『ミュータント・メッセージ』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

ミュータント・メッセージ

『ミュータント・メッセージ』 マルロ・モーガン著 1995年

 

 

昨年末にアボリジニの伝承から書かれた児童書『星に叫ぶ岩ナルガン』を読んだことを「Simon Says」というブログに書きましたけど、私がアメリカにいる時にアボリジニの楽器ディジュリドゥを習っていたことがあって、先生から「この本、面白いから読んでごらん」と本作の英語版を渡されたことも思い出しました。

 

アメリカでの学生生活は宿題が異様に多くて、それ以外の英語の本を読む余裕がなかったのでほとんど読まずに返してしまったことがあったのです。

 

なので、題名の「ミュータント(突然変異体)のメッセージ」とはなんぞや? ということも分からないままでした。

 

 

あらすじ:アボリジニのヘルスケアに貢献する仕事をしていたアメリカ人女性である著者はアボリジニの集会へ招待を受けた。パーティーかと思って赴くと、衣服や持ち物すべてを焚き火で燃やされてしまう。そして砂漠地帯を彼らと一緒に歩く、120日にも及ぶ旅が始まった。その旅の目的は、彼らの生き方を教えるためだった・・・といった内容。

 

 

現代社会の価値観がいかに破壊的で利己的であり、先住民のそれはいかに知恵と調和に溢れていて素晴らしいのか、という今まで100回くらい読んだことのある耳タコな内容でしたけど、その手の本の中ではトップクラスに面白かったです。

 

ちなみに「ミュータント」とは、旅の間の著者の呼び名であると同時に、過酷な自然の中で生き延びることができない私たち現代人すべてのことでした。

 

 

ただこの作品は、アボリジニから「白人の女性が自己宣伝と私欲を目的にアボリジニーの文化を間違って伝えている事実に大きな憤りを感じている」という厳重な抗議が寄せられ、当初ノン・フィクションとして刊行されていたのがフィクションへ変更された経緯があるそうです。

 

つまりは作り話である可能性がということですけど、そう聞いて「騙された」というよりは「やっぱりね」という感じでした。

 

アボリジニの知恵が紹介される部分は面白かったのですが、彼らが言葉を発しなくてもテレパシーで遠く離れた人と交信できる、しかも電話で喋ってるくらい詳細な内容を伝え合えると読んだ時には「・・・え?」と一気に興醒めしてしまいました。

 

そこからは疑いの目で読んだので他にもいろいろと怪しい記述が見受けられましたけど、終盤にきて著者が彼らの最後のメッセージを伝えるメッセンジャーとして選ばれたというくだりを読んで「結局それが言いたかったのね」と確信しました(笑)

 

たしかに描写には迫真のリアリティーを感じましたし語られるメッセージ自体は素晴らしいものばかりでしたけど、だからと言って簡単に騙される人って失礼ながら普段からまともな本を読んでいないか、性格的に能天気すぎるかのどちらか、あるいは両方だと思うのですよ。

 

 

この手の偽書は過去にも『パパラギ』『リトル・トリー』、カスタネダの「ドン・ファン」シリーズなどあって、架空の先住民に著者自身の理想を語らせるという共通点があります。

 

そのような偽書が出回ると「嘘でも本当でも内容が素晴らしければどっちでも良いじゃないか」という擁護意見も必ず出てくるのですけど、そんなことを言ってるから偽りを語る詐欺師が次々と出現しては同じ手口でまた多くの人が騙されることになぜ思い至らないのでしょうか。最初からフィクションとして出せばいいだけの話です。

 

最近でも日本人がアフリカの小さな村の村長さんから縄文時代の日本の知恵を教わったという本がスピリチュアル界隈でベストセラーになっていると聞き、私も読んでみましたけどあんな話を疑いもせず信じちゃうって・・・いや、それだけ素直で心のきれいな方がたくさんいらっしゃるということなのでしょう。これ以上余計なことを喋ったら危険な気がしてきました。ゲフンゲフン。