今後新規に油田を発見・採掘するには、投入するエネルギーが増大してエネルギー収支が悪化しそうであることを、前回は書きました。

問題はそれだけではありません。

「一般に、巨大な油層ほど発見・採掘は簡単である」

「人間は簡単に採掘できる資源 - 優良な資源 - から先に使ってしまう」

ということも重大な問題です。

巨大な油層は、地下ならどこにでもあるかというと、どうもそうではなさそうだということが大体分かっています。

・地層が褶曲して盛り上がっている(背斜構造)

・盛り上がったところに岩塩層などの「油を通さない地層」が存在し、石油の上昇を阻んでいる

こういう地下構造のある場所だけに油層があるのだそうです。

これが大規模に存在するのが中東やメキシコ湾や北海だというわけです。

油を通さない地層が存在しないと、(軽い液体・気体成分が上へ上がってしまい)重い成分のみ残ることがあるそうです。カナダやベネズエラのタールサンドはそういう存在なのだと思いますが、こういう油は残念ながら利用価値が低いです。ガソリンや軽油やジェット燃料はあまり採れませんし、無理やり採ろうと思ったらエネルギーをたっぷり投入して分解してやらないといけません。ますます「精製後手元に残る使える油」が少なくなります。

さて、「大規模な油層は地殻の限られた場所にしか存在しない」ということを考えますと、また、「大きくて発見・採掘しやすいのはすぐ人間は使ってしまう」ということを考えますと、

「今後大規模な油田を20世紀前半のように調子よく発見できる可能性は低い」

という推定が可能です。

また、

「油層からの油の回収率を大幅に上げる」

のは、石油の減産を補うには不十分、といことは前述しました。

付け加えますと、油層から油の回収率を上げる手法 - EOR (enhanced oil recovery) - は、それ自体エネルギーを消費します。これもエネルギー収支悪化要因です。

ピークオイル論者はこういう考え方に立脚しています。

ピークオイル論者の見解 - 今後人類が手にすることのできる化石燃料エネルギーのネット量は減少していく - という見解 - それもおそらくは比較的早期 - 10年以内 - に、私は賛成しています。

2000年代にはいってから、北海油田、メキシコで産油量が減少し始めています。

インドネシアは1970年代に、マレーシアは2000年代に入ってからピークを迎えています。

旧ソ連は1987年がピークでした。旧ソ連・東欧の崩壊は、石油生産減少が直接の引き金になったもの、という見解があるくらいです。共産政権崩壊後しばらくしてから生産量が再度増加していますが、80年代の最盛期レベルには達していません。

中東は全体としてこのところ生産量が横ばいです。

これらの地域の巨大油田・大型油田は、ほとんどの場合、1960年代末までに発見されている油田です。中東の巨大油田は新しいもので40歳程度、主力は60歳近いです。

公表されている埋蔵量データがどれだけ信頼できるか評価するのが難しいので、正確なことはなかなか言えないのですが、過去の油田が生産量ピークに達するまでに20~50年くらいで達していることが多いことを考えると、このまま新規の巨大油田が発見されないままだと、世界全体としてこれ以上の生産量増加がかなり難しくなってきている可能性を考慮せざるを得ないと私は考えています。

これから石油の埋蔵を新規に発見できそうな地域の最有力は北極海だと私は思います。その次は世界各地の(1000m超の)深海底。サハラ以南アフリカもそこそこ有望だと思います。

こういった地域は、どこも「これまでそれほど探索が進んでいない場所」です。次に大きいのが見つかるとしたら、こういった場所 - 気象条件・自然環境・政治的不安定さなどの理由で探査・採掘の難易度がうんと上がる場所 - になりそうなわけです。

あと、あまり言いたくないですが、南極も有望なのかもしれません。もっと自然条件が厳しそうですね。

自然環境の厳しい地域で探査・採掘すると、金もかかりますが、それだけでなくエネルギーもたくさん投入しなければならなくなります。自然条件が楽な地域では必要なかった設備が必要になるからです。

そうするとエネルギー収支が悪化するわけです。全体として、「石油は採れることは採れるけれども、手元に残る量は少なくなる」傾向がでてきます。

エネルギー収支の概念については、ブログテーマ「エネルギー収支」に投稿しつつありますので、そちらを参照してください。

(1) 今後巨大な埋蔵量を新規に発見できるか?

