前回記載したエネルギー収支の数値ですが、例えば「100」と書いてあったら、それは「エネルギーの投入量1に対して100のエネルギーが生産される」という意味です。

昔の油田は本当に「掘り出し物」だったわけです。

この「掘り出し物」度が次第に下がってきているらしいことがピークオイル論者によって指摘されています。日経の記事は「ピークオイル論者が主張している」という部分を除いて、このことを書いています。

さて、話をエタノールに戻しましょう。「バイオエタノールのエネルギー収支はどのくらいか? 果たして石油の代替物として、開発する意味があるのか?」という問題です。

で、元々の話題 - エネルギー収支 - に戻ります。

7月2日(日)日本経済新聞31ページの記事では、エネルギー源の種類ごとに「エネルギー収支」の数値が載っています。

記事をご覧いただければお分かりいただけることですが、ここに列記します。

(1)アメリカで1940年代に発見された油田・天然ガス田
⇒ 100 或いはそれ以上 - "Oil Bonanza"

(2)アメリカで1950年代に発見された油田・天然ガス田
⇒ 80程度(!!)

(3)アメリカで1970年代に発見された油田・天然ガス田
⇒ 30程度(それでもすごい!)

(4)オイルシェール(油母頁岩)
⇒ 0.7~13.3

(5)石炭液化
⇒ 0.5~8.2

(6)さとうきびからエタノールを生産する場合
⇒ 0.8~1.7

(7)とうもろこしからエタノールを生産する場合
⇒ 1.3

(8)原子力発電所(アメリカ)
⇒ 4

"Asia Biofuels Conference & Expo IV" という催し物が今年の10月10、11、12日に北京で行われるそうです。

http://www.asiabiofuels.com/pagedetail.cfm?iConferencesConferencesNavigationID=34

去年の12月に開催された第3回の日程を見てみると、

1日目: エタノール分科会

2日目: バイオディーゼル分科会
     国際バイオフュエル協会主催会議

3日目: 講演の嵐と討論会

4日目: 講演の嵐と討論会

読んでくださっている方にもしバイオマス燃料を仕事にされている方がいらしたら、出席される価値があるかもしれません。

原料の話から優遇税制の話まで、色々な話題が出てくるようです。

10月の北京は気候は素晴らしいですが、中国の旅行シーズンですので、ホテルの手配が結構大変だと思います。

AgricultureOnline 7月24日記事 "Ethanol: Putting the 'corn' back in Corn Belt"
http://www.agriculture.com/ag/story.jhtml?storyid=templatedata/ag/story/data/1153769952596.xmlcatref=ag1001

"Corn Belt" は、アメリカ中西部の「とうもろこし大生産地帯」のことです。世界最大級の穀倉地帯です。インディアナ、オハイオ、イリノイ、ミズーリ、アイオワなどの各州がこの地域に含まれます。

とうもろこしの作付け面積が増えてきているとこの記事は報じているわけですが、こういう現状・予想も報じています。

(1) 現在は、とうもろこし作付面積と大豆作付面積が拮抗している。

(2) このまま行くと4年後の2010年には、コーンベルト地帯のとうもろこし作付け面積が拡大する一方で大豆作付け面積は減少し、「とうもろこし:大豆 = 54:46」となるだろう。

(3) とうもろこし作付け面積がこれだけ増加しても、エタノール需要増加のため、とうもろこし価格は更に上がるだろう。

(4) とうもろこしからのバイオエタノール生産は過去4年間に倍になった。今後4年間で更に倍になるだろう。

(5) 重大な問い: 将来旱魃(かんばつ)が起こったら、どうなるか?

我々は主にアメリカから輸入されたとうもろこしを食べて育った牛や豚を食べています。

アメリカ中西部のために、雨乞いしますか。

7月23日(日)日経7ページに載っていた記事のもっと詳しい内容が、7月25日(火)日刊工業新聞13ページに載っていました。

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[要旨]

1.政治的背景:

1.1 5月にアブドラ首相が来日した折にバイオディーゼルを両国間最優先課題として推進したい旨を示したのを踏まえ、NEDOが公募形式で補助事業を展開。

1.2 アブドラ首相来日時、新日石・トヨタが産業界を代表して同首相に技術開発状況を説明した経緯あり。

http://ameblo.jp/mattmicky1/entry-10014454214.html#cbox で少し述べました。

2.技術開発の状況:

2.1 「パーム油と軽油を混合減圧して水素化分解し、パーム油留分の大半を軽油化する技術」を開発した。パーム油を灯油・軽油に高効率で転換できるようになった。

2.2 これまでの試験は「軽油80%+パーム油20%の混合物」に対して行ってきた。今後は「100%パーム油」水素化分解の実証試験に入る。

2.3 製造コストは、脂肪酸メチルエステル化(最も一般的なバイオディーゼル製造法)と比べ「それほど高くならない」。

3.事業内容:

3.1 NEDOが東南アジアにおいてバイオディーゼル実証事業を計画している。この事業計画の公募として、今回の両社による事業を行う。

3.2 新日本石油が100%パーム油を原料とするプラントをマレーシアに建設。2009年度に稼動。

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日刊工業新聞の見解として、「(日本への)大量輸入に道が開ける」とありました。

ということは、#40と考え合わせると、「日本で自動車の給油口に入れるため、日本人の口に入る食用油が減る」という現象に少なくとも一部加担するのかもしれません。

まあ、燃料が手に入ることそれ自体は結構なことですし、carbon neutral であることも悪い話ではないとは思いますが。

Ethanol Fuel Now 7月21日記事 "Malaysia and Indonesia Set Aside 40% of Palm Oil Crop for Biodiesel Production"
http://ethanolfuelnow.com/ethanol-fuel-news/latest/malaysia-and-indonesia-set-aside-40-of-palm-oil-crop-for-biodiesel-production/

記事によると、この両国で世界のパーム油生産の85%を占めるそうです。その85%の40% ・・・ 単純に考えると全世界生産量の約3分の1をバイオディーゼル生産にまわすというわけです。

この急激なバイオディーゼル生産への傾斜、いったいどうしたのでしょうか。

両国の油田が枯渇しつつあるのでしょうか。

パーム油の用途はバイオディーゼルだけではありません。従来の用途は、

・石鹸の原料
・軟膏の原料
・化粧品の原料
・洗剤の原料
・機械用潤滑油の原料
・食用油
・マーガリン

などなど。

3分の1も燃料にまわるということは、上記の品が値上がりするということだと思います。

石鹸くらいは買い置きしときますか。

エタノール、ブタノール、バイオディーゼルについて書いてきていますが、他に以下の2つも、樹木の木質などバイオマスを一旦合成ガス(一酸化炭素と水素の混合気体)に変換すれば、その合成ガスから製造可能だと最近知りました。

(1) メタノール

(2) DME(ジメチルエーテル)

メタノールは有毒ですので、自動車用燃料として社会で広く使うのは危険だと私は思いますが(F1など、レーシングカーには使われています)、DMEは毒性が無いので、ガソリンの代替物として使えるかもしれません。

DMEは常温では気体です。圧力をかけて液体にします。プロパンガスと同じです。

バイオマス・ニッポン ウェブサイト より
http://www.maff.go.jp/biomass/dpt/01/index.html

先月、農林水産省に液体燃料利用の推進本部が発足しました。

まだ1回会議をしただけですので、まだまだこれからですが、とにかく国策となったことは明白になったと思います。

少し古い記事ですが...

Ethanol Fuel Now 6月5日 "US Ethanol Production in 2006 Will Consume More Than 20% of Total Corn Production"
http://ethanolfuelnow.com/ethanol-fuel-news/latest/us-ethanol-production-in-2006-will-consume-more-than-20-of-total-corn-production/

エタノール用と食用と飼料用とで、とうもろこしの品種が違うそうですが、とりあえずそれを無視して量だけ考えると、

(1) 2006~2007年の全米生産量予測:
⇒ 105億5000万ブッシェル

(2) 2006~20007年のエタノール原料としての消費量予測:
⇒ 21億5000万ブッシェル(生産量の約20%)

FAOの統計を調べてみたことがあります。

それを見ると、アメリカのとうもろこし生産量に対して輸出量の比率は、1991年~2004年の14年間で、平均20%(最大32%、最小14%)です。

ということは、アメリカ国内でエタノール生産にまわるとうもろこしの量と輸出にまわるとうもろこしの量と拮抗してくる、ということです。

んー。やっぱり、「人の口か、車の給油口か」が、重大な問題となりそうな気がします。