自然排卵周期移植の理想的な黄体ホルモン値は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、自然排卵周期の移植日の黄体ホルモン値に関する後方視的検討です。

 

Hum Reprod 2020; 35: 1623(スペイン)doi: 10.1093/humrep/deaa092

要約:2016〜2019年完全自然排卵周期移植を実施した方294名(平均年齢37歳)を対象に、移植日当日の黄体ホルモン値と妊娠成績について後方視的検討を行いました。なお、月経周期が規則的であり、ホルモン剤の使用が一切ない方のみを対象としました。移植日当日の黄体ホルモン値(P4)は、非妊娠群(12.0 ng/mL)と比べ、妊娠群(14.5 ng/mL)で有意に高くなっていました。P4値を10 ng/mLにカットオフを設けたところ、下記の結果が得られました(有意差あり)。

 

P4値     10ng/mL未満   10ng/mL以上

臨床妊娠率    33.0%       48.6%

出産率      25.7%       41.1%  

 

ロジスティック回帰分析により、出産率に有意な影響を与える因子として、移植日当日のP4値(1.05倍)とPGT-A正常胚(2.49倍)が抽出されました。また、移植日当日のP4値10 ng/mL未満の方は10 ng/mL以上の方と比べ有意にBMIが高くなっていました(22.9 vs. 21.6)。

 

解説:ホルモン補充周期での移植日の黄体ホルモン値(P4)に関する検討は多数ありますが、自然排卵周期の移植日のP4値に関する報告はこれまでありませんでした。本論文は、自然排卵周期の移植日のP4値に関する後方視的検討を実施したものであり、P4値>10 ng/mLで有意に良好な妊娠成績を示しています。ただし、後方視的検討であること、排卵の確認をせず尿中LHサージで排卵日の推測をしていることが問題点として挙げられます。従って、今後の前方視的検討が望まれます。また、本論文は完全自然排卵周期ですので、排卵誘発を実施した場合や、不足分のホルモンを補った場合の検討は別途必要になります。

 

黄体ホルモン値(P4)については、下記の記事を参照してください。

2018.9.12「新鮮胚移植における理想的なP4値は?」新鮮胚移植でのOPU+2〜3日目のP4値は18.8〜31.4ng/mL、OPU+5のP4値は47.2〜78.6ng/mLが良い

2018.5.18「一般妊娠治療における黄体期のE2・P4の最小値は?」タイミングや人工授精の際の妊娠可能なP4値は5.6 ng/mL以上
2016.7.5「☆P4が高いと妊娠率が低下し流産率が増加する!?」ホルモン補充周期での凍結胚盤胞移植日のP4値は<20 ng/mLが良い

2015.9.4「☆黄体ホルモン濃度はいくつあれば良い?」着床との関連が示唆されているNCSは、P4値4.0ng/mL以上で出現

 

自然排卵周期のトリガーについては、下記の記事を参照してください。

2020.7.10「☆自然周期ではトリガーすべきか?

2020.3.26「Q&A2515 ☆自然周期移植のトリガーは?