☆子宮移植の現状 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

昨日の報道にもありますように、ようやく日本でも子宮移植が議論の土俵に上がってきました。子宮移植はこれまで2件報告されていましたが、いまだ出産には至っていません。スゥエーデンのグループでは、その後9件の生体子宮移植を実施しており、現在までに世界で11件の手術が行われました。同グループからの論文をご紹介致します。

Fertil Steril 2014; 101: 1228(スゥエーデン)
要約:2012年より9件の生体子宮移植を実施し、半年以上経過観察を行いました。子宮移植の適応は、ロキタンスキー症候群(先天性子宮欠損)8件、子宮頚癌1件です。レシピエントの平均年齢は31歳、ドナーの平均年齢は53歳(閉経前4件、閉経後5件、母親5名、姉妹1名、叔母1名、義理の母親1名、友人1名)でした。子宮動静脈は、レシピエントの外腸骨動静脈に端側吻合を行いました。ドナーの手術には10~13時間を要し、レシピエントの手術には4~6時間を要しました。手術は、2つの手術室を長時間にわたって使用することから、病院がお休みの週末に行いました。術前は、抗生剤mycophenolate mofetil(MMF)を投与し、術中に免疫抑制剤として、メチルプレドニゾロン500 mg、抗甲状腺抗体、サイモグロブリンか抗サイモサイトグロブリンを使用、術後は免疫抑制剤タクロリムス、プレドニゾロン(4日間)、抗生剤MMF、抗ウイルス剤valganciclovir(半年)を使用しました。術後の合併症は特になく、半年後に7件は生着し、生理も順調にありましたが、2件は生着せず子宮摘出となりました。生着のうち4件には無症状の拒絶反応を認めましたが、ステロイドホルモン投与により回復しました。子宮摘出となった2件は、両側子宮動脈に生じた血栓によるものと、子宮内感染です。血栓症を起こした方は、プロテインC欠損症でした。手術時間の大半は、尿管処理および子宮動静脈の分離に要しており、それだけで4~6時間かかりました。今後は、子宮移植の12~18ヶ月後に胚移植を行い、出産後に子宮摘出を行う計画です。

解説:先天的あるいは後天的に子宮がないことによる不妊は、500人に1人とされています。欧州では20万人いると推計されます。養子縁組あるいはサロゲート(代理母)しかお子さんを授かる方法がありませんが、倫理的、法律的、宗教的な問題点を包含しています。子宮移植にはこれらの問題はありませんが、現在のところ試験的な治療です。一般の移植医療は50年前から行われており、移植後に必要な免疫抑制剤を使用しながら、これまでに15000名以上の赤ちゃんが誕生していますが、胎児奇形増加のリスクは報告されていません。一方、子宮移植については、本論文発表前までに2件が報告されています。
1 2000年 サウジアラビア 生体から移植 虚血および血栓により3ヶ月で子宮摘出
2 2011年 トルコ 死体から移植 生着 妊娠2回するもいずれも流産となる
本論文の免疫抑制剤は、前の2件よりマイルドですが、最近の移植医療では免疫抑制剤の減量を行っています。

下記の記事を参照してください。
2014.1.24「子宮移植で妊娠に成功!」
2013.4.13「ヒト子宮移植に成功した女性が妊娠」
2013.3.7「☆ヒト子宮移植の成功」