タバコの影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

久しぶりにタバコの論文です。本論文は、喫煙による妊娠へのデメリットを国家規模の研究で示したものです。

Fertil Steril 2014; 102: 183(デンマーク)
要約:2007~2011年に妊娠を目指している18~40歳の女性3773名に対して、喫煙と妊娠の関係を調査しました(Snart Gravidスタディー)。現在喫煙している方で10年以上の喫煙歴がある場合は、喫煙歴がない方と比べ妊娠率は0.85倍に減少していました。かつて喫煙していた方では、年間10箱以上の喫煙で妊娠率が低下していました(禁煙後1~1.9年で0.83倍、禁煙後2年以上で0.73倍)。非喫煙者では、子どもの時の受動喫煙も大人になってからの受動喫煙も妊娠率に影響はありませんでした。

解説:タバコが妊娠におよぼす悪影響については、多くの論文が報告されています。タバコは4000を超える化学物質を含有し、血液を流れ、各臓器でその毒性を発揮します。タバコの毒性物質は生殖細胞では血液中より濃度が高いため、生殖器官(精巣、卵巣)によく集積します。喫煙は流産や化学流産を2倍の頻度で生じ、受精卵の質的低下や胎児奇形の発生頻度増加にも関連します。タバコを吸っていても妊娠する方は大勢います。しかし、妊娠しにくい方にとっては致命傷になりかねません。少しでも妊娠率をよくするために、禁煙をお勧めします。禁煙は治療の一環であるという認識を持つことが大切です。

タバコについては、下記の記事を参照してください。
2013.8.22「Q&A50 夫がタバコを吸います」
2013.8.5「禁煙セラピー」
2013.7.17「☆タバコは胚の分割速度を遅くする」
2013.3.20「タバコで子宮外妊娠の確率が増加」
2013.3.4「タバコの影響:疾病死亡率」
2013.1.11「タバコの影響:女の子が生まれると…」
2013.1.5「☆タバコの影響:学会のオフィシャルコメント」
2012.9.26「☆タバコの影響:卵子」
2012.9.25「☆タバコの影響:精子」

Snart Gravid Studyは、デンマークの妊娠を目指す女性の前方視的研究です。このような国家規模の前方視的研究は、非常に重要な情報を提供してくれます。下記の記事も参照してください。
2013.6.29「☆男性も妊娠を急いで!」
2013.5.21「☆☆ピル(OC)のメリット」
2012.12.26「☆妊娠を目指す女性は運動した方がよいか」