(2) 既存の油田の回収率を劇的に(例えば従来の2倍にまで)上げることができるか?

(3) 上記の2つの少なくとも片方を、比較的少ないエネルギーの投入量で(良好なエネルギー収支で)成し遂げることができるか?

色々調べた結果、これらを実現できる可能性はかなり低そうだ、という側に私は傾いています。

「ハバートのピーク」が最初に観測された地域はアメリカです。アメリカの生産量は1970年が最大でした。その後アラスカの新規油田を加えても生産量は減少し続けています。

油田からの回収率を上げる努力 - EOR (enhanced oil recovery) - 炭酸ガスなどを圧力をかけて油層に注入し、油層の圧力を上げて油が地上に出てくるよう仕向ける技法 - アメリカでは1950年代から始まっています - も生産量低減傾向を打ち破るには至っていません。

回収率をある程度上げることは出来ても、長期的に生産量の減少を止めることはできるほどには増産できない、と経験則が教えてくれているわけです。

長期的に生産量を増やし続けるには、「既存の油田の生産量減少を補って余りある生産力を持つ新規油田を次から次へと見つけ続けなければならない」のです。

今度は、「ハバートのピーク」についてです。

昨年の1月に本を読んだ際に「ハバートのピーク」について初めて知ったことは、#29で前述しました。

それ以来自分なりに調べてきましたが、しばらくは「さあ、どうなんだろうか?」という感じでした。

しかし、調べているうちに、どうも本当に危ないのではないか?という危機感は少しずつ出来てきていたと思います。

その理由は、1970年代に入ってから新規の巨大油田発見がほとんど無くなっていることです。一方で石油の需要は増え続けているということです。これは石油楽観論者も認めていることです。

過去に発見した埋蔵量を食いつぶしているわけです。それを認めた上で、楽観論者は「今後新規発見が大幅に増える。だから、既存油田の産出量減少を補ってなおかつ中印米を中心とした需要の増加に追いつける」と前提しているわけです。

さて、そうすると問題は、

・今後巨大な埋蔵量を新規に発見できるか?

・既存の油田の回収率を劇的に(例えば従来の2倍も)上げることができるか?

・上記の2つの少なくとも片方を、比較的少ないエネルギーの投入量で(良好なエネルギー収支で)成し遂げることができるか?

の3つに絞られてきます。

面白いベンチャー企業を発見しました。

http://www.greenfuelonline.com/index.html

工場や発電所などで排気が出ますが、その中に含まれている二酸化炭素を藻類に吸収させ、その藻類からバイオディーゼルやバイオエタノールを得ようというのです。

藻類の中には、脂肪や澱粉を蓄えるものがあるのだそうです。

採算が合うのか、日光以外にどのくらいどんなエネルギーを投入しなければならないのか、まだよく分かりませんが、面白い試みだと思います。

#50では、「海に二酸化炭素が溶け込んで、大気中の二酸化炭素濃度上昇が緩和され地球温暖化による悪影響も緩和されている可能性がある」ということが、地球温暖化対策を政策として実施することに賛成することから私を遠ざけている、という内容のことを書きました。

私のこの態度に変化を与えるかもしれないニュースを最近目にしました。「人間の経済活動によって放出された二酸化炭素が海に溶け、海水中の炭酸が増加して海水のpHが酸性化しつつあると推定される」というのです。

「あさりの殻が最近薄くなった」という報道や「最近の魚はどうも背骨が軟らかいんだよね」などと板さんがTVでインタビューに答えているのを見たことはありませんので、今すぐどうのということはなさそうですが、長期的には海洋生態系に影響するのかもしれません。

もしそうだとすると、我々魚食民族としては困ります。

残念ながら、「毎年どのくらいの二酸化炭素が海水に溶け込んで、どのくらい時間が経過すると、海水のpHがこのくらいになって...」という定量的な議論をまだ見ていません。これについてはっきりした態度を今のところ私は決められないでいます。

私の把握している範囲で言うと、地球温暖化論者は以下のような問題を抱えています。

・そもそも、過去の気候変動が何によるのか解明されたとはまだ言えない、と考える。過去数万年~数十万年程度の期間の間において最近200年間の大気温上昇が大きすぎるというが、太陽系・地球が誕生してからの期間の長さを考えると、対象期間が短すぎる。

