7/30新宿ロフトでRAY主催・メンバーの内山結愛が制作の一切を執り仕切るバンド対バンが開催された。RAYは音楽に力を入れているアイドルグループで(そんなことはどんなアイドルグループでも言えることではあるが)、その中でも一際音楽に対する思い入れの強いメンバーである内山結愛がイベント制作に携わった。アイドル本人がブッキングすることは珍しくないものの、今回の制作は単なる見かけ上ではなく本質的に内山が深くコミットしていたこと、バンド対バンであること、イベントを終え少なくともRAYのプロデューサーである僕にとってかなりの発見や学び、感動があったことを踏まえ、誰かの参考になるかもしれないと残す備忘録です。

 

【イベント概要】

7/30(日・夜)

RAY presents directed by 内山結愛

「tie in reaction」

会場:新宿LOFT

時間:OP/ST 1530/1600

料金:前/当 3500円/4000円(+1D)

出演:

RAY

DOVVNTIME (吉田一郎不可触世界, SEI NAGAHATA)

柳瀬二郎(betcover‼)

JYOCHO

the pullovers

mekakushe

downt

 

特設サイト:https://ray556.wixsite.com/mysite

 

【導入】

内山は週一ペースで世に名盤と言われるアルバムの全曲レビューを続けている(https://note.com/__yuuaself__/)。元々はDJをする機会が何度かありせっかくなのでその当時から興味の対象だった音楽にしっかり踏み込んでみようという動機から始まったレビューだ。加えて週一では飽き足らずTwitterでは「#内山結愛一日一アルバム」ハッシュタグにて2年間に渡り毎日作品レビューを継続している。

 

RAYにはメンバー個人の自主性や関心、興味を積極的にフォローするコンセプトが存在する。内山は「音楽に関わり続ける人生」を個人テーマにしていて、今回についても彼女の音楽人生をフォローする目的があった。アイドルとしてステージで音楽を表現する、日々のレビューを通して音楽に触れ、言葉にする、その次は?という時、本人と相談し「音楽で人と人を繋ぐ」という観点が生まれ、今回の制作に至る。

 

運営が7/30の新宿LOFTを押さえ、問答無用で「ここがあなたの初制作の会場、日程です」と内山に伝えた。その意味で今回の制作は会場押さえ以降の制作ということにはなる。初めてのイベント制作で日曜の新宿LOFT終日はとても高いハードルだが、内山ならなんとかできる確信があった(気がする)。

 

【前作業】

内山は今年大学を卒業した22歳で、いわゆる社会人経験はなく、7年間学業とアイドルに打ち込んできた。彼女は「アイドル活動を終えた時世間知らずのまま社会に出たくない」としばしば口にしており、セカンドキャリア問題が常に脳裏にある運営としても、今回の制作を社会経験の一つにしたい思いがあった。

 

まず最初にGoogleスプレッドシートの使い方を学んだ。イベント制作ではタイムテーブル、予算計算、進捗管理などあらゆるシーンでスプレッドシートを使う(Excelよりも共有効率が良いので重宝される)。今回は新宿LOFTでのイベントということで相応の出演者になると見越し、先方に失礼のないよう、またアイドルだからとナメられないようにする意味も含め、「ちゃんとしていること」を目指した。せっかくなのでその様子をTwicasで配信もした(https://twitcasting.tv/_ray_world/movie/756926300)。

 

次に、Google docsでイベントの概要書を作成するよう依頼した。日時、イベントタイトル、お誘い候補等いわゆる概要に加え、自分がどういう人間であるか、なぜイベント制作をするのか、「思い」を明記するように伝えた。アイドルグループのいちメンバーからの単なる「出てください」というオファーでは思いが届きにくいであろうこと、事実この制作は彼女の強い音楽愛に裏打ちされたものなのでその思いでぶつかっていくことが大事と考えたこと、またその過程で自分の思いや思考も改めて整理されるであろうことなどが目的だった。

 

【ブッキング開始】

ブッキング作業の初手は、ブッキング候補の洗い出しから始まる。候補選定には運営は一切関与しておらず、全て内山の選定だった。内山が候補を洗い出した上で、動員予想や出演料、彼女の思い、損益ライン等のバランスを相談するところから運営は関与した。相談した上でオファー決定の最終判断は彼女に委ねた。半年前からブッキング開始は気が早いように思うが、バンドはアイドルとスケジュール感が全く違い半年先のオファーも珍しくない。また初めてである事を踏まえると、今振り返ってもこのタイミングでスタートしていないと危なかったように思う。

 

