ずっと兼業でアイドル運営を続けていましたが、昨年2022年10月に本業を辞め、現事務所合同会社SOVAに正社員として就職し専業運営になりました。

 

兼業運営として僕を認識し応援してくださっていた方も多くいることを知っているので、まずは報告が遅れたことを謝罪させてください。色々理由があって元の会社を辞めたことを親に伝えられぬまま時間が過ぎていたのですが、最近ようやく伝えることができました。この歳で親を気にするのもどうかとは思いますが、何歳になろうと親は親で子は子なので、生活に関わる部分を親に黙ったまま先に公表するのは筋違いだという変な道義心からでした。

 

僕のアイドル運営としてのキャリアは2016年9月に・・・・・・・・・(dotstokyo)の楽曲ディレクターとして始まりました。本業が副業NGだったことと、利益を投資に回したかったこともあり、ドッツ〜RAYでSOVA正社員になるまでは無賃兼業運営でした。兼業運営は過酷で、日中は本業、退勤後は運営業という形で走り続け、およそ6年間労働時間ベースだと過労死ラインを超え続けながら、しかも無賃というどマゾな活動を、しかし恐ろしいことにめちゃくちゃ楽しく続けてきました。このことを特に不服に思ったことはなかったものの、一方でどこかそろそろ報われてもいいのでは?という気持ちがあったことは事実です。

 

アイドル運営は自分に天職だと感じています。元々居たの会社はいわゆるJTC(Japanese Traditional Company)で、良くも悪くも超カタく、保守的で、一方で安定している企業でした。安定している(それ故に兼業運営ができた)が、超ステレオタイプな和式会社員ムードの支配する社風で、その窮屈な空気感が自分に合わず、精神的にはいつも参っていました。アイドル運営は「楽しいことことを考え、生み出し、人を幸せにするにはどうすればいいかを日夜考え、実装し続ける仕事」だと思っていて、これは本当に自分の生き方に合っているなと感じています。

 

客観的には、ほぼ公務員のような仕事を辞めて専業アイドル運営になることはリスキーでチャレンジングなアクションです(なので親にも言いにくかった)。ですが、僕にとっては、アイドル運営として活動できることが、つまらない社会人生活を中和できる生きがい、活力になっていたし、いよいよそれを本職にできるワクワクでいっぱいでした(仕事を辞めた日、夜空中に流れ星が流れ打ち上げ花火が上がり空を埋め尽くす、という夢を見ました笑)。そのワクワクはさらに増幅されて今も自分が走り続けるエネルギーになっていて、今後も止まる気配がないです。

 

RAYの新体制の1年間は、そんな僕の思いや馬力が込められた1年間でもありました。今後も止まることなく邁進していきますので、RAY(とついでに僕)の応援を、何卒よろしくお願いいたします!

 

アイドルとバンドの壁を壊すRAY主催「Destroy the Wall」という企画を始めます。「アイドルとバンドの壁を壊す」って使い古されたテーマでいまさら?という人も多いと思います。が、これあくまで内側の感覚なのでは?という気持ちが最近強くなりそこが企画発案のきっかけになっています。

 

バンド対バンについて先日メンバーの内山結愛がブッキング・制作するイベントが開催され、そこでもバンドにアイドルが1組混じることによる雑居感に新鮮味を感じてくれる人がたくさんいて、開拓の余地がまだまだあるんだなと感じました。その経緯や顛末は下記にまとめています(めちゃくちゃ長いです)。

 

 

「バンド」という謂は「音楽」くらい広い抽象概念なので、この抽象粒度のまま組まれる「バンド対バン」にはあまり意味を感じません。あらゆる企画は何らかの意味・相乗効果を期待して組まれるものですが、今回の企画もまた「バンド対バン」という粗い粒度から「アイドルとの共演で意味・相乗効果が生まれるバンド対バン」まで解像度を上げようとする試みです。

 

また、この辺りは「大きいアイドルグループやバンドがやってくれないとどうにもならない」というトリクルダウン的な話法をされることがしばしばですが、そういう動きはすでに過去いくらでもあった上での現状なので、ならば草の根からもやってやろうというチャレンジでもあります。

 

要するに、RAYが掻き回し役として機能しつつ何かバンドアイドル問題を一歩進めたい的な企画で、第1回は早速素晴らしい共演陣に恵まれました。quiquiとkurayamisakaはメンバーの月海に、ANORAK!は内山にお薦めしてもらって知ることができたバンドです。3組を紹介しつつ、企画の意味・相乗効果のイメージを膨らませてみます。

