本論文は、ダイエットによる減量とその後の運動やGLP1で精液所見が改善することを示しています。
Hum Reprod 2022; 37: 1414(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/deac096
要約:2016〜2019年に実施した56名の肥満男性(18〜65歳、BMI 32〜43)を対象に、ダイエットとそのメインテナンスをダブルブラインドで実施したS-LITEスタディ(BMJ Open 2019; 9: e031431)のサブスタディを行いました。まず、強力なカロリー制限(800kxal/日)を8週間実施し、引き続き52週間の①プラセボ、②運動(150分/週)+プラセボ、③GLP1(3mg/日、ビクトーザ)、④運動(150分/週)+GLP1(3mg/日)の4群にランダムに分け、開始時、8週目、60週目の各種パラメータを前方視的に検討しました。最初の8週間のカロリー制限により、平均16.5Kgの体重が減少し、精子濃度が1.49倍、総精子数が1.41倍に有意に改善しました。この精液所見は、体重減少がキープされた方では継続し、体重がリバウンドした方では消失しました(サブグループ解析で有意な改善が継続したのは③GLP1群の精子濃度のみ)。なお、精液量、精子運動率、運動精子数には有意な変化を認めませんでした。
解説:男性の肥満は精液所見の低下をもたらすことが知られていますが、体重減少により精液所見が改善するかについては明らかにされていませんでした。本論文は、強力なカロリー制限による減量により、精子濃度と総精子数が有意に改善すること、その後も体重減少がキープされた方では継続し、体重がリバウンドした方では消失することを示しています。まず強力なダイエットを2ヶ月実施し、GLP1を1年投与するとリバウンドなく体重がキープされ、精液所見もキープされるようです。症例数が少ないので、今後の更なる検討が必要です。
小腸下部のL細胞からGLP1(インスリン分泌亢進)とPYY(食欲抑制)という2種類のホルモンが分泌されます。GLP1は、膵臓のβ細胞を増やし、インスリン分泌を増加させます。また、血糖を上げるグルカゴンを抑制します。さらに、胃腸を空にするスピードを抑え、食欲を抑えます。GLP1は、インクレチンの一種であり、糖尿病関連新薬のトピックとなっています。GLP1は分解される速度が速い(1~2分)ため、糖尿病治療薬として2種類の系統が開発されました。GLP1の作用時間を長くした薬剤(ビクトーザ)とGLP1分解酵素を阻害する薬剤(ジャヌビア)です。
GLP1については、下記の記事を参照してください。
2015.11.17「PCOSと腸管ホルモンの関係」
2013.7.9「☆減量手術をするとホルモン値が改善します」
男性肥満と精子については、下記の記事を参照してください。
2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解」
2015.9.7「両親の肥満が胚へ及ぼす影響」
2014.12.24「太ると精子が悪くなる」
2012.12.5「男性のBMIも妊娠に影響」
ダイエットについては、下記の記事を参照してください。
2013.01.04「私のダイエット作戦 番外編:ミトコンドリアを元気に」