タバコで精液量減少 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

タバコの悪影響には多大なるものがありますが、妊孕性(妊娠できる力)には特に重要です。本論文は、タバコを吸うと精嚢が小さくなり精液量が減少するという新たな事実を示しています。精液量の減少は、精子を吸い上げる力の低下につながり、精液所見が悪化しますので、非常に重要な妊孕性低下の一因になります。

Hum Reprod 2015; 30: 590(イタリア)
要約:2010~2013年に不妊クリニックを訪れた426名の方を後方視的に検討しました。このうち、遺伝上の問題等がない394名の喫煙状態、精液所見、超音波所見、生活習慣の各種パラメータを、喫煙経験なし229名、過去の喫煙歴あり56名、現在の喫煙者109名の3群間で比較しました。現在の喫煙者では他2群と比べ、テストステロン(男性ホルモン)が有意に高く、FSHが有意に低く、精液量が有意に少なく、精嚢容積が有意に小さく、正常形態精子が有意に多いことが認められました。また、これらの変化は喫煙本数に比例していました。

解説:米国では男性の3人に1人、女性の5人に1人が喫煙者です。喫煙と不妊の関連については、これまで多くの論文が報告されており、精子のDNAダメージやミトコンドリアの活性低下を来すことや、ホルモン動態の変化や精巣機能低下との関連が示されています。本論文は、超音波所見と喫煙との関連を初めて調査したものであり、喫煙と精嚢容積減少と精液量減少の関連という新たな事実を示しています。

タバコについては、下記の記事を参照してください。
2014.10.8「タバコの影響」
2013.8.22「Q&A50 夫がタバコを吸います」
2013.8.5「禁煙セラピー」
2013.7.17「☆タバコは胚の分割速度を遅くする」
2013.3.20「タバコで子宮外妊娠の確率が増加」
2013.3.4「タバコの影響:疾病死亡率」
2013.1.11「タバコの影響:女の子が生まれると…」
2013.1.5「☆タバコの影響:学会のオフィシャルコメント」
2012.9.26「☆タバコの影響:卵子」
2012.9.25「☆タバコの影響:精子」