 

■quiqui

2013年結成のカオティックハードコアバンド。インタビューで国内外のカオティックハードコアや周辺ジャンルからの影響を公言していますが、サウンドを一聴して納得できます。Indian SummerやMoss Iconといったreal screamの暗く湿っぽいサウンド、後続するLa quieteやDaitro、Suis La Luneといった欧激情ハードコアの持つ速さやテクニカルなMath感、kulara、There is a light never goes outといった邦アンダーグラウンドハードコアの醸す緊張感、それら全てへのリスペクトを生々しくサウンド化しています。

 

 

僕はquiquiが影響を受けたであろう音楽を身近に青春時代を過ごしてきました(Daitroのライブは見に行ったし、La quiete・Ampereは来日時に昔やっていたバンドで共演もした)。その感性はRAYのクリエイティブにも生きていて、公開当時ハードコア界隈に不評を買っていた叫ばない激情ハードコアこと「星に願いを」はそうしたエゴ丸出しの曲です。

 

 

こうした界隈とアイドルとの接点は僕の知る限りなかったように思うので、出演を快諾してくださったquiquiには感謝していて、共演で何が起きるかとても楽しみなバンドです。

 

■kurayamisaka

親しみやすい歌謡的メロディとシューゲイズ・オルタナティブなサウンドを現代的感性で融合・アップデートするオルタナシーン若手急先鋒バンド。RAYは一般的にマイナーとされる音楽ジャンルをアイドルソングとしてアップデートする試みでもありますが、過去へのリスペクトと、加えて同じくらい現代的再現の意味に敏感であろうとしています。邦シューゲイズシーンにおいて、解散したFor Tracy Hydeはそうしたリアルタイム感に敏感な稀有な存在でしたが、後続する感性はkurayamisaka(加えてThe Otalsも)が担っていく気配があります。

 

 

彼らがシューゲイズをどこまで意識、実践しているかは定かでないです。そうした想像を掻き立たてることも彼らの良さであり、ジャンル概念が希釈され自認されなくなった先にこそ新しい可能性が広がってほしいという勝手な願いを重ねてしまう。その願いはRAYに賭ける思いと近いものなのです。

 

■ANORAK!

現行邦エモリバイバルシーンの牽引役。エモリバイバルは90s emo、特にキンセラ界隈に大きな影響を受け10sにアメリカ中心に勃興したリバイバルムーブメントで、ミッドウェストエモ的テクニカルさをマシマシにしたMath感を特徴としています。20s前後から邦シーンも活発になり、ANORAK!はオリジネーターへの理解の深さと20sの日本で実践する意味に強く自覚的であろうことを感じさせるバンドです。シューゲイズ文脈におけるkurayamisakaと同じような存在感をANORAK!にも感じます。

 

 

エモは僕が最も影響を受けたジャンルで、特に90-00sあたりのエモは自分のサウンド感のコアであり続けています。僕が制作したRAYの「オールニードイズラブ」や「ATMOSPHERE」は自分がエモから受けた影響が落とし込まれた曲です。一方、エモを熱心にフォローしていたのは00sまでで10s以降のリバイバルシーンには疎くなりました。というのは、もちろん聞いてはいたもののキンセラ周辺バンドには当時からあまり食指が動かず、その影響下にあるリバイバルシーンも同様だったという経緯で、一方20sの邦エモリバイバルシーンは単なる再現ではなく日本のリアルタイム感にしっかりアップデートされていて、今改めて強く惹かれている理由になっています。このアップデートが歌や歌詞へのフォーカスであること、それがリスナーへ寄り添う態度であることにも、親近感を感じます。

 

 

 

こう見ると、改めてRAY主催に出演してもらう必然性・意味があるように感じます。告知後のリアクションも面白く、共演バンド側のファンはバンド3組の組み合わせに好意的な反応をしているものの主催のRAYについてはほぼノーリアクションで、要するに「RAY?」という状況だと想像するので、その意味でも冒頭に書いた掻き回し甲斐、踏み込み甲斐のあるブッキングになったと感じます。

 

是非お越しください、見た人の心に何かが起こるはず…!

