「BILLIE ビリー」('19)
1959年に44歳の若さで急逝したアフリカ系女性ジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイの波乱の生涯を、インタビュー音声やカラー化したライブ映像を織り交ぜて紹介したドキュメンタリー映画です。出演はビリー・ホリデイ、リンダ・リプナック・キュール、トニー・ベネット、カウント・ベイシー、チャールズ・ミンガス他。
伝記映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」('21) を先に観てしまっていたのですが、それは大失敗。このドキュメンタリー映画の方を先に観ておくべきでした…。
とにかく、ドキュメンタリー映画としては一風変わっています。
ビリー・ホリデイの伝記を書くために10年も取材を続けていたものの、1978年に38歳で謎の死を遂げた白人女性ジャーナリストが遺し、近年になって発見された、ビリー・ホリデイの関係者に対するインタビューの録音テープを中心に構成されており、ビリー・ホリデイだけでなく、その女性ジャーナリストの生涯についても並行して紹介しているのです。
その構成が成功しているかは微妙なところですが、ビリー・ホリデイという歴史に残る大スター歌手の光と影をストレートに描き、彼女が凡人の理解を超えた破滅的な生き方しかできなかった人物であることをはっきりと見せてくれています。そしてわかるのは、彼女の人となりについては、そのような破滅的な人物だったことを知るだけでも充分なのかもしれないということ。無理に「理解」する必要もなければ「共感」も「同情」も「憐れみ」も必要ないように思えます。
彼女の人生に興味を持ったなら、伝記映画ではなく、こちらのドキュメンタリー映画を観た方が良いと思います。
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「エクソシスト ディレクターズカット版」('00)
少女に憑依した悪魔と神父との闘いを描いたオカルト映画「エクソシスト」('73) に未公開シーンを加えたディレクターズカット版です。主演はエレン・バースティン、共演はリンダ・ブレア、マックス・フォン・シドー、ジェイソン・ミラー、リー・J・コッブ他。
オカルトホラー映画の傑作とされていますが、今の時代に観ると、確かにオカルトホラーの形はとっているものの、どちらかと言えば、カトリックの悪魔祓いをかなり真面目に描いた文芸作品という印象。
そのオリジナル版から10分ほどの映像が追加された本作は、一段と「真面目に」悪魔祓いを描いた宗教映画の趣に。
オリジナル版の後味が悪いだけのエンディングも嫌いじゃないですが、その後に多少の救いのあるエンディングを追加したのは「宗教映画」としては適切なんでしょう。
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「アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台」('20)
実話をもとに、刑務所での演技のワークショップと舞台公演を通して囚人たちが自由に羽ばたいてゆくさまを描いたフランスのドラマ映画です。主演はカド・メラッド、共演はダヴィド・アヤラ、ラミネ・シソコ、ソフィアン・カメス、マリナ・ハンズ他。
何、これ…。
この結末は実話通りだそうで、確かに「物語」としては出来過ぎな結末で、まさに「事実は小説より奇なり」。
なので「理解」はもちろんできます。
が、この結末をあたかも「いい話」のように描くことにはどうしても納得ができません。
彼らは犯罪者であり、被害者もいるのです。その事実を無視して、こんな結末の話を「物語としてよくできてるから」という理由で映像化すること自体が不謹慎だし、ましてや「いい話」のように描くなど言語道断。
僕はこの映画を断固として否定します。
「エルヴィス」('22)
ロックンロールの確立に貢献し、「キング・オブ・ロックンロール」と呼ばれるようになった伝説的スター歌手エルヴィス・プレスリーの生涯を描いた音楽伝記映画です。主演はオースティン・バトラー、共演はトム・ハンクス、オリヴィア・デヨング、ヘレン・トムソン、リチャード・ロクスバーグ、コディ・スミット=マクフィー他。
ストーリーそのものはよくあるスターの伝記映画そのもの。
ただ、「悪役」であるマネージャの視点で描くことで違ったニュアンスを与えているのは新鮮。
確かに極悪非道なマネージャのせいでプレスリーが若くして亡くなったのは間違いないでしょう。
しかし、そのマネージャによるナレーションが指摘するように、プレスリーが「スターとしてファンに愛されること」に依存してしまっていたこともまた彼の死を早めてしまった原因の1つ。そして、父親がここまで無能でさえなければ彼は救われたかもしれないと思うと本当に切ない…。
それにしても、写真で見る分にはプレスリーに似ているとは全く思えないオースティン・バトラーが、メイクや衣装に助けられているとは言え、喋り方や身のこなしでプレスリーに見えてしまうのは見事としか言いようがありませんでした。
「ミッドナイト・キラー」('21)
ヒッチハイカーの女性や売春婦を主な標的にして、50人近くもの女性を殺害したとされるアメリカの連続殺人鬼「トラックストップ・キラー」をモチーフに、謎の連続殺人犯を追う捜査官たちの奔走を描いた犯罪サスペンスです。主演はミーガン・フォックス、エミール・ハーシュ、共演はブルース・ウィリス、ルーカス・ハース、ケイトリン・カーマイケル、オリーヴ・アバクロンビー、コルソン・ベイカー他。
実際の事件をモチーフにしてはいますが、時代も事件の詳細も全く異なるもので、基本的には完全なフィクション。
その前提を理解した上で観ると、21世紀の今の時代らしい味付けは感じます。
被害者が女性ばかりというのは昔からよくあるサイコスリラーと変わりませんが、「捕らえられた女性を男性が救い出す」という物語の定石を可能な限り排して、女性が自らの力で解決に導くのは今風。ちょっと無理がありましたけどね。
映画全体の出来としては平凡ですが、2時間サスペンスよりはマシでしょう (^^)
