深谷市岡部の漬物屋さん「マルツ食品(株)」から弊社の「発芽大豆 彩7」を原料とした

「発芽大豆の塩漬け」

が深谷市の産地直売店「とんとん市場」で発売されました。

塩漬けとありますが味は完全に塩ゆでそのもの。発芽大豆特有のコリコリとした食感と在来大豆の風味を手軽に楽しめます。原材料は「発芽大豆・食塩」だけです。

 製造元であるマルツ食品の鶴田社長によると現在各方面(食料品店・宅配・給食関係)で大変好評であり、これから積極的に販売店を開拓していくとのことです。私も深谷に新たな「食の名作」が生まれたと実感をしています。

 鶴田社長と初めて会った日はよく覚えています。なにせ2010年の9月27日の月曜日、父が亡くなった日ですから。以来私たちは食の提供を生業とする者同士、意気投合し、それぞれの分野でよりよき流れを生み出さんとしています。

 発芽大豆はいわば「大豆もやしの新芽」です。生鮮野菜になりますので、もちろん日持ちはしません。それはもやしの身の丈であり、私たちもやし屋には越えられない、いや無理に越えてははいけない部分です。しかし、そこに漬物という伝統的な野菜の保存技術が加わることでもやしの身の丈を越えることができます。それは私の仕事ではなく「漬物屋さんの仕事」です。
鶴田氏も「もやし・発芽大豆」という新しい原料を得て漬物商品の幅を広げました。新たな顧客の獲得につながるでしょう。また、ただ単にもやし屋と漬物屋がくっついただけではこうはならないでしょう。添加物に頼り、形だけの魂こもらぬ薄っぺらな商品で終わるはずです。

今回、鶴田氏と私の食に対する

「共通理解」

があってこそ身の丈を越える形が出来上がったのです。

 身の丈を越えるのは、想いを同じくする「人の力」であると思います。
 これまで深谷もやし以外でほとんど任せていた夜のもやしの収穫作業(ムロから引っ張り出した1トン近くのもやしを確認しながら手でかき出して水槽に入れる仕事)、今月から私が担当しもう一か月になりますが、もやしへの感覚が日に日に鋭くなるのがわかります。

 先日のことです。
 最初にもやし(特に緑豆)に手を入れた瞬間覚えた違和感。底の部分に集中した“生育不良”のもやし。本来はまっすぐピンと伸びるところ、短くて曲がったもやしが出てきたら典型的な生育不良です。歩留りが悪く、水槽で洗えばすぐに底に沈むもやし。注文の量に対しすぐにもやしが足らない状況に陥ります。

一瞬、このもやしはどうしたことだ?

と思いました。しかしすぐに気づきました。…1週間前、もやしを浸漬させ発芽が始まったときの段階です。もやしは発芽が始まると「発芽熱」という熱を発します。人間でいうところの体温です。もやしの生育にはこの発芽熱は重要で、低すぎても高すぎても生育に影響します。その発芽熱を管理するのが「もやし屋」の役目です。今回のもやしですが、私が他の仕事に追われて行き過ぎた発芽熱を冷ますのに2時間遅れたことが原因です。感覚的に「大丈夫かな」と思っていましたが、やはり一部に影響が出たのです。原料である豆の鮮度、外気温なども関係してきます。新しい豆ならば大丈夫でしょうし、気温が低ければ2時間遅れで丁度良かったかもしれません。

 改めて「もやし生産」の難しさを実感しています。発芽して7日で完成するもやしは一瞬のミス、気の弛みが失敗に直結します。一度失敗をしたら修正がきかないのがもやしです。

 視点は常に7日先に。収穫(結果)から逆算して行動していくことが、もやし屋に求められている姿勢です。
自然派くらぶ生協さん、
ナチュラルコープヨコハマさん、
よつ葉生協さん

…相次いでこれら三つの生協さんから「彩7」の注文をいただきます。その都度追加仕込みに追われます(笑)。

 4年前、埼玉県産在来大豆を数種類混ぜて発芽させた「発芽大豆」という商品を開発したとき、最初に見せたのはスーパーのバイヤー。バイヤーは一目見るなり『なんじゃこれは?』と言った面持ちで

「いくら?ええそんなにするの?これじゃあ売れないなあ」

と。もちろん想定内の反応でしたが。

なので当時は

「できることなら発芽大豆は生協みたいな商品の質をわかってくれるところに出したいなぁ」

と思っていました。
そして4年後、現在は不思議な縁でこうして3つの生協さんに出荷しています。もちろん値引きの話など一切ないお互いに適正な取引です。時には生協の会員さんがバイヤーさんと見学にきたり、バイヤーに頼まれて私が赴いてもやしの話を会員さんにしたりで、良い意味で友好関係が築けています。

 食べる人の顔を見ることなく日々大量生産もやしを卸して、時々やってくるスーパーのバイヤーからのクレームの電話にびくびくしていた15年前とは大違いです。あの頃はバイヤーという人が嫌でした。声も聞きたくないくらいに。逆に今はバイヤーと話すのが楽しくて仕方ありません。バイヤーがウチの商品を好いてくれているからです。 

