小説と未来 -84ページ目

新世界63-夢世界 19

「さあ、今度は君が計画を立てる番だ」


夏になっていた。蝉がうるさい中、僕らは公園の隅で策略を練る。


でも僕は何も思い浮かばない。


左の男が言うような計画を僕は持っていない。


顔の細い左の男顔の四角い右の男サーファー風の顔の黒い男パソコンおたくっぽい黒縁めがねの男もう一人パソコンおたくっぽい小太りの髪の長い男白髪交じりの髭もじゃじいさん、僕は彼ら6人を全員知っている。そしてその6人が僕の顔を見つめている。



夢とは、唐突にわけもわからない世界へ僕を連れてくる。僕はこれが夢である事を知っている。この夢にいる彼らは僕の事を知っている。しかし僕はこの夢の全てを知っているわけではない。夢は突然僕をある場所に置き、僕を追い詰める。時には予想もしない力を発揮する事ができるが、時には現実と同じように何も出来ないときもある。



今、僕は何もできない。何も思い浮かばない。


僕は、溜息をつく。


「おいおい、ボスはあんたを優秀な頭脳を買って、仲間に入れたんだぜ。いつまでも人を殴り倒すためだけに仕事をしててもしょうがねえだろう?」

と、左の男がいつもより荒い声で僕に言ってくる。


僕には返す言葉がない。

ただ頭の中はあーだこーだで詰まっている。僕はニシキ君の結婚詐欺話を通して彼らに知り合ったのだ。別に泥棒になって金を稼ぐつもりなんてなかった。こいつらはただの強盗集団だ。僕はいつまでもこんな奴らと一緒にいたくはない。確かに生活は裕福になった。腹を空かせて、食パンをかじる日々も終わったし、臭いゴミの山で金属を探す必要もなくなった。でもいつもでもこんな事をしていたくはない。


もちろんそんな事を彼らに言えない。言ってしまえばどんな目に合うかわからない。夢でも夢とは思えないくらい恐い目に合う。


僕はただ背中にびっちょりの汗をかくだけだ。脇からじわっといかにも臭いだろう汗が垂れ落ちてゆく。頭からも汗がダラダラ出てきた。


まあいい。わしが計画を出そう」

と、髭じじいが言う。

「ある政治家の息子の話だ。その政治家自体は汚職事件で引退し、最後はガンになって、5年前に死んでしまったんだが、その政治家は大量の資産を残した。政治家の妻も彼の死の1年後に後を追うようにして亡くなり、今ではその政治家の息子が豪邸に一人で住んでいる。そいつは親父の後を継ぐこともなく、他にまともな仕事をする事もなく、親の資産だけで生活している。結構な資産を残していて、もう40になろうとしているのに、結婚もせず、遊びまくっているそうだ。

今回はその豪邸を狙う」


「さすがクラさん、いいネタ持ってるね」と、サーファー風の男が言う。


「よし、わかりました。全部調べてみますよ」と、小太りのきもい男が言う。


「まさに狙いどころだな」と左の男が言う。


「あんたもそういうのを調べるんだな。後は全員でやる。大切なのは、あくどい奴を調べる事だ。そういうネタが俺らには必要なんだ」

と、僕は右の男に言われる。


あくどい奴ってあんたら強盗団が一番あくどい。


でも彼らには彼らなりの正義があるらしい。世の中のために仕事をしている金持ちは襲わない。彼らはそういったボンボンや不正に稼いだ金のある会社、そういった場所を狙う。ニシキ君に対してもそんなお嬢を狙わせていた。そういえば最近彼は夢に出てこない。もともといなかったように僕の夢からは葬り出されてしまったらしい。とにかくここにいる彼らはそういう連中だ。


「おっし、やってやろうか!」

サーファー風の男がそう言って、僕らは次の仕事に正義の心を燃やす。何が正義の心かはわからないが、僕は今、この世界についてゆくしかなさそうだ。


新世界62-無職の暇人 15

焦っている場合は精神安定剤を飲む。


心が疲れている場合は抗うつ剤を飲む。


僕は壊れた世界の中で何とか生きている。


そうあって、うまく生きてゆけばいい。



ハプリボポセリ医院を久々に訪れたのは、そんなときの事だった。


ハプリボポセリの院長は訳がわからない。


彼の精神が一番壊れている。


「どうなされたか?」

院長は僕に尋ねる。


「就職先を探しているんですが、なかなか思うように行かず、というか、恐い感じで、面接に行く気になれないんです」


「ハプリボポセリ!!!」


と彼は言う。


「いいんですよ!それで、なぜならあ、さあ、答えて!!」


と彼は言う。


「僕は臆病者なんです。劣等感も強いし、自信もない」


と僕は答える。


「ならならならならならんらんら、いーじゃん、おまえ、いい奴だよ、おまえ!


