子宮移植後1年 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

子宮移植に関してはスゥエーデンのグループがが数年先を走っており、2014.8.19「☆子宮移植の現状」の記事でご紹介しました。このグループから子宮移植後1年の状況について記した論文をご紹介致します。

Fertil Steril 2015; 103: 199(スゥエーデン)
要約:これまでに9件の生体子宮移植を実施し、1年が経過しました。免疫抑制剤として、タクロリムス、ミコフェノール酸、プレドニゾロン、アザチオプリンを使用しました。術後の合併症は特になく、移植後1~2ヶ月で生理も規則的に生じましたが、2件は拒絶反応のため子宮摘出に至りました。生着した7件のうち5件に顕微鏡的な拒絶反応を認めましたが、免疫抑制剤増量により回復しました。子宮摘出となった2件は、両側子宮動脈に生じた血栓によるものと、子宮内感染です。血栓症を起こした方は、プロテインC欠損症でした。今後は、子宮移植の12~18ヶ月後に胚移植を行い、出産後に子宮摘出を行う計画です。

解説:先天的あるいは後天的に子宮がないことによる不妊は、500人に1人とされています。欧州では20万人いると推計されます。養子縁組あるいはサロゲート(代理母)しかお子さんを授かる方法がありませんが、倫理的、法律的、宗教的な問題点を包含しています。子宮移植にはこれらの問題はありませんが、現在のところ試験的な治療です。一般の移植医療は50年前から行われており、移植後に必要な免疫抑制剤を使用しながら、これまでに15000名以上の赤ちゃんが誕生していますが、胎児奇形増加のリスクは報告されていません。一方、子宮移植については、本論文発表前までに2件が報告されています。
1 2000年 サウジアラビア 生体から移植 虚血および血栓により3ヶ月で子宮摘出
2 2011年 トルコ 死体から移植 生着 妊娠2回するもいずれも流産となる
本論文の免疫抑制剤は、最近の移植医療と同様な免疫抑制剤(2015.1.27「腎移植後の妊娠」を参照してください)を使用しています。

子宮移植については下記の記事を参照してください。
2014.1.24「子宮移植で妊娠に成功!」
2013.4.13「ヒト子宮移植に成功した女性が妊娠」
2013.3.7「☆ヒト子宮移植の成功」