幸せのありか | 町の本屋さん

幸せのありか

哲生は来るなり上着を脱ぎ捨てネクタイを外した。
その当たり前の動作が新鮮に見えて胸が高鳴った。
「ビールでも飲む?」
「いいねぇ、もらおうかな。」
「今まで仕事だったなんて大変だね。」
私はビールを渡しながら言った。
哲生はプシュッと口を開けると一気にいっちゃう勢いで飲んだ。
「あ゛ーうめぇ。」
哲生はなんかヤケになっている。
「何かあった?」
と私が訪ねると黙ってうつむいた。
「うん。…俺、来週からシンガポールに行くことになった。」
「来週?」
「うん、来週。」
「ずいぶん急なのね。」
「本当は高田さんが行く予定だったんだ。でも高田さん、入院しちゃったから急遽俺が代わりに行くことになった。」
哲生はビールを一口飲んで続けた。
「ほら、俺、独り身だからさ。いきなり海外に行けって言われてもそんなに差し支えがないわけ。」
「どのくらい行かないといけないの?」
「1ヶ月。そんなに長くはないたろう?」
「1ヶ月かぁ。淋しいなぁ。」
と私が言うと
「やっぱり淋しいよなぁ。」
と哲生も言った。