「親愛なる同志たちへ」('20)
ソ連崩壊後の1992年まで30年にわたって隠蔽されていた、1962年に旧ソ連の地方都市で起きた大量虐殺事件を映画化した、アンドレイ・コンチャロフスキー監督によるサスペンスです。出演はユリア・ヴィソツカヤ、アンドレイ・グセフ、ヴラジスラフ・コマロフ、ユリア・ブロヴァ、セルゲイ・エルリシュ他。
この手の事件を題材にした映画は、一般的に被害者側の視点で描かれることが多いですが、この映画の場合は単純に被害者側ではなく、むしろ加害者側に近い立場の人間を主人公にし、事件が何故起きて、どのように隠蔽されたのかを描いています。
その点から言えば、主人公を加害者側に近い立場の共産党員に設定したのはいいアイデアだと思います。
ただ、その主人公が特権的立場や地位を私的に使うことに何の躊躇もない、典型的な「腐った」共産党員で、嫌悪感しか抱けない身勝手なキャラクターであるせいで、この悲惨極まりない事件の悲劇性が薄められてしまったように感じられてしまったのは残念…。
もちろん、主人公をこのようなキャラクターに設定した意図はわかります。歴史的に反ソ連寄りの地域(老父も反ソ連的)で生まれ、そのために共産主義の強烈な「洗脳教育」を受け、亡きスターリンを心の底から敬愛している人物に設定することで、この主人公もまたソ連の被害者であり、こういった人物も多かった事実を示したいのでしょう。それでも、もう少し感情移入しやすいキャラクターにして欲しかったな…。
結末も、意図はわかりますが、自分にとっては「違う」としか思えず、この映画に対する評価はこの結末でダダ下がり。結局、今のロシアではここまでが限界なんでしょうね…。
「天使が隣で眠る夜」('94)
ジャック・オディアール監督のデビュー作で、賭博師とセールスマンという、しがない2人の男の物語が交錯するネオノワールです。主演はジャン=ルイ・トランティニャン、ジャン・ヤンヌ、共演はマチュー・カソヴィッツ、イヴォン・バック他。
1990年代の映画なので敢えて「あいまい」に描いているためにわかりにくいところもありますが、最終的には1人の無垢な青年と彼をめぐる2人の初老男性によるプラトニックな三角関係の顛末を描いたラブストーリー。
今の時代なら、2人の初老男性を中年男性に設定して、もっとわかりやすく描くんじゃないかなぁと考えると、ジャック・オディアール監督にはセルフリメイクしてほしい気もします (^^)
「ロックド・イン」('21)
大量のダイヤを巡る争奪戦に巻き込まれた、トランクルームで働く女性とその17歳の娘を描いたクライムサスペンスです。主演はミーナ・スヴァーリ、共演はジェフ・フェイヒー、マニー・ペレス、ジャスパー・ポリッシュ、コスタス・マンディロア、ブルーノ・ビチル他。
意外に面白かった (^O^)
キャストも地味だし、絵に描いたような低予算B級映画ですが、期待値が思いっきり低かったこともあり、予想外に楽しめました。もちろん、ツッコミどころは満載ですが、それも込みで楽しめます (^^)v
ところで、主演の中年女性はどこかで観たことがあるなぁと思ったら、「アメリカン・ビューティー」('99) で小悪魔的女子高生を演じていたミーナ・スヴァーリ!!
くたびれきった中年女性という設定のせいもありますが、完全に別人で、その事実の方が映画の内容よりもインパクト大 (^^;;;
「パムの秘密ーある主婦の知られざる顔ー」('22)
2011年に米ミズーリ州で実際に起きた殺人事件をブラックユーモアを込めて描いたサスペンスドラマ全6話です。主演はレネー・ゼルウィガー、共演はジョシュ・デュアメル、ジュディ・グリア、ギデオン・アドロン、ショーン・ブリジャース、スアンヌ・スポーク、マック・ブラント、ケイティ・ミクソン、グレン・フレシュラー、キース・モリソン他。
事実は小説より奇なりとはまさにこのこと。
これがフィクションなら「こんな支離滅裂な言動を取り続ける連続殺人犯なんて、いるわけない!!」と言われるはず (^^;;;
遺族がいる事件で、もちろん笑っちゃいけないのは分かっていますが、それでも、あまりに常軌を逸した無茶苦茶で理解不能な言動を取り続ける主人公の姿には、ここまで行くと笑うしかない…。
どう見ても賢さのかけらもない人物が、理屈ではなく、持ち前の押しの強さだけで何となく切り抜けて来られたことが不思議でなりませんが、とにかく、二度と社会に出て来ないでほしいと願うばかりです。
「355」('22)
南米コロンビアの犯罪組織が開発した、あらゆるセキュリティをくぐり抜けて世界中のインフラや金融システムなどを攻撃できる最新装置「デバイス」の争奪戦に加わることになった女性エージェントたちを描いたスパイアクション映画です。主演はジェシカ・チャステイン、共演はペネロペ・クルス、ファン・ビンビン、ダイアン・クルーガー、ルピタ・ニョンゴ他。
女性スパイのグループが世界を股にかけて活躍するというアイデア自体はいいんですけど本当にそれだけ。
ストーリー自体は絵に描いたような陳腐なB級アクション映画そのもの。
いくら女性たちが活躍するスパイアクション映画として作る「意義」があるとは言っても、こんなつまらない脚本でどうしてこれだけの大スターたちを集められたのか不思議に思ったのですが、中国が出資していることを知って納得。出資の条件として中国のプロパガンダを露骨に入れてますしね。「中国は欧米の皆さんの仲間で味方です!!」といういつものアレ。嘘をつくなって感じですよ。
とにかく、せっかくの面白いアイデアも素晴らしいキャストも全てが無駄になっている残念な映画です。
「復讐の荒野」('50)
ニューメキシコを舞台に、大牧場主とその後継である娘の愛憎を描いた心理西部劇です。主演はバーバラ・スタンウィック、ウォルター・ヒューストン、共演はウェンデル・コーリー、ジュディス・アンダーソン、ギルバート・ローランド他。
何故こうなった???
