新世界55-夢世界 16
夢の中で、ボスと呼ばれる男は言った。
「俺はこの時代をぶっ潰すチャンスを待っていた。少しずつ時代は壊れ出している。俺はこの時代を潰すチャンスに近づいている。世の中はいつも、時代を守る者と壊す者のせめぎ合いだ。俺はいつだって作るものをぶっ潰す側にいる。それが俺にとっての正義だ」
夢の中の夢を見て、僕はほこり臭いベットの上で目を覚ます。
がばっと起きて、大粒の汗を垂れ流していた。
今は2021年の冬であるはずだ。しかし嫌な汗をかいたものだ。
「おじちゃん、いつまで寝てんだよ」
コウキ君がソファーでマンガを見ながら、僕に向けてそう言った。
どうやら時間はすでに午後3時過ぎといった感じのようだ。
最近はそんな風に夜眠れず、朝方になって眠りに就き、この時間に起きる事になる事が多々ある。
正月にボスと呼ばれる男に呼ばれて以来、僕の生活は狂いだしている。
「雪が降ったんだぜ」
コウキ君は嬉しそうな顔をして僕に対してそう言う。
僕は窓から僅かに覗く地表の風景に目をやる。
「でももう溶けちゃったけどな。一〇時くらいからものすごく暑くなったから」
僕はそうなのか?騙されているのか?よくわらないが、まあ子供のいう事なんて気にしないようにしようと頭をまとめ、体を起こす。今日も柔術の訓練に行こうと考えている。
体を鍛えないといけないというプレッシャーに追われている。
そう、ボスはとんでもない計画を立てている。僕はその一端を担うことになる。この先どうなるのか、僕にはさっぱりわからない。でももはや抜け出すことはできそうにない。道は一本しかないのだ。
だから僕は体を鍛える。
真剣な表情をしている。
コウキ君にはなんでもないように、にこりと微笑んでみた。
ちょっと不思議そうな印象を受けたのか、コウキ君は首を捻る。
2021年2月、僕は人生の正しい道を完全に踏み外れてしまったようだ。
新世界54-孤島の物語 12
雨の日は傘を差す。
晴れた日は日傘を差す。
毎日毎日傘を差す。
ハナは毎日毎日いろいろな一日をいろいろやって、送っている。
「同じ空じゃないんだ」
悩み事は忘れよう。
「ユーカイス、たとえば生活に決まりがあって、毎日毎日同じ事をしなければならないとなったら大変でしょう?」
「お嬢様、でも世の中にはそういう暮らしをしている人がたくさんいるのですよ」
「でも、わたしはそんな生活はしないわ」
「それはお嬢様が特別だからです」
「そうでもないわ。わたしはただの人よ。
わたしは朝起きる。わたしは夜には寝る
晴れた日は洗濯をする。雨が降ってきたら、洗濯物を取り込む。
ご飯も炊くし、茶碗も洗う。そうやって毎日送っている」
「でも世の中の人はみな社会により縛られた時間を送っているのですから、お嬢様はとても自由です」
「わたしはそういった世の中にいないけれど、この島にしかいられない」
場所に縛られて、時間に縛られて、
人はいつも何かに縛られている。
限りある時間と場所がある。だからハナを迎えてきてくれる人はいない。
「人は何かに縛られます」と、ユーカイスは言う。
夜が来たら眠り、朝が来たら目を覚ます。
「大変だったら、たまには決まりを破ればいい」
きっとそういう人もいるだろう。
貴方はいつか決まりを破るでしょう。
そしていつかわたしのいるところへやってくるでしょう。
素直に生きる生き方を知っている人だから。
新世界53-無職の暇人 13
何気ない毎日の先へと進んでゆきたい。
この先どう生活せてゆくか、無職の僕は考えなくてはならない。
公園で浮浪者のように過ごしていると、僕は本当に帰る家を無くしてしまったような気分にさせられる。
でもそれは錯覚だ。僕には帰る家がある(小さいながらも)。
僕はまだ違う。まだ違うが…。
そう、僕は生活の場を完全に失う前に、仕事に就かなければならない。
そして生活し、毎日平穏無事な日々を送る必要がある。
こんな場所で日向ぼっこをしている暇はない。
公園は仕事のある人間がたまの休日に安らぐために使う場所だ。僕のようなでたらめな無職の男が占拠してしまってはならない。
