「クリエイション・ストーリーズ〜世界の音楽シーンを塗り替えた男〜」('21)
1990年代に数多くの人気バンドを世に送り出し、ブリットポップを牽引した音楽レーベル「クリエイション・レコーズ」の共同創設者であるアラン・マッギーの破天荒な人生を描いた音楽伝記映画です。主演はユエン・ブレムナー、共演はスーキー・ウォーターハウス、レオ・フラナガン、リチャード・ジョブソン、トーマス・ターグーズ他。
自分は「クリエイション・レコーズ」にもアラン・マッギーにも全く思い入れがないのだけれど、思い入れがある人ならきっともっと楽しめたんだろうな…。
音楽業界を舞台にしているとは言っても、プロデューサーが主人公なので、ミュージシャンの伝記映画とはちょっと違う。
ミュージシャンの伝記映画では定番とも言える、親との関係や薬物依存の問題などは盛り込まれているし、ちょっとした悲劇性もあるにはあるけれども、存命中の破天荒な人物を、そのままクレイジー且つコミカルに、そして一貫して猛スピードで描いていて、その「軽さ」と「スピード感」は![]()
ただ、ユエン・ブレムナーは確かにハマり役なのだけれど、撮影当時既に40代後半で、その実年齢通りの見た目のまま、20歳くらいから演じるのはちょっと無理があったかな (^^;;;
「金の糸」('19)
ジョージアを代表する女性映画監督ラナ・ゴゴベリゼが日本の「金継ぎ」から着想を得て27年ぶりに91歳で発表した作品で、ジョージアの苦難の歴史と過去との和解を描いた人間ドラマです。主演はナナ・ジョルジャゼ、共演はグランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ他。
1本の映画として観ると、もうちょっと物語としての抑揚があっても良かったかなと思わないでもないですが、それでも、「金継ぎ」からこういう物語をイメージできる監督のセンスは素晴らしいと感じました。
「母へ捧げる僕たちのアリア」('21)
南仏の海沿いの町の公営団地で、昏睡状態にある重病の母親の自宅介護をする4人兄弟の苦難に満ちた日常生活を、年の離れた末弟の14歳の少年の目を通して描いたフランスのドラマ映画です。主演はマエル・ルーアン=ベランドゥ、共演はジュディット・シュムラ、ダリ・ベンサーラ、ソフィアン・カーメ、モンセフ・ファルファー他。
移民の子としてフランスで生まれ育った(おそらく)北アフリカ系の家族の「現実の一例」を描いていて評価が高いのは理解できます。
ただ、最後までしっくり来ない映画でした。
オペラが好きなだけで取り立てて歌がうまいわけでもない主人公の少年が、有名オペラ歌手に「素質がある!!」と急に見込まれちゃうのは、物語の展開上、そういった「外の世界に飛び立てるきっかけ」が必要なのはわかりますが、いくらなんでも無理がありすぎ…。
また、3人の兄のキャラクターが強烈なせいで肝心の主人公の印象があまりに薄く、魅力に乏しいのも![]()
もちろん、主人公に魅力がなくても、それを補ってあまりある魅力的なキャラクターの友人や家族が登場すればいいのですが、それもなく、確かにそんな都合の良いキャラクターを敢えて登場させないのはリアルと言えばリアルなんですけどね…。
とにかく、3人の兄たちは確かに個性的。
母親の在宅介護にこだわる長男は、その気持ちは理解できるけれども、あまりに頑なすぎるし、若いのに超保守的な家父長制の価値観で生きている人物で共感しづらい。終盤の「ある行動」も充分に理解はできるけれども、ただ感情的に涙を流すだけで罪悪感といったものが全く感じられず、その後は憑き物が落ちたかのように、ただ「すっきりさっぱり」しているのも微妙に違和感…。長男としての重荷から解き放たれ、ようやく弟に対する愛情や優しさを示せるようになったのはよかったけれど…。
そして、三男はクズすぎて論外。物語を盛り上げるためにこういうトラブルメーカーが1人は必要だったんでしょうけど、そういう作為が見え見えでシラけちゃう。
そんな中、金持ちを相手に男女関係なく身体を売っているチャラ男の次男が一番穏やかで優しく、愛情深いというのは唯一の救いなのだけれど、かと言って主人公の魅力のなさを補うほどの出番も見せ場もない…。
こうやって不満をいろいろと述べちゃいましたけれど、逆に言えば、これだけ言いたくなるくらいには印象に残る映画だったと言えるのかもしれません (^^)
「弟とアンドロイドと僕」('22)
