町の本屋さん -5ページ目

幸せのありか

横になるけどなかなか寝付けない。
暗闇がだんだんこの部屋を支配していく。
私はその闇に吸い込まれたいと思った。
闇の先には何もない闇。
そんな世界があるのならそこはきっとあの世だと私は思う。
テレビの明かりだけが私を今の世界にとどめていた。
携帯が鳴って、私は現実に戻る。
哲生からの電話だった。
きっと黙って帰ったことを聞かれるんだ。
言い訳するのもすごく億劫だから私は電話にでなかった。
長い間着メロが鳴っていたけど、私は電話にでなかった。
歌が止まると部屋はまた静かに闇が襲ってきた。
私はそのまま闇に身を委ねる。
何もない。
私自身の存在もなくなるような感覚。
このまま消えたい。
シャボンのようにパッと消えてしまいたい。
そうしたら面倒なことはなくなるのに。

幸せのありか

私はしばらく放心状態だった。
何もやる気が起きない。
私の中の動のエネルギーを全部持って行かれたような。
テレビの音さえうるさく感じた。
私はただゴロゴロして拓実のことを考えた。
いなくなった拓実は実際より良い人で私の中に残った。
やっぱりもったいない気がした。
本当に悲しい時は涙も出ない。
泣きたくてたまらないのに体のどこかで涙がつっかえているようだ。
なんでか喉仏のあたりが熱くなる。
嘘泣きでもいいから、泣きたいのに、誰も泣かせてくれない。
ただ、ただ、無気力。
泣いて疲れてそうして寝たい。
テレビ画面の中で芸人が必死に私を笑わせようとするけど虚しくなる程くだらない。
何もかもが
うざい。

幸せのありか

一息ついてやっと落ち着いた所に誰かやってきた。
どうせ拓実だ。
気まぐれにやって来る男。
まるでふうてんの寅だ。
私はドアも開けずに言った。
「拓実、もう来ないで。」
「何言ってるんだよ。早くここ開けろよ。」
拓実を見たら決心が緩む。
「私、付き合ってる人がいるから拓実とは会えない。別れて。」
「例の男か?うまくなんていかねーぞ。」
私は拓実のその一言にカチンときた。
「帰ってって言ってんだけど!」
「いいのか。お前、俺にそんなこと言って。後悔するぞ。」
「しねーよ。」
「ふざけやがって!」
拓実はドアを一蹴りして帰って行った。
足音がたんだん遠のく。
私の怒りもだんだん遠のく。
やっとけじめがついた。
そう思って、コーヒーを飲む。
現実は苦かった。
清々したのと同時に拓実と別れるのはやっぱり悲しい。
どこかでつながっていたかった。
どこかで信じていたかった。
どこかで自分の気持ちに素直になりたかった。
でももうこれで終わり。
拓実は来ることはないだろう。