなのだと思う。そういう、すごいバンドだ。バンドは解散するけど、彼らが音楽をやめるわけではない。次はどんなことを始めるのだろうとワクワクする。でも、一旦ここで、お疲れ様、ありがとう。

2022年メモ書き

 

・ワンマン公演をこれでもかと作り込んだ。賛否両論だった。評価や意味は見える部分にも見えない部分にも宿る。オーディエンスにとって見えない部分があり、作り手にとって見えない部分もある、さまざまなプラスマイナスを考慮した上で、意味があったと思っている。

 

・意味の一つは『Green』制作で、作品を作り込む上でワンマンは重要なトライアルになった。『Green』は作り込んだ。その評価や意味もまた見える部分/見えない部分があり、さまざまなプラスマイナスを考慮した上で、意味があった。次は違うものを作る。マイナスについてはここでは書かない。

 

・アイドルは不思議な活動体で、単純な仕事組織ではなく、どこか家族的な関わり方が思考に入り込む。このメンバーと歩んでいくのだという思いは、しばしば合理的判断に欠けるが、そう簡単に割り切れるものではない。一方で、割り切ることが運営の仕事でもある。我々は単なる仕事仲間ではないし、当然家族でもないという不思議な距離感にある。

 

・あくまで営利活動であるアイドル(特に巨大資本でないライブアイドル)活動は、不完全な体制でも進み続ける必要がある。進むも止まるも、必ず収益という函数が入り込む。進むも止まるも、どう進めどう止まるかという収益的な判断がある。

 

・一方で(とても大事だが)函数は収益だけではない。まだまだ若いメンバーの人生も背負っている。

 

・意地とか根性とか努力とか脳筋的なマインドが重要だと思っている。結果は意地と根性と努力で掴み取るものだし、意地も根性も努力もないのに結果がついてこないという謂は誰も納得しない。意地や根性や努力がなくても結果を出せる人はいる、とてもセンスがいいのだと思う、羨ましいが僕はそうではないので、結論意地や根性や努力でなんとかするのだ。

 

・アイドルグループのメンバーの入れ替わりを「新陳代謝」と呼ぶことがある。無機的であまり好きな表現ではない。が、メンバーだけでなく環境の固定化は閉塞感につながりやすい=固定化した環境でパフォーマンスを加速し続けられるのは特殊な才能で、どうメンバーにフレッシュな経験値を稼がせてあげられるか、環境を設計してあげられるかということをたくさん考えた。

 

・アイドルはアクセルを踏み続けなくてはならない。アイドルだけでなくあらゆる芸事に共通している。常に動き、見て、聞いて、考え、盗み、実践し、反芻するサイクルを永遠に回し続ける必要がある。「成功の必勝法」を少なくとも僕は知らない。永遠に動き、見て、聞いて、考え、盗み、実践し、反芻する。運営も同じ。

 

・俗に「初期衝動」と呼ばれるものについて考えた。初期衝動は再現するのか。

 

・「自分が見たいもの」、「みんなが見たいもの」について考えた。自分が見たいものしか作れない人、自分が見たいものとみんなが見たいものが一致し作れる人、自分が見たいものがそもそも不明瞭な人、みんなが見たいものを目指すがうまくいかない人。今年はここ10年くらいで、最も自分にとって異物=新しい音楽を聞いた。自分の立ち位置を考えたが、自分が見たいものを作るのだよと自分と手を打った。

 

・「アウトサイダーアート」と呼ばれる作品が好きだ。自分にとって、あらゆる表現の中で、最も自分を遠くに突き放してくれる表現だと思っている。久々に触れて「自分が見たいもの」に向き合わされる。

 

・新しい家族=猫が増えた。とてもかわいい。

 

・歳をとると1年が短くなる。今年はとんでもなく長い1年だった。出来事、やること、考えること、はじめてのこと、はじめての気持ち、あまりに多すぎた。やりきったし、同じ1年を繰り返しても同じ判断をしたはずなので後悔はない。

 

・来年も意地と根性と努力で、戦略的に、初期衝動的に走り切る。

 

おわり

11/8(火)にオガワコウイチさん(おやすみホログラムプロデューサー)とのトークイベントがあります。オガワさんはおやすみホログラムのプロデューサーだけでなく、多数のプロジェクトに関わっていて、また作品数的にも多作な方なので、当日の補助線になればと勝手に情報を整理して紹介します。

 

まず僕(RAY)とオガワさんの出会い的な話。コロナ禍でオガワさんが企画していた配信イベント「Future Archives

https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/155254 にRAYをお誘いいただいたのがきっかけでした。この日はオガワさんによるRAY楽曲のアコースティックライブも行われました。

 

※RAYの通販で盤も買えます

https://ray-world.booth.pm/items/2821377

 

元々僕はアイドルオタク時代からおやホロさんが好きだったので(「drifter」のMVが公開されたときはオタク仲間の間でも話題になっていた)この日オガワさん演奏でライブできることがとても光栄でした。

 

 

ギタープレイがとてもダイナミックで(「アコギはダイナミズムですよ!ダイナミズムしかないです!」とのこと)、僕自身がアコギを弾くときのプレイにもかなり影響を与えました。その後もRAYの主催ライブでギターを弾いていただいたり(この時の音源も通販で買えます https://ray-world.booth.pm/items/4008557 )、個人的に飲みに行ったりもして、今ではとても親しみを感じています。

 

オガワさんの多作・多彩っぷりに触れます。オガワさんは作詞作曲家としておやホロを中心に楽曲制作するクリエイターであり、肩書き通りおやホロのプロデューサーであり、また自分自身でも弾き語り、DJなどもプレイするマルチミュージシャンです。提供楽曲もおやホロに留まらず多岐にわたります。

 

COMIQ ON!「NEO WORLD ORDER」

https://twitter.com/comiqon/status/1574780111999897601?s=20&t=at40wtwz6k3OmsQrLW-_jw

 

和田輪「邪悪な人たち」

 

PINKBLESS「蛍」

 

 

コラボクリエイティブも多いです

 

HAKU IHAKU「seasons」 ※一般会社員女性との不思議なプロジェクト(!)

 

ハハノシキュウ『鼠穴/pantomime』pro.オガワコウイチ

 

おやすみホログラム & Have a Nice Day!「エメラルド」

 

その他別プロジェクト、別クリエイティブはオガワさんの主宰レーベルgoodnight! recordsのbandcampにまとまっています。アコースティックからアンビエント、バンドサウンドからクラブサウンドまで本当に多様な音楽を制作しているなと感じることができます。

 

goodnight! records(bandcamp)

https://goodnight.bandcamp.com/

 

11/8のトークイベントではこれだけ多作のオガワさんのクリエイティブ感性のコアがどういうところにあるのか、アイドルプロジェクトとそれ以外の区別、勘所、今後やりたいこと、などを僕自身がどうかという観点も交えながら発展的な会話ができるといいなと思っています。ぜひお越し、ご覧ください!

 

【イベント情報】

11/8(火・夜)

プロデューサーの秋祭り~おやすみホログラムプロデューサーオガワコウイチ&RAYプロデューサーみきれちゃん対談トークイベント

会場:阿佐ヶ谷ロフトA

時間:OP/ST 1900/1930

料金:配信付前2500/一般前 2000/配信付当 2800/一般当 2300(+1D)・配信1500

※入場は配信付前売優先

出演:

オガワコウイチ(おやすみホログラムP)

みきれちゃん(RAY P)

ゲスト:内山結愛、月海まお

進行:大坪ケムタ

チケット:https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/230610