子宮移植での出産報告2件 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

子宮移植に関してはスゥエーデンのグループがが先頭を走っており、本論文は、同グループから発表された子宮移植での出産報告2件です。なお、これ以外に子宮移植での出産報告はありません。

Lancet 2015 Feb 14; 385 (9968): 607(スゥエーデン)
要約:2013年、35歳のロキタンスキー症候群(先天性子宮欠損)の女性に、2回出産経験のある61歳の女性の子宮を移植しました。なお、子宮移植前に11個の胚を凍結しておきました。初回の生理は、移植後43日でみられ、生理周期も順調であり、移植1年後に単一胚移植を行い妊娠しました。免疫抑制剤として、タクロリムス、プレドニゾロン、アザチオプリンを使用しました。妊娠中も含めて3回の中等度拒絶反応がありましたが、ステロイド増量で対処できました。胎児発育および子宮動脈血流は妊娠全期間を通じて保たれていました。妊娠31週で妊娠高血圧症候群(旧、妊娠中毒症)が発症し、胎児心拍モニターで胎児仮死が認められたため、緊急帝王切開を行いました。元気な男児(1775g)を出産しました。

Fertil Steril 2016; 106: 261(スゥエーデン)
要約:2013年、28歳のロキタンスキー症候群(先天性子宮欠損)の女性に、3回出産経験のある50歳の実母の子宮を移植しました。なお、子宮移植前に10個の胚を凍結しておきました。初回の生理は、移植後33日でみられ、生理周期も順調であり、移植1年後に単一胚移植を行い妊娠しました。免疫抑制剤として、タクロリムス、プレドニゾロン、アザチオプリンを使用しました。妊娠前に2回の中等度拒絶反応がありましたが、ステロイド増量で対処できました。胎児発育および子宮動脈血流は妊娠全期間を通じて保たれていました。妊娠34週で 胆汁うっ滞による皮膚掻痒症が発症し、緊急帝王切開を行いました。元気な男児(2335g)を出産しました。患者さんの強い希望により、出産後3.5ヶ月で移植子宮の摘出を行いました。

解説:このスゥエーデンのグループは、2002年から順次、マウス、豚、羊、霊長類の子宮移植に成功しており、動物で培った基礎研究をヒトに活かしています。2013年からヒトでの臨床応用を開始し、9件の子宮移植を行いました。この他、サウジアラビアとトルコからの子宮移植の報告がありますので、全部で11件となります。なお、生体子宮移植が10件、死体子宮移植が1件です。

このスゥエーデンのグループは、ドナーの内腸骨動静脈を含んだ子宮動静脈を、レシピエントの外腸骨動静脈に端側吻合を行うことで、高成績をあげています。ドナーの手術には10~13時間を要し、レシピエントの手術には4~6時間を要します。2つの手術室を長時間にわたって使用することから、手術は病院がお休みの週末に行っています。

子宮移植については下記の記事を参照してください。
2015.2.3「子宮移植後1年」
2014.8.19「☆子宮移植の現状」
2014.1.24「子宮移植で妊娠に成功!」
2013.4.13「ヒト子宮移植に成功した女性が妊娠」
2013.3.7「☆ヒト子宮移植の成功」