大学で教員として働きながら、密かに自分とそっくりのアンドロイドの開発に情熱を傾ける孤独なロボット工学者の日常を描いた人間ドラマです。主演は豊川悦司さん、共演は安藤政信さん、風祭ゆきさん、本田博太郎さん、片山友希さん、吉澤健さん他。
阪本順治監督が豊川悦司さんを想定して脚本を執筆しただけあって、役へのハマり具合は文句なし。彼が持つ独特の「生身の人間離れした気持ち悪さ」が存分に活かされています。
また、意識的に現実味を廃し、SFというよりオカルトホラーのような雰囲気で描くことで、特異で現実離れした登場人物たちの存在を観ている側が許容できるようにしているのも印象的。
さらに、どのシーンのどのカットを取っても構図が決まっていて、深みのある色調と合わせて「動く絵画」のような趣。
本来は小説で描いた方がふさわしい物語を敢えて映像で表現した「気概」は強く感じます。
が、純粋に1本の映画として「面白いか?」と訊かれれば、面白くなくはないけれど、積極的に他人に勧めたくなるほどの面白さはないという感じ。僕は嫌いじゃないですけど。
「ザ・シューター」('16-'18)
スティーヴン・ハンターのベストセラー小説「ボブ・リー・スワガー」シリーズと、その第1作を映画化した「ザ・シューター/極大射程」('07) をもとにしたテレビシリーズ全3シーズン全31話です。主演はライアン・フィリップ、共演はシンシア・アダイ=ロビンソン、オマー・エップス、シャンテル・ヴァンサンテン、エディ・マクリントック、ジョシュ・スチュワート他。
難しいことを全く考えなければ、毎回見せ場となる派手なアクションシーンはあるし、それなりにハラハラドキドキできるし、気楽に観られる娯楽作品としては充分な出来。
が、ちょっとでも真面目に観てしまうと、辻褄の合わないご都合主義な展開の連続で、そのあまりに雑でテキトーな脚本に呆れちゃう。しかも、アメリカを影で牛耳っているはずの謎の秘密結社が「仮面ライダー」のショッカー並みに現実味がないし、組織としてあまりに脆弱でしょぼいのには![]()
結局、妻子を大事にする家庭的な夫の顔を見せながら、人を殺すことに何の痛みも感じない主人公が一番のサイコパスである点を含め、全てがいい意味でも悪い意味でも「アメリカン」なドラマでした。
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「ハウス・オブ・グッチ」('21)
世界的高級ブランドの創業者ファミリーであるグッチ家の崩壊を描いた、リドリー・スコット監督によるサスペンス映画です。主演はレディー・ガガ、共演はアダム・ドライヴァー、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、ジャック・ヒューストン、サルマ・ハエック他。
冒頭で、あくまで実話から着想を得たフィクションであることを明言はしていますが、登場人物は実名だし、この映画が実話通りだと思っちゃう人は多そう。
それはともかく、この題材なら主人公であるパトリツィアを徹底的に悪女に描くか、逆にそういう生き方をするしかなかった愚かで哀れな女性として描くか、どちらかにした方が物語としては面白くなったと思うのですが、敢えてそうせず、映画全体をブラックコメディとして描こうとした作り手の意図はわかります。確かに一般庶民の感覚からしたら、常軌を逸した人々が自らの愚かしさのために一族全体を自ら滅ぼしちゃったなんて、「バカじゃね?」としか思えませんし、そのようなグッチ家を蔑みたくなる感覚を前面に出したかったのでしょう。
でも、そのために主人公が中途半端なキャラクターになってしまい、ダラダラと長い尺と合わせて、ただただ退屈な話に。アル・パチーノとジャレッド・レトの大げさなコメディ演技も笑えない上に浮いてるし。
題材も役者もいいけれど、料理の仕方を失敗しちゃったという感じ。
「テッド K ユナボマー 狂気の目覚め」('21)
1970年代から1990年代にかけて全米を震撼させた連続爆弾魔「ユナボマー」の素顔を再現した実録犯罪サスペンスです。主演はシャールト・コプリー、共演はドリュー・パウエル、ボブ・ジェニングス他。
「ユナボマー」の事件は当然ながらよく知っていますが、その正体である「セオドア・カジンスキー」という人物については興味がなかったこともあって全く知りませんでした。なので、この映画で初めて知ることも多く、その点では観て良かったとは思っています。
ただ、純粋に1本の映画として観ると、不快なだけで視聴はかなりしんどい…。
