「オフィサー・アンド・スパイ」('19)
19世紀末のフランスで実際に起きた冤罪事件「ドレフュス事件」をロマン・ポランスキー監督が映画化した歴史ドラマ映画です。主演はジャン・デュジャルダン、共演はルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー他。
物語としてのまとめ方が嫌い。
肝心の「冤罪が認められるまで」を敢えて描かずに、そこは文字で説明するだけというのはよくある構成ですし、それを良しとする映画人は多いのかもしれませんが、そういうまとめ方は本当に嫌い。「そこを描かなくてどうする?」と怒りの感情しか湧きません。主人公がドレフュスではないからだとしても、また、映像化してしまうと間延びしてしまうからとしても、このまとめ方は観客の感情を無視した作り手の自己満足としか思えず。せめて隠蔽を主導した将軍たちと真犯人のその後や世論の動きくらいは紹介してくれても良かったのではないかと。
それでも、「ドレフュス事件」を知らない人向けには充分にわかりやすくまとまっているので、この映画を撮った意味は間違いなくあると思います。
ただ、僕がこの映画で評価できるのは、衣裳や美術をはじめとするビジュアル面だけでした。
「ファイブ・デビルズ」('22)
特異な嗅覚を持つ少女がにおいをきっかけに過去へタイムリープし、若き日の母親の思いがけない秘密を知ることになるさまを描いたSFラブサスペンスです。主演はサリー・ドラメ、共演はアデル・エグザルコプロス、スワラ・エマティ、スタファ・ムベング、ダフネ・パタキア他。
母親の過去の秘密は早々にわかってしまうし、さほど意外な展開はなく、比較的予想通りの結末。
それでも、青緑色がかった色調の映像は美しくも不気味で雰囲気を盛り上げているし、何と言っても主人公の少女を演じたサリー・ドラメとミステリアスな叔母を演じたスワラ・エマティの目力の強さが強烈なインパクトで物語のファンタジー性に説得力を与えています。
ただ、母親の生き方にはちょっと疑問も。
ここから↓はネタバレ。
愛し合いながらも別れざるを得なかった恋人の兄、しかも友人の恋人である男性と結婚して子供を産むって、ありえなくはないけれど、かなりヒドい女 (^^;;;
「レッド・グラビティ」('20)
ロマン・キロット監督が2015年に制作し、数々の賞を受賞した17分の短編映画を監督自ら長編化し、「赤い月」と呼ばれる謎の惑星と地球の衝突の危機を描いたSF映画です。主演はヒューゴ・ベッカー、共演はジャン・レノ、ポール・アミ、リヤ・ウッサディ=レッセル、ブリュノ・ロシェ他。
何で長編映画にしちゃったんだろう?
元になった短編映画を観ていないので難ですが、この話は長編映画向きではないです。
物理学を完全に無視したファンタジーをSFとして描いたり、壮大な話を限られた登場人物と狭い世界で小さく描いたり、またストーリーに多少辻褄の合わないところがあったりしても、短編映画なら「そういう特殊な世界観」として受け入れることも可能ですが、そのまま長編映画にしてしまうと、そういう欠点が目立ってしまうので、そこはうまく補完するなり工夫すべきなのに、それを全くしていないんですから。
高く評価された短編映画が長編映画化されることはよくありますが、短編映画と長編映画の根本的な違いを考えずに、ただストーリーを水増しして長編化しても失敗するのは当たり前です。
「不都合な理想の夫婦」('20)
一見何不自由ない裕福な生活を送りながら、さらなる成功を追い求めて崩壊への道をたどる1組の野心家夫婦の姿を冷ややかに描いたサスペンス映画です。主演はジュード・ロウ、キャリー・クーン、共演はチャーリー・ショットウェル、ウーナ・ローシュ、アディール・アクタル他。
評価が高いのは納得。
実際に起きている事象だけを見ればドラマティックな展開はさほどないのに、心理描写だけでスリルを表現し、ドラマティックな展開満載のサスペンス映画のように見せる演出と演技は見事としか言いようがありません。
が、主人公夫婦のキャラクターがあまりに醜悪で観ていて苦痛しかなく、もう二度と観たいとは思えない映画でした。
もちろん、その感覚もまた作り手の意図通りなのでしょうし、その意味でも大いに成功している映画ではあります。
「KAPPEI カッペイ」('22)
若杉公徳さんのギャグ漫画「KAPPEI」を原作とし、終末の戦士として修業した末に東京に流れ着いた屈強な男たちが女子大学生をめぐって繰り広げるラブバトルを描いたアクションコメディです。主演は伊藤英明さん、共演は上白石萌歌さん、西畑大吾さん、大貫勇輔さん、古田新太さん、山本耕史さん、小澤征悦さん他。
伊藤英明さんをはじめ、キャストはノリノリで演じているし、作り手側が楽しんで撮った映画なんだろうなとは思います。実際、笑えるシーンはそれなりにありましたし、観て損したとまでは思いません。
が、原作未読なのでエラソーなことは言えないのですが、そもそもこの世界観は読者が自分のペースで読み進められる「漫画」だから成立する話で、実写はもちろんアニメーションであっても映像化すべきじゃないんじゃないかと。
笑えるシーンは確かにありますけど、映像として一方的に延々と同じテンションで見せられ続けるのはかなり厳しく、途中で飽きちゃう…。
原作の知名度アップ、売り上げアップのためのPR映像と割り切れば充分すぎる出来だとは思いますけどね。
「神々の深き欲望」('68)
