ホルモン補充周期における凍結胚移植のP4高値で出産率は低下しない | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ホルモン補充周期における凍結胚移植のP4高値で出産率は低下しないことを示しています。

 

Fertil Steril 2023; 120: 597(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.04.038

要約:2009〜2020年にスペインのひとつの大学病院不妊センターで、ホルモン補充周期融解胚移植を実施した3,183周期を対象に、黄体ホルモン製剤(200mg腟剤x3/日、あるいは25mg皮下注射/日+200mg膣剤x3/日)を投与し、移植当日の黄体ホルモン(P4)濃度と妊娠成績の関係について後視的に検討しました。内訳は、PGT正常胚1,024周期、自己卵子1,360周期、ドナー卵子799周期です。なお、移植日のP4>10.6 ng/mL、子宮内膜>6.0mm、子宮形態異常のないものを対象としました。移植日のP4中央値は14.39 ng/mLであり、腟剤単独群(14.09 ng/mL)より腟剤+皮下注射併用群(15.96 ng/mL)でP4値が有意に高くなっていました。P4値の90パーセンタイル(22.33 ng/mL)95パーセンタイル(31.27 ng/mL)をカットオフ値として、各種交絡因子で補正した出産率のオッズ比は下記の通りで、有意差を認めませんでした。

 

カットオフ値    オッズ比(95%信頼区間)

P4>22.33 ng/mL   1.21(0.92〜1.59)

P4>31.27 ng/mL   1.19(0.81〜1.75)

 

解説:凍結胚移植が世界的に増加しており(欧州では2010年に28%、2015年に40.3%。 米国では2010年に22.9%、2017年に69.4%)、子宮内膜調製法については、簡単かつ日程調整が容易なホルモン補充周期が行われることが多くなっています。最適な黄体期のP4値の下限値や上限値については様々な報告があります。この中で、P4値が高すぎると妊娠成績が低下するとの報告がありますが、小規模な研究が多く、一定の結論は得られていませんでした。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、ホルモン補充周期における凍結胚移植のP4高値は妊娠成績にマイナスにならないことを示しています。

 

下記の記事を参照してください。

2020.8.18「自然排卵周期移植の理想的な黄体ホルモン値は?」自然排卵周期での移植日のP4値は10 ng/mL以上

2018.9.12「新鮮胚移植における理想的なP4値は?」新鮮胚移植でのOPU+2〜3日目のP4値は18.8〜31.4 ng/mL、OPU+5のP4値は47.2〜78.6 ng/mLが良い

2018.5.18「一般妊娠治療における黄体期のE2・P4の最小値は?」タイミングや人工授精の際の妊娠可能なP4値は5.6 ng/mL以上
2016.7.5「☆P4が高いと妊娠率が低下し流産率が増加する!?」ホルモン補充周期での凍結胚盤胞移植日のP4値は<20 ng/mLが良い

2015.9.4「☆黄体ホルモン濃度はいくつあれば良い?」着床との関連が示唆されているNCSは、P4値4.0 ng/mL以上で出現