次はオファーメールの作成。内山はいわゆるビジネスメールを送ったことがなかったため、まずネットで調べるなりして自分なりに書いてみて、というところから始めた。当然、ボロボロだったのでかなり赤入れをした。イベントは固定出演料、最低保証&チケットバック、チケットバックのみ等、バンドによって出演条件がさまざま異なること、その上でこちらからどのように条件提示をすればいいか、署名の書き方等教えた。

 

メール連絡用に内山の仕事用Googleアカウントを開設した。自分の責任で発信する目的と、アイドルという職業の特性上運営が常に連絡状況を確認する必要があることからだ。「アイドルがブッキングする=アイドル本人が連絡する」という所作でファンの方が心配するような事態は全く起こらず、むしろ内山のことを知ってくれていて光栄だと書かれていたり、出れなくても労いの言葉が書かれていたり、誠実なやりとりがほとんどだった。これは彼女の日頃の音楽発信が誠実であることの結果でもある。

 

ブッキングはオファーを送って終わりではなく、教わっていない相談ややりとりが継続する。出演OKが出た後は、タイムテーブルの調整、情報解禁連絡、セット図・セットリストの提出依頼など当日まで調整・連絡が必要で、また今回は気合の入った特設サイトで内山による出演者紹介文掲載、対談文の掲載などもあり、全てのやり取りが初めてな状況で、複雑な調整・連絡が続いた。その都度、自分でできる返事は自分で回答し、分からない、調整が必要な返事は運営と相談しつつ進めた。様々な理由で辞退連絡があり、また返信のない場合も多々あり、その都度次の候補者選定、オファーを繰り返していった。

 

【特設サイト開設】

イベント特設サイトを開設した(https://ray556.wixsite.com/mysite)。なぜこの組み合わせなのかお客さんが腑に落ちたり、先方ファンが当方を、当方ファンが先方を知るきっかけを作ること、今対バンイベントは有機的な繋がりを生成することが大事と感じていて、今回のバンド対バンに限らず、現在RAYが強く意識しているポイントでもある。バンドとアイドルの共演は珍しくなくなったが、なぜこの組み合わせなのか、どういうバンドなのか不透明なイベントがほとんどで、そうしたウィークポイントを克服しようとした。できることは全てやる、がこのイベント制作の合言葉でもあった。

 

内山は音楽を言葉にする力を育んできたことに加え、ここしばらくは会話形式の仕事の機会も増え、この経験が内山自身による出演者紹介、対談記事掲載に繋がっている。この経験がなければもっと薄い内容になっていたように思う。

 

サイトのアクセス数、新コンテンツ公開ツイートのインプレッション数等からはシビアな数字が出ていたが、サイトを通じてRAYの音楽をはじめて聞いた、サイトに主催の本気度を感じて関心を持ったといった反応もいくらかあった。特設サイトには当然コストが発生し決して軽くない施策なので今後実施するかは要検討ではあるものの、何せよやってみないと分からない試みだったので、結果的には良いチャレンジだったと思っている。

 

【途中経過】

ブッキングが進み形になってくると、第一弾告知、プレイガイド手配が始まる。告知画像の参考になるようなフライヤーを収集して素材と共にフライヤー作成を依頼、券売タイミング・情報解禁タイミングを調整してプレイガイドの仕込み依頼、確定出演者への告知解禁連絡等、運営と相談はしつつ全て内山が主導した。

 

その後ブッキングが進む度に第二弾、第三弾出演者と発表し(その度に告知画像・特設サイトの最新化、解禁タイミングの検討、出演者への情報共有が必要)、特設サイトについては紹介文の執筆・掲載・公開、対談記事については台本作成、先方とのスケジュール調整、zoomで実施したためその準備、運営がzoom帯同するので運営との調整、そしてもちろん対談自体の進行と暇なく作業は続いた。この辺りからスケジュールが複雑になってきたため、管理シートを作り全イベントのスケジュールを可視化した。

 

これらをいわゆるアイドル活動を十全にこなしつつ、週一レビュー、日々レビュー等を止めることなく並行して継続しているので、彼女は化け物だと思う。

 

【最終追い込み】

適宜券売状況を確認しつつ、より効果的なPR方法はないかと日々運営と相談、実践した。イベント全容が確定して以降は、ひたすらイベントの宣伝である。今回の制作ではクリアな予算収支表を作成していたので、チケット券売数と損益ラインが一目でわかるようになっていた。運営から当然損益ラインを意識するよう伝えてはいたため、責任感の強い彼女は動員と収支を強く意識していたが、彼女の真摯な挑み方をみていて、また彼女のキャリアのために必要な投資であるという意味も込めて、本人には言わないようにしていたが実はそれほど気にしてはいなかった。

 