終盤になってヒロインが父親に復讐を始めるところからはバーバラ・スタンウィックらしさが活きているけれど、それまでは気が強いだけのヒロインの「若さゆえの幼稚さ」が物語の中心なので、とっくに40歳を過ぎていた彼女が演じるのはあまりに変。
そして致命的なのはヒロインが一目惚れしちゃうイケメン役をウェンデル・コーリーという華のない地味な非イケメンが演じていること。他にいくらでも二枚目俳優はいただろうに、どうして彼を起用する必要があったのか本当に謎。
とにかく、物語としては悪くないのだけれど、キャスティングのセンスがあまりにずれまくっていて、説得力の全くない長尺のコント(しかも全く笑えない)にしか見えませんでした。
「truth〜姦しき弔いの果て〜」('22)
堤幸彦監督の通算50作目となる自主製作作品で、交通事故死した男の葬儀後に彼の部屋に集まった3人の女性によるワンシチュエーション会話劇です。主演は広山詞葉さん、福宮あやのさん、河野知美さん、共演は佐藤二朗さん。
面白くなくはないのだけれど、どこをとっても古臭い…。
脚本は女性ですが、原案も監督も堤幸彦さんというベテラン。
男に都合が良すぎる話で、個性の異なる3人の女性も類型的。
作品そのものの出来はともかく、「古臭いおじさんの妄想」としか思えないストーリーや演出が気持ち悪くて仕方ありませんでした。
「私だけ聴こえる」('22)
耳の聴こえない親を持つ、耳の聴こえる子ども「コーダ(CODA:Children Of Deaf Adults)」の苦悩と葛藤を描いたドキュメンタリー映画です。日本映画ですが、主にアメリカのコーダの若者たちを描いています。
聾者ではないので聾者の家族とも真の意味でわかりあうことが難しく、かと言って物心がつく前から聾者の中で育ったために聴者の世界にも馴染めない。そんなコーダならでは疎外感や孤独感が強く胸に迫ってくる映画でした。
もちろん、コーダに限らず、家族とも世間とも馴染めずに生きている子供はいくらでもいると思うのですが、それでもこういう子供たちの存在をまずは「知る」だけでも意味は間違いなくありますし、こういったことの小さな積み重ねによって世の中は(ほんのわずかでしかないかも知れませんが)良くなっていくんじゃないかと思います。
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「ロスト・レオナルド〜史上最高額で落札された絵画の謎〜」('21)
レオナルド・ダ・ヴィンチの幻の傑作とされる「サルバトール・ムンディ」をめぐる様々な騒動を描いたドキュメンタリー映画です。出演はダイアン・モデスティーニ、イヴ・ブーヴィエ、マーティン・ケンプ、エヴァン・ビアード、ロバート・サイモン他。
「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」('21) と基本的には同じ内容。
しかし、「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」が「サルバトール・ムンディ」の真作性をほぼ完全に否定しているのに対して、本作は真作の可能性も、ないとは言えないレベルのごくわずかではあるものの、残しているのが特徴的。特に、真作であることを固く信じている修復師の女性を好意的に描くことでその印象を強めています。とは言うものの、あれだけボロボロだった絵を「修復」のレベルを超えて「上書き」した本人の言葉なんて全く信用できませんけどね。
その一方で、莫大な金額にまで値を釣り上げた関係者の嘘や欺瞞については「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」よりも具体的な証拠をもとに詳細に紹介しており、ドキュメンタリー映画としてはこちらの方が真摯な作りに感じられました。
いずれにせよ、同じ年に公開された、この2本のドキュメンタリー映画はどちらか一方ではなく、両方を観るべきだと思います。
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劇場版「銀河鉄道999」('79)
松本零士さんの同名人気SF漫画の劇場版第1作です。声の出演は野沢雅子さん、池田昌子さん、肝付兼太さん、麻上洋子さん、井上真樹夫さん、田島令子さん、富山敬さん、城達也さん他。
テレビシリーズはよく観ていたし、この映画もテレビ放送時に観ているはずなのですが、久しぶりに観てみたら、有名なラストシーン以外、全く覚えておらず、ほぼ初見 (^^;;;
今の時代に観ると、キャラクター造形など古臭さは否めませんが、それでも1979年のアニメーション映画としては作画レベルがとても高いし、ストーリーもうまくまとまっていて![]()
本来は短編の連続で構成すること前提としている物語なので、漫画連載やテレビシリーズには向いていますが、2時間程度の映画にするには相当に無理があります。そのため、この映画において個々のエピソードが薄味になってしまったのは否めませんが、それでも松本零士作品らしい情感溢れる「詩」の世界を実にうまく表現しています。
劇場公開当時、大ヒットしたのも当然の名作であることを、40年以上が過ぎた今になって確認した気分 (^^)v
