Q&A2313 黄体フィードバック法が有効な方は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

A 2019.9.6「Q&A2312 初めての採卵で意気消沈の続き

他院にて体外受精治療中ですが、クロミッド+デュファストン+注射の誘発を提案されました。私自身馴染みがなく、ネットで調べてもあまり情報がありませんでしたが、リプロでは黄体フィードバック法というようですね。この方法はどのようなタイプに有効なのでしょうか。
 

A 当院で「黄体フィードバック法」と呼んでいるのは、「ショート法」「ロング法」「アンタゴニスト法」と並ぶ新しい排卵抑制法です。

 

採卵周期で卵胞を排卵させることなく発育させるには、排卵抑制(=LHサージの抑制)が必要です。しかし、ロング法やショート法で用いるGnRHアゴニスト製剤(ブセレキュアなど)も、アンタゴニスト法で用いる製剤(セトロタイドなど)も卵胞発育にブレーキとなります。つまり、卵胞を発育させるクロミッド、フェマーラ、HMG製剤はアクセルになり、排卵抑制の薬剤はブレーキになってしまうため、患者さんによってはブレーキが効きすぎてしまい卵胞発育が思うようにいかない(排卵抑制剤に負けてしまう)ことがあります。LHが上がりやすい方(早発LHサージ)では、排卵抑制剤を多く使うため、どうしてもブレーキが強くなりすぎてしまい、なかなか採卵にこぎつけないことも起こります。このような場合に、卵胞発育のブレーキにならない新しい排卵抑制法の登場が待たれていました。

 

ヒトでは、ピルが登場した初期の1969年にピルの排卵抑制作用は黄体ホルモン成分によるものと考えられており(下記の記事②)、2002年に羊の研究で黄体ホルモンが視床下部を介してLHサージを抑制することが判明しました(下記の記事①)。2014年に黄体期スタートの刺激周期ではLHサージが起きない(しかもトリガーにGnRHアゴニストが使用可能)ことが報告されました(下記の記事③)。さらに、通常の刺激周期(卵胞期スタート)で黄体ホルモン剤を併用するとLHサージの抑制が可能であることを示されました(下記の記事④)。新鮮胚移植一辺倒だったかつては、採卵周期に胚移植をする大前提があったため、黄体ホルモンを刺激周期に使用するという発想は起こりませんでした。しかし、胚凍結の技術が進化しランダムスタート法が登場した現在では、全胚凍結の選択肢がありますので、採卵周期に移植しなくて済みます。黄体ホルモン剤を排卵抑制に用いる「黄体フィードバック法」は、このような医学の進歩によってもたらされたものです。

 

一度試してみても良いでしょう。

 

黄体フィードバック法については、下記の記事を参照してください。

2018.7.30「黄体ホルモン含有IUDの採卵への影響は

④2017.12.7「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その4

③2017.12.6「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その3

②2017.12.5「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その2

①2017.12.4「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その1

2016.8.18「ランダムスタート法の有用性は?

2014.12.4「刺激周期の開始時期による比較(day 2 vs. day 15)

2014.3.8「ランダムスタート法

 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。