 

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9/17(日・夜)

RAY presents

「Destroy the Wall vol.1」

会場:大塚Hearts+

時間:OPEN/START 18:00/18:30

料金:前売/当日 2800円/3300円(+1D)

本番:2045-(30)

物販:2115-(75)

出演:

RAY

ANORAK!

kurayamisaka

quiqui

 

🎫前売予約 7/1 2000-

https://tiget.net/events/255756

 

7/30新宿ロフトでRAY主催・メンバーの内山結愛が制作の一切を執り仕切るバンド対バンが開催された。RAYは音楽に力を入れているアイドルグループで(そんなことはどんなアイドルグループでも言えることではあるが)、その中でも一際音楽に対する思い入れの強いメンバーである内山結愛がイベント制作に携わった。アイドル本人がブッキングすることは珍しくないものの、今回の制作は単なる見かけ上ではなく本質的に内山が深くコミットしていたこと、バンド対バンであること、イベントを終え少なくともRAYのプロデューサーである僕にとってかなりの発見や学び、感動があったことを踏まえ、誰かの参考になるかもしれないと残す備忘録です。

 

【イベント概要】

7/30(日・夜)

RAY presents directed by 内山結愛

「tie in reaction」

会場:新宿LOFT

時間:OP/ST 1530/1600

料金:前/当 3500円/4000円(+1D)

出演:

RAY

DOVVNTIME (吉田一郎不可触世界, SEI NAGAHATA)

柳瀬二郎(betcover‼)

JYOCHO

the pullovers

mekakushe

downt

 

特設サイト:https://ray556.wixsite.com/mysite

 

【導入】

内山は週一ペースで世に名盤と言われるアルバムの全曲レビューを続けている(https://note.com/__yuuaself__/)。元々はDJをする機会が何度かありせっかくなのでその当時から興味の対象だった音楽にしっかり踏み込んでみようという動機から始まったレビューだ。加えて週一では飽き足らずTwitterでは「#内山結愛一日一アルバム」ハッシュタグにて2年間に渡り毎日作品レビューを継続している。

 

RAYにはメンバー個人の自主性や関心、興味を積極的にフォローするコンセプトが存在する。内山は「音楽に関わり続ける人生」を個人テーマにしていて、今回についても彼女の音楽人生をフォローする目的があった。アイドルとしてステージで音楽を表現する、日々のレビューを通して音楽に触れ、言葉にする、その次は?という時、本人と相談し「音楽で人と人を繋ぐ」という観点が生まれ、今回の制作に至る。

 

運営が7/30の新宿LOFTを押さえ、問答無用で「ここがあなたの初制作の会場、日程です」と内山に伝えた。その意味で今回の制作は会場押さえ以降の制作ということにはなる。初めてのイベント制作で日曜の新宿LOFT終日はとても高いハードルだが、内山ならなんとかできる確信があった(気がする)。

 

【前作業】

内山は今年大学を卒業した22歳で、いわゆる社会人経験はなく、7年間学業とアイドルに打ち込んできた。彼女は「アイドル活動を終えた時世間知らずのまま社会に出たくない」としばしば口にしており、セカンドキャリア問題が常に脳裏にある運営としても、今回の制作を社会経験の一つにしたい思いがあった。

 

まず最初にGoogleスプレッドシートの使い方を学んだ。イベント制作ではタイムテーブル、予算計算、進捗管理などあらゆるシーンでスプレッドシートを使う(Excelよりも共有効率が良いので重宝される)。今回は新宿LOFTでのイベントということで相応の出演者になると見越し、先方に失礼のないよう、またアイドルだからとナメられないようにする意味も含め、「ちゃんとしていること」を目指した。せっかくなのでその様子をTwicasで配信もした(https://twitcasting.tv/_ray_world/movie/756926300)。

 

次に、Google docsでイベントの概要書を作成するよう依頼した。日時、イベントタイトル、お誘い候補等いわゆる概要に加え、自分がどういう人間であるか、なぜイベント制作をするのか、「思い」を明記するように伝えた。アイドルグループのいちメンバーからの単なる「出てください」というオファーでは思いが届きにくいであろうこと、事実この制作は彼女の強い音楽愛に裏打ちされたものなのでその思いでぶつかっていくことが大事と考えたこと、またその過程で自分の思いや思考も改めて整理されるであろうことなどが目的だった。

 

【ブッキング開始】

ブッキング作業の初手は、ブッキング候補の洗い出しから始まる。候補選定には運営は一切関与しておらず、全て内山の選定だった。内山が候補を洗い出した上で、動員予想や出演料、彼女の思い、損益ライン等のバランスを相談するところから運営は関与した。相談した上でオファー決定の最終判断は彼女に委ねた。半年前からブッキング開始は気が早いように思うが、バンドはアイドルとスケジュール感が全く違い半年先のオファーも珍しくない。また初めてである事を踏まえると、今振り返ってもこのタイミングでスタートしていないと危なかったように思う。