 カベルネソービニョンでも飲みねせえ」


ワインですね。


「ここ、病院ですよねえ!」


「いかがかな?まあなるようになるでござんす」


僕は結局、ワインを飲み、いくつかの精神剤を渡され、愉快な気分で追い出された。


僕が青いクマを気にしたり、水色のいも虫について考えるようになったのは彼のせいかもしれない。


まあ、そんな事はどうでもいい。


寒い毎日だ。


今日は早く寝よう。

新世界61-運命の幸雲 2

いい女を見ると騙したくなる。


女は一人公園で悩んだふりをしていたから、ニシキはどうしても騙したくてしかたなかった。



ニシキは結婚詐欺師だ。

基本的には組織が紹介する結婚紹介所とか、サークルとか、パーティーとか、そういったところで、組織の奴らが決めた女を騙す。女は金を持っていて、騙されやすい。ブスの年増や美人の気高い女が多い。

ここ数回、ニシキの仕事はブスの年増が続いていた。そして最後の女を騙してから、組織からの連絡がしばらくない。知り合いのカズという人に会ってどうしたらいいか尋ねてもいいが、それも面倒な気分だ。


お金はまだあった。

ニシキは金持ちを装うために高額の物を身に付けている。それは女からもらうものがほとんどだが、時として正体を知られないために自分で買わなくてならない場合もなる。今はそういった生活であるため、毎日お金がかかる。


軽い稼ぎが必要だ。



女は公園で悩んだふりをしていた。

ニシキはきっとどこかのどうでもいい男に恋でもしているのだろうと想像していた。


まずは人間観察から入る。


そして女の全てを知る。


女は動き出し、ニシキは後を追う。公園を離れ、最寄の駅に出た。やがて電車に乗り、郊外の方へ向う電車に乗る。4駅目で降りた。

しばらく歩いていく姿を尾行した。


彼女はアパートの二階へと行った。

1DKもアパートだ。入口には一応オートロックが付いている。壁を乗り越えれば侵入されてしまうが。

どうやら彼女は一人暮らしのようだ。


その後、ニシキはその女を何度か尾行した。

学校の先生をやっていた。年齢は自分と同じ26歳、男はいなそうだ。


騙しても、金は出てこないだろう。


それがニシキの最初の結論だった。

だけどニシキは学校の先生が嫌いだった。いい女風の子が嫌いだった。


中学生の時、少しだけ綺麗な女の子がいた。ニシキは心からというほどではないが、その女の子に少しだけ好意を抱いたことがあった。好意を少し抱いただけだ。それなのにニシキはその女の子にある日呼び出された言われた。

「わたし、ニシキ君の事、好きでもなんでもないから」

何でそんな事を言われなくてはならないのかわからなかった。でもそう言われた。

ニシキは後で知った。周りの連中がその女の子をストーキングしているというデマが流していたようだ。

そうであっても、そんな事を言われたくはなかった。

そんな嘘に流されて、そんな事を言う女は嫌いだ、というのがニシキの至った結論だ。


『彼女はあの女に似ている』

ニシキは思った。

『今度は実際にストーカーもしているし、自分も墜ちた。だからあの女を騙してみよう』


理由は金じゃなかった。

過去に対しての復讐だった。

自分が持った力に対する試みだった。



新世界60-孤島の物語 13

いろいろやろうよ


踊ろうよ


花びらハラハラ、小風がビュービュー


島はいつだって暖かい


歌い歌ったあの日の面影


小鳥と唄ったあの楽園の歌


心はいつだって弾むでしょ?


柔らか心、微笑み心


こうやって、この世界に、わたしはいます。



ハナはお日様さんさんの下で踊っている。


誰もいない一人遊び


家に篭ってなんていられない


誰もいないお外はハナの自由空間



不便な事もないでしょう?


こういう暮らしもあるもんさ


貴方は知らない小さな枠に捕らわれているから。


貴方は不幸、小さな事に悩んでいるから。



大地を感じて、潮の香りを感じて、天いっぱいに手を伸ばす。



この幸せにやってきなさい!



ハナはそう言って、届かない誰かを呼んでいる。


きっと変わる日もあると思うよ。


ハナは信じている。大きな変化はいつか起きるものだと。


新世界59-夢世界 18

また、あの日がやってくる。これで、何回目になるだろう?


