妊娠中および授乳中のタバコの影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

タバコの影響は喫煙している本人の男性不妊および女性不妊の原因となることは良く知られています。また、妊娠中の喫煙は、生まれた女児の生殖機能に影響することをご紹介しました(2013.1.11「タバコの影響:女の子が生まれると…」)。本論文は、妊娠中および授乳中の喫煙が、生まれた男児の生殖機能に悪影響を与え、男性不妊を引き起こす可能性について、動物実験で示したものです。

Hum Reprod 2014; 29: 2719(オーストラリア)
要約:生後5週のメスマウスに、妊娠前6週から出産後3週までタバコの煙を吸わせ(27匹)、男児の精巣および妊孕性について検討しました。なお、対照群(27匹)は通常の空気で飼育しました。母体のタバコの暴露により、生まれた男児の、始原生殖細胞と精母細胞のアポトーシス(細胞死)増加、精細管内の生殖細胞の枯渇および萎縮、セルトリ細胞と生殖細胞の異常な配列、精原幹細胞の枯渇、生殖細胞のDNAダメージが有意に認められました。男児が大人になった際には、生殖細胞の発生、ホルモン産生、酸化ストレス、セルトリ細胞のシグナルに異常を認め、ミトコンドリアDNAが変異していました。また、精子数減少、精子形態異常による妊孕性低下のみならず死亡率増加もみられました。精子運動に関係するOdf2蛋白は有意に減少し異常な分布が認められました。その男児の精子で妊娠した場合に、妊娠までの時間がかかり(=不妊症)、妊娠した場合には小さい赤ちゃんが生まれました。

解説:妊娠中の喫煙は、早産、低体重児、胎児死亡率増加を引き起こすことが知られています。しかし、米国では25歳以下の女性の20%、オーストラリアでは36%が妊娠中にタバコを吸っています。妊娠中に喫煙した母体から生まれた男児の生殖機能への影響については、影響ありとするものから影響なしとするものまで様々でした。これは、タバコ以外の様々な条件を揃えて検討することが難しいためであり、動物実験のデータが必要と考えられていました。本論文は、妊娠中および授乳中の喫煙が、生まれた男児の生殖機能に悪影響を与え、男性不妊を引き起こすことを示しています。このように、世代を超えた悪影響が出てしまいますので、妊娠中および授乳中の喫煙はぜひやめるようにして欲しいと思います。