アッシャーマン症候群の妊娠予後に影響する因子 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、アッシャーマン症候群の妊娠予後に影響する因子についての研究です。

 

Fertil Steril 2021; 116: 1181(オランダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.05.099

Fertil Steril 2021; 116: 1188(ベルギー)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.08.010

要約:2003〜2016年にオランダのアッシャーマン治療センターでアッシャーマン症候群の手術をされた方500名対象にコホート研究(最低2年以上の観察期間)を実施しました。術後3年以内の569妊娠での出産率は67.4%でした(流産率32.6%)。アッシャーマン症候群術後の出産率に影響する因子は下記の通り。

 

       術後出産1名以上    術後出産なし  オッズ比(信頼区間)

年齢       33.7歳    <   34.8歳    0.93(0.98〜0.98)

過去に出産あり  56.4%    <   69.9%    0.56(0.37〜0.83)

過去に流産あり  78.9%    >   63.8%    2.12(1.41〜3.32)

癒着が強度    51.9%    <   68.7%    0.31(0.12〜0.84)

出産後の癒着   28.2%    <   47.9%    0.43(0.29〜0.63)

術後癒着再発あり 31.2%    <   41.1%    0.57(0.38〜0.84)

術後に流産あり  23.1%    <   42.9%    0.93(0.98〜0.98)

 

解説:アッシャーマン症候群(子宮内癒着症)は、1948年にJoseph Ashermanが見出した疾患であり、偶発的に生じるのが1.5%、流産後や出産後に生じるのが21.5%と報告されています。子宮内の創部、感染、酸素欠乏などがリスク因子とされていますが、真の原因は不明です。また、手術による治癒率は95%ですが、癒着再発率は27.3%と報告されています。本論文は、アッシャーマン症候群の妊娠予後に影響する因子について検討した過去最大規模の報告であり、術後出産できないリスク因子として、加齢、過去に出産歴あり、過去に流産歴なし、癒着が高度、出産後の癒着、術後癒着再発あり、術後に流産あり、が挙げられました。言い換えると、術後出産できない方は、高齢で、過去の出産によって生じた高度の癒着で、術後の再発や流産がある方になります。逆に、術後出産できる方は、若年で、過去の流産によって生じた軽度の癒着で、術後の再発や流産がない方になります。

 

コメントでは、大変興味深い研究であり、今後の診療に役立つとしています。

 

私が驚いたのは、アッシャーマン症候群のような比較的マイナーな疾患にもアッシャーマン治療センターのような専門施設を持つオランダの医療体制についてです。集約化することにより、症例が集まるため、研究が進み、治療技術が上がるため、最終的に患者さんにとって良い方向になります。日本では、医療の集約化は医療過疎を招くなどの議論に終始しがちですが、本当に患者さんのためになるのは、どのような医療体制かをしっかり議論して欲しいと思います。

 

アッシャーマン症候群については、下記の記事を参照してください。

2020.5.7「難治性のアッシャーマン症候群に新しい治療を行うべきか:賛成派 vs. 反対派

2018.10.28「子宮鏡下子宮内癒着剥離術後の妊娠予後

2018.8.12「アッシャーマン症候群は医原性疾患?

2018.8.9「子宮内膜細胞シートによる子宮内膜修復

2018.6.13「ヒト骨髄由来幹細胞による卵巣機能の回復:マウスモデル

2016.12.12「アッシャーマン症候群への新たな治療:月経血由来の間質細胞移植

2016.5.11「アッシャーマン症候群や子宮内膜萎縮への新たな治療

2015.12.22「骨髄CD133細胞移植によるアッシャーマン症候群の新たな治療

2013.7.29「骨髄中に卵子の元の細胞があります♡