 

次はオファーメールの作成。内山はいわゆるビジネスメールを送ったことがなかったため、まずネットで調べるなりして自分なりに書いてみて、というところから始めた。当然、ボロボロだったのでかなり赤入れをした。イベントは固定出演料、最低保証&チケットバック、チケットバックのみ等、バンドによって出演条件がさまざま異なること、その上でこちらからどのように条件提示をすればいいか、署名の書き方等教えた。

 

メール連絡用に内山の仕事用Googleアカウントを開設した。自分の責任で発信する目的と、アイドルという職業の特性上運営が常に連絡状況を確認する必要があることからだ。「アイドルがブッキングする=アイドル本人が連絡する」という所作でファンの方が心配するような事態は全く起こらず、むしろ内山のことを知ってくれていて光栄だと書かれていたり、出れなくても労いの言葉が書かれていたり、誠実なやりとりがほとんどだった。これは彼女の日頃の音楽発信が誠実であることの結果でもある。

 

ブッキングはオファーを送って終わりではなく、教わっていない相談ややりとりが継続する。出演OKが出た後は、タイムテーブルの調整、情報解禁連絡、セット図・セットリストの提出依頼など当日まで調整・連絡が必要で、また今回は気合の入った特設サイトで内山による出演者紹介文掲載、対談文の掲載などもあり、全てのやり取りが初めてな状況で、複雑な調整・連絡が続いた。その都度、自分でできる返事は自分で回答し、分からない、調整が必要な返事は運営と相談しつつ進めた。様々な理由で辞退連絡があり、また返信のない場合も多々あり、その都度次の候補者選定、オファーを繰り返していった。

 

【特設サイト開設】

イベント特設サイトを開設した(https://ray556.wixsite.com/mysite)。なぜこの組み合わせなのかお客さんが腑に落ちたり、先方ファンが当方を、当方ファンが先方を知るきっかけを作ること、今対バンイベントは有機的な繋がりを生成することが大事と感じていて、今回のバンド対バンに限らず、現在RAYが強く意識しているポイントでもある。バンドとアイドルの共演は珍しくなくなったが、なぜこの組み合わせなのか、どういうバンドなのか不透明なイベントがほとんどで、そうしたウィークポイントを克服しようとした。できることは全てやる、がこのイベント制作の合言葉でもあった。

 

内山は音楽を言葉にする力を育んできたことに加え、ここしばらくは会話形式の仕事の機会も増え、この経験が内山自身による出演者紹介、対談記事掲載に繋がっている。この経験がなければもっと薄い内容になっていたように思う。

 

サイトのアクセス数、新コンテンツ公開ツイートのインプレッション数等からはシビアな数字が出ていたが、サイトを通じてRAYの音楽をはじめて聞いた、サイトに主催の本気度を感じて関心を持ったといった反応もいくらかあった。特設サイトには当然コストが発生し決して軽くない施策なので今後実施するかは要検討ではあるものの、何せよやってみないと分からない試みだったので、結果的には良いチャレンジだったと思っている。

 

【途中経過】

ブッキングが進み形になってくると、第一弾告知、プレイガイド手配が始まる。告知画像の参考になるようなフライヤーを収集して素材と共にフライヤー作成を依頼、券売タイミング・情報解禁タイミングを調整してプレイガイドの仕込み依頼、確定出演者への告知解禁連絡等、運営と相談はしつつ全て内山が主導した。

 

その後ブッキングが進む度に第二弾、第三弾出演者と発表し(その度に告知画像・特設サイトの最新化、解禁タイミングの検討、出演者への情報共有が必要)、特設サイトについては紹介文の執筆・掲載・公開、対談記事については台本作成、先方とのスケジュール調整、zoomで実施したためその準備、運営がzoom帯同するので運営との調整、そしてもちろん対談自体の進行と暇なく作業は続いた。この辺りからスケジュールが複雑になってきたため、管理シートを作り全イベントのスケジュールを可視化した。

 

これらをいわゆるアイドル活動を十全にこなしつつ、週一レビュー、日々レビュー等を止めることなく並行して継続しているので、彼女は化け物だと思う。

 

【最終追い込み】

適宜券売状況を確認しつつ、より効果的なPR方法はないかと日々運営と相談、実践した。イベント全容が確定して以降は、ひたすらイベントの宣伝である。今回の制作ではクリアな予算収支表を作成していたので、チケット券売数と損益ラインが一目でわかるようになっていた。運営から当然損益ラインを意識するよう伝えてはいたため、責任感の強い彼女は動員と収支を強く意識していたが、彼女の真摯な挑み方をみていて、また彼女のキャリアのために必要な投資であるという意味も込めて、本人には言わないようにしていたが実はそれほど気にしてはいなかった。

