☆タバコの影響:卵子 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

タバコによる卵子への影響は想像以上に大きいものであるというデータが発表され、論文の写真を見て当時衝撃を受けました。下記の論文は、「タバコ→テロメア短縮→遺伝子異常→異常卵→不妊、化学流産、流産」という図式を明らかにしたものです。わずか妊娠前4週間(あるいは妊娠中4日間)のタバコの暴露で受精卵が明らかに異常になる写真は衝撃的です。また、下記のOct4はiPS細胞作成の際にも必要とされる因子の一つです。つまり、多能性を持たせる意味があるのですが、ここがおかしくなってしまうとすれば大問題です。

Fertil Steril 2009; 92: 1456-65
要約:マウスをタバコやタバコの凝縮物に暴露(受精前4週間、受精後4日間、その両方)させ、胚発育やテロメアを分析しました。タバコに暴露すると卵のフラグメンテションが増加し、受精の遅延が生じ、アポトーシスが増加し、Oct4発現が変化し、胚盤胞到達率が減少しました。フラグメンテションの多い卵は活性酸素が増加していました。この影響はタバコへの暴露の時間に比例していました。また、タバコに暴露すると、異常卵の頻度は増加し、テロメアは短縮しました。

解説:米国では、およそ30%の女性がタバコを吸います。喫煙する女性は、不妊症、妊娠中の異常、新生児合併症が増加し、不妊症のうち13%は喫煙によるといわれています。タバコは4000を超える化学物質を含有し、血液を流れ、各臓器でその毒性を発揮します。タバコの毒性物質は生殖細胞では血液中より濃度が高いため、生殖器官(精巣、卵巣)によく集積します。喫煙は流産や化学流産を2倍の頻度で生じ、受精卵の質的低下や胎児奇形の発生頻度増加にも関連します。また、喫煙は遺伝子の安定性を損ね、テロメアが短縮します。テロメア短縮は加齢によっても生じるため、高齢の喫煙者はさらにリスクが高くなります。

テロメアについて:テロメアは細胞分裂を行うたびに短縮しますから、「生命の回数券」とも呼ばれています。テロメア短縮は酸化ストレスの蓄積と生物学的な加齢を示す指標になります。