神話的伝統を受けつぎ、現代文明と隔絶した南海の孤島を舞台に、因襲と近代化の狭間で葛藤する人々の姿を通して人間の根源的な生と性を描いた人間ドラマです。主演は三國連太郎さん、共演は河原崎長一郎さん、北村和夫さん、沖山秀子さん、松井康子さん、加藤嘉さん、小松方正さん、嵐寛寿郎さん他。
これは面白かった。
日本の神話はもちろん、ギリシャやローマ、エジプトなど世界各国に残る多神教の神話の世界を20世紀の日本に蘇らせたようなイメージ。
社会の近代化に伴って、神々が神としての力を失って「獣」と蔑まれ、民は信仰を捨てる…。つまり最終的に民による「神殺し」を描いた物語であり、そこで描かれる「神々」が極めて人間臭く、だらしなくて生々しいのがいい。
とにかく、多神教の神話が大好きなくせに、この映画の存在を今日まで知らなかった自分を説教したい気分。
3時間近い長尺ですが、全く飽きることなく観ることができました (^^)v
「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」('21)
児童文学で知られるドイツの作家エーリッヒ・ケストナーが大人向けの長編小説として発表した「ファビアン あるモラリストの物語」を原作とし、ナチスが台頭しつつあった1931年のベルリンを舞台に、作家志望の青年が不安と焦燥を抱えながら必死にもがく姿を描いた人間ドラマです。主演はトム・シリング、共演はザスキア・ローゼンダール、アルブレヒト・シュッフ、メレット・ベッカー、ペトラ・カルクチュケ他。
まさに「文芸」作品。
が、あまりに陳腐なストーリーで退屈。
冒頭の、現代のベルリンの地下鉄の駅からワンカット長回しで1931年のベルリンにそのまま繋がる演出には目を奪われましたし、1931年当時のベルリンの退廃的な風俗をはじめ、その時代の「空気」の表現は興味深く、映像化する意味はあったと思いますが、とにかく話がつまらないのです。主人公も魅力的なキャラクターではないし。
主人公が20代半ばくらいまでの本当の「若者」なら、まだ受け入れられたのですが、当時なら完全な「大人」であるはずの30代という設定が主人公のキャラクター造形として違和感ありまくりで最後までしっくり来なかったのです。演じるトム・シリング自体はギリギリ20代に見えなくもないルックスで、それもまた逆に違和感に繋がっていたように思います。彼が本当に20代の時に、20代の設定で、この物語の主人公を演じていれば、相当に印象は違っていたと思います。
そういう残念感しか残りませんでした。
「ふたつの部屋、ふたりの暮らし」('19)
アパルトマンの最上階で向かい合わせの部屋に暮らしながら、ひそかに愛し合ってきた2人の老女に突如訪れた危機を描いた人間ドラマです。主演はバルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエ、共演はレア・ドリュッケール、ミュリエル・ベナゼラフ、ジェローム・ヴァランフラン他。
同性婚が認められている国であっても、様々な事情で関係を隠している同性カップルは世の中にいくらでもいるはずで、2人が健康であれば、今の時代はそれなりに幸せに暮らせるでしょうけれど、どちらか一方の健康状態が深刻になった場合、その秘めた関係は極めて危ういものであることがよくわかる話。
ただただ切なく苦しく、観ていて辛いばかりで、このまま絶望的な全く救いのない結末を迎えるのではないかとヒヤヒヤしましたが、少なくともそこまでの悲劇的結末でなかったのだけはよかったものの、かと言ってハッピーエンドとも言いがたく(そもそもハッピーエンドになりようがない話ですが)、観終わった後にはもやもやした気分だけが残ってしまいました。
とても良くできた素晴らしい映画なのですが、当分は観たくないです…。
「ハッチング -孵化-」('22)
12歳の少女が森の中で見つけて自室に持ち帰り、大切に温めて育てた奇妙な卵から生まれた不気味なものの正体を描いたフィンランドのホラー映画です。主演はシーリ・ソラリンナ、共演はソフィア・ヘイッキラ、ヤニ・ヴォラネン、レイノ・ノルディン、オイヴァ・オリラ他。
ホラー映画らしい恐怖感よりも、生理的な嫌悪感しかない気持ち悪いシーンのインパクトが強過ぎて![]()
そこさえ耐えられれば、サイコパスな母親に精神的な虐待を受けている少女の悲劇として観ることができるし、その観点では救いの全くない切ない結末。
ハリウッドのホラー映画とは明らかに違うテイストで着眼点も興味深いのだけれど、描写の気持ち悪さやストーリーの救いのなさなど、観終わった後に不快感しかなく、二度と観たいとは思えない映画でした。
ただ、主人公の少女を演じたシーリ・ソラリンナはとても大人びた雰囲気の美少女で将来が楽しみではあります。
「大河への道」('22)
江戸時代に日本初の実測地図を作り上げた郷土の偉人・伊能忠敬を主人公にNHKの大河ドラマを作り上げようと、地元の職員たちが悪戦苦闘するさまを描いた群像喜劇です。主演は中井貴一さん、共演は松山ケンイチさん、北川景子さん、橋爪功さん、岸井ゆきのさん、草刈正雄さん、平田満さん他。
伊能忠敬を題材にしながらも、伊能忠敬はほぼ登場せず、それでも最終的には「伊能忠敬の物語」に見えるような作りも面白いし、純粋に物語としても「いい話」にまとまっていて一般受けしそうな内容。
僕も充分に楽しめたのですが、でも「映画」というよりは年末年始にテレビ放映される、ちょっと予算をかけた「スペシャルドラマ」という感じ。それが悪いわけではないんですけどね。