 

【当日】

制作は当日撤収まで続く。誰より早く会場入りし、楽屋や機材置き場等会場状況のチェック、進行表の貼り出し、入りやリハのアテンド、本番中もイベントの進行状況を確認して各出演者に押し状況など伝達、ゲスト挨拶、終演後は楽屋の片付け状況、忘れ物などをチェックし、最後に退出する。加えて自分も出演するので合間を縫って準備を進める。当日を終えて以降は精算やお礼の連絡が待っている。そして1/27に第2回制作イベントが発表されたので、彼女の制作は休む暇もなくまた始まる。

 

【運営としての所感】

座組みを見て単純にいい組み合わせだと思っていたが、実際蓋を開けてみると想像を遥かに上回る素晴らしいイベントだった。個人的に全組初見のバンドで、全てのステージに新しい出会い、発見があり、これは運営に忖度せず内山が感性でブッキングしたことの大きな効果だったように思う。中でも柳瀬二郎さんの弾き語りは圧巻で、奥底から魂が揺さぶられた。久々に化け物に出会ってしまった。個人的にはこの出会いだけでも十分な意味があったが、話題のバンド、サブスクでいいなと思っていたバンドも見ることができ、おそらくライブの迫力がすごいと予想していたDOVVNTIMEはやはりライブの破壊力がすごくライブハウスで見る意味があった。お客さん、音楽関係者からも軒並み好反応で、この感想は多くの来場者に共通していたように思う。本番中、ロビーで時間を潰している人をほぼ見かけなかった、要するにほとんどの人が全出演者をしっかり見ていたということだ(再入場可にしていたのもあるが)。

 

おそらく「内山結愛が一生懸命制作したイベントだから」と応援を込めて来場してくれた方も多かったはずだ。外からはアイドルという下駄をはかされた企画にも見えてしまうだろうことは承知していたが、実態として(運営がサポートしてはいても)彼女が制作したと胸を張って言える進行だったし、何よりイベントを実際に見て、下駄云々を言う人はまずいないだろうと思った。それくらい素晴らしい内容だった。

 

印象に残っているのでは「ジャンルがバラバラだけどいいイベント」「異種格闘技戦」といった言葉を何度も耳にしたことだ。バンドの中にアイドルが一組紛れ込んでいる点を加味しても、僕としては(そしておそらく内山としても)かなり意外な感想だった。今回の出演者は全て「内山自身がいいと思うバンド、RAY・内山結愛の企画でお客さんに届ける意味のあるバンド」という意味で一貫している。これは僕が制作を間近で見続け、彼女の音楽との付き合い方や趣味趣向をよく理解していることで明確に見えていたロジックではある。あるいはこのロジックが一貫していたからこそ、結果的にいいイベントになったのだとも言える。もう一点、RAYは「異分野融合」を楽曲コンセプトにしており楽曲バリエーションが雑多で、雑居状態をRAYというアイコンでどうまとめるかがキモになるグループだ。ある種日々グループで実践してきたインテグレーションな発想が、彼女の制作でも無意識に反映されていた可能性がある。自分達が慣れきってしまっていたこうしたごった煮感が多くの人の印象になっているということは、RAYや内山結愛にできることがまだまだあるという証拠でもある。掻き回すことができるグループとして、掻き回した先にブルーオーシャンがありえる感覚を持った。

 

【最後に】

アイドル主催のバンド対バンは簡単ではない。最たる理由は、知名度と動員のバランスがアイドルにおけるそれとかなり違う、はっきり言うと動員が見込みにくいということにある(念の為、これはバンドへの苦言でもなんでもないです)。言い換えると出演料が安く、動員も見込みやすいアイドル対バンの方が、当たり前だがコストパフォーマンスが良い。なのでバンド対バンへのチャレンジは、グループの方向性、ブランディング、リーチターゲットなどとの相談になる。

 

今回の企画は「ソロ性を鍛える」というRAYのコンセプト、彼女がこれまで積み重ねてきたアイドル的・音楽的実績・感性、強い思い、それら総合して彼女にとってもグループにとっても良いブランディングにだろう予想、最終的に彼女なら全てうまくやりきってくれるだろう楽観視、そしてこれはとても大事だがRAYは数あるアイドルグループの中でも極めてバンドとの相性が良いグループであること、それ故にバンド界隈にも積極的にリーチしようとしている段階であること等、さまざまな要素が組み合わさって実現した。それ故、他アイドルグループが同じことをやろうとしても条件が揃わない可能性があり、かつ収支もかなりシビアなので、簡単におすすめできる企画ではないと思っている。メンバーが制作するという場合、ここまでできるメンバーはそうそういないだろうという点も加えておく。

