登山のベテランの弊害 | 東京・横浜物語

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「登山のベテランの弊害」

 

娘が山岳遭難のネットニュースを知らせて来た。

 

これは比較的最近、私も本で読んだ内容で、

非常に興味深い事例でもあり、

ちょっと前に記事にしたものでもある。

 

これは現在の登山界の大問題に直結しているため、

再度、切り口を変えて書いてみたいと思う。

 

この遭難事例は2012年10月に救急医療従事者だった著者が、

登山の素人ではあるが職業的に関連があり、

遭難者捜索に行った事から端を発している。

 

著者は元々登山経験は無かったのである。

 

だが、彼女は捜索が打ち切られて3年が経過していた遭難者の遺体をあっさりと発見してしまう。

 

それにより彼女はその後、山岳遭難の捜索に関わるようになり、

多くの遭難者の発見をして行くのだが、

それがまとめられたのが写真を掲載した、

「『おかえり』と言える、その日まで」となる。

 

ネットニュースで取り上げられた事例は、

大規模な捜索が行われるも3年もの間、見つける事が出来なかったものだ。

 

理由は非常に単純だった。

 

その登山コースは途中で川を上流に突き進んで行くルートだった。

 

目の前に現れるのは両サイドが崖で真ん中が川となるもの。

 

ゴルジュ(V字谷)と呼ばれる地形だった。

 

捜査に当たった山岳救助隊のベテラン達は迷わずに真ん中の川を突っ切って行った。

 

しかし著者は最初、まさか川の中を行くとは夢にも思っていなかったので、

崖を登り始めた訳だ。

 

もちろん「この先に道は無い」と言われて戻るのだが、

彼女はここで初心者だからこその深刻な事実に気付く。

 

同行したベテランは、

「ほら、川の先を良く見てご覧。階段が見えるだろう。

 ここでは普通間違えない。」と言った。

 

しかし彼女は初心者だからこそ気付けたのだ。

 

「ベテランはそう言うが、初心者は川の真ん中を遡るなど想像しない。

 おそらく遭難者は崖を登ったに違いない。」と思い至り、

それをベテランに伝えると、

まだそこは捜査されていないのが分かり登って行くと。

 

そこには3年間見つけられなかった遺体があった、と言う訳だ。

 

ここで非常に問題にしたいのは、

最近私が切り口を変えながら何度も書いている、

「命に関わる登山の基本」となる。

 

現在の山岳界のベテラン達は、

登山において一番大切な分野で酷い言動を繰り返している。

 

それは山岳遭難が起こると、

完全に間違った意見2つをテレビなどマスコミで何度も繰り返し、

悲惨な事態を余計に悪化させてしまう。

 

・×もっと体力をつけよう×←最悪の意見

 

・×紙の地図と磁石は必携品×←最悪の意見

 

この2つだ。

 

これは令和の登山シーンにおいて最悪の意見となる。

 

初心者の登山において何が一番大切で、

何に一番困り、何を一番知りたいのか?と言うと。

 

「具体的な事を分かり易く言って欲しい」と言う点に集約される。

 

特に「体力とナビ」と言う最も大切な事について悲惨な状況が続いている。

 

登山のベテラン達はここを一切考慮していない。

 

異常に抽象的な「もっと体力をつけて」しか言わない。

 

あるいは登山体力の関連本ではやたらと多くの筋トレ法などが紹介されている。

 

それを全てやれ、とでも???

 

はっきり言って初心者は混乱するだけだ。

 

せいぜい楽そうな意見である、

「一駅手前で降りて歩く」などと言う何のトレーニングにもならない行為を繰り返したりする。

 

登山書に書いてあるのは、

「入門、初級、中級、上級」の4段階の分かるようで分からない表現か、

星5つで表されている5段階のこれまた分かるようで分からない表現か。

 

最近はコース定数(ルート定数)なる数字を付記するサイトもあるが、

これとても、

10 入門

20 初級

30 中級(健脚向け。日帰り登山の限界)

40以上 上級(健脚向け。1泊2日以上の行程になる)

と、分かるようでやっぱり分からない表現となっている。

 

仮に富士山を吉田ルートから登ってみたいと思った時、

初心者が一番知りたいのは、

「どんな練習をどのくらいすればいいのか?」である。

 

これに登山のベテランは一切答えない。

 

もっと言うと実は答えられない。

 

何故なら彼らは山のベテランではあるが、

トレーニングのベテランではないからだ。

 

従って極めて抽象的な表現を繰り返すだけだ。

 

これへの正答は富士登山オフィシャルサイトを見て、

コース定数と消費カロリーの数値の存在に気付いた時、

初めて極めて具体的なトレーニング方法が分かって来る。

 

ここが分かると一気に分かって来る。

 

・フルマラソンに必要な消費カロリー 2500~3500kcal

 

・富士登山に必要な消費カロリー   3000~4000kcal

 

すると、富士登山とはフルマラソンよりも少し多い体力が要求されているのが分かる。

 

1泊2日でするのが基本なので、

ここから考えると、

富士登山(1泊2日)=  ハーフマラソン級体力

と言うのが判明して来る。

 

これは体験的に極めて当たっていると思う。

 

ランニングの最長距離が21~25kmになっていて、

週に2~3回の日常ランならば10kmは楽勝で走れるレベル。

 

ここに到達していないと富士登山はかなり難しくなるかと。

 

ちなみに富士登山吉田ルートのコース定数は42である。

 

つまり、

コース定数42 = フルマラソン能力 = 1泊2日にするならハーフマラソン能力

と、なる。

 