一貫して主人公の一人称で描かれる物語はドキュメンタリータッチで過剰な演出を加えないのは好感が持てますが、文字通りの「狂人」の姿を延々と見せられ続けるのはかなり苦痛。
もちろん「知能は恐ろしく高いが、精神年齢5歳の中学生男子」でしかない主人公の姿には憐れみも感じなくはないです。成長過程において、親を含めてろくな大人が周りにいなかったんだなぁと。
とにかく、映画としての価値は間違いなくありますが、二度と観たいとは思いませんでした。
「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」('19)
実話をもとに、環境汚染の実態を隠蔽していた世界的巨大化学企業デュポンに闘いを挑むことになった企業弁護士を描いたサスペンス映画です。主演はマーク・ラファロ、共演はアン・ハサウェイ、ティム・ロビンス、ビル・キャンプ、ヴィクター・ガーバー他。
→ Wikipedia「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」
よく映画にできたなぁ…。
実話で既に世界中で広く知られている話とは言え、世界的大企業デュポンの極悪非道ぶりを実名で描いているんですから。
それにしても、報道で充分に知っている話だったとは言え、こうやって当事者の目線で見ると、本当に恐ろしい話。
この件は、担当弁護士にやる気があり、しかもその上司をはじめとする周囲が協力的だったおかげで、明るみに出ることとなり、「正義」を実現できたわけで、そのあたりはアメリカの司法が比較的健全であることを示していると言えます。しかし実際には、他にも同様の問題はいくらでも起きており、そのほとんどが公にならないままうやむやになっていることもまた事実。その恐ろしさを、こんな誰の目にも明らかな不正ですら告発するのが難しい現実を示すことで描いた作品なのです。
ハリウッド映画にありがちな過剰な演出は控えめで、主人公である弁護士を邦題にあるようなスーパーヒーローではなく、弱さのある普通の生身の人間として描いているのも現実味があって好感が持てますし、現代社会に生きる人間として一度は観るべき映画でしょう。
「コーダ あいのうた」('21)
歌の才能を見いだされた少女と彼女の耳の不自由な家族を描いたフランスのドラマコメディ映画「エール!」('14) のハリウッドリメイクで、第94回アカデミー賞で作品賞など3部門を受賞したドラマ映画です。主演はエミリア・ジョーンズ、共演はトロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント、エウヘニオ・デルベス、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ他。
よくできてる。
主人公が「コーダ(ろう者の子)」であることを除けば、ストーリーそのものは比較的オーソドックスな「巣立ちを描いた青春映画」。
元になったフランス映画「エール!」もいい映画ではあるものの、いろいろと描き方が雑だったり、不快に感じたりするところがあったのですが、それをうまく修正していて、違和感なく感動させてくれて![]()
特に、単なるコメディリリーフだった弟を兄に変更し、物語での比重を大きくしたのが大いに活きていて、かなり感情を揺さぶられました。
はっきり言ってしまえば、「エール!」よりもこのリメイクの方が気に入っています。
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「ヴォイジャー」('21)
人類が移住可能な惑星へ向けて86年の旅に出発した30人の子どもたちが10年後に青年期に入り、薬で感情を抑えられていたことを知ったことから宇宙船内の統制が崩壊していくさまを描いたSFサスペンスです。主演はタイ・シェリダン、共演はリリー=ローズ・デップ、フィオン・ホワイトヘッド、コリン・ファレル、シャンテ・アダムズ、アイザック・ヘンプステッド・ライト、ヴィヴェイク・カルラ他。
娯楽映画としてはこういう展開と結末になるのは仕方ないのかなとは思いつつも、前半は「人類のために犠牲になっている子供たち」の痛々しさが物語の中心だったはずなのに、終盤はその要素がどうでも良くなって、よくある「勧善懲悪のSFアクション映画」になっちゃったのは![]()
キャストも充実しているし、映像も悪くなかっただけに、せっかくの題材を全く活かしきれていない安易な脚本は本当に残念でなりません。