 

総評としてRAYと内山にとってはとても意味がある、そして何度も強調するが素晴らしいイベントだった。手前味噌だが、半年間の頑張りとイベントの成功に、心からのねぎらいの言葉と拍手を送りたい。

7/2(日)に僕がプロデュースするRAYとゆるめるモ!さん(最大の敬愛を込めて以下敬称略)とのツーマンライブが開催される。ゆるめるモ!は僕のライブアイドル原体験と、派生して現在まで続く僕のアイドル運営観に、強烈な影響を与えた存在だ。ゆるめるモ!がいなかったらアイドル運営としての自分は間違いなく存在しなかったし、僕個人の人間性や考え方すらも全く違うものになっていたと断言できる。とにかく人生に強烈な影響を与えたアイドルグループなのだ。ちょっと長くなるが、このツーマンが、ゆるめるモ!の存在が自分にとっていかに特別かということを書きたい。

 

ゆるめるモ!は2012年に結成し、昨年10周年を迎えた長寿ライブアイドルグループだ。活動歴が10年を超えるライブアイドルグループは数えるほどしか存在しないこの業界(3年を越えれば「長い」と言われる業界)において、”超”長寿グループと言える。2010年代の群雄割拠のシーンをして「アイドル戦国時代」という呼称が生まれたが、ゆるめるモ!はアイドル戦国時代第一世代に影響を受けた第二世代と言われることがある。ゆるめるモ!Pの田家さんは、第一世代のシンボルと言えるももいろクローバーZに影響を受けていることを公言していることも踏まえ、順当な理解と思える。

 

ももクロからゆるめるモ!が受け継いだDNAの一つ、であると同時に僕が強く惹きつけられたエッセンスは、これまでアイドルに馴染みの薄かった、ともすればニッチなロック分野とのクロスオーヴァーにあったと思う(過去形なのは、現在もそうであるかは検証の余地があるから)。

 

実は僕のアイドル原体験もももクロだった。当時の僕は、過去の名盤を聴きあさりながらトレンドも追いかけるような、よくいる「音楽好き」の学生だった。ある日ボランティアで向かったある病院の病院祭的なイベントで、看護師さんが「行くぜっ!怪盗少女」の出し物を披露していた。読めない展開、情報過剰性、奇抜なパフォーマンスに度肝を抜かれて帰宅してから朝が明けるまでももクロの動画を見漁った。目を通すコンテンツ全て全てが自分のリテラシーにない新しいものだった。すでに『バトル アンド ロマンス』がリリースされており、すぐに手に入れた。COALTAR OF THE DEEPERSを愛聴していた自分にとってNARASAKIさんが楽曲提供してることは衝撃だった。アイドル×ロックのクロスオーバー感の原体験だったように思う。

 

僕とゆるめるモ!との出会いも、こうしたクロスオーバー性への興味に重なり、2013年リリースの『New Escape Underground!』がきっかけだった。タイトルの略称は「NEU!」で、ジャケットも忠実にジャーマンプログレバンドNEU!の名盤がトレースされ、収録された「SWEET ESCAPE」ももちろんNEU!をオマージュしている。ももクロが提示したクロスオーバー性を、さらにアンダーグラウンドに拡張しているように感じた。

 

 

ゆるめるモ!のライブに足を運び出したのは、音楽・カルチャー的な関心と地下・ライブアイドル的な関心が相半ばしていた時だったように思う。当時僕は就職で関西から上京したことをきっかけに、ずっとオンラインで追いかけていたさくら学院のライブに通っていた。いわゆるライブアイドル、地下アイドルにも関心はあり、大きなフェスなどには足を運びたくさんライブを見ていたが、「どこ行っているの?」と聞かれて答えられるような推しライブアイドルはいなかった。

 

そんなフワッとした関心でライブを見ていた僕にとって、(少なくとも当時の)ゆるめるモ!は、メンバーの個性が随所でむき出しで、いい意味でアイドルらしくないなという印象で、何か気になるグループに、既になっていた。音楽的関心からゆるめるモ!に興味を持った僕は、少しずつ彼女たちのライブを見たり、人柄に触れることによって、むき出しの人間性にどんどん惹かれていき、時期を待たずして「おまいつ」になっていた。