【当日】

制作は当日撤収まで続く。誰より早く会場入りし、楽屋や機材置き場等会場状況のチェック、進行表の貼り出し、入りやリハのアテンド、本番中もイベントの進行状況を確認して各出演者に押し状況など伝達、ゲスト挨拶、終演後は楽屋の片付け状況、忘れ物などをチェックし、最後に退出する。加えて自分も出演するので合間を縫って準備を進める。当日を終えて以降は精算やお礼の連絡が待っている。そして1/27に第2回制作イベントが発表されたので、彼女の制作は休む暇もなくまた始まる。

 

【運営としての所感】

座組みを見て単純にいい組み合わせだと思っていたが、実際蓋を開けてみると想像を遥かに上回る素晴らしいイベントだった。個人的に全組初見のバンドで、全てのステージに新しい出会い、発見があり、これは運営に忖度せず内山が感性でブッキングしたことの大きな効果だったように思う。中でも柳瀬二郎さんの弾き語りは圧巻で、奥底から魂が揺さぶられた。久々に化け物に出会ってしまった。個人的にはこの出会いだけでも十分な意味があったが、話題のバンド、サブスクでいいなと思っていたバンドも見ることができ、おそらくライブの迫力がすごいと予想していたDOVVNTIMEはやはりライブの破壊力がすごくライブハウスで見る意味があった。お客さん、音楽関係者からも軒並み好反応で、この感想は多くの来場者に共通していたように思う。本番中、ロビーで時間を潰している人をほぼ見かけなかった、要するにほとんどの人が全出演者をしっかり見ていたということだ(再入場可にしていたのもあるが)。

 

おそらく「内山結愛が一生懸命制作したイベントだから」と応援を込めて来場してくれた方も多かったはずだ。外からはアイドルという下駄をはかされた企画にも見えてしまうだろうことは承知していたが、実態として(運営がサポートしてはいても)彼女が制作したと胸を張って言える進行だったし、何よりイベントを実際に見て、下駄云々を言う人はまずいないだろうと思った。それくらい素晴らしい内容だった。

 

印象に残っているのでは「ジャンルがバラバラだけどいいイベント」「異種格闘技戦」といった言葉を何度も耳にしたことだ。バンドの中にアイドルが一組紛れ込んでいる点を加味しても、僕としては(そしておそらく内山としても)かなり意外な感想だった。今回の出演者は全て「内山自身がいいと思うバンド、RAY・内山結愛の企画でお客さんに届ける意味のあるバンド」という意味で一貫している。これは僕が制作を間近で見続け、彼女の音楽との付き合い方や趣味趣向をよく理解していることで明確に見えていたロジックではある。あるいはこのロジックが一貫していたからこそ、結果的にいいイベントになったのだとも言える。もう一点、RAYは「異分野融合」を楽曲コンセプトにしており楽曲バリエーションが雑多で、雑居状態をRAYというアイコンでどうまとめるかがキモになるグループだ。ある種日々グループで実践してきたインテグレーションな発想が、彼女の制作でも無意識に反映されていた可能性がある。自分達が慣れきってしまっていたこうしたごった煮感が多くの人の印象になっているということは、RAYや内山結愛にできることがまだまだあるという証拠でもある。掻き回すことができるグループとして、掻き回した先にブルーオーシャンがありえる感覚を持った。

 

【最後に】

アイドル主催のバンド対バンは簡単ではない。最たる理由は、知名度と動員のバランスがアイドルにおけるそれとかなり違う、はっきり言うと動員が見込みにくいということにある(念の為、これはバンドへの苦言でもなんでもないです)。言い換えると出演料が安く、動員も見込みやすいアイドル対バンの方が、当たり前だがコストパフォーマンスが良い。なのでバンド対バンへのチャレンジは、グループの方向性、ブランディング、リーチターゲットなどとの相談になる。

 

今回の企画は「ソロ性を鍛える」というRAYのコンセプト、彼女がこれまで積み重ねてきたアイドル的・音楽的実績・感性、強い思い、それら総合して彼女にとってもグループにとっても良いブランディングにだろう予想、最終的に彼女なら全てうまくやりきってくれるだろう楽観視、そしてこれはとても大事だがRAYは数あるアイドルグループの中でも極めてバンドとの相性が良いグループであること、それ故にバンド界隈にも積極的にリーチしようとしている段階であること等、さまざまな要素が組み合わさって実現した。それ故、他アイドルグループが同じことをやろうとしても条件が揃わない可能性があり、かつ収支もかなりシビアなので、簡単におすすめできる企画ではないと思っている。メンバーが制作するという場合、ここまでできるメンバーはそうそういないだろうという点も加えておく。

 

総評としてRAYと内山にとってはとても意味がある、そして何度も強調するが素晴らしいイベントだった。手前味噌だが、半年間の頑張りとイベントの成功に、心からのねぎらいの言葉と拍手を送りたい。