・恐竜がいた時期に地球が現在よりも暖かかったらしいことがある程度分かっている。そういう時期から比べると現在まで気温は下がっている。またその間にも上がったり下がったりしている。人間が活動していなかった時期でも大きく上げ下げしてきていると推定されている。そういうことからもここ200年の温暖化傾向に人間が排出した二酸化炭素がどのくらい貢献しているのか、人間の活動以外の要因が大きいのか、についてまだ断定できるわけではない。

および、

・ある期間内において人間が排出したであろうと推定される二酸化炭素量と、実際に大気中の濃度を測定して推定されるところの二酸化炭素増加量とが、一致しない。前者が多い。

もし地球温暖化論者が正しいとすると、「どこかへ消えてしまった二酸化炭素があるが、それはどうなったんだ?」というわけです。

この「どこかへ消えてしまう二酸化炭素」は、今のところ「海へ吸収されている」と推定されています。

従って、

「じゃあ、二酸化炭素をあまりに大量に放出したら深刻な温暖化が起こって生態系と人間の活動に悪影響を与えると仮定するとしても、海が吸収して悪影響を緩和してくれるかもしれないんだね?」

と私は言いたくなります。

今のところ、私の思考はここで止まっています。

私の意見を別の言葉で言い直すと、

「温暖化論者は人間中心に物を見過ぎている。太陽活動や地球の公転・自転は人間の活動とは関係なく行われている。別に人間様のために太陽の中心で核融合反応がおこったり地球が回ったりしているわけではない。人間の存在なんか関知せずにおこっている。おまけにその自然のメカニズムを細部まで人間が全て知っているわけでもない。人間の力によって温暖化している可能性が無いとは言わないが、そんな簡単に結論できるのだろうか?」

ということです。

お断りしておきますが、「人間活動によって温暖化が起こっている可能性が無い」と思っているわけではありません。「温暖化防止を具体的な政策目標とできるほど、我々は地球や宇宙のことを分かっているとは言えないのではないだろうか?」と私が思っているということです。

まず地球温暖化について、私の態度を述べましょう。

「人間の経済活動が原因で地球が温暖化しており生態系と人間社会に悪影響を与えるから、大気中へ二酸化炭素を排出する量を減らす具体的な政策を何らか採るべきか?」

と問われたら、

(1) 二酸化炭素の人為的排出によって温暖化が進行し、それが人類と生態系に悪影響をもたらす可能性があるかもしれないことは否定はしない。

(2) が、今のところ温暖化防止を目的として何らかの対策を採るべきかどうか私にはよく分からない。自然な気候変動は地球温暖化論者が考えている以上に大きなものなのかもしれないからだ。もしそうだとしたら、人間が温暖化を防止しようと努力したところで無駄な努力ということになる。その場合は、「不可避の温暖化による被害を免れる人間のための領域」を造ることに全力をあげるべきだということになるだろう。(例えば、全ての農産物を工場で生産するとか...)

(3) 一方、二酸化炭素排出量を削減する努力は省エネ化と密接に関連しており、省エネ化は経済活動の効率を上げることが多い。省エネ推進を目的とする政策を採用して結果的に二酸化炭素排出量を削減することには一般論としては賛成する。

と私は答えます。

読んでくださっている方が少しずつ増えつつあるようですので、食糧需給以外の関連分野について、私がどういう態度をとっているか述べておこうと思います。

このブログの一番上には、ブログのタイトル(題)があります。

その下に副題があります。

この副題には、「バイオマス燃料開発・代替エネルギー開発」を話題にすると関連してよく出て来そうな語彙を並べてあります。サーチエンジンでひっかかりやすくするよう、意識しているわけです。

例えば、もしも「植物の細胞壁を原料にしてエタノールを製造する」ことが世間一般の人々の意識に上るようになったと私が思ったら、そのときは「セルロース」を副題に含めようと思っています。

で、副題に含まれている以下の2つについて述べておきたいと思います。

・地球温暖化
・ハバートのピーク

東証一部に上場している日本甜菜製糖(株)という会社があります。

社名の通り、北海道十勝地方の農家から甜菜を仕入れ、工場で砂糖を製造している会社です。

7月28日(金)の日経産業新聞(18ページ)によると、この会社がてんさいの利用法に関する研究を北海道大学と共同で行う、と出ています。

研究対象にはエタノール製造方法も含まれると書いてあります。