 

ゆるめるモ!は単に音楽好きだけを引き寄せた訳ではなかった。僕が彼女たちのむき出しの個性に惹かれたように、音楽が好きでも、メンバーが好きでも、もちろんグループの全てが好きでも、どんな応援の仕方も受け入れてくれるような現場だったように思う。

 

僕は30歳近くまでラップ、HIPHOPに馴染みのない生活をしてきたが、当時あのちゃんが「このHIPHOPいいよ」と教えてくれたミュージシャンがとてもよく、自分の音楽観が広がった。こんな別角度から文化的出会いがあることも、30歳を超えてくるとなかなかない。自分にとってゆるめるモ!は新しい発見の場でもあり続けていた。そのきっかけがメンバーであるということも、自分にとっては幸せなことだった。

 

また、アイドルファン、という趣味(僕は「生き様」であるとすら思っているが)は面白く、普通に生活をしているとまず交わらなかったであろう世代、生い立ち、生き方をしている人たちと、「ゆるめるモ!が好き!」という1点で、緊密なコミュニケーションが発生する。これが僕にはとても楽しかった。

 

当時いわゆる社畜生活をしている中で、唯一の楽しみや希望がゆるめるモ!のライブや、そこで仲良くなった仲間と騒いだり、くだらない会話をすることだった。本当に苦しい社畜生活だったので、ゆるめるモ!が存在しなかったら、もう生きていなかったのではとすら思う。コンテンツとして面白そうだなと惹かれて、いつの間にか自分の命を支えるほどの存在になっていたのが、僕にとってのゆるめるモ!なのだ。

 

その後色々あり、僕は楽曲ディレクターとしてアイドル運営を始めることになった。・・・・・・・・・(通称dotstokyo)という、とても変わったコンセプチュアルなアイドルグループだったが、楽曲レベルでは「いかにルーツを正統にトレースしつつアイドルポップスに昇華するか」という方法論が軸で、それはもちろんゆるめるモ!から継承した感性だった。・・・・・・・・・においてトレースするルーツの一つは「シューゲイザー」でそのDNAはRAYにも受け継がれている。

 

僕は今年でアイドル運営を始めて7年目に入る。今はプロデューサーという立場でRAYを運営し、ルーツトレースな方法論は自分のプロデュース感に生き続けているが、それ以外の形を模索しつつある、というのが今のRAYのフェーズでもある。受け取った感性を、ある種乗り越えようという気持ちがある。

 

ゆるめるモ!に多大な影響を受け、というかゆるめるモ!によって今日まで生かされたとすら言える僕にとって、今回のツーマンがどういう意味を持つかということを、書いてみました。

 

といいつつも、実はこんなこと本質ではなく、今RAYは新体制になり1周年近くなりライブパフォーマンスに脂が乗ってきており、一方僕が見ていた時代のゆるめるモ!とはメンバーは完全に入れ替わったものの、ゆるめるモ!も、フロアを沸かせる強力なライブを魅せるグループで、今ガッツリしたツーマンでバチバチに戦う意味がある、そんなイベントになるのではと思っていて、そのことが何より楽しみです。

 

長々と書きましたが、この日は僕云々ではなく、単純にお互い楽しい、最高のライブをお見せできるイベントになるはずなので、多くの方にお越しいただきたい気持ちです。

 

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7/2(日・夜)

RAY presents 「Relationship vol.2」

会場:大塚Heats Next

時間:OP/ST 1745/1815

料金:前/当 3000/3500(+1D)

出演:

RAY

ゆるめるモ!

※物販後21:10-両グループプロデューサーによるトークイベントあり(メンバーは出演しません)。トークイベントは「Relationship vol.2」に入場の方は無料、トークイベントだけ参加の方は500円(+1D)の入場料がかかります。

 

チケット予約開始5/25(木)22:30-

https://tiget.net/events/249314

 

17:45 OP(30)

18:15 ST/ゆるめるモ!(45)

19:00 RAY(45)

19:45 物販準備(5)

19:50 物販(80)

21:10 トーク(60)

 

2023/3/15-21の1週間、池部楽器のコンセプト店舗イケシブとRAYの共同企画「アイドル楽曲クリエイターの足元」が開催された。アイドル楽曲クリエイターの足元=エフェクターボードにフォーカスしつつ、アイドル楽曲制作の妙と機材の有機的関係を探る的なイベントで、エフェクターボードの展示、4回のトークイベントを中心に濃密な1週間を過ごした。キックオフ、クローズイベントではRAYの無料ライブも行った。

