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揺れ動く日本語「~まみれ(2)」(受難表現の前向き用法)

 

 金田一春彦の動詞分類にあてはめると、「まみれる」は第3種「瞬間動詞型」に属すると思われる。まみれた後の状態の継続、つまり

「まみれている」の形の方が多用され、「まみれる」はもっぱら連体形として使われることが多い。

 

どの辞書でも、「(血、汗、泥、ほこりなど)汚いもの物が一面に付く」(*)というように、体に何か歓迎せざるものが付着するイメージである。名詞化された「まみれ」は付着した後の状態を表す。

 

 ×往年の名選手のお宅はトロフィーまみれだった。 

というような言い方はしないはずだった。

 

 ところが近年、冒頭の「ねこまみれ」をはじめとして「京都まみれ」(書籍)、「チョコまみれ」のような前向きな使い方が定着しだした。

何かを歓迎すると同時に、人体に直接何かが付着するわけではないところが新しい。「ねこまみれ」は精神的な満足感のニュアンスだが、「チョコまみれ」は物理的付着のまま被害ととらえずに商品の付加価値としていることが新しい。

揺れ動く日本語「~まみれ(1)」(受難表現の前向き用法)

 老舗の雑誌、週刊朝日では、毎年12月20日前後の号を一冊まるごと猫特集にする。ネコ好きの我が家では必ず購入する。付録のネコカレンダーをトイレに貼るのがルーティンだ。

2021年のキャッチコピーが「ねこまみれ」だということに気づいた。「まみれ」は元々、油まみれ、泥まみれのように何かの被害にあったときに使われる言葉だ。それが受難ではなく「まみれて陶酔する」かのように使うのが近年の新しい傾向である。

 

「まみれ」は「まみれる」(下一段活用の自動詞)の連用形中止法による名詞化だが、本来の動詞としての使用は限定される。

つまり、

・必死の盗塁後、瑛太くんのユニフォームは砂にまみれていた

というような使い方がほとんどで、

・まみれ(ない)(未然形)、まみれる(連用形)、まみれれ(ば)(仮定形)、まみれ(ろ)(命令形)

という活用はほとんど使用されない不思議な動詞である。

わずかに、

 ・泥にまみれる瑛太くんのユニフォーム姿が印象的だった。

 

というような連体形の使用が見られる。 
 (8月4日「~まみれ(2)」に つづく)


 

 

揺れ動く日本語 「極み(2)」

「極み」(2)

 

 そもそも、「極み」は物事の限界点に達したことを表す言葉で、日常的な言葉で最もよく使われるのは「痛恨の極み」である。「極まる」(自動詞)、または「極める」(他動詞)の名詞化のはずだ。それではなぜ、「極まり」、または「極め」ではないのであろう。本来の品詞が他の品詞に変化して出来た言葉を転成語と呼び、この場合は転成名詞である。

通常は動詞、または形容詞の連用形が名詞に変化する。

 

動詞の場合は、

 1) 彼の走りなら、金メダルが期待できる。(自動詞:走ります⇒走り)

 2) 彼の読みは甘く、大敗した。(他動詞:読みます⇒読み)

となる。1)2)の例はどちらも五段活用動詞である。「極み」も、元々は五段活用かと思いきや、「極める」は下一段活用動詞なので、連用形は「極め(ます)」にならないとおかしい。

 ・未然形:きわめ(ない)・きわめ(よう)、連用形:きわめ(ます)、終止形:きわめる、

  連体形:きわめる、已然形:きわめれ(ば)、命令形:きわめろ 

だからだ。

 

 3) あの家族には困ったもんだ。極めつけは、今回のあのおやじの借金だ。

のように複合的な転成名詞がよく使われる。

 

 ところが、単独の転成名詞の場合は「極み」になってしまう。[注1]

 ・未然形(*):きわま(ない)・きわも(う)、連用形(*)きわみ(ます)、

  終止形:きわめる、連体形:きわめる、已然形:きわめれ(ば)、命令形:きわめろ 

という仮想的な活用が人々の意識下にあって、「極み」が発生したのであろうというのが通説だ。

 今回の過熱報道が、このように特殊な出自を持つ言葉の増殖に拍車をかけたと言える。

 

[参考文献]

・日本大辞典刊行会(2004)『日本国語大辞典第二版』小学館

・笠原宏之(2008)『訓読みのはなし-漢字文化圏の中の日本語』光文社新書

サッポロ  (きわみ)ZERO-CHU-HI

http://www.sapporobeer.jp/news_release/0000021319/index.html

三菱電機  ルームエアコン霧ヶ峰Z ムーブアイ(きわみ)機能

http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2015/0820.html

 

[1](*)は文法的に認知されていない活用形を表す。

 

 

揺れ動く日本語 「極み」(1)

出版社ロゼッタストーンのサイトでエッセイ
「揺れ動く日本語」を連載しております。
(毎月15日更新)
今月は「極み」(1)です。
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 ゲスの極み乙女。メンバーの不倫に関する過熱報道以来、
「~の極み」という表現も増加した。「極み」は質の高さを
表すために商品名に使われることが多い。
化粧品、エステ用品、スーパー銭湯、エアコン、飲料など癒
しの提供を売り物にできるネーミングでもある。「極み」以
外に送り仮名を使わず、「極(きわみ)」と表記する場合もある。
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お時間があれば、この続きは

http://www.rosetta.jp/yure_japa/

で、お読みくださると幸いです。

揺れ動く日本語 「ゲス」(2)

出版社ロゼッタストーンのサイトでエッセイ
「揺れ動く日本語」を連載しております。
(毎月15日更新)
今月は「ゲス」(2)です。
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そもそも、「げす」とは、身分、素性が卑しい人を指す言葉だ。
形容動詞(げすだ。)に転じて、卑しい様を表すことになる。
戦後、皇室を除く身分制度の廃止と一億総中流化の風潮、その
後のマイノリティの人権尊重の時代になるに従い、表だって使
われない言葉になっていた。
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