☆タバコは胚の分割速度を遅くする | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

喫煙は精子にも卵子にも悪影響であることは、これまでに何回か紹介致しました。
最近、タイムラプス•イメージングという装置が開発され、個々の胚の発生状況を動画のようにみることができるようになりました。2013.7.13「適切な時期に適切に分割する胚が良好胚」でご紹介したように、胚の発生は静と動のメリハリが大切で、分割する時は素早く、力を蓄えるときは静かにという胚が最も良い胚であることがわかっています。本論文は、タイムラプス•イメージングを用いて胚を観察したところ、タバコが胚発生の速度を遅くしていることを示しています。喫煙による妊娠率低下の一因と考えられます。

Fertil Steril 2013; 99: 1944(フランス)
要約: 顕微授精(ICSI)を行った135名の女性(喫煙群23名、非喫煙群112名)から、のべ868個の胚を得ました(喫煙群139個、非喫煙群729個)。両群間の、年齢、BMI、ホルモン値、パートナーの年齢、精液所見、不妊期間、刺激方法、ピークのE2値、受精率、良好胚率、移植個数に有意差を認めませんでした。ただし、AMH(3.6 vs. 5.0)およびAFC(胞状卵胞数、15.6 vs. 19.8)は、喫煙群で有意に低くなっていました。タイムラプス•イメージングでは、喫煙群(9.31時間)のPN出現時間が非喫煙群(11.12時間)より有意に早くなっていましたが、PN消失時間は同じでした。また、喫煙群(10.97時間)のcc2が非喫煙群(8,89時間)より有意に遅くなっていました。3~8細胞の全てのステージにおいて喫煙群の胚分割の時期が非喫煙群より有意に遅くなっていました。ICSIを起点とした喫煙群と非喫煙群の3細胞期到達時間(t3: 39.91時間vs.38.42時間)、4細胞期到達時間(t4: 41.48時間vs.40.79時間)、5細胞期到達時間(t5: 49.97時間vs.48.87時間)、6細胞期到達時間(t6: 53.6時間vs.52.0時間)、8細胞期到達時間(t8: 61.63時間vs.58,46時間)でした。喫煙群と非喫煙群の着床率は13.8%vs.21.2%妊娠継続率は13.0%vs.30.4%と有意差を持って喫煙群で低下していました。

解説:タイムラプス•イメージングを用いることで、これまでのようなある一時点での観察では気づかない様々な事実が明らかになってきました。本論文はタバコの影響をみたものですが、一見差がないように見える胚でも、その細胞内ではダメージが胚を蝕んでいる様子が容易に想像されます。AMHおよびAFCが喫煙者で低下することは、これまでも明らかにされていましたが、本論文は数のみならず質の低下を証明しています。