 自分から積極的に売り込んでこうなったわけではありません。私は「自分が信じるもやし」を日々作り、伝えてきただけ。後はいろんな人が繋いでくれて現在に至っているのです。
 今年の8月、私は深谷もやし、発芽大豆「彩7」の販促活動として
都内で展開している高級スーパー「サカガミ」さんの各店舗で試食を行ないました。

 31日は清瀬駅の近くにある「清瀬店」。とても居心地の良いお洒落なお店です。そこで深谷もやしの味噌汁、

発芽大豆で作った豆ごはんを試食してもらい、販売をしました。

 生産者が自ら店頭に立ってもやしを伝える…もう6年も前から始めている活動です。その日どれだけ売れるかより、どれだけ身をもって伝えられるか、今もやし屋にとって大事なのはそこじゃないだろうかと始めたことです。特に飯塚商店の場合は
「もやし本来の姿と味を知らせるための啓蒙活動」
の様相が非常に濃いものとなっています。もっとわかり易く言えば、もやしの草の根運動でなく

「もやしの根っこ運動」

とも言えるものです。

・・・・・・・・・
「えー。根っこ長いじゃないの。あたしみんな取っているのよ。これじゃ大変」

「もやしの根っこて食べられるの?」

「やだやだ。太い方がいいわ」

…何度も何度もそんな言葉のやり取りの繰り返しです。私は根気よく説明をします。納得してくれる人もいますが、顔をしかめて立ち去る方もいます。その方にとって「もやしを根を取る」という一種の美徳を否定された、と捉えたのかもしれません。

 改めて言いますが、もやしを自分で作れば身は細くて根っこが出てくるのが“自然”です。いかに多様な価値観に溢れた時代とはいえ、自然の成長が否定されているというのは由々しき事態です。それが今の日本のもやし事情です。

「なにこれ。どこのもやし?」

何か怒っているような感じで一人の年配の女性が聞いてきました。

「埼玉の深谷でつくってます」

そう答えると、

「深谷なの。でも豆は外国でしょ?」

と聞くので、

「これはミャンマーで作っているブラックマッペという品種です。昔はこちらのほうがよくつかわれてたんです」

「そうよね。昔はみんなこれだものね」

とおっしゃるので

「よくご存じですね」

と感心すると、

「知ってるわよ。だって私んち昔もやし作っていたもの

と、その方は話しました。
驚きました。どうもご実家はもやし農家だったようです。山形の方とおっしゃいました。

「もやしは根っこが美味しいのよね。これ、うちでつくったのとよく似ているわ。だから今のもやしは不味くて食べないのよ。ウチのはもう少し太かったかな」

…山形の冬ではおそらくもやし栽培室を普通の石油ストーブで暖めていたのかもしれません。ならばエチレンの影響がやや強く現れる可能性があります。

「今こういうもやし売るの大変でしょ。頑張ってね」

 その方はそうおっしゃり、試食もせず深谷もやしを二つかごにいれて去っていきました。思わぬ出会い、思わぬエールに嬉しさがこみあげてきました。

 その数分後です。いつもどおり他のお客様に、もやしの根っこの説明をしてた時です。

ねえ。もやしって本当はこうなのよ。根っこがあるほうが美味しいの。騙されたと思って食べてみなさいよ

と、なんと先ほどの昔山形でもやしをつくっていたという女性がわざわざ戻ってきて、お客様に勧めだしたのです。私も妻も思わぬ援護に感動しました。

・・・・・・・・・・
 数日たった今でも、

「なぜあの人は戻ってきて私たちのもやしを勧めてくれたのだろう?」

と考えてしまいます。何の得もないのに。でも何かがその方を突き動かしたような、そんな気がしています。

 私のもやし啓蒙活動は正直言って、太いもやしをメインに作っている他の大多数のもやし屋さんの支持は得られません。私のもやしの肯定はそのまま太いもやしの否定に繋がりかねないからです。孤独ではありますが、今回の出来事を通して

「自分は孤独ではないし、まだまだ希望はある」

と信じざるを得ないのです。
 7月22日、大船駅近くのナチュラルコープヨコハマ様の商品センターで、組合員さんの子供さんを対象にした『「ありのまま」のもやし栽培キット』による、失敗しないもやし栽培のコツと、親御さんたちを対象とした「もやし、発芽大豆」のお話をしてきました。 

 なぜ、もやし生産者たる自分がなぜこの商品「もやし栽培キット」の開発・販売をしているのか。

 なぜ、大勢に逆らっても細くて根っこの長いもやしに固執してきたのか。

 なぜ、もやしの原料として埼玉県の在来大豆に着目したのか。

 そんなことを90分にわたり、ノンストップで話しました。途中子供さんの質問もあり、大変充実した時間でありました。反論もあるかもしれませんが、大規模工業化食品が主流となっている今、飯塚商店のような小さな家内制手工業的もやし会社が対抗する手段はもはや

【作る・売る・伝える】

しかないと確信をしています。そしてその活動は食べる人にとって有意義であると信じています。

 このような活動をして「じゃあそれでたくさん売れるようになるのか?」と疑問視する声もあります。それでも深谷のもやし屋飯塚商店にとって「伝える」ことは「作る・売る」と同等の重要な「仕事」なのです。