RAY/代代代/クロスノエシスの3組でスプリットシングル『ATMOSPHERE』をリリースした。3組ともいわゆる「楽曲派」で括られるグループだが、「楽曲と、それと地続きのライブパフォーマンスに独自のこだわりを持つグループ」あたりが分かりやすい表現に思える。実は今回のスプリットはそうした「独自のこだわり」とどう距離をとるかというテーマ設計がされていた。3組が独自=少数派なのだとすれば、その対義になる多数派が存在するわけで、では多数派的な空気感=ATMOSPHEREを3組がどう捉えているかを曲とライブパフォーマンスに落とし込もうという目論見だった。

 

小倉さん(代代代P)、sayshineさん(クロスノエシスP)と話したわけではないが、テーマ設定時点ではどの組も「いかに尖ったものを出すか」と頭を回らしたのではと想像している(僕もそうだった)。つまり多数派との距離感を明示する方向。だけど結果的に出てきたものはどの組も「ズラしつつも、各グループの独自性がきちんと担保された曲」だった。逆にいうと「らしさはあるが、これまでのディスコグラフィーにはなかった曲」、つまりATMOSPHERE(多数派との距離感)をバランスする方向だった。このズレきらないこと、ズレきれない(can not)というよりは、ズレきらない自制心(should not)みたいなものが、実は3組の共通項なのではと思った。

 

僕はRAYのクリエイティブが「独特」と言われることに実はあまりピンときていない。RAYのアウトプットは自分が面白いと感じる創作の結果であって、変わったものを作ろうと打算的に出てきたものではない。またアイドルプロデュースは単なる自己表現ではないので、受けれてもらえたり、喜んでもらえたりすることを、当然目指している。一方で、自分の創作感性がいわゆるマス的なものではないことも自覚しているので、できること、やりたいこと、やるべきことのバランスでプロデュースしている。成功の方程式を少なくとも僕は知らない、だから転げ回りながら、前を向いて走り続けている。おそらく小倉さん、sayshineさんも同じではないかと思っている。

 

代代代の『MAYBY PERFECT』という尖りまくった作品の推薦文で小倉さんを「荒魂/和魂」という言葉で表現したことがある。この印象は未だ変わらず、そしてこれは小倉さんと代代代だけでなく、クロスノエシスやRAYも表現するものだったのかもしれない。

 

メンバーもスプリット以前から、そもそも互いのクリエイティブやパフォーマンスを尊敬していたし、仲良くなりたいとも思っていた。とはいうもののこうした思いはきっかけがなければ思いを伝えることも、関係を親密にすることも難しく、スプリットはそうしたきっかけにもなった。スプリットをリリースし、配信や、ツアー、リリースイベントを完走する中で、団結できて然るべきだった3組は、自然と距離を縮めることができた。

 

総じてポジティブなことしかなかったが、当然課題も見つかり(これだけ曲もパフォーマンスも良いグループが、音楽とライブでどこまで勝負できるかということが、はっきりと数字にも出たように思う)、それも含めて意味のあるスプリットだった。

 

残念ながらクロスノエシスが5/20での無期限活動休止を発表したが、スプリットを貫いていた「いい音楽」「いいライブ」というマインドは死ぬことはないし、残された僕らが続けていくだけだ。スプリットを出すならこの3組しかない、と始まった企画、完走してみて、この3組でスプリットを出せて良かったと、改めて感じて終わることができた。アイドルはもっとスプリットを出せばいいと思う!