「力を抜いてえ」
目の前には、“力を抜いて”星人が立っていた。ウルトラマンのたしかダダとかいう怪人に似ている。
「『何々しなくては、何々する必要が、何々しては』なんていうの止めようよ」
と、ダダに似た“力を抜いて”星人は言う。
「君はどこからやってきたんだい?」と、僕は尋ねる。
“力を抜いて”星人は強い西日の方を指差して、「あの太陽の向こうさ!」と力一杯答える。
「君は幸せだね。毎日の生活の事とか、お金の事を考えなくても生きていけるだろう?」
「そりゃあまあ、そうなんだけどさあ」と言って、“力を抜いて”星人は苦笑いを浮かべ、頭の後ろをぽりぽり掻いた。
「僕には明日、明後日の生活に不安を感じて生きているんだよ。君のように気楽な事を言ってられないよ」
僕はそう言って、大きな溜息をつく。
「でもさあ、何とかなるさー!!!!」
と、“力を抜いて”星人は精一杯叫ぶ。
そして拳を天に振り上げて、よくわからないガッツポーズをしてみせる。
「さあ、何とかなるような、気がしてきたろ!?わっはっはっは」
と、自分勝手言って、“力を抜いて”星人は僕の前から去っていった。
そうだな、何とかなる。
何とかしなくても、何とでもなるさ。
僕は不思議と何とかなる気がしてきた。根拠のない自信が生まれ、僕は楽しい気分になってきた。
2012年12月が訪れている。
2013年3月まではまだ余裕があるはずだ。僕のお金はそこまでもつのだから、きっとどうにかなるさ。という気分にさせられた。
新世界52-夢世界 15-2
〈つづき〉
僕は右の男に連れられて、マンションのエレベーターに乗った。
左の男は車を駐車しに、車を奥へと走らせていった。
エレベーターは8階へと向った。8階へ着くと、右の男は僕を通路の一番奥へと連れて行かれた。
804号室を右の男は鍵で開けた。中に入ると、明かりがついていた。
リビングに続く通路を通り、扉を開くと、ソファーに一人の男が座っていた。
男はうな垂れていて、酷く年老いて見えた。70歳くらいだろうか?
「ボス、連れてまいりました」と、右の男はその老人に向って言った。
ボスは顔を上げて、僕の方を見た。しかし白髪の長い前髪からはその瞳を窺うことはできなかった。
ボスは手前のソファーに座るよう、手で指図した。
僕は逆らう要因もないので、素直にソファーに腰掛けた。
「君は幾つだ?」と、ボスは僕に尋ねた。
「42だ」と僕は素直に応えた。
「そうか。いい歳だな。まあ、ちょうどいい歳でもあるな」とボスは言った。
『ちょうどいいって何が?』と聞きたかったが、僕は黙っていた。
「君はなりたくて、今の暮らしをしているわけじゃないだろが、今の生活をしないわけにもいかないんだろうよ。少年の頃は甘えて育った少年が、不況時代で就職難。ろくな仕事に就けず、したくない仕事をさせられて、給料も上がらず、毎日毎日面倒な仕事が山積みになって、嫌になって仕事を辞めた。そうじゃないか?」
僕には過去の記憶がなかった。なんとなくそんな感じもするが、そうなのかはわからない。気がついたら、ゴミの山でゴミを拾っていた。それが全てだ。
「君は仕事に就こうと思ったが、すでに疲れ、再就職する事はなかった。そして日雇いの仕事を続け、やがてそれも出来なくなり、今の生活に至った。そんなところか」
「だいたいそんなところかもしれない」
その点にはあまり違いがなかったので、そう答えた。
「君は仕事を辞めたのは、君の能力や性格の問題だと思っているかもしれないが、そうじゃない。それは君の生きてきた時代のせいだ。君が30年早く生まれていたら、君は終身雇用の仕事に就いて生活していただろう。10年早ければ、バブルの時代に就職し、遊ぶだけ遊んで、なんとなくその後の生活を送っていたことだろう。君は苦しい時代に生まれ、苦しい仕事をしてきた。だから今のようになっている。ただそれだけだ」
僕はだから何なのか、わからなかった。
とにかくボスと云われる男は僕にそんな話をした。
2021年元旦を迎える夢にいる。僕はどこかへ至ってしまいそうだ。