僕の脳は疲れて、働きたくないと言っている。


そして眠ったふりをする。夢の中の夢見の時間が過ぎてゆく。


現実はどこへ行ってしまったのだろう?



右の男が僕の家にやってきた。


そして僕はコウキ君の視線を無視して、家を出てゆく。


夜ふけすぎだ。世の中はゴールデンウィークで、ビジネス街に人はいない。


目的はそっちだ。


車はいつもながら左の男が運転していた。

そして走りに走って、ビジネス街の中にある暗い公園脇に停まった。


僕らは車を降りる。

いつもながらここがどこだかはわからない。しかし金持ちが暮らす町の中であることは確かなようだ。


僕らはビル街を走って、10階建てくらいのビルディングの前までやってくる。

とても疲れた。でも目の前には警備員がいる。

どこかの定年過ぎたおじいちゃんだ。


覆面姿の僕らにびっくりしたおじいちゃんはすでに観念した表情を浮かべている。


右の男はガムテープを持っていて、それでおじいちゃんの手と足を縛り、さらに口を封じた。


「ここで待っていろ」

左の男は僕にそう言った。僕はすぐに頷く。小さな警備員室がビルディング一階の脇にあり、僕はおじいちゃんをそこに放り込み、僕もその中に姿を隠す。内部には三つのモニターがあり、入口とビル内部の三ヶ所を映している。

でもそのモニターは一瞬にしてプチリと消えた。


彼らはモニターを避け、こそこそと盗みに入るような、小さなまねはしない。ビルの電気を全てシャットダウンさせ、それから中に入り、目当てのものだけを求めて盗みに入る。しかも何らかの形でどこに何があるのかを知っているのだ。


ちょっとだけ聞いた話では、「まあ、会社に恨みのある奴は一つの会社に何人でもいる者さ」と言っていた。つまりそういう奴らから聞き出した情報と調べ上げた情報を基に、いつもの行動へと移るのだ。


彼らは極めて用意周到だ。捕まる事は恐らくないだろう。僕の仕事はやってくる警備会社の警備員をぶちのめすだけだ。


数分後、予想通り、警備会社の男がビル前に車を停めて下りてくる。ビルの入口は内鍵を閉めてあって、彼らはすぐには入れない。

相手は二人、少し厄介だ。

一人がポケットに付いていたチェーンからスペアキーを探している。そしてもう一人は警備員室のあるこっちにやってくる。


チャンスだ。

僕は警備室のドア前まで来た瞬間にドアを開け、外に出て、催涙スプレーを噴出する。目が見えなくなった大き目の男の口にいつもの睡眠剤付きのハンカチを浴びせる。

もう一人の男は僕に気づき、どこかへ自分の身に付いていた通報用のボタンを押したようだった。

僕は諦めて、右の男に貰った無線機で右の男へ連絡を入れる。

「まずい。気づかれた」と、僕は言う。

「まだ時間はあるな」

と声が戻ってくる。

「多少」と、僕は答える。


とりあえずそうとだけ言うと、僕はもう一人の警備員の男に襲いかかる。ボクシングか何かをやっていたのか、警備員の男はファイティングポーズを取り、僕の目の前に立ちはだかる。


「知っているかい?これはスポーツじゃないんだ」

僕は彼にそう言う。そして次の瞬間に催涙スプレーを噴射する。特殊なノズルつきで催涙スプレーはかなりのところまで飛び散った。

警備員の男は目を霞ませながら、むやみにパンチを出すが、僕はうまくそいつの右手を掴み上げ、力いっぱい投げて、男を地面に倒し込んだ。そしてまたハンカチだ。警備員の男はすぐに意識を失った。よく効く薬だ。


僕がそこで辺りを窺いながらじっとしていると数十秒後に左の男が扉の内から外に出てきた。

一人だったので、「彼は?」と、右の男の事を聞いた。


「あいつは後で来る。そろそろずらかろう」

左の男は僕にそう言って、僕らはやってきた公園の方へと走り去ってゆく。


車に乗り込んで、左の男が車をスタートさせる。

今回は失敗だったのだろうか?と僕は感じる。

僕は目に掛けていたゴーグルと青い覆面を外す。



少し走って、大通りの脇で車は停まった。

こんなところでどうするつもりなのか?

答えはすぐに出ていた。左の男が細い路地より現れた。しかも大きく重そうなバッグを持っていた。


これで僕にとって400万円目のお金が手に入る。


2021年のゴールデンウィークはハードだ。人々が休んでいる中、僕は仕事をしている。

これを仕事と呼ぶのならば、だが。