ちなみに、ブルース・ウィリスは完全な脇役で出番も少ない上に、見せ場は皆無です (^^;;;
「キル・ゲーム」('21)
富裕層の娯楽である近未来の人間狩りゲームに獲物として参加させられた元悪徳警官が狩る側に転じて反撃する姿を描いたSFサバイバルアクションです。主演はブルース・ウィリス、共演はニール・マクドノー、コーリー・ラージ、アレクシア・ファスト、ロックリン・マンロー他。
何じゃこりゃ!? (@o@)
「獲物」であるはずの主人公が全く危機に陥ることがないまま森の中をのんびりと散歩中にハンター同士が勝手に殺し合うだけの話が延々と続いたと思ったら、突然覚醒した主人公が「魔法のように」追っ手を殺しまくり、ラスボスとの対決も何だかよくわからないまま決着がついちゃう。
この映画の撮影時は既にブルース・ウィリスが病でまともに演技やアクションなどができない状態だったので仕方ないのは分かりますけど、それにしてもなぁ…。
とりあえず、主人公の設定がこれまでブルース・ウィリスが演じた役の「その後」とでもいうようなパロディキャラだったのだけは面白かったですけどね (^^)
「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」('21)
黒人リンチの実態を告発した名曲「奇妙な果実」で知られ、1959年に44歳の若さで亡くなった伝説的ジャズ歌手ビリー・ホリデイの波乱の生涯を描いた音楽伝記映画です。主演はアンドラ・デイ、共演はトレヴァンテ・ローズ、ギャレット・ヘドランド、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ミス・ローレンス・ワシントン他。
→ Wikipedia「ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ」
ビリー・ホリデイをよく知らない人にはちょっと分かりにくい映画。
というよりも、予備知識がない人のことはそもそも考えておらず、彼女についてはそれなりに知っている人のみに向けて作られたのでしょう。
黒人差別や女性差別と戦った「英雄」として過度に美化することなく、彼女の負の面もしっかり描き、薬物依存の問題や性的に奔放だった部分も赤裸々に描いた上で、彼女の弱さだけでなく、強さをも描き、差別に苦しめられた悲劇的な人物として感傷的に描くことを意識的に避け、「ありのままのビリー・ホリデイ」を描こうとしているのは![]()
ただ、作り手の思い入れが強すぎるのか、あまりに盛り込みすぎているため、観ている側にとっては感情の持って行きどころがないのです…。テレビミニシリーズくらいの尺があれば良かったのでしょうが、2時間程度の映画にするにはちょっと無理があったように思います。
「ザ・ロストシティ」('22)
恋愛小説家の女性と彼女の小説の表紙を飾っている軽薄な人気モデルの男性が、秘宝があるとされる「ロストシティ(失われた都市)」をめぐって繰り広げる冒険を描いたコメディ映画です。主演はサンドラ・ブロック、チャニング・テイタム、共演はブラッド・ピット、ダニエル・ラドクリフ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ他。
本格的な冒険アクションを期待して観ると「何じゃこりゃ!?」としかならないほど脚本はテキトーだし、大して面白くはない。
が、サンドラ・ブロックとチャニング・テイタムの個性と魅力を存分に活かした役柄と、それを見せることだけに注力するという、清々しいまでの潔さでそれなりに楽しめるようにできているのは![]()
本当にそれだけ。
それだけでいいんです (^^)v
「スウィート・シング」('20)
ダメな親から逃れて冒険の旅に出た10代の姉弟を描いたドラマ映画です。主演はラナ・ロックウェル、ニコ・ロックウェル、共演はウィル・パットン、カリン・パーソンズ、ジャバリ・ワトキンズ他。
舞台となる時代は曖昧ではありますが、おそらく現代。それでも1930年代の映画風の演出を交えたモノクロの映像が現実の厳しさを表しつつも美しく、さらにところどころに差し込まれる幻想的なカラー映像も印象的。
絶望しかない悲劇的エンディングと思わせながら、エピローグに救いを持たせているので、後味は悪くないはずなのですが、そのエピローグ部分があまりに都合が良いので、もしかすると、これは主人公の少女の願望や妄想なのではないかと思えてしまい、一層辛い気持ちに…。
物語としても映像としても優れた作品であることは間違いないのですが、もう二度と観たくないです。
「アンラッキー・セ○クスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版」('21)
名門校の教師の女性が、夫とのプライベートな動画がネットに流出してしまったことから、学校や生徒の親たちへの釈明に追われることになるさまを、皮肉なユーモアと風刺、社会批判をちりばめて描いたルーマニアのコメディ映画です。主演はカーチャ・パスカリュー、共演はクラウディア・イエレミア、オリンピア・マライ、ニコディム・ウングラーノ他。
→ Wikipedia「アンラッキー・セ○クスまたはイカれたポルノ」
本当にブラック (^^;;;
コロナ禍のルーマニアの姿をドキュメンタリー風に描きつつ、汚職にまみれ、貧富の格差が拡大し、人種差別が蔓延しているルーマニア社会への批判を歴史をさかのぼって皮肉たっぷりに描き、さらにそこから対象を人類そのものに広げ、世の中の矛盾や不条理をブラックな笑いと共に描いています。
その上で日本のようにポルノへの検閲が極端に厳しい国への批判も。
この映画自体は「だからどうあるべき」のようなメッセージは全く何もないので、観終わった後にちょっと物足りなさを感じる人もいるかもしれません。
が、そもそもこの映画の作り手はそんな上から目線での説教をするつもりなどさらさらなく、「我々はこういう複雑で矛盾と不条理に満ちた世界に生きているんだ」ということに改めて気づかせることだけを目的としているのかなと思います。
そういう世の中の複雑さを理解できず、矛盾や不条理を受け入れられない人が、安易な陰謀論にハマってしまうのですから。