揺れ動く日本語 「極み(2)」 | MARK AKIYAMAのブログ

揺れ動く日本語 「極み(2)」

「極み」(2)

 

 そもそも、「極み」は物事の限界点に達したことを表す言葉で、日常的な言葉で最もよく使われるのは「痛恨の極み」である。「極まる」(自動詞)、または「極める」(他動詞)の名詞化のはずだ。それではなぜ、「極まり」、または「極め」ではないのであろう。本来の品詞が他の品詞に変化して出来た言葉を転成語と呼び、この場合は転成名詞である。

通常は動詞、または形容詞の連用形が名詞に変化する。

 

動詞の場合は、

 1) 彼の走りなら、金メダルが期待できる。(自動詞:走ります⇒走り)

 2) 彼の読みは甘く、大敗した。(他動詞:読みます⇒読み)

となる。1)2)の例はどちらも五段活用動詞である。「極み」も、元々は五段活用かと思いきや、「極める」は下一段活用動詞なので、連用形は「極め(ます)」にならないとおかしい。

 ・未然形:きわめ(ない)・きわめ(よう)、連用形:きわめ(ます)、終止形:きわめる、

  連体形:きわめる、已然形:きわめれ(ば)、命令形:きわめろ 

だからだ。

 

 3) あの家族には困ったもんだ。極めつけは、今回のあのおやじの借金だ。

のように複合的な転成名詞がよく使われる。

 

 ところが、単独の転成名詞の場合は「極み」になってしまう。[注1]

 ・未然形(*):きわま(ない)・きわも(う)、連用形(*)きわみ(ます)、

  終止形:きわめる、連体形:きわめる、已然形:きわめれ(ば)、命令形:きわめろ 

という仮想的な活用が人々の意識下にあって、「極み」が発生したのであろうというのが通説だ。

 今回の過熱報道が、このように特殊な出自を持つ言葉の増殖に拍車をかけたと言える。

 

[参考文献]

・日本大辞典刊行会(2004)『日本国語大辞典第二版』小学館

・笠原宏之(2008)『訓読みのはなし-漢字文化圏の中の日本語』光文社新書

サッポロ  (きわみ)ZERO-CHU-HI

http://www.sapporobeer.jp/news_release/0000021319/index.html

三菱電機  ルームエアコン霧ヶ峰Z ムーブアイ(きわみ)機能

http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2015/0820.html

 

[1](*)は文法的に認知されていない活用形を表す。