本論文は、ターナー症候群の妊孕性温存としての卵巣凍結に関する前方視的検討です。
Fertil Steril 2023; 120: 1048(オランダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.004
Fertil Steril 2023; 120: 993(ベルギー)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.971
要約:2018〜2020年にターナー症候群の女児106名(2〜18歳)を対象に、腹腔鏡による片側卵巣切除術と卵巣凍結を行い(93名で実施)、卵巣皮質切片の染色により卵巣あたりの卵胞数を前方視的に検討しました(TurnerFertilityトライアル)。染色体分析はリンパ球と口腔粘膜細胞で行い、13名(14%)で口腔粘膜細胞から46,XX細胞が見つかりました。卵胞は30名(32%)で確認でき、どこかに46,XX細胞がある場合に卵胞が確認できる可能性が高くなっていました。思春期の自然発症、超音波で卵巣確認可能、低FSH、高AMH、高インヒビンB、高E2が卵胞の存在と有意な相関を認めました。なお、AMHは卵巣あたりの卵胞数と有意な相関がありました。また、25名(27%)に心臓の異常が認められました。
解説:ターナー症候群の卵巣予備能の減少は4~6歳からみられ、乳房発育は30%、初潮は10~15%、自然妊娠は2~14%、流産率は31~48%にみられます。ターナー症候群の妊孕性温存として、卵子凍結は思春期以降に限られ、卵巣凍結の選択もありますが依然として研究段階です。本論文は、ターナー症候群の卵巣に卵胞がみられる方の特徴として、46,XX細胞の存在、思春期の自然発症、超音波で卵巣確認可能、低FSH、高AMH、高インヒビンB、高E2を挙げています。
コメントでは、ターナー症候群の卵胞密度は卵巣あたり3〜8万個であり、ターナー症候群でない女児の25〜50万個と比べ著しく低いことを示し、移植後の虚血により卵胞の半数以上が失われるため、卵巣組織内の卵胞数が重要であるとしています。また、思春期後の卵胞密度は思春期前よりも大幅に低下するため、できる限り早く(できれば12歳までに)卵巣凍結が推奨されるとしています。
ターナー症候群については、下記の記事を参照してください。
2023.8.17「ターナー症候群の卵巣をマウスに移植」
2023.6.13「Q&A3691 ターナーモザイク胚20%移植後」
2023.3.27「☆低頻度モザイク胚移植で胎児異常」
2023.1.13「Q&A3540 ターナーモザイク胚20%をどうすべきか」
2022.2.22「Q&A3215 ☆私はターナーモザイク?」
2021.6.5「ターナー症候群の卵巣内の染色体」
2021.3.12「Q&A2866 ターナー症候群のモザイク胚の移植は?」
2021.1.8「Q&A2803 31歳、ターナーモザイク、10代で早期閉経」
2021.1.1「Q&A2796 ターナーモザイク、AMH<0.01、18歳で閉経」
2020.3.20「Q&A2509 ターナー症候群(モザイク)です」
2019.12.16「Q&A2414 娘がターナー症候群です」
2019.9.27「ターナー症候群の卵巣のX染色体」
2019.9.10「ターナー症候群のドナー卵子による妊娠治療」
2019.6.27「ターナー症候群の卵巣凍結」
2019.3.30「ターナー症候群:卵巣刺激による採卵」
2016.12.2「Q&A1292 娘がターナー症候群です」
2016.4.25「ターナー症候群の自然妊娠率は?」
2013.7.25「ターナー症候群とAMH」
2013.6.25「ターナー症候群の妊娠」
卵巣凍結については、下記の記事を参照してください。
2023.2.7「卵巣凍結の妊娠成績」
2021.6.4「妊孕性温存 ②卵巣凍結」
2020.9.28「卵巣凍結の最新情報」
2019.12.5「卵巣凍結後のART成績」
2019.6.27「ターナー症候群の卵巣凍結」
2018.5.7「癌患者さんの妊孕性温存には卵子凍結か卵巣凍結か」
2018.3.4「卵巣境界悪性腫瘍の卵巣凍結の安全性は?」
2016.10.3「卵巣凍結の実用性は?」
2015.12.13「卵巣移植の成績」
2015.11.24「体外に取り出した卵巣からの卵子吸引採取」
2015.8.18「卵巣の皮下移植で自然妊娠成立!?」
2015.6.21「ヒト卵巣組織の動物への移植」
2015.3.5「卵巣凍結•移植の成績」
2014.6.10「人工卵巣:癌の方の卵巣凍結に光明が、、、」
2014.6.3「卵巣凍結の未来」
2014.2.17「思春期前の卵巣凍結の可能性」
2013.9.16「卵巣凍結の進歩」
2013.8.15「☆癌が見つかり妊娠の可能性を残したい時」