☆黄体ホルモン濃度はいくつあれば良い? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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「黄体ホルモン(プロゲステロン、P4)はいくつあれば良いのでしょうか?」非常によくある質問です。一般的には、血中P4が10 ng/mL以上とされていますが、驚くべきことに、この数値に明確な根拠はありません。本論文は、血中P4濃度は、4 ng/mL以上あれば十分であることを示しています。

Reprod Sci 2014; 21: 915(米国)
要約:正常な生理周期の方6名、傾向避妊薬(ピル、OC)を使用中の方6名の子宮内膜を生理周期10日目と20日目に採取し、核小体チャンネルシステム(NCS)の出現を検討しました。正常群では、10日目にはNCSが認められず、20日目にNCSが認められました。一方、ピル使用群では、10日目にNCSが半数に見いだされ、20日目にはP4が増加した方のみでNCSが見いだされました。NCS形成は、血中P4濃度が4 ng/mL以上で出現しましたが、血中P4濃度の多少とNCS出現率は相関しませんでした。

解説:核小体チャンネルシステム(NCS)は近年着床との関連が示唆されています。ERAテストを開発したスペーンのグループは、ERAテストとNCSの正の相関を示し、着床期にNCSが発現され、子宮中央より上部(奥側)に均一に見いだされることを明らかにしました(2014.12.19「子宮内膜の着床能の研究 続報」の記事を参照してください)。NCSは、1μmの膜性構造物で、着床期に出現し、妊娠中は消失することが知られていますが、これまでは電子顕微鏡でしか見ることができませんでした。本論文は、通常の顕微鏡で見えるDAP1免疫染色によるNCS検出法を開発した本論文の著者らが、P4濃度との関連を調べたものです。本論文は、P4濃度には閾値があり、4 ng/mL以上ので十分であることを示しています。しかし、症例数が少ないため、今後の検討が必要ですし、血中濃度と子宮内の濃度は異なる可能性がありますので、結論を出すのは先送りにしておいた方がよいでしょう。