 

 

イケシブは「脱楽器店」をコンセプトとした池部楽器の新時代旗艦店で、ただ楽器を置くだけでなく、これまで楽器店と馴染みの薄かった異分野とコラボしつつ、ボーダレスな情報発信、新しい客層へのリーチを目指している。これまでの楽器店ではまず存在しなかった店舗内イベントスペースや配信スペースを中心に、楽器×?????なエンターテイメント展開をしている楽器店といえる。

 

一方でRAYはアイドル×?????の異分野融合をコンセプトの一つとしているアイドルグループで、これは楽曲レベルではもちろん、活動スタイルレベルでも積極的にライブアイドルシーンに閉じない動きを画策していく思いが込められている。

 

これまでアイドルに馴染みのなかった楽器店ユーザーにRAYを知ってもらいたい、逆に、これまで楽器店に馴染みのなかったアイドルファンに楽器店に足を運んでもらいたい、そうした双方の思いが重なり実現した企画だった。

 

 

 

画像の通り、相当に気合を入れてイケシブ側が挑んでくれたことが一目してわかる。ただ機材展示するだけでなく楽器を持ったメンバーパネルの展示でRAYとコラボする意味も持たせてくれた。エフェクターボードの展示はよく分からなくても何か楽しい、とはいうものの、やっぱりよく分からないものなのでそれを補填する企画が4回のトークイベントだったとも言える。

 

トークイベントについては楽器に詳しい人にも詳しくない人にも楽しめるような粒度の内容にする必要があると、当初からイケシブとは話していた。コントロールが難しい話題、かつ司会として適任と思う外部の人も思いつかないので、自分が引き受けた。エフェクターボードにはその人の人柄や音楽観が宿ると思っていて、音楽遍歴、音楽観などから少し遠回りしつつエフェクターボードの解説、実演へ繋げ、誰にでも、少しでも面白いと思ってもらえるような台本を整えた。全く得意な役回りではないので至らない点も多々あったものの、登壇者が皆魅力ある話題を展開してくださったこともあり、音楽機材への抵抗感、ハードルを下げるトークをできていたのでは、できていればいいなと思っている。どの登壇者からも「音楽は自由」というマインドを受け取れたことも良かった、音楽や楽器の演奏は、肩肘はらず、自由にやっていいものだ。

 

一連の企画はRAYメンバーも積極的に関わった。キックオフ/クローズイベントでの無料ライブ、トークイベントへの登壇、トークイベント後のレジ打ちイベントなど。RAYとコラボする意味を持たせたかったのはもちろん、RAYメンバーの参加が楽器店や楽器とのハードルを下げるきっかけになればいいなという思い、RAYメンバーもエフェクターはじめ楽器に明るいわけではないので一線のクリエイターと会話する中で彼女たちにとっても楽器や機材が身近になる経験になればいいといった思いからきている。

 

 

 

双方手探りでとても大変なイベントではあったが、総体として双方にプラスの結果が得られたと思う。僕はライブアイドルはいわゆるアイドル界隈に閉じない動きをどれだけ作れるかが今後成長や生き残りのキモになると思っている。アイドルカルチャーに敬意や思い入れがあるからこそカルチャーを大事にしたいが、それを守るためには、違った動きをしていかないといけないと思っている。アイドルグループの成長の形、青写真、方法論を僕は知らない、武道館の次を誰も描けていない、その先の轍を切り開いて行きたく、今回のイケシブ企画は、RAYとRAYメンバーにとって大きな経験値を積めたと思っている。

 

アイドル楽曲クリエイターは、自分のオリジナルワークス(バンド)を名刺がわりに持ちながら、それを生み出す能力値で別の仕事を生み出しているが、アイドルにもそういうやり方が定着してもいいのではとも思った。例えばRAYであれば、もちろんRAYとしてのグループ活動に注力しつつ、「RAYとコラボすることでこんな企画ができます」という能力値で仕事を取ってくるような。アイドルと企業のコラボというと「アイドル」という肩書きやブランド力を貸すだけの形が普通だが、そうではなくもっと有機的、生産的、クリエイティブなコラボのイメージ。そんな新しい方法論も切り開いて行きたい。

 

RAYとのコラボで御社に刺激的な企画をご提供します。仕事の依頼お待ちしています。

 

最後に、企画に関わってくださった全てのイケシブのスタッフさん、皆様の熱意、誠意、実行力の全てに感謝いたします。