子宮移植術後のART治療 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、子宮移植術後のART治療(体外受精、顕微授精)に関する検討です。

 

Fertil Steril 2024; 122: 397(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.04.017

Fertil Steril 2024; 122: 435(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.07.003

要約:2016〜2023年に米国の3施設で実施された子宮移植術後の31名(平均年齢31歳)を対象に、ART治療(体外受精、顕微授精)の培養成績と妊娠成績を後方視的に検討しました。子宮移植前に平均2回採卵を行い、平均8個のPGT未実施胚あるいは平均6個のPGT正常胚を凍結保存していました。しかし、子宮移植後に19%(6/31)で新たな採卵が必要でした。PGTは74%(23/31)で実施され、少なくとも1回胚移植を行った23名で72回(新鮮胚移植2回、凍結胚移植70回)の単一胚移植が行われました(自然周期移植9回、ホルモン補充周期移植61回)。胚移植あたりの出産率は35%(25/72)、生児を出産した21名で、平均2.2回の胚移植が行われました。初回胚移植での出産率は57%(13/23)、胚移植2回までの累積出産率は74%(17/23)でした。自然周期移植とホルモン補充周期移植で、妊娠高血圧腎症、出産率、胎盤重量に有意差を認めず、生体ドナー(37%)と死体ドナー(32%)の出産率にも有意差を認めませんでした。なお、子宮移植術後の採卵による合併症はありませんでした。

 

解説:2014年スウェーデンで子宮移植による初めて赤ちゃんが誕生しました。米国では2016年から子宮移植が行われ、2017年に初めての赤ちゃんが誕生しました。子宮移植では、血管を伴った子宮と膣上部が摘出され移植され、もともと両側の卵管がないためART治療が必須です。しかし、子宮移植術後のART治療の培養成績と妊娠成績を検討した研究のほとんどは症例報告であり、システマティックな情報が不足しています。本論文は、このような背景の元に行われた全米データの検討であり、子宮移植術後のART治療の安全性と有効性に問題がないことを示しています。

 

コメントでは、子宮性不妊は500人に1人の頻度でみられ、従来代理母の治療しかできませんでした。このためお子さんを諦めた夫婦も多数おられます。子宮移植術の登場により自らの身体で出産することが可能になりましたが、子宮移植術後のART治療の培養成績と妊娠成績に関する情報が不足してい流のが現状です。このような観点から、本論文の研究を極めて高く賞賛しています。

 

ヒト子宮移植については下記の記事を参照してください。

2024.7.23「子宮移植術中の静脈血栓の回避術式

2023.6.25「子宮性不妊の治療は子宮移植か代理母か:紙面上バトル

2022.3.14「ドナー子宮をロボット手術で摘出:ビデオ論文

2021.4.4「子宮移植の際の新しい子宮膣吻合法:ビデオ論文

2020.12.12「子宮移植で中国初の出産報告

2019.7.21「ヒト子宮移植の現状
2017.10.13「子宮移植に備えて:温虚血時間の検討

2016.8.20「子宮移植での出産報告2件」
2015.2.3「子宮移植後1年」
2014.8.19「☆子宮移植の現状」
2014.1.24「子宮移植で妊娠に成功!」
2013.4.13「ヒト子宮移植に成功した女性が妊娠」
2013.3.7「☆ヒト子宮移植の成功」