町の本屋さん -2ページ目

幸せのありか

「何か作ろうか?」
と私が言うと、哲生はくびを横に振った。
「食べる気分じゃない。」
「そんなに落ち込まないでよ。1ヶ月でしょ。あっと言う間だよ。」
「そうなんだけどさ。俺、女々しいかな?」
「そんなことないよ。でも、仕事だとしょうがないよ。」
「うん、わかってる。」哲生があんまり暗いので空気を一変しようと
「一緒に飲もう!」
と私は言った。
「そうだな。飲もう!」私たちは無理やり明るく務めた。

幸せのありか

哲生は来るなり上着を脱ぎ捨てネクタイを外した。
その当たり前の動作が新鮮に見えて胸が高鳴った。
「ビールでも飲む?」
「いいねぇ、もらおうかな。」
「今まで仕事だったなんて大変だね。」
私はビールを渡しながら言った。
哲生はプシュッと口を開けると一気にいっちゃう勢いで飲んだ。
「あ゛ーうめぇ。」
哲生はなんかヤケになっている。
「何かあった?」
と私が訪ねると黙ってうつむいた。
「うん。…俺、来週からシンガポールに行くことになった。」
「来週?」
「うん、来週。」
「ずいぶん急なのね。」
「本当は高田さんが行く予定だったんだ。でも高田さん、入院しちゃったから急遽俺が代わりに行くことになった。」
哲生はビールを一口飲んで続けた。
「ほら、俺、独り身だからさ。いきなり海外に行けって言われてもそんなに差し支えがないわけ。」
「どのくらい行かないといけないの?」
「1ヶ月。そんなに長くはないたろう?」
「1ヶ月かぁ。淋しいなぁ。」
と私が言うと
「やっぱり淋しいよなぁ。」
と哲生も言った。

幸せのありか

電話を切ってから私は慌ててその辺りを片付けた。
テーブルには弁当の空が置きっぱなし、洋服は脱ぎっぱなし、散らかり放題。
せっかくゆっくりしていたのに。
私は怒りに似たため息をついていた。
軽く掃除機をかけて、着替えをした。
さすがにジャージの出迎えじゃぁまずいか。
仕方がないのでGパンとTシャツに着替えた。
何だって今頃来るのか。
ムッとしながら着替えた。
電話の声に元気がなかったのが少し気になる。
昨日のことが相当堪えてるのか、それにまさる何かがあったのか。
元カノか?
仕事か?
なんだか哲生が来るまで落ち着かない。