3/25でFor Tracy Hydeが解散する。僕はアイドルをプロデュースする人間、かつ「シューゲイザーアイドル」とも呼ばれる特殊なアイドルをプロデュースする人間で、主にこの点からFor Tracy Hydeやメンバーと様々な活動・制作をご一緒してきた。For Tracy Hydeの活動は、音楽的にも精神的にも、僕にそして当然僕の運営するアイドルグループにも影響を与えている。自分なりのFor Tracy Hyde史を書いてみたい、もしかすると、それはちょっとした「シューゲイザーアイドル史」かもしれない。

 

FTHとの出会い、というか管さん(夏botさん)との出会いは、僕が過去運営していたアイドルグループ・・・・・・・・・(通称ドッツトーキョー)に遡る。ドッツは活動当初からシューゲイザーに楽曲コンセプトの軸に置いていた。「ねぇ」のMVがシューゲイザーバンド界隈で話題になっていたらしく、ネットレーベルきいろれこーず主催イベント「千葉Shoegazer」に呼んでもらい、その日DJをしていたのが管さんだった。始動間もなく右も左もわからなかった僕は「とにかく爪痕を残さなきゃ」とアグレッシヴなパフォーマンスを仕込んだ。見れば分かるように、よくこのステージを見て楽曲提供をしようと思ったなと感じる。

 

きいろれこーずに仲介してもらい、管さんと楽曲提供について具体的に話し始めた。酒が得意ではないとのことで打ち合わせは喫茶店だった。一癖も二癖もある人だなと思ったが、同時にいいもの、おもしろそうなものに対する熱意や嗅覚がとても鋭い人なのだとも思った。「いわゆるアイドルポップスに寄せる必要は全くない」と伝えたことを覚えている。結果「スライド」が誕生した。曰く「New Order + Ride」。この曲はドッツの定番、代表曲として定着した。

 

きいろれこーずには「とても器用な方です」と管さんを紹介してもらった。次の提供楽曲「ソーダフロート気分」でこの意味がよくわかった。管さんのフェイバリットバンドThe 1975をトレースしつつドリーミーに仕上げた楽曲で、彼の器用さ、一方で軸となるドリーミーな感性が絶妙に融合していた。同様の感性はtipToe.楽曲をアレンジしたドッツバージョンの「クリームソーダのゆううつ」でも存分に発揮されていた。ドリーミーで、トラップビートなどの仕掛けもあり、管さんらしいブレなさと遊び心がある。ドッツ時代の彼のクリエイティブは「しづかの海」で有終の美を飾ったと思っている(ドッツにとっての最後の管さん提供楽曲)。

 

ドッツは管さんだけでなくベースのMavさん提供楽曲もある。Mavさんもまたとても器用な方でSoundCloudにアップされていた「meteorshower」を聞いてCOALTER OF THE DEEPERS影響圏の方だと直感し、事実その通りで意気投合し、生まれたのが「きみにおちるよる」だった。

 

2人とはインタビューの記録もある。読み返すと僕も、2人にもいくらか幼さを感じ懐かしい気持ちがする。僕も少しは思考や感性が成長しただろうか。

 

このような関係もありFTHとドッツは何度も共演した。彼らから得たのは提供楽曲だけでなく、精神的な部分もあった。管さん、Mavさん含めFTHのメンバーはいまだに何を考えているのかよくわからない部分がある。でも全員に共通していたのはやはり、いいもの、おもしろそうなものに対する熱意や嗅覚だったように思う。ドッツはシューゲイザーというモチーフに限らず極めて特異なアイドルだった。それを肯定してくれる感性がシーンに存在することが、自信と勇気になった。

 

僕はドッツの後、現在も活動するRAYの運営を始めた。RAYでもシューゲイザーが軸であることはブレなかった。FTHは始動して間もないRAYをCosmic Child & Thudのジャパンツアーゲストに呼んでくれた。まだ駆け出しのRAYはパフォーマンスに拙い部分もあり、中にはかなり厳しい反応もあった。その中で管さんが「シューゲイズという決して大きくないシーンの中で新しい風を起こそうという動きにどうしてそんなネガティブな反応ができるのか」と珍しく怒っていたことを覚えている(日々結構怒っているような気もするが)。

 

以降も管さんの楽曲提供は、僕との曲作「バタフライエフェクト」「Fading Lights」、前述スライドのニューアレンジと続いていく。4thワンマン「PRISM」では「Fading Lights」は英語詞、Mavさん&草稿さんによる再録でリニューアルした。5thワンマン「works」では管さんが部分的にライブ演出を担当し、ワンマンにまつわるインタビューでは、ドッツ時代に行ったインタビューに比べ双方アイドル*シューゲイザーへの理解が深まっていること、またそれ故に言葉にしきれない深い感性レベルで共振があることを再確認できた。

 

2ndアルバム『Green』では「ムーンパレス」「スカイライン」「ナイトバード」が管さん提供楽曲となっている。コロナ禍初期に「こんな状況だからオンライン上で(=映像ありきの)一つの物語を連作的にアウトプットしよう」と管さんと三部作を企画した。アナログシンセサウンドの効いたシンセウェーブ曲「ムーンパレス」、パワーバラードなインターリュード「スカイライン」を挟んで、デジタルなシンセを押し出したエレクトロシューゲイザー曲「ナイトバード」と、電子音×シューゲイズの組み合わせで緩やかに80年代、90年代、00年代を旅するようなイメージの編成。これまでの提供楽曲に比べ、明確にコンセプチュアルで、いわゆるシューゲイズに閉じず、おそらく双方にとって最も難易度の高い制作だった。アルバムを通してのテーマ設計や統一感の持たせ方、インターリュード的な間の取り方、こうした『Green』の設計にも少なからずFTHの影響がある。

 

昨年リリースしたFTHとのスプリット7インチシングル『フランボワーズ・パルフェのために』では、オリジナルのFTH ver.RAY歌唱ver.が収録。配信では管さんのリアレンジver.僕のアレンジver.も公開された。予定されていたリリースパーティはさまざまな事情が重なりようやく1/8に開催される。

 

つい先日、FTHとRAYのコラボ練習にスタジオに入った。空き時間に彼らはNumber Girlのコピーを何曲も楽しそうに僕らに披露してくれた。「いつも突然こういうのが始まるんです。私はいつも無視してます。」というエウレカさんは、とても楽しそうに演奏を眺めていた。そういうバンドだ、愛さずにはいられない。

 

こう見返すと、改めて、僕個人にとっても、運営するグループにとっても、切っては切り離せない存在だったのだと思う。彼らは自由だったし、誠実だったし、それでいて変人で、愛すべき存在だった(まだ過去にするは早いが)。僕が彼らと歩んできた中で培った何かは、今後も生き続けるし、多くのリスナーにとってもきっとそうなのだと思う。そういう、すごいバンドだ。バンドは解散するけど、彼らが音楽をやめるわけではない。次はどんなことを始めるのだろうとワクワクする。でも、一旦ここで、お疲れ様、ありがとう。