まあ、若ければ若さで行けるケースは多々あるが、

よく言われる「富士山に1度も登らないのはバカ、2度登るのはもっとバカ」、

「富士山は眺める山であり登る山ではない」と言う俗説は、

そもそもハーフマラソン級体力に到達していない者が臨んだ場合、

五合目に戻れた時はかろうじて意識があるくらいだから、

そんな意見になるのも当たり前だ。


景色など全く楽しめる訳はない。

 

またさらに厄介な事に富士登山では高山病と言う極めてヤバいものも食らうため、

余計に事態を悪化させてしまう。

 

いずれにしても登山体力はランニング能力で換算しない限り、

相変わらず抽象的な愚にもつかない意見を垂れ流し続けるだけとなる。

 

これが現在の登山界の悪質な実状の1つだ。

 

もう1つがナビの世界となる。

 

何故か山岳遭難が起こると相変わらずベテラン達は、

「紙の地図と磁石は必携品」と言い立てるだけだ。

 

この事自体は間違いではない。

 

だが、令和の登山シーンにおいてはその先を言わないと、

完全に危険な意見のゴリ押しに成り下がるのだが、

何故かそこを無視するベテランは非常に多い。

 

悪質な事にマスコミで垂れ流すから余計に事態は悪化する。

 

・令和の登山においてはヤマレコ、YAMAPに代表される登山専用の地図アプリを最優先

 

現在の山岳遭難の半分以上が道迷いか道迷いから起こる滑落などで占められている。

 

つまり道迷いさえ防げたら山岳遭難を半数以下に抑える事が出来る。

 

もちろんナビは登山で最も重要な行為の1つだ。

 

また登山のナビの本にも普通に書いてあるが、

「(紙の)地図は迷ってから出しても手遅れ」と。

 

そもそも登山のベテラン達は、

「ほとんどの登山者は紙の地図と磁石を正確に使える訳がない」

と言う冷徹な現実を無視している。

 

何故なら、改めて登山のナビの本を買って学んでみたら即座に分かる。

 

非常に難しいからだ。

 

そもそも「国土地理院2万5千分の1地形図に先ずは磁北線を引いて」、

と言った途端に磁北線って何?状態になる。

 

まして「正置(整置)」と言ってももちろん???状態に決まっている。

 

山岳会に所属し、きちんと講習を受けない限り、

紙の地図と磁石は正しく扱える訳などない。

 

普通に働いている人ならば習得までに半年くらいはかかる行為だ。

 

さらに厄介な事に、せっかく習得しても、

アナログ技術は間違え易いと言う冷酷な現実がある。

 

令和の登山シーンにおいては、

最初からヤマレコやYAMAPに代表される登山専用の地図アプリを活用すべきだ。

 

操作に少しクセがあり、慣れが必要だが、

紙の地図と磁石を正確に扱えるようになるのと比較したら、

10分の1以下の労力で、登山のベテランどころか、

マタギ級の能力を手にする事が出来る。

 

しかももちろん「携帯電波の入らない場所でも見事に使える」のである。

 

ここを勘違いしている人は相当多い。

 

何となくGoogleマップのイメージがあるから、

電波が入らない場所では使えないと思い込んでいるはずだ。

 

全然問題なく使える。

 

何故ならスマホ自身が地球上空に展開しているGPS衛星からの電波を受信するから。

 

しかもこの地図アプリはヤマレコの場合、

無料バージョンでも充分に使える。

 

予め地図をダウンロードして(もちろん無料)、

登山ルートを設定しておくと、

50mくらい設定ルートから外れたら警告音が鳴り、

音声でも教えてもらえる。

 

復帰したらしたで教えてくれる凄いものだ。

 

紙の地図によるアナログ手法だと最初にする「正置」は、

スマホが瞬間的にやり続けてくれるため、

ヤマレコやYAMAPが使えたら紙の地図の出番はほぼ無い。

 

しかし電池が切れたり故障したら一発アウトなので、

もちろん紙の地図と磁石は今でも必携品の中の必携品であるのは間違いがない。

 

だが、ほぼ使わない。

 

スマホの故障以外で紙の地図を使うケースは大きな予定変更が生じた時くらいだろう。

 

この時は大きな紙の地図の方が便利だ。

 

もちろん充電用バッテリーや充電用接続コードは予備を含めて複数携行する必要がある。

 

意外な盲点は接続コードの不良による充電不可能状態。

 

コードも予備を携行する必要があるかと。


こうすれば電池切れトラブルはほぼ防げる。

 

令和の登山におけるナビは登山専用の地図アプリが最優先であり、

紙の地図と磁石は予備としてリュックにしまっておくべきだ。

 

他に手段がなかった昭和平成時代ならともかくも、

時代は令和だ。

 

わざわざ迷い易い事態を作り出す必要は全く無い。

 

だが、登山のベテランは相変わらず紙の地図と磁石の携行のみを呼び掛けている。

 

その先を一切教えないのは犯罪的ですらある。

 

終わり

 

余談:道迷いとは何か?

多くの登山書や辞書にはこう書いてある。

今自分がどこにいるのかが分からない状態、と。

街中であると特徴的な対象物が沢山あり、

復帰は外国でもない限り比較的容易だ。

だが登山の場合、悪天候も重なったらほぼ不可能だし、

事実登山書には非常に難しいとの記載がある。

紙の地図と磁石を取り出しても、

方角が分かってもその場所がどこなのか分からなければお手上げ状態だ。

さらに霧が出たり吹雪になったら、

アナログ手法は全く使えなくなる。

だが登山専用の地図アプリは即座に正置をしてくれ、

見事に自分がどこにいるのかを非常に正確に教えてくれる。

この地図アプリが使えるのか使えないのか。

令和の登山が出来るのか出来ないのか。

この差は幼稚園児と大人くらいの差がある。

そもそも紙の地図と磁石を正確に扱える大人の登山者が多いとは全く考えられないのだから。